殺戮女神
プレイヤーじゃないこと位は分かる。黒の影のような見た目は死霊系モンスターと変わらない。だけどそれが放つ雰囲気、オーラといった部分で死霊系モンスターとの差が歴然すぎる。BIO最難関ダンジョンのボスモンスターと言われてもなんら不思議ではない。
シリアルはメニュー画面を開き、所持アイテム欄から一つのアイテムを選択した。そして、手を広げると横に黒のラインが入った小さな銀色の球体が現れた。
万が一のことが起こった時のために、ハルちゃんから渡されていた動画撮影で使っていたらしい浮遊型小型カメラ。これを使って状況を共有して、状況に応じて手助けするって話だったんだけど、これまで1度も使うことはなかった。
だけど、今回はさすがに不味すぎる。遊んでる場合でも、楽しんでいる場合でも、情報収集している場合でもない。ハルちゃんには悪いけどクランメンバーだとバレる覚悟で助けて貰わないと、デスリアルの、私達クランの存続に関わる話になる。
シリアルが空中で手放すと、それはジグザグと軌道を描きながら空高く上っていった。
「それではよろしいでしょうか」
疑問形ではない、これから有無を言わさず始めるという宣言かのようにそのプレイヤーは言った。
すると、次の瞬間。それはシリアルめがけて突っ込み距離を詰めた。間一髪のところでシリアルが躱すも、立て続きにそれの第二撃飛ぶ。
武器などではないただの素手による掴みに似た攻撃。しかし、それの一挙一動が辺りに振動を起こし、それに当たればどうなるのかは簡単に予想が出来た。
当たったら終わり.......でも、防戦一方を貫けるほど生温い相手じゃない.......なら!
シリアルは【神隠し】を使用する。標的を見失ったそれは攻撃を止め、ピタリと電池が切れたかのように動かなくなった。
こういう所はさっきまでの死霊系モンスターと変わらないみたい。でも、今のを見ただけでも速さは私と同じかそれ以上はありそうだし、物理攻撃に至っては一撃でやられかねないレベル。
短期決戦がベストらしい。【沈黙の一刀】と【初撃の一刀】に【能力強化】の三つのスキルのボーナスを上乗せした一撃を確実に入れる。それで倒せれたら最高。悪くても致命傷にはしたい。
シリアルは、それがこちらを認識していないのを念の為再確認してから、後ろに回り込んだ。
そして、首元を目掛けて渾身の一撃を振るう。
「.......っ!!」
思わず声が出そうになり、慌てて抑える。
首元に当たるか当たらないかの所で、シリアルが振るった刃はそれの片手が完全に受け止めていた。
「デスリアルさん。あなたはここ一週間で話題になり過ぎました」
後ろでシリアルとそれの戦闘を見ていた術者でもあるそのプレイヤーが口を開く。
「本来PKなんて大々的に行わない、行ってはいけないようなことをお祭り騒ぎで行う。そんなことをすればそのプレイヤーを深く調べようとするプレイヤーが現れてもおかしくありませんよね?」
武器に力を込めようとしても、引こうとしても、全く動かない。それが刃の部分を強く握って離そうとしない。隙なんてもう一瞬も与える気はないということだろう。
「完全に姿を消せる手段、物理攻撃を無効化する手段、一瞬で回復する手段。あなたが晒したことは全て調べています。当然、あなたが姿を消して攻撃する際、そのほとんどで首元を狙うということも」
私が首元を狙うことを予想して、【神隠し】を使った時は首元を守るように指示を送っていたらしい。
それでも、攻撃することで【神隠し】が解除されるその一瞬に反応するなんて頭おかしいし、スキルにスキルを重ねた全力を片手で受け止められるっていうのもおかしい。次元が違いすぎる。
シリアルは掴まれた武器を捨て、後ろに下がり距離を取りつつ、メニューから予備の武器を取り出そうとする。
「させませんよ」
しかし、シリアルの考えを即座に読み、それに指示を送る。指示を送られたそれはシリアルとの距離を詰め、隙を与えない。
一度距離を取りたい.......でも、【神隠し】の使用から発動までのちょっとのラグの間にどうしても攻撃を食らうことになる。相手も逃がす気ないと思うし攻撃の手は緩めない。今はギリギリで避けていてもそれがいつまでもつか.......。
完全に詰みを覚悟したシリアル。しかし、シリアルが目にしたのは白い発光と共に現れたそれの胸元に貫通している光の矢だった。
動きが鈍くなった.......?
