PKクラン
21時50分。
約束の時間まであと10分。葵はやるべき事を全て片付け、後は寝るだけという状態である。
「じゃあ、潜ろっか」
頭には白いヘルメット型の機械を、腕には白いバンド型の機械を取り付けて、本体の電源が起動したことを確認して、ベッドに横たわった。
そして、視点は切り替わる。
前回は、ハルをキルしてからイリスと話して、それですぐにログアウトした。
だから、スタート地点はログアウトした所から一番近いポータルのあるシボラの街からだ。
辺りを見渡すと、もはや見なれた光景だ。
あれ? でも、いつもより人が多い気がする。一昨日ここの近くであんなことがあったから.......なのかな?
可能性はある。だけど、今はそれを探る余裕はない。約束の時間が刻一刻と迫っているのだ。
メニュー画面から所持アイテムを選び、その中にある一つのアイテムをタップする。すると、手の上に一つの薄い水色の羽毛が現れる。
【転移の羽毛:使用するとワールドマップが表示される。そのマップ内にある一度訪れたことのある街をタップすると、その街のポータルに転移できる】
比較的簡単に手に入れられるアイテムで、お店にも売ってるんだけど、値段はそこそこするからあまり使いたくないなぁ。でも、歩いて向かうと間に合わないし.......
葵は渋々と【転移の羽毛】を使用した。
すると、葵の視界は一瞬暗くなり――
「あ、シリアルさん。時間ちょうどですね」
見覚えのある村と、すぐ近くにイリスの姿だ。
「ごめん。イリスはさっき来たの?」
「いえ、一時間ぐらい前からこの街にはいました。まぁ、家に帰ってご飯を食べてからずっとインしてましたからね」
「えー、そんなにやってたの!?」
「はい.......ただでさえプレイヤー人口の多いこのゲームで学生をしながら上位ランクも維持となると、結構大変ですからね」
確かに。それぐらいプレイしてても100位以内すら厳しいだろう。
「ちょっと!」
「分かってるって」
会話に混ざれないことに痺れを切らしたのか、そこにいたハルが私達の会話を止める。
小柄で巻かれたピンクのツインテール。だけど、服装は一昨日と異なるピンクの縁の白いローブを身につけている。恐らく、人目を避けて正面以外からは顔がよく見えないこの格好を選んだんだろう。
「それじゃあ全員揃ったし、とりあえず移動しよっか?」
「はい」
イリスが返事をし、ハルは小さく頷く。
そして、私達は3人で人目のつかない場所を求めて森の方に移動することにした。
◇◆◇◆◇
このゲームが配信されて1ヶ月以上経つ。だけど、未だに森の手前にはプレイヤーが多くいた。もう1ヶ月も経つし、みんなチュートリアルの村周辺からは離れていると思ったけど、私が思っていた以上に新規プレイヤーが増え続けているらしい。
でも、森の奥に行けば行くほどプレイヤーが少なくなるのも変わっていないみたいで、もうすっかり周りに他のプレイヤーはいない。
ここでいいかな?
「じゃあこの辺で.......とりあえず何から話そっか」
「そうですねぇ.......」
「いやあんた達、まさか立って話すつもりなの?」
話し合いを始めようとする私とイリスにハルがストップをかける。
「え? そうだけど」
「なんでしょうか?」
「いや、はぁ.......」
ハルは深いため息をつくと、メニュー画面を開いたようで何やら指を動かして選択している。そして、それが何なのかはすぐに分かり.......
「え、これは.......」
「屋外インテリア。ダンジョンに長時間潜ってたらずっと立ちっぱなしで疲れるだろ?」
ハルが取りだしたのは、3つの白いチェア、それとセットの白い円形のコーヒーテーブル、さらにその上にはポットと3つのコーヒーカップがある。
「こんなのあったんだ.......」
「私も存在を知ってはいましたけど、揃えようとは.......」
「はいはい。あんた達がそういうのに興味ないことは分かったし、そんな気もしてたからさっさと話始めよ」
私たちはハルの出した白いチェアに座り、さっそく話を始めることにした。
「それで? そもそもこのPKクランには、あんた達と他に何人いるの?」
「え.......ハルちゃん、入ってくれるの?」
「仮だ! 仮入隊。それで、何人いるんだよ?」
「いないよ?」
「はい。私とシリアルさんだけです」
私とイリスの言葉にハルはポカンと口を開けている。
「は.......? なら、あんた達はたった2人なのにPKクラン名乗ってたってこと?」
「うん」
「そうなりますね」
「いやいや! イリスに限っては私達の仲間がどうとか言ってただろ?」
「それはあの場を凌ぐための嘘ですね」
「まぁ、あの場はあれが正解だよね」
さらに援軍が来る可能性を仄めかすことで、あれだけのプレイヤーの戦意を削ぐことができる。だから、イリスがついたあの嘘は意味があった。
「はぁ.......いいや。それで? このクランの方針は?」
「方針.......ですか?」
「ないよ。しいて言うならPKを楽しむ.......かな」
また、ハルがため息をついている。なんか、BIOに来てからハルのため息が物凄く増えた気がする。まぁ、原因は主に私達なんだろうけど。
「方針もない集団って意味あんの?」
「そもそも、クランとして成立したのも私があの場で言ってからですし.......」
「あー。だいたい理解出来た」
「良かった。なら」
「あんた達が馬鹿だってことが」
ば、馬鹿!?
「ええっと、それは.......」
「教えてやるよ。クランは同じ目的を持つプレイヤーが集まった集団のことを言うんだよ」
「はい」
「うん。それは分かるけど」
「例えば、それが楽しむ目的で出来たエンジョイクランなら何も問題ないんだけどな、ここのクランはPKクランだろ? しかも、それを生放送で世界中の人が見れる場所で公表してる」
「あ、そっか! PKを良しとしない人達は私達のクランをよく思わないんだ!」
「まぁそもそも、PKクランを良しとするプレイヤーの方が珍しいだろ。だから起こることは一つ、PKクランの存在を良しとしないプレイヤーが徒党を組んでこのクランを潰しに来る。それが例えどんな理由であれ正当化される。なんせ、奴らがすることはPKじゃなくPKKだからな」
PKK.......プレイヤーキラーキラーリング。プレイヤーキルするプレイヤーをキルすること.......
「本来PKクランなんてのは公にしちゃダメなんだよ。した時点で潰れることはほぼ決まったみたいなもんだ」
「.......どうしよう」
「.......どうしましょう」
「だから、方針を聞いてんだよ。公になったPKクランがしなきゃいけないのは、クランメンバーで協力してPKしに行くか、PKKを逆に返り討ちにするかだ」
だからハルは方針を聞いてたんだ。確かに、PKクランの存在が広まったらプレイヤーが警戒してキルし辛い状況になるし、そういう方針でPKクランを運営するのはいいと思う。けど.......
「イリスはどうしたい?」
「私はどちらでもいいですよ。シリアルさんは考えていたみたいですけど.......」
「うん。私はどっちの意味もあっていいと思う。一人をキルするなら一人でいいんだろうけど、集団キルとなると仲間が必要だし、PKKに対応するにも集団で来られたら一人で対処しきれない。だから、協力してキルするし、PKKに対抗も出来る.......そんなクランにしたい」
「私はそれでいいと思います!」
「ん。いいんじゃない?」
うん。なんか本当にクランみたいになってきた。みんなが楽しめるクランになったらいいなぁ。
次回も会議します




