第7話 魔力について教えるJ
「・・・というわけなの」
授業が開始され、魔法の授業で教師が簡単に説明した後、今の説明を元にとりあえずは各々で自由にやってみろと言われた。
そこで、マサキ、マイ、ユウコの勇者3人とマリアが俺の側に来ていた。
もちろんジュリーも一緒だ。
そして俺が勇者達に、これまでの経緯や噂では勇者が5人ではなかったのかを尋ねた所、それにはマイが答えてくれた。
いきなりこの世界に飛ばされた事、王から受けた説明の内容、勇者の1人が突然どこかに行ってしまった事。
そんなに簡単に話していい内容なのか?と思いながらマリアを見ると、申し訳なさそうな表情を浮かべ顔を俯かせていた。
おそらく、本当ならあまり話すべき事ではないのかもしれないが、負い目を感じているマリアはあまり強く制限させる事も出来ないのだろう。
それに国王の話の内容を誰にも話すなと強制してしまえば、その話が嘘だと言っている様なもんだしな。
まあ、それはともかく、せっかく得た情報だ。
それも、噂ではなく勇者本人の口から直接。
デマの心配はないだろうし、ありがたいと感謝しておこう。
マイから聞いた話を吟味していると、やはり総帥が睨んでいた通り“トランプ”を壊滅させる事を目的として勇者を召喚したようだな。
ただ、その話の中に出てきた魔王。
・・・確かに魔王は存在する。
だけど、俺達“トランプ”が魔王の背後にいるというのは有り得ない。
なぜなら、魔王程度を裏から操る意味なんて無いからだ。
というのも、前に魔王が俺達に喧嘩を売ってきた時、文字付き数人で遊んでやったら、「うわ~ん、ママ~!!」と泣いて逃げていったくらいだ。
いや、逃げ帰った様子は俺の勝手なイメージだけど。
まあ何にせよ、そういう事で魔王が討伐された所で俺達が動くわけがないし、むしろどうでもいい事である。
とはいえ、魔王もそれなりに強いはずなので、人間の国にとっては脅威なのだろう。
実際、魔王に人間の国が滅ぼされかけた事例もあったはず。
だから、魔王が持っている魔石という餌を吊るす事で勇者を動かし、更には俺達と無理矢理関連付けさせようとしたのだろう。
魔王を倒して魔石がなければ“トランプ”が持っている。
“トランプ”を壊滅させて魔石が無ければ、魔王が持っていると。
魔王が本当に魔石を持っているかどうかは、奴らにとってはどうでもいい事なんだろうな。
そう考えると魔王は、“トランプ”を壊滅させるついでと言う事なのだろう。
完全にとばっちりで討伐対象にされたのだな。
ご愁傷様・・・
それと、いなくなったという勇者。
こいつはさすがに要注意だな。
ただ4人の勇者を目の前にして俺がそいつを探しに行く事は出来ないから、この件に関しては総帥に知らせておいて、後は任せておくか。
俺が思考を巡らせていると、マイがどうしたの?という顔で見ていた。
「ああ、悪いね。ちょっと考え事をしていた。それはともかく、話を聞かせてくれてありがとう」
俺は誤魔化しつつ、情報をくれた事に対して素直に礼を言った。
マイはマイで、誰かに話したかったのだろう。
少しだけすっきりした顔をしていた。
「っと、あんまり話をしていては、教師に変な目で見られてしまうな。少しは真面目にやるとしようか」
俺がそう言うと勇者3人とマリアは、待ってました!とばかりに笑顔になった。
「あの教師の説明では、魔法を使うにはその魔法に対する詠唱が必要だと言っていたな。とりあえず、さっき教師に教えられた詠唱をして魔法を放ってみてくれ」
「えっ?でも・・・確かに限られた人以外は、魔法を使う時には詠唱が必要だと色んな人にも教えられたけど、でもジョークくんは試験の時に詠唱をしてなかったよね?それに、魔力の感じ方を教えてくれるんじゃ・・・?」
「うん、まあ、順を追って説明をしていくから、とりあえずは・・・火魔法でいいから、詠唱をしてみてくれ」
「う、うん、わかったよ。でもなんか、恥ずかしいけど・・・」
マイはそう言いながら、渋々詠唱を始めて行く。
それに習って、他の3人も同じように詠唱を行う。
教えられた魔法は、四大元素である地水火風の初級魔法。
一応最初なので、皆には火の魔法を使ってもらう。
