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VSハル その1

 

 午後8時半。


 全ての準備を終え、あとは寝るだけの状態に整えた葵はスマホを開き、相手の情報を確認していた。


 有名動画投稿者ハル。


 BIOリリース以前は、RPGなどの実況をメインに活動していた。そのころから、それなりに視聴者がいたのは間違いないけど、BIOがリリースされてメインをそれに移転してからは視聴者の数が目に見えて分かるほど増えた。


 種族は森人種(エルフ)、職業はレンジャー、アーチャーと弓を武器に戦うことを考えた構成をしている。そして、実況者仲間でパーティを組んでレベル上げをよくしているため、レベルも決して低くはないだろう。


 けど、最近の動画を見た限りレベルの割に本人の戦闘能力はそこまで高くない。ましてや、1対1で戦うとなると自分より下のレベルの者が相手でも勝利は怪しいレベルだろう。その理由は、ハルが弓を攻撃手段として使わず、バフデバフ手段として使用しているからだ。


 弓には通常攻撃の他にバフやデバフをかけることが出来る。杖にも同じことが出来るが、杖は範囲と持続時間、弓は射程と一度に及ぼす効果の大きさ、と使い分けが出来るようになっている。


 しかし、ハルは弓しか使わず、さらにバフデバフをかけることに特化したスキル構成にして、パーティメンバーに敵を倒してもらうという他力本願主義の戦い方をとっている。


 分かっている情報はこれくらいだ。


 SNSのアプリを開き、ハルの呟きを確認する。


 午後9時に【エルドラ】前集合。募集メンバーは100人程度。朝の話と変更点はないみたいだ。


 あと20分。


 22時からは予定通り理花ちゃんと遊ぶ。あの時.........理花ちゃんは私が「行かない」って言ったらそれ以上は聞いてこなかった。信用してくれているんだろう。私は今からそれを裏切るようなことをしようとしているのだ。


 けど、もしあの時、私が戦うと言ったらどうなっていたのだろう? 多分、「自分も付いていく」って理花ちゃんなら言うと思う。理花ちゃんは皆が自分勝手な理由で帰っても何も言わず、一人で掃除をするような優しい子だから。


 でも、今から私がしようとしていることわがままなんだ。


 このゲームでPKしたところで得るものは何も無い。そんなゲームでPKをする。自分の欲を満たすためにPKする。


 この挑戦を受けたところで得るものは何も無い。そんな挑戦を受ける。無視すれば済むようなちっぽけな理由のために挑戦を受ける。


 そんな自分勝手で、わがままで、どうしようもないような、そんな私に理花ちゃんを付き合わせるわけにはいかない。


 今はうまく隠せてるけど、いつプレイヤーネームや本当の顔が割れるか分からない。けどそれが割れ、その上でこのゲームを続けたいとなると、それは茨の道を進むことなると思う。


 一度付き合わせるということで、ゲームを楽しみたいと思っているであろう理花ちゃんにまで、そんな道に進ませることになるかもしれない。


 だから、私は例え裏切るようなことをしようとも、一人で行く。行かなければならない。


 あと15分。


 白の機械を頭に被る。そして、ベッドに横たわりゲームにログインした。


 ◇◆◇◆◇


 シボラの街にログインした葵は、人目のつかない場所を求めて近隣の森まで来ていた。


 .........ここなら誰もいないよね?


 葵は周りに人がいないことを確認すると、骨人種の頭(スケルトンヘッド)と黒のローブを装備する。


 あと10分。


 ここから【エルドラ】まで全速力で約5分。十分に間に合う時間である。


 もう一度確認しておこう。あくまでもキルするのは、ハルただ一人。【神隠し(コンシール)】による絶対潜伏から最大限にまで強化した一撃でハルをキルする。そこにいるであろう大多数を相手にした時の勝算は皆無である。だから、キルしたらすぐにまた【神隠し(コンシール)】で姿を隠してその場を離れなければならない。


 変わったことをしようとすると、必ず失敗する。いつもと変わらぬようやるだけだ。


 よし.........行こう。


 ハルは【神隠し(コンシール)】を発動させると、そのまま【エルドラ】へ向かった。


 ◆◇◆◇◆


 予定通り【エルドラ】の前に5分で到着した。


 既にそこには、気持ち悪いほどの人が円状に集まっている。


 でも、ざっと装備を見たところプレイヤー一人一人の強さはそこまで無いように思える。装備が初心者でも手に入れられるようなそんな装備ばかりだからだ。


 よくよく考えてみたら、ここに集まっている多くはハルのファン達であり、彼らの殆どは生放送があれば、自分のゲームプレーよりそっちを優先する。


 そんなプレイヤー達の集団に本気でやっているようなプレイヤーが混じっていることは考えにくい。仮に混じっていても少数だと思う。


 ――それにしても。それにしても、数が多すぎる。今回の騒動の原因であるハルの姿が見えないほどだ。


 もし、私が集団戦を考えた広範囲魔法の使い手であれば、この集団を一気に消せたのだろう。そう考えたら、そんな構成にした方がいっぱいPK出来たんじゃないかと考えてしまう。


 集まったプレイヤーを確認していると、あっという間にその時が訪れた。プレイヤー達の警戒がこちらまで伝わってくる。


 だけど、関係ない。


 プレイヤーとプレイヤーの隙間を抜けて、中心部を目指す。


 ――いた。


 ピンク色で髪型は現実と変わらぬ巻かれたツインテール。小柄で、装備は.........装備に見えないけど、所々が透けた真っ白のドレスを着ていた。そして、背中には銀色の弓を背負っている。


 じゃあそろそろ.........


