死霊兵
向き合う相手に警戒を強める。
ここにいるってことは、他のプレイヤーと同じくデスリアルをキルすることが目的なんだろう。だけど、周りに協力者と思しきプレイヤーが見当たらない。
活動8日目にしてBIO界におけるデスリアルの危険度は相当なものになっており、自信家でも実力者でも一人で挑んでくるようなプレイヤーはもはや一人としていない。
「すみません。デスリアルさんで間違いないですよね?」
デスリアルの私は喋れない。喋ると声で中身が特定されかねないからだ。ボイスチェンジできる機能があればいいんだけど、生憎このゲームにそういった機能は実装されていない。
これまでならそんな言葉は全てスルーしていた。しかし、シリアルは何故かそのプレイヤーの言葉をスルーせず、肯定の意を込めて小さく頷いた。
「間違いないみたいでよかったです」
その丁寧な物言いとは別に隠しきれないほどの敵意がそのプレイヤーからは漏れていた。
「では、始めます」
そのプレイヤーの一言と共に足元に広がる黒い液体。すると、そこから死霊系モンスターが続々と姿を見せた。
ネクロマンサーの職業を持ったプレイヤーを見るのは初めてだ。でも、この数のモンスターを生成し、使役するとなると相当レベルが高いか他の何かを能力を犠牲にして一点振りにしているか、あるいはそのどちらもか、ということくらいは知っている。
シリアルは襲いかかってくる死霊系モンスターを一撃でなぎ倒していく。
モンスター一体あたりだと私にとってはそこまて脅威じゃない。だけど、数が多すぎる。初心者を卒業した程度のプレイヤーなら苦戦し、中級者でやっと倒せる、そんなレベルのモンスターが辺り一帯に現れ、それは今も尚増えている。
そして何より、プレイヤーをキルした時の快感がモンスターでは全くといっていいほど得られない。正直な所、これが一番重要だ。プレイヤーだったら、半永久的にキル出来るものがモンスターとなると、もう既に飽きてきている。
だから、少し本気を出そう。
こういう使役系の敵は、使役者を倒すことで使役されている敵も一緒に消えるって何かで聞いたことがある。私の第一印象通りこのプレイヤーは実力があるし、持っている職業も厄介だ。だけど、残念ながら私とは相性が悪い。
シリアルは【神隠し】を使い、モンスターの目から逃れると、即座にプレイヤーとの距離を詰めて潜伏状態からの一撃をプレイヤーの腹部に決める。
「うっ.......」
一撃を食らい、そのプレイヤーはよろめきながら後ずさった。
「なるほど。これが噂に聞いていた攻撃ですか。見えないところからの不意打ち。モンスターも反応しませんでしたし、気配まで消せるみたいですね」
そう。【神隠し】は絶対潜伏状態になることが出来るスキルだ。だから、匂いとか音とかの五感でも感じ取ることは出来ない。そうなると、死霊系モンスターから攻撃されないわけだから、あとは無視して使役者を攻撃すればいいだけの話だ。
「どうやら、いえ予想通りですか、あなたと私は相性が悪いみたいです。しかし、今の攻撃は分かりませんね。私の物理防御値はそこまで高くありません。そんな私がデスリアルさんの攻撃を一撃も耐えられるはずがないんです」
確かに私は加減した。こういうのはあまり良くないだろうけど、せっかく初めてネクロマンサーのプレイヤーと戦えるんだから、この機会にどんなことが出来るのかとか見ておきたい。
「躊躇.......いえ、手加減ですか。私をバカにしているのか、それとも他に考えがあるのか.......どちらにせよ気分の良いものではないですね」
相変わらず口調は変わらない丁寧な物だ。だけど、敵意は剥き出しで、なんならさっきよりもそれが強くなっている。
プレイヤーのその言葉で黒い液体から出てくるモンスターのペースが早くなった。いや、早くなったっていうレベルじゃない。気付くと、たちまち辺りが死霊系モンスターに埋め尽くされた。私を狙って集まってきたプレイヤーとの比じゃない。ダンジョン内ですら、これほどのモンスターはいない。
唯一相手の周りだけは隙間があるけど、それも微々たるものだ。【神隠し】使用中で距離をとったけど、再び近づくとなると、飛ぶ必要がある程で、跳んだ程度では届くとは思えない。
ゴリ押しで突破出来なくもないけど、相手が生み出せるモンスターの上限が分からない今、それをやるのは少し気が引ける。あれを使う? いや、それも今じゃない。
うーん.......あれ? でも、よく考えてみれば、これまでと違うのは相手がモンスターって所と、終わりの見えないほどの頭数って所ぐらい? ならそれだけを考えれば、難なくいつものように出来るってことだよね?
