Game アップデート ver.1.5
視界が暗転する。
葵ことシリアルは、自分たちのクランの拠点としている森から一番近くに位置する街、シボラにログインした。
昨日、私たちは大規模なPKを行った。
これまで100人程度のPK、多くても300程のPKを行ってきたのに対して、昨日は1000近い数のプレイヤーをキルした。
厳密に言えば、これまでデスリアルとしてクランで活動していたとはいえ、キル数は直接手を下していた自分に加算されていた。それに対して、昨日の大規模PKは私ではなく冬華ちゃん、ツェントのキル数に加算されている。
ツェントの創ったモンスターがプレイヤーをキルしたんだから当然だ。
でも、これで私たちクラン内で、ツェントがPK数第2位に一気に躍り出ることになった。
――初PKにして赤ネーム。
これをツェントがどう思うのかは私には分からない。だけど、少なくともよくは思っていないはず。
葛藤しているか、あるいは私との約束を守るためと割り切っているか。今後もツェント、冬華ちゃんのことはよく見ておく必要がある。
シリアルは頭でそんなことを考えながらも、一人の時間を堪能してシボラの街を歩いていた。
昨日の今日で話すことも決めることもあると思うのに、あいにく今日はみんな都合が悪く時間が合わず、こうして久々に一人でBIOをしている。
趣味が悪いことを自覚しながらもフレンド欄を確認する。やっぱり三人ともオンラインではない。
午後11時を回ってのログインだけど、ツェント以外はいつもこの時間普通にログインしている。
だから、みんながオンラインじゃないことにそわそわしながらも、特にやらないという理由もないため、こうして一人のんびりと過ごすことにした。
周りからは、心地良い程度の話し声が聞こえてくる。人も多すぎず、街としての活気もちゃんと残っている。
BIOがリリースされて2ヶ月が過ぎた。
1ヶ月ほど前は、初期から始めた層がこの街の近くに位置するダンジョン【エルドラ】では物足りなくなり、次第にこの街から離れて人も少なくなっていた。
だけど、今ではリリースから遅れて買った層が攻略サイトなりを読んで、金策として便利なこの地を多く訪れるようになった。
そういった層は、初期から始めた層よりも一日あたりのプレイ時間が少ない傾向にあることから、より長くこの地に滞在している。
「あれ、こんなお店あったっけ?」
懐かしみながら歩いていたシリアルは、見覚えのない茶の屋根の建物が目に入り、その前で立ち止まった。
『OPEN』と書かれた看板があることから、お店だと見て間違いないだろう。
これまでは確か、空き地に街灯が立っていただけの何も無かった場所だ。間違いなく出来たのはここ最近、公式の建物であれば何らかのお知らせがあったはずだけど⋯⋯。
シリアルはメニュー画面を開き、お知らせの欄に指を動かした。
【近日アップデート(ver.1.5)】
このことに関係あるのか否か、お知らせの一番上には見覚えのないメッセージがあった。
【アップデート内容】
・ダンジョン難易度追加
・ギルドシステム追加
アップデートの内容は二つ。一週間後にアップデートが実施とは書いてあるけど、アップデート内容の詳細は特に書かれていない。恐らく、実施と同時に詳細も公開という形なんだろう。
「でも⋯⋯だとしたら、このお店は?」
新要素でないのならば、考えられるのは隠し要素としてサイレントアップデートされたのか、誰かが店を建てて経営しているのかだ。どちらにせよ、興味はある。
シリアルは、金色のドアノブを回し扉を引いた。
店内はカウンターとテーブルの2種類の席があり、壁に沿って置かれた戸棚にはお酒と思われるビンが多数並んでいる。
――バーなのかな?
「いらっしゃい」
「⋯⋯ッ!」
唐突に声をかけられたシリアルは、咄嗟にそこから距離を取ってダガーを構えた。
「ただの挨拶じゃないですか⋯⋯あと、店内でそんな物騒なもの構えないで下さい」
「え⋯⋯あ、すみません」
ダメだな。PKばかりしてると、次第に自分たちも狙われるようになるわけで、不意の動作につい過敏に反応してしまう。
「いいですよ。あ、そちらどうぞ」
その者に言われるがままシリアルは、カウンター席に腰を下ろした。
見た限りだと、NPCではない普通の人間種の男って感じ。ちょっと暗くて髪が長くて不気味な感じはするけど、戦闘職には見えないし何よりも敵意を感じない。ひとまずは様子見かな?
