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柏崎 葵は目を逸らす

 

 この2週間は決して楽なものじゃなかった。


 高2の1学期中間テストとなると、ゴールデンウィークなどが重なり授業時間がほとんどない。そのことから2年生になってから覚えたことのテスト範囲は僅かで、1年生の延長のようなテストである。


 だけど、そもそも1年生の内容があまり理解出来ていない2人にとっては相当厳しい。

 それに加えて、私立高校であるこの学校は学年内での上位と下位の差が激しく、上位陣はさらに上を目指して勉強するため、その差は埋まらない。


 それでも諦めずに頑張った。2人も約束を守ってBIOを1日1時間以上しなかったし、放課後は3人で図書館に行ったりしてテスト勉強に励んだ。


 やれるだけのことはやった。あとは本番、力を発揮出来るかどうか。2人には本当に頑張ってもらいたい。だからこそ――


 葵はこれまで以上に気合いを入れ、テストは始まった。



 ◇◆◇◆◇


 3日間に渡る期間を経て、テストは無事終了した。


 この学校は全テスト終了後、翌日すぐに各科目ごとの結果が配られる。復習を早くさせて、頭に定着させるためらしい。その分、採点する先生たちの負担はすごいらしいけど.......。


 「はぁ.......」


 昼休み、例のごとく3人で集まってご飯を食べる中、理花ちゃんは大きなため息をついた。


 「頑張ったんですけどね.......」


 理花ちゃんの空気は重い。この様子を見る限り、結果はあまり良くなかったんだろう。すごく努力してたことはよく知ってるから、それが結果に出なかったとなるとショックも当然大きいだろう。


 「ため息ついてるけどな。多分、いや絶対、オレの方が点数低いぞ?」


 「そうですかね.......7割はあると思ってたんですけど」


 「でも7割取れたって思えるくらい出来たなら良いんじゃねぇか? こっちなんか終わった時点で薄々こんなもんだって気付いていたよ」


 「貼り出しに載らなければ意味がないんですよね.......」


 こういう時に良い言葉が出てこない。これまで知り合い程度の人間関係しか築いてこれなかった私の言葉は、どう頑張ったところで軽いものになってしまう。そんな気がする。


 それでも何も声をかけないわけにはいかない。


 「でも、まだ四科目しか返ってきてないよ! 落ち込むのはまだ早いって!」


 言葉を選びながら、葵はフォローの言葉をかける。


 四時限目が終了した時点で、四科目、つまり四つのテストが返ってきた。もし、ここの点数が良くなくても残り三科目が良ければ全然挽回できる.......という考えでの言葉だ。


 「葵さん.......」


 「なんでしょうか.......?」


 改まった態度に、葵は恐る恐る同じ様子で聞き返す。


 「テスト返しの時に先生は平均点と一緒に最高点も言ってくれますよね?」


 「.......うん」


 「確か一限から四限まで最高点が満点.......百点だった気がするんですよね」


 「.......はい」


 葵はただただ気まずそうに頷き肯定していた。


 「葵ちゃんですよね? 四科目で満点を取ったのは」


 ――沈黙が流れる。


 しかし、やがて核心に触れる言葉を前に観念したのか、葵が「はい」と首を縦に振った。


 「まじかよ.......あれだけBIOにログインしてたくせに、なんでそんな点取れるんだよ.......」


 春ちゃんから何故か引かれたように言われた。


 そうじゃない。問題なのは私が点数を取れている立場にいながら、気にする必要は無いと励ましの言葉を理花ちゃんにかけたことだ。

 そういうのが、落ち込んでいる人からしたら一番鬱陶しいと、私は()()知っている。


 だけど、まさか理花ちゃんが点数を知っているとは思わなかった――でも、どの道時間の問題だったのかもしれない。


 「えっとね。私も毎日BIOをしてたから勉強時間で言うと、いつものテストの時よりずっと少なくなっていると思うの。だけどね、2人に勉強を教えていたらすごく自分の勉強になって――結果的に点数も伸びたみたい」