シリアルは一瞬考えるも、状況を即座に把握し、それから大きく距離を取った。
「いつまでやってんだよ。もう深夜だぞ」
懐かしく感じるその声の方を向く。そこには呆れたような様子のハルちゃんと、私と目が合いおじぎするイリスがいた。
助かった.......打ち上げた浮遊型小型カメラで状況を把握して、来てくれたんだ。
シリアルは胸を撫で下ろす。
「.......見覚えのある顔ですね。あなた達は?」
追撃しようとするそれの動きを止めて、そのプレイヤーは二人に尋ねた。
「私はデスリアルさんと同じくPKクランのイリスです」
「先日クラン加入しましたハルでーす」
よく調べているこのプレイヤーのことだ。恐らく有名人である二人のことは知っている。なんなら、イリスがPKクランの一人だということも知っている気がする。
だから、多分このプレイヤーは二人がここに何をしに来たのかを聞きたかったんじゃないかな。まぁ想像はついていたと思うけど。
「なるほど。そうですか。まさか、あのハルまでデスリアルさんのお仲間だったとは.......」
「あのー、ハル思うんですけど、そもそもの話この活動って新規メンバー集めのためにやっていたはずなんですねー。なのに、二人共熱くなっちゃって。もう結果出ちゃってますよね?」
確かに。募集では「私をキル出来た方にはクラン加入を歓迎」ってしてたけど、もう十分実力があることは分かったし最後までやる必要は今のところない。
「ハルさんのおっしゃる通りですが、どうでしょう? 加入してみる気はありますか?」
確かに、二人の言っていることは正しい。でも、私がなんでそのことを忘れて無我夢中で戦っていたか。
「だれがそんなものに入る目的で戦っていると言いました? 私はあなた達の存在、あなた達のやっていることが認められないがために、ここに立っているのですよ」
クラン加入目的で挑んで来たにしては最初から敵意がありすぎた。理由は分からなかった。でも、それはどうやら私達のPKに問題があったみたい。
「正当防衛ならともかく、このゲームを楽しみたいだけのプレイヤーにまで手を出し、そんな人達を引退に追いやる.......そんなことあっていいはずがありません!」
この人が言っていることは間違いではない。PKを不快に感じる人はいるだろうし、それをきっかけにこのゲームをやらなくなる人もいたかもしれない。
でも、それがゲーム上出来ちゃう上に、公式がPKはメリットがないけどやるのは自由としている以上、それが悪質であれどうであれやってもいいと私は考えている。
「.......と言いましたが、デスリアルさんと互角程度の女神一体で、あなた方二人を加えた三人と戦えるとは思っていません。出来ても、私がここから立ち去る足止め位でしょう」
まずい。ここでこの人に逃げられたら、色々と聞きたいことがあるのにそれが聞けない。バグのような強さのモンスターを生み出して自由に動かせる.......そんな力があるのならここで聞いておかないと、いつか痛い目を見ることになるかもしれない。
シリアルは、そのプレイヤーを追おうとするも、それによって行く手を阻まれる。
「今はこれの対処に手を尽くすしかなさそうですね」
イリスの言葉に頷いた。悔しいけど、そうするしかないみたい.......。
シリアルは、立ち去るそのプレイヤーの後ろ姿を悔しそうに目で追いながら、目の前の相手に向き合った。
久しぶりに日間ランキング入りしたため、予定を早めて書きました。
すごく励みになります(ありがとうございます)、