さすがにマリアは王族だけあって、その程度ならすでに教えられていたのだろう。
スムーズな詠唱を行い、火炎を放っていた。
勇者達3人は戸惑いながら詠唱を行い、なんとか火炎を放つ。
本来、詠唱をすれば絶対に魔法が使えるというものでもないのだが、さすがは勇者と言った所だろう。
それに、マリアが放つ火炎よりも遙かに威力がある。
魔力も相当なものだ。
「よし、4人とも詠唱した火魔法は問題無く使えたな。じゃあ聞くけど、詠唱して魔法を放つ時に何か感じなかったか?」
俺の質問に、4人は互いに顔を見合わせる。
「うん。確かに俺は、詠唱をして魔法を放つ時、手の平の前に暖かいものが集まる感覚があったよ」
「あ、それ、私も感じたぁ!」
最初に答えたのはマサヤであり、それに同調するようにユウコが答える。
マイと、マリアも頷いていた。
「そう、それが魔力だ。そしてそれを魔力だと認識する事が、まずは必要なんだ。この世界に来るまで魔法を知らなかった勇者達からしてみれば何を言ってるんだ?と思うかもしれないけど、マリアなら俺の言っている意味はわかるだろう?」
俺の問いかけに、マリアはハッとした表情を浮かべた。
「ええ、確かに言われて気がつきました。私達が教えられているのは魔力の扱いでは無く魔法そのものです。ですから、今まで私達が使う魔法に感じていたのは、これは魔法の力という認識であり、魔力であるという認識は全くありませんでしたね」
そう、人は最初にこうだと教えられた事に対して、特に疑問を抱かずに納得し理解したと考えてしまう生き物なのだ。
もちろん疑問を抱き、自分で解き明かす者もいるだろうが、それは少数である。
だから、教師が魔法を教えてやってみろと言った時には、なるほどと思った。
これは火炎という魔法だと教えられれば、目の前に集まる力は火炎という魔法であり、魔力が集まるとは考えなくなる。
そりゃあこんなんじゃ、強くなるのが遅くなるというものだ。
「と言う事で、魔法を使った事のあるマリアですら気づいてなかったように、魔法を使う時には誰もが魔力を感じていたわけだ。そこで、マイの最初の質問に戻って、魔法の詠唱についてだけど・・・」
よほど詠唱をしたくないのだろうか。
マイ達は身を乗り出して聞いている。
「はっきり言ってしまえば、魔法を使うのに詠唱は必要ない!」
「「「「えっ?」」」」
俺が詠唱の必要性を完全に否定すると、4人は驚きに声を上げた。
特にマリアが一番驚いていただろう。
「じゃあ、さっきはなんで詠唱魔法を使えと言ったの?」
「・・・それは魔法を使える者にとってはと言う事だからだ。逆に、魔法初心者にとっては、魔法の詠唱は非常に便利なんだよ」
マイはよほど魔法の詠唱をしたくないのか、先程のことは不服だと感じているようだ。
それに対して、詠唱は必要無いと言いつつも、便利であると告げる。
というのも・・・
「最初に魔法を使う時、どうやって出したらいいのかがわからない。それを詠唱する事で言葉を魔力に変換し、力の種類・強さ・規模・方向性を持たせ、具現化させる事が出来るようになる。それと、いくら正確に詠唱しても、その魔法に対する資質が無ければ発動はしない。従って、自分が使える魔法を理解する事も出来るというわけだ」
これは俺が最初に魔法を覚えた時に教えられた事である。
「ま、マリアは別として、マイ達はおそらく資質は関係なく魔法を使えそうだけどな」
勇者として召喚されただけあって、使おうと思えばあらゆる魔法を使えるのだろうなと、俺は勇者達に感じている。
「そして、とりあえず魔法を使わせて魔力を感じさせる事が、今回の目的だったんだよ」
俺がそこまで話して、ようやく納得してくれたようだ。
「そこで次に繋がるのが、マイが覚えたがっていた魔力感知。それには、さっき感じたように魔力がどんなものなのかを知る必要がある。そして自分の中にある魔力を感じる事が出来るようになれば、あとは簡単だ。そして、魔力感知が出来る様になれば、今度は魔力操作・魔力制御が可能になり、詠唱を必要とせずに思うような魔法が使えるようになる」
もちろん、魔力操作などが出来なくとも無詠唱で魔法を使おうと思えば使える。