 二人共、なんとも言えない顔をしている。それがどういう感情からなのか私には分からない。

 だけど、責任を感じている二人にかける言葉としては悪くなかったと思う。


 そうして昼休みが終わり、午後の授業が終わり、一日が終わった。


 テストは全て返ってきた。


 点数は自分で計算すれば合計点を出すことが出来る。問題は明日の貼り出しに二人の名前が載っているかどうかだ。


 それ次第で今後の私達のクランが大きく変わってくるのだから。



 ◆◇◆◇◆


 翌日。


 まだいつもであれば、数人が教室に登校しているくらいの時間。


 クラスとクラスの教室を繋ぐ廊下には、決して少なくない数の生徒が集まって混雑していた。テスト返却翌日の恒例である。


 廊下に貼り出された横に続く長い白の紙。そこに書かれた名前と七科目の合計点、順位を見た生徒の反応は多種多様である。


 私立高校で、特に上位層の勉強に対する意欲は凄まじく、この貼り出しの結果を気にしない生徒はいない。例え勉強に対する意欲がそこまでない生徒でも、話のネタになるからと目を通す生徒は多い。


 そんな生徒達がまさに試験の結果で一喜一憂する中、いつもと変わらぬ時間、いつもと変わらぬ態度で登校する一人の生徒の姿があった。


 「あっ、あおい!」


 「おはよー。どうしたの?」


 「いや、これ!」


 その生徒、柏崎 葵はクラスメイトの声を聞き、指さされた貼り出しの方を見た。


 ――結果は分かっている。


 「あ、柏崎さん!」


 「あおい!」


 貼り出しを見たクラスメイトの何人かは葵の姿を見つけると、同じように声をかける。


 この結果を見て何も思わない生徒がいるならば、それは柏崎 葵、本人に他ならない。


 50人の生徒が表示された貼り出しの頂点に書かれていたのは柏崎 葵の名と七科目満点――700点の文字だった。


 「葵さん」


 いつから居たのか、気付けば横に冬華ちゃんが立っていた。


 冬華ちゃんに気付いた生徒はそそくさと自分の教室に帰っていった。廊下で騒いでいる行為が、彼女に注意され今後目をつけられる可能性を考えてだろう。


 しかし、当の本人がそんなことを言いそうな様子はない。


 「おめでとうございます。先生方も驚いていましたよ」


 「そうなんだ。でもあんまり嬉しくないんだよね」


 「それはその程度葵さんにとっては造作もないと.......そういうことですか?」


 「ううん。そうじゃないの。確かに一科目ならともかく全科目100点なのは初めてだし、嬉しいのも本当。だけど、理花ちゃんや春ちゃんの名前がないんだよね.......」


 1から50全ての順位の名前に目を通しても二人の名前はなかった。それが物語る事実は単純で、二人の頑張りは報われず冬華ちゃんに出された条件は満たせなかったということだ。


 「その件に関してですが.......あまりこういうことを言うのは好きではありませんが.......なかったことにしましょう」


 「え?」


 「お二人の結果は耳にしています。両者そこに名前を並べるには及ばずとも、ほとんどの科目で平均点を満たしていると。二人のこれまでの点数を知る身として、それほどの頑張りを認めないわけにはいかないでしょう」


 冬華ちゃんは誰よりも規律に厳しく、約束は必ず守る。それがいい意味でも悪い意味でも冬華ちゃんだ。

 だから、この彼女の言葉はこれまでの自分の人生を否定する程に大きな意味を持つ。


 「本当に.......?」


 「はい。それに.......いえ、やめておきましょう。はい、当初の約束通り私、羽代 冬華はあなた方のクランに加入いたしましょう」


 「――本当!? ありがとーっ! 2人もこれを聞いたら絶対喜ぶよ! 私も凄く嬉しい!」


 葵は冬華を強く抱きしめる。


 「や、やめてください!」


 冬華ちゃんは動揺しているのか顔を真っ赤にしている。こんなことされるの多分初めてなんだろう。


 「先日申し上げました通り、行き過ぎたPKを行わないように監督する意味でのクラン加入です! 当然目に余るPKを目の前で行った場合、私はPKKも厭わないつもりですから!」