 ――ごめんね。バイバイ。


 葵はダガーをハルの腹部に突きつけた。









「え?」


 ダガーを突きつけた直後。そんな声を出したのはハルでは無かった。


 それは他ならぬ葵.........シリアル、デスリアル本人だった。


「.........やーっぱり来てくれた」


 ハルは動揺する葵の前でニヤッと笑いそう呟いた。


 ダガーは.........刺さってない!? ハルの腹部に刺さるその直前で、まるで見えない壁に阻まれているようにダガーが停止している。けど、攻撃を行った認定で【神隠し(コンシール)】の効果は切れている。


 葵は、警戒して一歩後ろに下がった。


「初めましてデスリアルさん、ハルです。デスリアルさんなら来てくれるって信じていましたよ?」


 喋れない。喋ったら声で私が特定される。かと言って、何かの対策がされているこの状況で【神隠し(コンシール)】を使うべきじゃない。


「あれれー? なんで攻撃出来ていないのか、そんなことも分からないんですかー?」


 ハルはそう言うと、握りしめていた拳を広げた。


 折れた小さな小枝.........あ、【友愛(ゆうあい)の小枝】!?


【友愛の小枝:小枝を折ってから3分間プレイヤーからダメージを受けなくなる。同時に自分もプレイヤーへダメージを与えられなくなる。使い捨てアイテム。1日1度しか使用できない】


 迂闊だった。確かにこのアイテムの存在は知っていた。だけど、これまで不意打ちからのPKしかやってこなかったから、今回みたいに相手が決めた時間にPKをする際に、このアイテムを使用される可能性を完全に考えてなかった。


 それも全部いつも通りにすることを意識しすぎたせいだ。


「顔色、悪いですよー? まぁ、骨人種(スケルトン)ですから、顔色も何も無いんですけどね!」


 ううう.........ムカつく.........


 落ち着こう。それが原因なら3分間【神隠し(コンシール)】で身を隠して、アイテムの効果が切れてからPKすればいい。もはや警戒するものは何も無い。


「【アジリティカットペンデスト】」


 え.........動きが遅くなった!?


 ステータスを見ると、そこにはAGI低下の状態異常の文字があった。


「ハルを舐めないで貰えますかー? 一度戦ったらデスリアルさんが、完全に姿を消す.........そんなスキルを所持していることくらい分かるんですよ?」


 っ.........【神隠し(コンシール)】。


 葵は姿を消し、完全潜伏状態になる。しかし.........


「そうすることは予測済みですよー。魔法部隊さんお願いしまーす!」


 ハルがそう言うと、これまで状況に追いつけず、ザワつくだけだった外野が姿を消した葵向かって一斉に魔法を放った。


 捌ききれない.........っ。


 低レベルプレイヤーによる一斉魔法放射。


 本来の葵なら、躱せない攻撃ではない。しかし、現在葵はAGI低下状態。見えない相手に向けて放たれた攻撃も、その量からもはや弾幕の域に達しており、それを今の葵が躱すことは不可能だった。


「はーい。前衛部隊さんは今は見えないデスリアルさんがここから逃げないように、ちゃんと囲っておいてくださいねー」


 まずい.........残りHPが1割を切った。一撃一撃が低くても数が多すぎる。逃げようにも周りは前衛プレイヤーが包囲している。いくら物理無効の霊人種(ゴースト)の私でも、魔法剣士や魔法闘士が一人でもいる可能性のある場所を抜けることは出来ない。仮に出来ても、魔法部隊の追い打ちが待っている。


 これは自分勝手なことをした罰だ。


 ここから1番近いポータルはシボラ。ここでキルされたら、デスリアルの正体を暴こうとするプレイヤーが必ず待ち受けているであろうシボラのポータルに飛ばされる。スキルを使う間もなく拘束され、顔も見られるだろう。


 ――ごめん、理花ちゃん。


「【オールリカバリーペンデスト】」


 辺り一面に緑の光が広がり、その場を包み込んだ.........HPが回復してる?


 声のした方を向くと、囲っていたプレイヤー達が横に下がり道を作っている。


 そして、姿を見せたのは白の修道服に金属の杖を片手に持ったプレイヤー.........イリスだった。


今回気合い入ってます。

次回は後編です。

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