第6話 勇者と接触するJ
休憩などを挟み、今後の日程や行事などについて説明を受けると、本格的な授業は明日からという事で本日は終了となった。
そして教師が出て行くと・・・
「では、改めましてジョーク様。私はマリア・ルーベルトです。以前もお伝えしましたが、これから宜しくお願いしますね」
隣に座るマリア王女が、俺に向かって挨拶をしてきた。
彼女は、俺が合格したら同じクラスになる事を最初からわかっていたと言う事か。
いや・・・というよりは、おそらく同じクラスになるように仕組んだと考えた方がいいだろうな。
王女の頼み事を拒否は出来ないだろうし。
「ん、ああ、もう知っているようだけど、俺はジョーク。宜しく、マリア王女様」
俺もマリア王女に倣い挨拶を返すと、彼女は少しだけ顔を曇らせた。
「先程も言いましたが、私達は立場に関係無く同じご学友です。気軽にマリアとお呼び下さい」
どうやら王女様と言われる事が嫌だったらしい。
でもさっきの休憩中、他のクラスメイトに「あの、王女様」と話しかけられた時は、「はい、なんですか?」と普通に答えていた気もするんだが・・・
まあいいや、彼女がそう言うのなら、別に気を遣う必要もないだろう。
「はあ、わかったよマリア」
俺がマリアを呼び捨てで呼ぶと、彼女の顔がパァーっと明るくなった。
何が嬉しいのやら・・・
「だったら俺の事も、様付けで呼ぶのは止めてくれないかな?」
「は、はい!ジョーク・・・さん」
「別に敬称もいらないんだけどな・・・」
「そうは仰いましても、殿方を敬称無しで呼ぶのは抵抗がありますというか、恥ずかしいと言いますか・・・」
まあ、王室育ちならそれも仕方の無いのかもなと思いつつも、だったら堅苦しい言葉遣いはしなくていいと伝えると、それは何とか善処しますとの事だった。
そしてマリアが俺と話している事に興味を持ったのか、勇者達も話に加わってくる。
「ああ、すごい魔法を使っていたり、マグレスとかいう相手を一方的に倒したりしていた人だね!」
と、確かマサキ・スメラギという名の勇者が話しかけてきた。
どうやら勇者達も、今興味を持ったのでは無く、試験の時から興味を持っていたらしい。
試験の時に離れた所で感じた少し大きめな力は、やはり勇者達だったか。
でも、あの時感じた力は、やはり5人分あったはずなんだが・・・
それはともかく、何であれ勇者が俺に興味を持ってくれるのは、監視するこちらとしては都合がいいと考えるべきか。
とりあえずは俺も、彼の発言に疑問を投げかけてみるとしよう。
「すごい魔法?一方的だった?」
俺は別に対した魔法を使ったつもりはないし、マグレスとの戦いもそれなりに苦戦したように見せたはず。
しかし、先日マリアにも言われた様に、勇者にもマグレスとの戦いでは圧倒的に見えたようだ。
「うん。この世界に来るまで魔法なんて実際に見た事はないけど、さすがに君の魔法が他の人と比べてすごい事くらいはわかるよ。マグレスとの戦いでも、攻めあぐねているように見せておきながら、実は余裕があったという事もね」
どうやら、試験の時に弱く見せようとしたのは失敗しているようだ。
今更仕方が無いし、あの程度の事ならばれて困るような事も無いから開き直るか。
「まあ、今更だから言うけど、別にあの程度の事なら対した事じゃないさ。だからと言って、あれ以上の事を期待されても困るけど」
俺がそういうと、納得したのかしてないのかわからないが、マサキ・スメラギは「あはは、そっか」と笑っていた。
「あ、ごめんね。さっき皆の前でも名乗ったけど、マサキ・スメラギだよ。宜しく、ジョーク君」
マリアと俺が話しているのを聞いていて、俺の名前を知った訳ではないのだろうな。
勇者達も、試験の時から知っていたのだろう。
「ああ、宜しく。マリアの時にも言ったけど、俺に敬称を付ける必要はないよ」
「ふん、そいつがどの位すごいのかは知らんけど、この世界に来て力を得た今の状態なら、あの程度の事・・・俺にでも出来るぜ」
俺がマサキに返事していると、急に横から割り込んできた奴がいた。
リョウタ・タナカである。
「それはそうだ。勇者の力を持ってすれば、俺程度と比べる事自体が間違いだろうな」
