諦め
いや、なんで!? なんでいきなりそんな話になるの? 私が昨日生配信中にPKしに行ったその前後を見ていたとか?
でも、それなら私じゃなくシリアルの方がPK犯になって私は無関係だよね!?
じゃあ、私がBIOやってるってどうやって知ったの!?
「葵ちゃん、クラスの人がBIOの話をしていると、すごく興味ありそうな顔で聞いていましたので」
まさかの聞き耳を立ててるところ!? しかも、それが顔に出ちゃってるって相当でしょ!
いや、待って。この子は教室だと1人でいることがほとんど。だから、観察力と注意力が人以上にあることは十分に考えられる。
まだこの子は憶測の域。だから、ここで「やってみたいなぁって思ってー」とか「初めて聞くゲームに興味があってー」とか適当に答えれば何も問題ない! そうなにも問題ない!
「それで、よければ葵ちゃん.........私とフレンドになって貰えませんか!」
先をこされた! まさか、誤魔化す前にそう来るなんて.........
この子が人と喋っているところをあまり見ない。もし、これが勇気を振り絞った誘いだとして、その返事を変に誤魔化しでもしたら断ったと勘違いされかねない!
かと言ってフレンドにでもなるもんなら、完璧美少女の私が演じている偽物だってバレるのは時間の問題! どうしよう、私!
「ええっと.........」
どうしよ.........良い言葉が出てこない。
「.........私、勉強も運動も出来ない上にこんな性格で、これまで友達なんて一人も出来たことがなかったんです。なので、みんなの人気者でなんでも完璧にこなす葵ちゃんが、私なんかとこんなに仲良くしてくれて、とても嬉しかったんです」
違う.........そんなんじゃない。私が手伝ったのは私が完璧でいるため。そんなずるいことをし続けなきゃ自分を作ることも出来ない、それが柏崎 葵。
だから、私は理花ちゃんと変わらない。ううん、理花ちゃんの方がよっぽど人間として出来ている。
はぁ.........ずるいなぁ。
「うん。じゃあ、フレンドになろっか」
「いいんですか!?」
「もー、また敬語。そのかわり、私がBIOをやってるってことは内緒にして欲しいの」
「.........? も、もちろん内緒にします!」
まぁ、1人くらいならバレてもいいかな? 言いふらすような子でもないし。
そのあとは、夜にゲームで合流することを約束してその場は解散となった。
◇◆◇◆◇
「よしっ、と。これであとは寝るだけと」
時刻は21時35分。シボラの街の北門に22集合だから、まだ時間はあるかな?
そう考え、葵は時間潰しにとスマホを手に取り、動画投稿サイトを開いた。
「え、急上昇1位!?」
葵が見た急上昇ランキング。その1位にいたのはハルが投稿した昨日の生配信を編集した動画である。
「ちょっと見てみよっと」
動画を再生する。
それはパーティメンバーが挨拶し合い、私が現れ動画が途切れるという、6分ちょっとの動画だった。
「周りからはこんなふうに見えてたんだ。我ながら最後のキルなんかなかなかのもんですなぁ」
チラッとハルの今後の配信予定を見る。
「今日はさすがに生配信はしないのかぁ。やるなら明日かな? あーあの子が人気になるのに思うところはあるけど、欲求を抑えることなんて私には出来ないしなぁ.........あ、時間だ」
葵は機械を頭に被り、ゲームにログインした。
ロードは一瞬で、夜の19世紀イギリスを思い浮かべるような街に切り替わった。
ここも変わったなぁ。1か月前は数えきれないの人で頭がぐるぐるになったほどだったのに、今は人もかなり減っている。
近くにあるダンジョンのモンスターが最初はちょうどいいレベルだったのに、今はもうそこそこやってる人にとっては物足りないレベルになってしまっているというのが大きいだろう。
まぁ、私はここが気に入ってて行動拠点にしてるんだけどね。あ、北門はこっちか。
葵は、しばらく歩き北門に到着する。
確か、ここで待ち合わせなんだけど.........
「おい見ろよ!」
「あれマジもんか?」
「どう見てもマジもんだろ! やべぇ」
ん? やけに周りが騒がしい.........っ!?
周りの声につられて葵が見たその先、北門の前。そこには、長い銀髪、白い修道服、首元には特徴的な十字架のネックレスをかけた大人びた女がいた。
葵はこの女を知っている。
.........総合能力値第18位イリス。アークビジョップ、ハイプリースト、ハイプリーステスの信仰系上位職の三つを取得し、受けたダメージを越えて回復する不滅の名前で呼ばれる上位ランカーの1人。そして、私がキルした第8位アルトと1回戦で戦う予定だった人。
本当はどっちもキルしたかったけど、2人もキルするとなるとバレるリスクが高くなる。だから、泣く泣く順位の高いアルトの方をキルしたんだ。
そんな諦めた相手が目の前にいて手が出ないわけがない!
葵は人目のない所に移動しようとして、足を止めた。
いや、もしここであの女の人をキルしようとしてここから離れたら、理花ちゃんとすれ違う可能性がある。
ああ! キルがしたい! どうしてもしたい.........でも、さすがにあそこまで言ってくれた子より、自分の欲を優先するわけにはいかないよね.........諦めよ。
葵はPKを諦めると、目の前に出てきた所持品一覧から【ファイアクラッカーS】と書かれた文字をタップした。
すると、葵の手に緑の小さな筒状のものが現れる。
これを握ると筒の先から小さな花火みたいなものが出てくる。それを頭上にあげることが理花ちゃんとの待ち合わせの合図。
葵は筒を握りしめる。筒が潰れると、葵の頭上に小さな花火が弾けた。
うわぁ.........きれい。
「すみません。葵ちゃん.........でしょうか?」
そう葵に尋ねたのは、先程から注目の的である修道服の女、イリスだった。
今回短めです