しかしその場合は、力の加減を調節できないなど、使い勝手の悪いものになってしまう。
現に、俺に教えて貰う必要は無いと言って、俺達から離れた場所で魔法を使っているリョウタがいい例だ。
彼の目の前には、かなりの広範囲にわたって焼け跡が残っている。
どうやら、自分の魔力の大きさに気づかずに、無詠唱で適当に魔法を放ったようだ。
本人はどうだ!すげえだろ!と言わんばかりの顔を見せ、周りの生徒達は彼を褒め称えているが、あれは一歩間違えば他の者を巻き込んでいてもおかしくは無い。
魔法は、ただ威力のある魔法が使えればいいわけでは無い。
要所要所にあった魔法の威力や効果で使えなければ何の意味もなさないし、決してすごくもない。
俺はその事を目の前の4人に言って聞かせる。
俺の言わんとする事をきちんと理解した4人は、リョウタを少しかわいそうな目で見ていた。
「とまあ、そういう事で・・・今は魔法を使えるようになる事よりも、先に魔力感知を覚える事だ」
「確かにあれを見たら、何でもかんでも魔法が使えればいいってもんじゃないって事がわかっちゃうねぇ」
「うん、あのままだと危険かもしれないね」
「そうだね・・・リョウタには、後で俺から注意しておくよ・・・まあ、人の言葉に耳を貸すような奴じゃないけどね」
俺が焦って魔法を覚えるなと暗に告げると、ユウコとマイが同意し、マサキが溜息を吐きながらリョウタに言い聞かせると言った。
「ま、とりあえず、さっき魔法を使う時に感じたように、自分の中にある魔力に目を向けて感じ取ってみてくれ」
とは言いつつも、魔法を使う時に集まる魔力を感じるのと違って、身体にある魔力を感じ取ることは難しいだろうなと思っている。
というのも、身体に流れる血液の流れを感じ取れと言っているようなものだから。
それでも4人は目を瞑り、うんうん唸りながら感じ取ろうと頑張っている。
「・・・だめ、全然わからないよ」
「うん、さっきと違って、魔力の“ま”の字も感じ取れないよねぇ」
「私も何も感じ取れませんね・・・」
「・・・本当に自分の魔力を感じ取る事が出来るのかい?」
マイもユウコもマリアも悔しそうに呟いた。
そして、マサキは率直な疑問をぶつけてくる。
「ははっ。そりゃあ、そう簡単に出来るようなら、ほぼ全ての人間が魔力感知を使えているさ」
俺がそう言うと、出来ない自分に対してなのか俺が笑った事に大してなのかはわからないが、マイが「んもう!」といいながら頬を膨らませていた。
「そう膨れるなって。本当なら時間をかけて自分で感じ取って欲しい所だけど、マイの焦る気持ちもよくわかる。だから、少しだけ手助けをしてやるよ」
俺の言葉を聞いたマイは、「本当!?」と嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「ああ、じゃあまずはマイから。俺と両手を繋いでくれるか?」
「えっ!?」
俺が前に伸ばした両手を取れと言うと、マイが驚きの声を上げて顔を徐々に真っ赤にさせていった。
何か変な事を言ったか?と思いつつも、俺の手を中々取らないマイに近づき、俺からマイの両手を取った。
「えっ!あっ!うっ!」
と変な声がマイの口から漏れるが、そんな事は気にせずに俺は話しかける。
「いいか?俺がこれから、片方の手からマイに魔力を流し込む。そしてマイの身体を伝い、逆の手から俺の身体に魔力を戻す。その作業の中で、魔力の流れを感じ取るんだ」
「・・・あっ・・・う、うん・・・わかったよ」
俺の説明を聞いたマイは、真っ赤にさせた顔を俯かせながら、消え入りそうなか細い声で返事をする。
それを了承と捉え、俺は魔力を少しずつゆっくりと流し始める。
最初は気づかなかったマイだが、段々と俺の魔力の流れを感じ取る事が出来てきたようだ。
「あっ・・・んっ・・・・」
何か変なうめき声がマイから聞こえるが、俺は気にせずに尋ねる。
「俺は今、どっちの手から魔力を流しているかわかるか?」
「んっ・・・私の・・・左手から・・・あっ・・・(私の身体の中に・・ジョークくんの熱いものを・・感じる)・・・んんっ・・・右手に」
??
何だなんだ?