俺は彼らと仲違いするつもりはないので、リョウタ・タナカの言葉を肯定する。
すると、リョウタ・タナカは気を良くしたのか、俺の肩を叩きながら笑顔を浮かべていた。
「そうだろ?そうだよな!?お前はなんか見込みがあるな。俺はリョウタ・タナカ、リョウタでいい!お前とは仲良くなれそうだ」
「そっか、ありがとう」
何の見込みがあるのか意味不明だし随分と調子に乗っているようだが、取り立てて腹を立てる必要も無い。
だから普通に返事をしたのだが、彼らと話している俺の陰にいるジュリーは別だった。
背中越しに殺気がビシビシ伝わってくる。
俺は手を後ろに回し、止めろと手を振る。
「わ、私はジョーク君の魔法に興味があるなぁ」
「そうだよね!ロウソクの火みたいなのがチラチラと動いてるから、最初は笑っちゃったけど、的に当たった瞬間に吹き上がる炎にはビックリしたよね」
それまで俺達の話を大人しく聞いていたマイ・ヒメキとユウコ・タチバナが、タイミングを見計らったかのように話かけてきた。
しかもマイ・ヒメキは、話始めは躊躇した様子だったが、すぐに身を乗り出すように話していた。
「あれも別に対した事じゃないさ。君達くらいの魔力があれば、簡単にできる事だよ」
「え?何の道具も使わずに、私達の魔力がどのくらいあるのかわかるの?」
ああ。しまったな。
一般的には道具を使って魔力量を量るのか。
“トランプ”のメンバーで魔力感知が出来ない者はいないので、それが当たり前になっていた。
それに“トランプ”のメンバーじゃなくても、俺が任務で相手した奴もそれなりには魔力感知が出来ていたからなおさらだな。
俺はあまりにも、自分が世間知らず過ぎるという事を実感した。
そして、さすがにボロを出し過ぎだなと思う。
まあ今更だし、本当の力さえ見せなければ大丈夫だろう。
「まあ、小さい魔力は感じ取れないけど、君達くらい大きな魔力なら感じ取れるかな」
俺の言葉にマサキ・スメラギがマリアの方をちらっと見ると、マリアは首を横に振って「普通の人なら、魔力を感じ取るのは簡単に出来る事ではありません」と小声で言っていた。
そうは言うけど、魔物だろうが人間相手だろうが戦闘に参加する者ならば、多少なりとも魔力感知が出来ないと死ぬ可能性が高まるので必然的に覚えざるを得ないだろう。
それが早いか遅いかの違いである。
「それって私にも出来るようになるかな?魔法の事も知りたいけど、もし教えて貰えるならその事も教えて欲しい!」
マリアの言葉が聞こえなかったマイ・ヒメキは、魔力感知のやり方を教えて欲しいと言った。
「魔力を感じ取れるようになれば、それだけ皆を危険から守れるようにもなるんだよね?」
「まあ、確かにそうだけど・・・でも、俺なんかに教えて貰わなくても、授業で習うかもしれないし、いずれ身につくと思うけど?」
正直、俺達の敵になるかもしれない相手を強くしてやる理由などはない。
そう思っての発言だった。
「ううん、いずれじゃ駄目なの・・・私は早く、皆を守れる力を得たい・・・そして、早く元の世界に戻りたいの・・・」
「・・・・・」
ああ、気丈に見せていたけど、本当は今すぐにでも自分の世界に戻りたいんだな・・・
そりゃ、そうだろう。
いきなり訳もわからず別の世界に召喚され、そこでは自分達以外には誰も知っている人がいない。
普通に考えれば、そんな場所には居たくないよな。
そして、何て言いくるめられたのかは知らないが・・・
まあ、おそらく何かを守れば・もしくは何かを倒せば元の世界に戻れるとでも言われたのだろう。
それで、国の言いなりになるしかないと言った所か・・・
だからこそ早く力を身につけて、帰るという希望に近づきたいんだろう。
俺がそう考えている間、マイ・ヒメキが最後にか細い声で言った言葉を聞いたマリアは、沈んだ表情を見せていた。
マリアはマリアで心底申し訳ないと感じているようだ。
「・・・わかった。俺が教えられる範囲であれば教えてやるよ」
俺は自然とそう答えていた。
自分達の敵となる可能性の存在を、自分で育てるのか?
んなもん、“トランプ”ならいくらでもどうにでも出来る。
むしろ、アンリなら喜びそうなもんだ。
彼らが学校で学ぶ事が無くなれば、学校からいなくなるんじゃないか?
