波乱の予兆
視界に入ったのは4人。
うち3人は人間種で男。体格始め外見はそれぞれ違うけど、目付きが悪くニヤニヤと笑う悪人面や人間種ということは共通している。
もう1人は女の子で、赤みの髪に尖った耳、白い肌――といった特徴からハルちゃんと同じ森人種と考えられる。
構図としては3対1となっており、1人の女の子と3人の男が揉めているといった感じだ。
見る限り、女の子に味方はおらず必死なのに対して、男達はヘラヘラと余裕そうな態度を取っている。
シリアルは揉め事を止めるべく声を上げようとするも、思いとどまる。
もしかしたら揉めているように見えるだけで、あの人たちはパーティーで話し合いが少しヒートアップしているだけかも――いや、でも心配だし、勘違いだったらその時は謝ればいっか。
シリアルは【神隠し】ではなく【潜伏】のスキルを使用して身を隠すと、手の届く距離まで静かに近づいた。
「やめてください! 私、待ち合わせしているだけなので!」
「そんなこと言わずに、ね? ほら、他のパーティーには入ってたじゃん?」
「あれは、いつも一緒にやってる人がその日いなくて、ちょっとそういうことに興味があって・・・・・・それで参加しただけです!」
「なら、いいじゃん。今から時間を作れば」
「いい加減にしてください! こちらも抵抗しますよ!」
「何をするって? ここは街の中、PK可能エリアじゃないから魔法や直接攻撃が当たったりはしない。それでも強引に引っ張ったり、強く押したり、システムが攻撃行為と見なさない方法はいくらでもある。でも、それを一人の君が俺ら三人に出来るとは思えないけど」
どうやら、男達と女の子は親しい関係――パーティーメンバーとかではないらしい。
攻撃が当たらないこの場所でATKやINTといった物理攻撃、魔法攻撃のステータスは意味をなさない。
けど、AGIはここでもしっかり働く。AGIに自信があれば、すぐにこの場から立ち去っているだろうけど、それが出来ない・・・・・・試そうともしないのはAGIをあまり必要としない後衛系職業かそもそもステータスをあまり振らない非戦闘職業の可能性が高い。
そうなると、PK可能エリアでこの子が攻撃できたとしても三人を相手には出来なさそう。
シリアルは無力に手を握りしめる少女と、この状況を見て見ぬふりする周囲のプレイヤーに溜息をつきながら少女を助けようとして留まった。
――らしくないな。ここで手を出すと騒ぎが広まるだろうし、デスリアルやクランのことを考えると、あまりシリアルである私が注目されるわけにはいかない。
ここは現実じゃない。別にここで見て見ぬふりをしても柏崎 葵の名前は傷つかない。
「何、君?」
シリアルは頭でそう分かっていながらも、気付いた頃には【潜伏】を解除し、強引に少女の腕を引っ張ろうとする男の手首を掴んでいた。
「寄って集って女の子虐めて・・・・・・恥ずかしくないんですか?」
前の男だけでなく、後ろの男達にも牽制するように目を向ける。
「別に虐めてるつもりはないんだけどなぁ。俺達はパーティーメンバーが欲しいから声をかけているだけで」
「なら断られた段階で諦めればいいじゃないですか。パーティーメンバーが欲しいなら他にも沢山いますよね?」
自分勝手な物言いにシリアルは頭にきながら、それでも冷静にそう返す。
「んー、ならさ。君がパーティーに入ってくれるの?」
「へ?」
シリアルは思いもしなかった言葉にそんな声を出す。
「いや、代わりでしょ。それが無理なら関わってこないでくれるかな?」
横の子をちらりと見ると、突然現れた私に驚きながらも依然として焦りや怯えが残っていることが表情から分かる。
一人で逃げるだけならまだしも、ATKやINTが意味をなさないこの状況で三人を相手にするのは流石に難しい。
となると、今の私に出来ることはこの場から離れ、この人達からこの子への意識を逸らすこと。それなら今は大人しく従うのがベストかな・・・・・・?
そこまで考えてシリアルは口を開く。
「分かりました。ちょうど私も暇でしたし、いいですよ」
男はまさか私が乗ってくるとは思っていなかったんだろう。
目を開き驚きの様子を見せる。けど、それも一瞬で何を考えてか男はニヤリと笑った。
もし、私が普段からソロプレイヤーならこの後PK可能エリアに入った瞬間不意打ちでPKを仕掛けて終わらすんだけど、今はクランで行動している。
クランで行動している以上、シリアル=デスリアルがバレることは自分だけじゃなく、みんなの迷惑にも繋がる。
だから、私が出来るベストな選択は適当にこの3人の相手をしつつ役立たずを演じることだ。
そうすれば、お荷物としてすぐに私をパーティーから追い出すだろうし、この子もこの3人を警戒して今後この街に近づかなくなり、全て丸く収まる。
「あの、私・・・・・・むぐっ」
森人種の子が何か口にしようとする所を慌てて押さえた。
必死になにか伝えようとしているけど、これ以上ことをややこしくすると穏便に済まなくなるかもしれない。
それにしても、なんか見覚えがあるんだけどな・・・・・・近付いて改めて感じたけど、もしかしたらこの女の子とどこかで会ったのかもしれない。
顔なんかは設定でいじれるから参考にならないけど、話し方や雰囲気なんかがすごく違和感を覚えて仕方ない。
だけど、いくら考えてももう少しのところで思い出せない。とりあえず、後で思い出すことを期待して今はこの違和感を置いておこう。
「じゃあ行こっか。君、名前は?」
「シリアルです」
「ふーん、シリアル・・・・・・まぁいいや。じゃあ着いてきてくれる? あ、なにか準備がいるなら待つけど」
おそらく、これからモンスターを狩りに行くのだろう。それがダンジョンなのか、普通にPK可能エリアにいる野良のモンスターなのか分からない。
でも、役立たずを演じるくらいなら特別準備も必要ないし、いざと言う時――抵抗せざるをえない状況に陥った時もこの3人くらいなら今の手持ちで十分だろう。
「いえ、大丈夫です」
私の返事にニヤニヤ笑う3人の男に気持ち悪さを覚えながら、歩き出した男たちの後ろをついて行く。
ふと思い出して、チラリと後ろを振り向くとさっきの女の子が深々とお辞儀をしている。
その姿がつい2ヶ月ほど前の自分と被っていた。
初心者同然にも関わらず、ドロップアイテム目当てにPKされたあの頃の自分と。
まぁ、また会うか分からないけど、これでちょっとは自分の身を守る意識を持ってくれればいいな。
そんなことを考えながら柏崎 葵は男達と共に街の外へ――モンスターを狩りに向かった。
更新日程が開きましたが続きを書きたい欲が残っているため、書きます。
モチベが心電図ですが頑張りますので、面白いと思った方は応援お願いします(o^^o)