「なんですか?」
「あ、いえ⋯⋯このお店ってなんのお店なんですか?」
顔をジロジロと見ていたことに怪しまれたのだろうか。咄嗟に店の話題に切り替える。
「ここは単なるバーですよ。ダンジョン帰りの打ち上げに冒険者がよく使ったりしてますね」
「へー⋯⋯」
シリアルは店内をぐるっと見回す。
「その割にはお客さんいませんね」
「そうですね。おそらく、昨日の事件でみんなピリピリしているんでしょう。ダンジョン攻略ではなく、レベル上げや装備の見直しなどやっているんだと思いますよ」
昨日の事件――私たちが行った大規模PKのことだ。その影響がこんな所にも出ているなら悪いことしたなぁ⋯⋯。
「と言っても、深夜を回れば人も増えてくると思いますけどね」
「このお店って何時まで空いてるんですか?」
NPCではなく、プレイヤーが店番をするとなるとリアルもあるため長時間はいられない。従業員が多くシフトを組んでいるのならともかく、この店の店主はこの人っぽいし、その可能性も薄い。
「午後10時から午前2時までですね。もう少し空けたいんですけど、現実の方もありますし、何よりこの店は自分しか働いてませんからね」
「そうなんですか⋯⋯」
「変だって、思うんですよね?」
流石こういう店を一人でやっているだけのことはあって、人の言いたいこととかが分かるんだ。
「すみませんが⋯⋯はい」
「よく言われます。なんでVRMMOに手を出しながら戦闘を避けてこんな店をしているのか――って。でも、こうやって店に来るお客さんと話してる時間が楽しいんですよ。このゲームを始めてままならない頃、興味半分で取得した【商人】の職業だったんですけど、小さな取引をしているうちに楽しくなって、気付けばこんな店を構えていました」
笑いながらその男はそう語った。
確かに、戦闘だけじゃなくてそういう現実では手を付けにくい起業も出来るっていうのはVRMMOならではのことだ。
だけど、話を聞いていて一つ引っかかった箇所がある。
「このお店って本当にバーですか?」
「⋯⋯どうして?」
その男の空気が変わった。図星だったのか。
「いえ、ただ元々していたことがお酒とかの商売なら小さな取引って言い方するかなって思ったんですよ」
「⋯⋯うん」
「それが楽しくて店を構えたのなら、バーとしてだけじゃなくて、元々していた取引もここでしてるのかなって思ったんです」
「そう⋯⋯うん、そうですか。はい、ご察しの通り、この店で取り扱っているのは酒だけではありませんよ」
「と言うと?」
「情報です。プレイヤーの持ち寄る情報を買い、それを欲する別のプレイヤーに売る。それを取引と呼んでます」
つまり、バーというのは情報取引の隠れ蓑みたいな感じかな? それにしても――
「なんで隠していたんですか?」
情報取引を本業としているのなら、それを隠していてはお客さんも集まらない気がする。お客さんがいなければ、そもそも経営が成り立たなくなる。
「情報という形ない物を取り扱っていますからね。お客さんは出来れば信用できる人がいい。そうなると、ここを知る方に教えてもらって訪れた方か、シリアルさんのように自分で気付かれる聡い方がいいじゃないですか」
シリアルも自分が聡い方と言われて嫌な気分はしなかった。そして――
「私の名前、知ってたんですね」
一度も語っていない。でも、この男は知っていた。
「情報屋ですから」
知らぬ間に建っていたバー。そこで店主をしながら情報売買を行う不気味な男。
正直関わりたくないけど、上手くこれを利用すればこれまで以上にクランが立ち回りやすくなるはず。
でも、まだなんか引っかかる点があるような・・・・・・はっきりは分からない。けど、なにかおかしい気がする。
「あの――」
そこでシリアルは止めた。
聞きたくなくなった訳では無い。むしろ、今すぐにでもこのもやもやをはっきりさせたい。
だけど、それ以上にやけに外が騒がしいことが気になった。
「すみません。色々と話したいんですが」
「そんな状況ではなさそうですね。お代も今回は結構です。またご来店下されば」
「ありがとうございます」
人は見かけによらない。第一印象は不気味だったけど、話し方は丁寧だったし、知りたいことも教えてくれた。大事なのはやっぱり内面だ。
シリアルは店の扉を開け、周囲の様子を伺うようにゆっくりと店外へと出た。
すると、店のちょうど前の通りで明らかに悪役のような見た目の数人の人間種の男と、一人の自分より少し下ぐらいの少女が揉めていた。
本格的に4章に入りました。
構造が内容の詰め合わせで大変ですが大事な章ですので頑張ります、お楽しみください。。。