それこそどうだっていい。
俺の任務は、勇者達の監視であって、学校に通い続ける事では無い。
俺は自問自答しながらも、彼らを育ててやる事を決意していた。
「本当に!?ありがとう!」
「やったぁ!授業よりも、ジョークに教えて貰う方が楽しそう!」
「・・・俺も一緒に教えて貰ってもいいかな?」
「俺は、そいつに教えて貰わなくても、自分で強くなれるね!」
マイ・ヒメキとユウコ・タチバナ、そしてマサキ・スメラギが俺から学ぶ事を決めた。
リョウタ・タナカだけが自分1人でやると、強気に言っていた。
「もちろん、私にも教えてくれますよね?」
と、マリアまでもが、笑顔で言い出してきた。
マリアに関しては、俺が教えなくてもいくらでも教えてくれる人はいるだろう・・・と思いながらも、渋々了承したのだった。
その後・・・
「紹介が遅れたけど、こっちがジュリー。同じ施設で育った俺の姉だよ。歳は同じだけどさ」
と、俺の陰に隠れていたジュリーの首根っこを捕まえて、彼らの前に突き出して紹介する。
「うわっ!かわい~!お人形みたい」
「ジョーク君のお姉さんなんですか」
「そう、私はジョークの姉」
「ははっ、姉っぽくは見えないってか?」
ユウコとマイ (そう呼べと言われた)が、ジュリーを見てキャッキャと騒ぎながらも、見た目からジュリーが俺の姉という事に疑問を抱いたようだ。
それに対し、ジュリーはVサインを出しながら姉である事を強調し、俺は疑問に思っているだろう事を率直にぶつける。
「う、ううん、そんな事はないんだけど」
「いや、いいんだ。本人も姉でありながら妹のようなギャップを気に入ってるらしいから。まあ、ジュリーは俺よりも長く施設にいるから、それで姉という立場なんだよ」
俺の説明を勇者達とマリアが、「へぇ~」と聞いていた。
「・・・さっきから気になってたけど、同じ施設って・・・」
どうしても気になるらしい。
マサキが疑問を口にした。
「ああ、俺達は孤児だからな」
これは本当の事。
俺もジュリーも、組織の大半の者には本当の親も兄弟もいない。
「えっ、あっ、ご、ごめん!」
俺の話を聞いて、マサキは聞いてはいけない事を聞いたと謝った。
「ああ、いや、気にする必要はないさ。血の繋がった肉親が居なくとも、施設には兄や姉、そして親の様な存在がいるからな」
落ち込んだマサキを慰めるように、俺は気にするなと伝える。
そして気がつけば、周りには他の生徒達はみんな帰ってしまい、誰も居なくなっていた。
「と、教えるのは明日でいいだろう?」
俺がそろそろ帰ろうかと促すと、勇者達は頷き解散の流れとなった。
そして、勇者達が教室を出て行った所で、俺も帰ろうとしたのを引き留める声があった。
「ジョークさん、ちょっといいですか?」
それはマリアだった。
俺はジュリーに先に行くように促して、マリアに向き直る。
「何かまだ用があるのかい?」
「ええ・・・もう一度、きちんとお礼を言いたかったのです。先日のネックレスの件は、本当にありがとうございました。それと鑑定結果も問題なく、疑ってしまい申し訳ございませんでした」
「ああ、そんな事気にする必要はなかったんだけどな」
「いえ、そういう訳にはいきません。それと周りには、届けて下さった方・貴方の事については、それとなく濁してありますのでご安心下さい」
確かに、マリアが本当の事を周りに伝えていたら、かなり面倒くさい事になっていただろうな。
その事には、俺も感謝しなければいけないな。
「そっか。それに関しては、俺もありがとうと言っておくよ」
「それこそ礼を言う必要はありません。私が受けた恩に比べたら、然したる事ではありませんので」
とは言え、マリア自身は本気で大丈夫だと思っているようだが、王家の力を侮るわけにもいかない。
念のために用心しておくべきだろうな。
それをマリアに直接言うわけにもいかず、「そっか」と言うだけに留めた。
そして・・・
「では、明日からは私も含め勇者様共々、宜しくお願いしますね」
「ああ、こちらこそ宜しく頼むよ」
と、互いに挨拶を交わして、その場は別れたのであった。
ブックマークありがとうございます!
もっと楽しんでもらえる作品になるよう頑張ります。
あと、この第6話掲載前から読んでくださった方へ。
前話までの誤字脱字、抜けていた部分の追記など、少しだけ修正しました。
それとエミルから聞いた噂話の、勇者の人数に誤りがありました。
すでに修正しましたが、正しくは男3人女2人でした。
失礼いたしました。