激震
第2章です。
――その日、BIO界に激震が走った。
現在もなおプレイヤーが増え続けるBIO。そんなBIOの中で三本の指に入るのが高難易度ダンジョン【ビルスキル】である。
全体が宮殿の構造をとるこのダンジョンには、入口を潜って最初の部屋に三つの扉がある。そして、その扉の先にはまた同じ部屋があり、扉があり、部屋があり、それが公式発表によると合計540部屋にまで至る。
そんな大規模のダンジョンであるものの、モンスター発生のシステム自体は単純だった。一つの部屋ごとに一体のボスクラスのモンスター。それが奥になるにつれて強くなっていく。
しかし、そんな単純なシステムであるものの、BIOが始まって2ヶ月近く経とうとしている中、未だこのダンジョンを攻略した者はいない。
部屋に足を踏み込むと、即座に始まる戦闘。部屋にプレイヤーがいなくなると、復活するボスモンスター。そして、一度に戦う人数を制限されてしまうダンジョン形式。ダンジョンを出ると、倒したモンスターが復活してしまうこのダンジョンを攻略するには、とにかく前に進むしかない。その上、敵は強くなっていくとなると、精神的にも時間的にも体力的にも相当厳しいものとなってくる。
そのため、クリアする者は当分現れないと言われ、成せる見込みのあるダンジョン挑戦者すら現れなかった.......しかし、それが遂に現れた。
精神的にも時間的にも体力的にも攻略が難しいのなら、人海戦術で交代しながら挑み続ければいい。
そんな考えの元集ったのが『ビルスキル攻略連合軍』である。
1000人近いプレイヤー、7人の総合能力値100位以内の上位ランカー、その中の1人は24位と上位ランカーの中でも更にトップクラスのプレイヤー、それら全員が『ビルスキル攻略』を掲げて集まった。
これまでにない大規模でのダンジョン攻略。綿密に計画されたことと、十分な人員、集まったトップクラスのプレイヤーの数などを考えると、ダンジョン攻略は必然であると、そう誰しもが思っていた。
――だからこそ、激震が走った。
ダンジョン攻略を掲げて集まった――そんな集団がモンスターではなくプレイヤーの手によって全滅させられたからだ。
他のプレイヤーは耳を疑った。ダンジョンモンスターを倒せず逃げたのだと言う者もいた。
しかし、リスポーン地点に戻されたプレイヤー達はみんな口を揃えて言った。
「例のクランだ」と。
◇◆◇◆◇
「はぁ.......」
力の抜けたような、そんなため息をついたのは完璧美少女と名高い今をときめく現役女子高生、柏崎 葵である。
葵は、いつもと同じ時間に起き、いつもと同じ時間に家を出て、いつもと同じ時間に学校に着き、現在自分の教室に向かうべく廊下を歩いていた。
しかし、いつもならすれ違う生徒に愛嬌を振りまきながら歩くところを、何故か今日は疲れた顔をしていた。
「はぁ.......」
家から出たら完璧美少女でいなきゃダメなのに、今日はなぁ.......
自分がこうなっている理由はよく分かっている。昨日、私は私らしくないことをした。
春には、学校に来やすくなってもらうために勉強を教えてあげるとか、友達を紹介してあげるとか、そういうことを言うつもりだった。そういう誰にでも平等に優しくあるのが私のはずだ。
なのに、昨日は感情が高まってか自分と重ねてしまってか、知られたくないBIOのことをペラペラ喋って、挙句の果てには楽しいから PKをしているっていう完璧美少女とは程遠い私の性格までカミングアウトしてしまった。
もっと冷静であるべきだった。楽になってもらうために言ったことが全部裏目になってたら.......そういや、あの子、昨日動画で動画活動を辞めるって言ってたっけ。
「はぁ.......」
もし、あの子が今日も学校に来ないようなら放課後すぐに家に行ってそれで謝ろう。ううっ、頭が痛い.......
気付けば自分のクラスの前にいた。教室に入り、自分の席まで行き、荷物を下ろし、席に座った。
「葵、おはよう!」
「あ、柏崎さん。おはようございます!」
「柏崎さん、おはよー」
私に気付いたクラスメイトが口々に挨拶する。
「うん.......おはよう」
ダメだ。頑張って笑顔を作ってるけど、周りからは絶対ぎこちなく見られてる。
これまでもストレスが溜まりすぎて保健室に行く時はこんな調子だったけど、今日はそれ以上に酷いかも。
カバンから取り出した教科書とノートを机の中に詰め込むと、いつもの情報収集をする気力も湧かず、ボーっと席に座っていた。
「え.......なんで来てるの?」
「さぁ、何しに来たんだろ?」
しかし、そんな女子達の声を聞き、我に返った。普段と明らかに周りの様子が違う。そんな周りの変化の原因に気付いたのはその数秒後のことだった。
茨木 春が無言で教室に入ってきて、無言で自分の席に座った。
周りの女子達は聞こえるような声で春の話をしている。それに対して男子達は見て見ぬふりをしている。
昨日や一昨日とはまるで別人だ。髪型も服装も一緒だけど、雰囲気がまるで違う。
けど、そんなことどうでもいい!
学校に来ないと思ってた。だけど、来てくれた。
「春ちゃん! 来てくれたんだね!」
席を立ち、春の席へ向かう。
「は? あんたが来いって言ったんでしょ」
春は私に目を合わせず、そう言い放った。いつもならこのツンとした態度にムカついていたんだろう。でも、今は私の言葉が届いていたということへの嬉しさでいっぱいだ。
「うん! ありがとう、春ちゃん」
その言葉と一緒に気付けば私は、ちっちゃな春を抱きしめていた。
嫌がる様子の春や、訳の分からない表情で見ているクラスメイトが目に入るけど、そんなのは一切気にならなかった。学校で嘘偽りのない笑顔になれたのは久しぶりだ。
この第2章ではさらに葵達PKクランの名がBIO界に知れ渡ります。ご期待ください。