シリアルは【神隠し】を解除した。
それと同時にシリアル.......デスリアルの存在が五感を通じて周りに認識出来るようになり、当然のように死霊系モンスターの群れが一斉にデスリアルに襲いかかった。
しかし、それら全てはシリアルの体をすり抜けていった。
VRゲームだけあってリアリティが高すぎるせいでたまに現実と間違えそうになるんだけど、あくまでここはゲームの世界だ。
私の種族は【霊人種】。現実で言われてるお化けっていったらなんでもすり抜けちゃう体に思えるけど、実際にはナイフやコップは持てるし、触れば人肌もしっかり感じられる。あくまでも物理無効ってだけだ。
現実にもしお化けが存在するなら、その区別ははっきりしてるんだろうけど、ゲームの世界だからどうしてもそれが攻撃かどうかで当たり判定が変わるみたい。
だから、ただそこにいるだけのモンスターはすり抜けられないけど、完全潜伏を解いたことでこっちを認識して迫ってきたモンスターは攻撃判定とプログラムが取ってすり抜けることが出来た。
「そうですか。攻撃の当たる感触がしない、という噂は間違いなかったみたいですね」
ネクロマンサーの最大の武器である無数のモンスターが無力化されたというのに目の前のプレイヤーが焦る様子はない。それどころか想定内だという表情すら見せている。
すると次の瞬間、周りにいた何体かの犬型モンスターがシリアルに向けて口から黒い炎を放った。
反応に遅れたシリアルは、それをもろに食らう。しかし、予め付与された常時回復魔法が発動し、最大効率まで高められたそれは一瞬にしてシリアルの傷を癒した。
「そして、魔法攻撃は有効ですか。物理攻撃が効かないというより、透過するため無効という表現の方が正しいみたいですし、後天的な特性というより先天的な特性なんでしょう。そうなると、やはりあなたは散々噂されています【骨人種】ではなく、【霊人種】のようですね」
驚いた。私、デスリアルの種族が【霊人種】だと見破られたのは初めてだ。掲示板やSNSでいくら調べても疑いすらかける人はいなかった。
当然と言えば当然だ。絶対潜伏からの一撃で大抵の相手は攻撃を食らう前にキルしてきたし、攻撃を食らった時もその後で魔法攻撃をあえて食らう事でどちらも効かないように見せてきた。
確かに物理攻撃と違って魔法攻撃は透過してないし、この一週間以前のイリスに魔法をかけてもらっていなかった時はあからさまに魔法攻撃は躱していた。それでもバレなかったのは、装備している【骨人種の頭】が思っていたよりもずっと効果的だったからだ。
後で知ったことだけど、アルスマナさんから貰ったこれは非売品みたいで、こういう種族を誤魔化せる系の装備の情報はあやふやな噂程度でしか聞かない。
それらのことから、これまで疑惑すらかけられたことは無かった。だから、先入観を捨て、状況判断から真実に辿り着いたこのプレイヤーは本当に凄い。実力もあるし、上位ランカーじゃないことが不思議なくらいだ。
だけど、それが分かった所で関係ない。今の私はシリアル個人じゃない私達クラン全員の手で出来ているデスリアルだ。
シリアルは迫るモンスターの群れから抜け、追撃の魔法を躱し、一撃を加えるべく手を伸ばす。
しかし、その手は止まった。
「物理攻撃は無効.......つまり、攻撃を庇うために割り込んできたものまでは透過出来ないということですよね」
後一歩のところでモンスターが割り込み、攻撃を軽減された。
本気.......とまではいかなくとも6割程度の力を出していれば割り込んできたモンスターごと目の前のプレイヤーをキルすることが出来たと思う。この状況を考慮出来なかった結果だ。
「あまりこれを使いたくは無かったのですが、手を抜けばこちらがやられてしまいますので」
相手が上位ランカーじゃないのに何故ここまで強いのか、それを深く考えようとはしなかった。
周りの死霊系モンスターと足元の黒い液体が消失すると、最初に相手から直感した物がどんどんと薄れていった。
そして、私と相手との間に私よりも二回りほど大きい女性の黒い影が現れた。
シルエットから女神か天使かに思えるそれは、身震いしてしまう程の最悪の気配を放っていた。
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