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柏崎 葵という人物

日間ランキング(VR)73位に入りました。ありがとうございます。



「あおいーっ!」


「もうっ。どうしたの?」


クラスメイトの女子に後ろから抱きつかれた柏崎(かしわぎ) (あおい)は笑いながら後ろを向いた。


「実は今日出す課題が終わってなくてぇ.........あおいさん、何とかなりませんかねぇ?」


「はいはい。どうぞ」


呆れた様子を見せながらも葵は机から黄緑のノートを取り出し、それをクラスメイトに渡した。


「ありがとう! あおい!」


ノートを借りたクラスメイトは急いで自分の席に戻り、せっせと課題に取り組み始めた。


頭脳明晰、運動神経抜群。その上、誰にでも優しい完璧美少女とは私のこと。


柏崎 葵は自分の全てに自信があった。努力すれば叶わないことは無いと信じて、それを実現させるだけの力を持つ。


休み時間の間、葵に話しかける生徒は少なくない。柏崎 葵は、その一人一人に嫌な顔一つせず笑顔で返事をする。


可愛すぎる天使。優しすぎる女神。


男子の間で呼ばれるあだ名は柏崎 葵 本人の耳にも当然届いていた。


そんなにも男子から人気があるにも関わらず、女子からは一切嫉妬の目で見られないのは、柏崎 葵が八方美人すら生温い、完璧美少女だからである。


「今日みんなとカラオケ行くんだけど、葵はどうする?」


放課後、複数のクラスメイトからそのような遊びの呼びかけがかかる。これは決して珍しくない。というかいつものことだ。


「ごめんっ! 今日も用事で!」


葵は大袈裟に前で手を合わせて謝った。


「葵らしいね。じゃあまた日が合う時にでも」


「うん」


本気で悪いと思っているという姿勢をとることで、誘った本人も気にせず笑ってそれを許す。


誘いを断った葵は、教科書をカバンに詰め込んで帰る準備をする。


「んでねー」


「えー! なにそれー」


葵は声の方をチラリと見た。


そこには、先程自分が断ったクラスメイト達の楽しそうな顔があり、葵はそれに顔を曇らせる。


私は完璧美少女だ。そうじゃなきゃいけない。でも――


「楽しそう.........」


ボソッと呟いた葵の言葉を耳にした者は誰もいなかった。


柏崎 葵は完璧美少女である。


しかし、友達がいない。


◇◆◇


「はぁ.........」


葵は家に帰るなり大きなため息をついた。


時刻は午後5時。部活をしていない葵にとってはいつもより少し遅い時間だった。


「ただいまー」


葵がそう言うも返事はない。


ゆらゆらと歩いてリビングに向かうと、ソファの上に葵と同じ髪色の女性がうつ伏せで寝ていた。


「お母さん。風邪ひくよ?」


「ううん? ああ。もうこんな時間か」


その女性、葵の母は目を擦りながら体を起こす。


「葵、私はもう行くから後はお願いね」


「うん.........」


葵は弱々しい声で返事をした。


「ていっ」


「痛っ!」


下を向く葵のおでこに葵の母はデコピンを入れた。


「無茶しちゃダメよ」


葵の母はニッコリと笑いそう言うと、リビングから出て、ガチャりという音と共に家から出ていった。


呆然としていた葵だったが、母が出ていくとクスりと笑い、台所に向かった。


机の上には煮物と焼き魚、そして書き置きがあった。


「食べる時はレンジでチンしてください。味噌汁もあるのでお忘れなく.........って私は子供か!」


葵は書き置きに突っ込みを入れながら、文がまだ続いていることに気づいた。


「今朝渡したあれの感想を教えてね.........かぁ」


葵は部屋に入り、荷物を置くと、小さな机に置いてある白い箱を開封し始めた。


これまでにもこういうことはあった。うちは片親でこんな物買うお金はない。


けど、仕事のお客さんから貰ったとかで、こういった物がよく手に入ったりする。そして、自分はしないから私に気分転換にと渡してくるのだ。


「でも、VRMMOは初めてかなぁ。これまでは携帯タイプのゲームばっかだったし」


箱を開封すると、正方形の黒い機械、白いヘルメットのような機械、白いバンド型の機械、そしてそれを繋ぐためのコードが出てきた。


「ええっと、Beyond(ビヨンド) Ideal(アイディアル) Online(オンライン)。最高のオリジナリティと剣と魔法の壮大なる冒険をあなたに.........かぁ」


正直これだけ見ても惹かれるものはない。自分で買ってまでやりたいかと聞かれたら、間違いなくノーだ。


「とりあえず宿題と予習だけ終わらせますか」


葵は開封した機械をそのままにして、勉強机に着き、勉強に集中した。


◆◇◆


「よいしょっと」


予習が終わり、葵は時計を確認した。


午後10時。いつの間にか外は真っ暗だ。


葵は後ろにある機械にチラリと目を向けた。


「ご飯食べて、お風呂に入って、それからかな?」


――そしてかれこれ1時間。


「じゃあ始めますかぁ」


葵は説明書にある通り、バンド型機械を手首にはめて、それとヘルメット型の機械、正方形の機械をコードで接続する。


そして、正方形の機械の電源を入れた。


「後はこれを被れば始まると」


未知の冒険がそこに待っている。しかし、葵はワクワクどころか、事務的に作業を行い、ゲームをスタートした。


【welcome to you!】


目の前に大きく現れる文字。


【最初に設定を行ってください】


葵は目の前に見える指示文に従って設定を次々と済ましていった。


生年月日、好きな物、趣味、まるでアンケートみたいだ。


【次にあなたの種族を教えてください】


種族?


いきなり現れた言葉に葵は首を捻る。


すると、数多くのキャラクターの姿とその種族名とも思える名前が目の前に現れた。


「ええっと、人間種(ヒューマン)森人種(エルフ)小人種(ドワーフ)妖精種(フェアリー).........色んなのがあるなぁ。どこかで聞いたことある名前もチラホラあるし」


葵は手を横にスクロールして種族を順番に一つずつ見ていった。


「だいたい分かってきた.........かな? 種族によって見た目が変わるだけじゃなくて、ゲームで有利に進められる能力なんかも変わってくるみたい」


そんなことを考えながら、15分ほどで葵は100種全ての種族に目を通しきった。


「これにしよっと」


葵はその中でも一番気に入った種族を選んだ。


「ええっと、キャラメイクは.........おまかせでいいか」


【キャラメイク完了しました。分からないことがあれば、ヘルプを唱えてもらえればいつでもお答えします】


凄い! 現実でもヘルプ欲しい!


現実でもヘルプが使えるなら是非とも気の許せる友達の作り方とか、効果的なリラックスの仕方とか、ストレスの減らし方とか.........やめとこ。


【ではあなただけの世界を。最高のオリジナリティをお楽しみください】


すると、目の前が暗転した。


現実はちょい鬱です。


ゲームパートをご期待ください。

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