 「えへへー。分かってる分かってる」


 二人に会ったらすぐに言うべきか、夜に顔合わせする時のサプライズにするべきか。どちらにせよ、2人の落ち込みは責任を感じているからで、これを聞けば多少は元気になると思う。


 葵のワクワクとした気持ち溢れる顔を見ながら、冬華は呆れた様子ながらも微笑んだ。


 葵はどうしようもない罪悪感に苛まれていた。



 ◆◇◆◇◆


 二人のこれまでの点数を聞いた時点で一番理解していたのは他でもない柏崎 葵本人だった。


 その程度の点数の人間が、一朝一夕の努力を行った所で普段から頑張っている人間、才能ある人間に及ぶはずがない。


 葵はその日、BIOをログアウトすると1冊のノートを取り出し机に向かいあった。

 そして、その日からテストが行われる二週間分の予定を全て書き出した。

 そこから二人が平均点程度取れるために必要な時間を計算し、自分が教えるために割かなければならない時間を書き出した。


 睡眠時間を限界まで削り、食事時間を限界まで削り、それでも周りに、特に二人に悟られてはいけないとBIOを行う時間はきっちり一時間取った。


 最後に残った時間。その全てを自分の勉強時間に割り当てた。


 二人がどれだけ頑張ったところで、例え24時間当日まで勉強し続けたところで、貼り出しに載ることは不可能だろう。


 しかし、冬華ちゃんにはクランに入ってもらいたい。


 そうなると、それ以外の方法を考えなければならない。約束を絶対に守る冬華ちゃんが認める方法。


 そこで冬華ちゃんの言葉を思い出した。「ゲームと勉強は両立可能であることを認め」と。

 だから元々点数が良かった私が点数を取れたところでそれの証明にはならない。でも、要はそれさえ証明できればいいんだ。


 ――なら圧倒的な点数を取れば?


 普通なら絶対に届かない点数。これまでの私なら絶対に届かない点数。私が七科目満点を取れば、文句は言えないはずだ。


 これまでテストで手を抜いたことはない。周りにはやっていないと言いながらも普段からやっているし、テスト前にはテスト勉強をちゃんとしている。

 だけど、今回はそれすら超えなければならない。なら、普通の人間では出来ないことをやらなければならない。


 夜は仮眠を30分。食事は勉強を行いながら。学校では普通に友好的な態度を崩さずに脳内で夜行った勉強の復習。二人に勉強を教えている間は、自分の勉強を脳内で行う。


 ――満点しか意味が無い。


 ――満点でなければならない。


 当日はケアレスミス一つすら許されない。そんな極限状態の中、成し遂げた。目的は達成した。


 だけど、これだけ頑張って、結果が伴って、それなのに葵は喜ぶことが出来なかった。


 初めて作れそうな友達。その二人のことを信用出来ず、勉強を教えたから点数が伸びたと嘘をつき、新しく加入したクランメンバーには加入した本当の理由を知らぬ振りをし、喜びに満ち溢れた少女を振舞った。


 嘘に嘘を重ね、信用してくれる仲間さえ信用せず、果てには自分を偽る.......。


 「これまでもそうやって生きてきたでしょ。何を今更.......」


 自室のベッドで座り込む一人の少女は、救いようがない自分に呆れ、うんざりし、またそんな今の自分に呆れていた。


 自分の目から一筋の涙がこぼれ出ていることに目を逸らしながら。


次回2章最終話です。


柏崎 葵はあくまでもこういう人間なんで嫌いな方も多いと思います。だけど嫌いだからこそ出てくる愛着みたいな、そんなものあるよね?(ない?)

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