魔力を流しただけで、普通はこんな反応にはならないなずなのだが・・・
最初はあまり気にしなかったが、さすがに変だなと思い始める。
しかし、ここで終わらせては意味がない。
だから疑問に思いつつも、今度は流れを逆に変える。
「んっ・・ああっ・・・今度は・・・今度は・・・右から・・・右からぁ・・・私の身体に・・・(ジョークくんの熱いものが注がれて・・・!)」
ちゃんと魔力を感じ取り、流れもわかっている様ではあるんだが・・・
何でこんな反応になるんだ?
もう一度逆の流れにしてみる。
「ああ・・・また・・・また・・・左からぁ・・・だめ・・・もうだめぇ!・・・私おかしくなっちゃうよぉ・・・」
ええ!?
魔力を流し込むのに、こんな変な作用は無かったはずなんだけど・・・
さすがにこれ以上はやるわけにはいかないと考えマイの手を離すと、彼女はその場に崩れ落ちた。
「ちょっと舞!?大丈夫!?どうしたの!?立てる?」
「んっ・・・だめ・・・腰がぬけちゃった・・・」
ユウコがマイに声をかけて身体を起こさせようとしたのだが、マイは立ち上がる事が出来ないらしい。
・・・・・意味がわからない。
「ちょっと、ジョーク!?あなた、舞に何をしたのよ?」
「何をしたって、ただ魔力を流しただけで、身体に害はないはずなんだけど・・・」
ユウコに詰め寄られた俺は、ありのままを話した。
「本当にぃ!?でも、あんな反応になるなんて聞いてない!聞いてないんですけどぉ!?」
「うん、いや、別に何も反応はしないはずなんだけど・・・」
「本当に本当の事なんでしょうねぇ?・・・あの反応を見てからだと怖いけど、次は私が試させてもらうわよ!何かあったら、タダじゃおかないんだからね!」
「あ、ああ、わかったよ」
俺はユウコのあまりの剣幕に圧倒される。
そして、ユウコが自分から俺の手を取ってきたので、マイと同じように魔力を流し込む。
そして・・・
「んっ・・・あっ・・・身体に・・・ジョークの・・・熱い・・・熱いものがぁ・・・」
ええ~・・・??
何でだ!?何でなんだ!?
ユウコも同じように魔力を感じ取っている様だが、やはり反応がおかしすぎる。
そして逆の流れも何度か試した所でユウコが「もう・・むりぃ・・・」と言うので、魔力を流すのを止めて手を離すと、マイと同じように腰から崩れ落ちた。
あまりにも反応がおかしいので、今日は止めておこうと言おうとした。
のだが・・・
俺が言葉を発する間もなく、マリアが俺の両手を取っていた。
「うふふっ、お願いしますね」
俺が逃げられないように手はがっしりと握られた上に、笑顔でそう言われてしまえば、もう覚悟を決めてやるしかないな。
そして俺は魔力を流すと・・・
やはり・・・
「んっ・・・あっ・・・ああっ・・・ジョークさまぁ・・・ジョークさまが私の中にぃ・・・」
マリアに至っては、なぜか最初の頃の様に俺を様付けで呼び出す始末。
だめだ・・・
もう、今日は止めよう・・・
そう思って俺は踵を返した。
のだが・・・
「こ、怖いけど・・・でも、まだ・・・俺は終ってないよ」
マジかよ!!
と叫びたくなった。
いや、まだ悲観するのは早い!
あれは、この3人だけがおかしかっただけで、マサキなら大丈夫!
な、はずだ・・・
と自分に言い聞かせて、マサヤに魔力を流し込むと・・・
「んっ・・・おおっ・・・んあっ・・・」
と、ここで都合により、俺の記憶から削除させていただきます・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
記憶を失った俺の前に、マサキまでもが腰砕け状態と化していた。
従って、俺の目の前には・・・
腰が砕けて目がとろ~んとしている4人の姿が・・・
本気で訳がわからない。
魔力を流し込むだけで、こんな反応になるはずがないのに・・・
感受性が高すぎるとこうなるのか?
もう、考えても考えても意味がわからない・・・
それよりも、こんな場面なら絶対に・・・
「やはり、ジョークは女ごろし・・・いや、男もいるこの場合は、まさに人ごろし」
今まで黙って見ていたジュリーが、思った通りの反応を見せる。
って、俺達の稼業と掛け合わせて、上手い事言ってんじゃねえよ!
と、心の中で嘆くほかなかったのだった・・・
勇者達3人にとっては魔力に対して慣れていなかったため、マリアにとっては少しばかり魔力が強かった事が原因のようです。
お読み頂きありがとうございます。
次回の更新も、2、3日後になると思います。