第5話 入学したJ
試験から4日後。
先日、合否が出て俺とジュリーは合格通知を受け取っていた。
まあ、妥当な結果だろう。
魔法・実技試験は多少不安があったものの、基準はクリアしていただろうと思うし、筆記試験に関しては総帥から渡された資料を全て頭に叩き込んだ事で、難なく乗り切ったのだ。
そして、合格により寮を充てられる事になったので、この宿とは今日でお別れである。
「うっ、うっ・・・今日でジョーク君と・・・それとジュリーちゃんともお別れなんですね・・・」
エミルは泣きながら、俺達との別れを惜しんでくれている。
なんだかんだで、彼女にはかなりお世話になった。
食事ではいつも数量限定の品を出してくれたり、買物をするのに信用出来る店や穴場の店を教えてくれたり、食事に来る他の客から聞いた情報を教えてくれたりなんかもした。
守秘義務はいいのか?と思いつつも、有難く情報を頂いておいた。
風呂に入っていた時に、「お姉さんが背中流しましょうか??」と入ってきた時には、かなり焦った。
もちろん、それを察知したジュリーまでもが乱入してきたのは言うまでもない・・・
エミルとジュリーの2人は何かと張り合いながらも、意外と互いに気に入っていたようだ。
今も互いに別れの握手を交わしていた。
俺もお世話になった礼をするとしよう。
「お姉さんにはずいぶん世話になってしまったね。だから礼として・・・これを貰ってくれないかい?」
そう言って彼女に差し出したのは、魔石が埋め込まれたプラチナのブレスレットだ。
「えっ?えっ?・・・こんな高価な物・・・これって・・・結婚腕輪!?」
「むう・・・結婚腕輪は私の物!!」
「ちがあああう!!何だ!?結婚腕輪って!!それは指輪だろう!ってそもそも結婚じゃ・・・だあああ!!」
エミルが訳のわからない事をのたまうと、ジュリーまでもがそれに乗っかる。
そして、俺は壊れる。
確かに白金なので高価であるには間違い無い。
しかしそれにはちゃんと意味があり、結婚腕輪とか意味不明なものではない。
「はあ・・・プラチナは魔力が伝導しやすい素材なんだ。もしお姉さん・・・エミルに危険がせまれば、魔石が反応し腕輪を通じて守ってくれるようにしてある」
俺は何とか平静を保ちながら説明をする。
それ以外にもう一つだけ効果があるが、それは言う必要はないだろう。
まあ、普通に生活していれば危険な目に遭う事はないだろうけど、一応念のためだ。
それが俺の彼女に対する感謝の印だ。
一般的には高価な物なので金に目がくらみ、最悪売ってしまったとしても、それはそれで別に構わない。
その可能性込みで贈るのだから。
それはともかく、俺が最後にエミルの名を呼んだ事で、「意外と年下からエミルって呼ばれるのも、良かったかもしれない・・・」とか訳のわからない事をいいながら、受け取った腕輪を嬉しそうに付けていた。
そして「絶対にまた来て下さいね」というエミルの言葉に、「ああ、また来るよ」と返して宿を後にした。
ジュリーもまだこの宿に泊まっていたいと言っていたが、別の理由・俺と別室になりたくないという理由で惜しんでいたのは間違いないだろう。
この後は学院に向かい、学院寮に入る手続きをした。
もちろん男女別なので、ここでジュリーとは一端お別れである。
この世の終わりかと言うほどの顔をしながら、ジュリーは俺に促されて女子寮へと向かっていった。
それから数日後、入学初日を迎える。
俺はジュリーと合流し、一緒に登校する。
校舎に入り、自分の教室を見つけて入り口のドアを開けた。
すると、既にクラスの大半の生徒が登校しており、思い思いに話をしていたのだが、俺達が中に入ると途端に話がピタッと止んだ。
俺は別に対して気にする事もなく、席が決まっているわけではないようなので、空いている席へと腰を下ろす。
ジュリーも俺にならって、俺の隣の席に腰を下ろしている。
すると再び、ざわざわと声が聞こえてきた。
「なあ、あいつだよな・・・」
「ああ、あのマグレスをいとも簡単に倒したとかいう・・・」
「え?マジかよ!あんな、なんでも無さそうな奴がか?」
とか・・・
「あの隣にいる子もそうだよね」
「ええ~?あんなに小さい子が、マグレスを一瞬で倒したっていうの?」
「でも、かわい~。お人形さんみたい」
などなど。
あの実技試験の時に見た限りだと、マグレスと他の生徒の強さ差がよくわからんが、あの程度の奴でもかなり強い方だったらしい。
「で、当のマグレスは?」
「落ちたらしい・・・」
「うわぁ・・・それは、剣術の名門である家の名に、見事に傷をつけたなぁ」
「親父さんも激怒しそうだな」
「まあ、いいんじゃないか?普段から鼻にかけて、威張り散らしているような奴だし」
「確かに。あの2人に当たったのが運の尽き。いい気味だ」
「しかし、あの2人は何者なんだろうね・・・」
話を聞く限り、マグレスはどうやら普段から態度がでかかったようだ。
しかし名門出のマグレスが落ちたと聞くと、何だか多少悪い事をしたような気もするが・・・
まあ、それはそれ・
そこまで、俺が気にする事もない。
そして彼らの話は、マグレスから再び俺達の話題へと変わっていた。
「黙らせる?」
「いや、気にしなくていいさ」
俺が気にしているとでも思っているのだろうか?
ジュリーが、俺達の事をコソコソと話している連中を黙らせようと立ち上がりかけたので、俺は止めておいた。
ジュリーは何かに付けて、実力行使をしようとするのが困りものだ。
俺自身、あんまり目立つつもりは無かったけど、実際の所は勇者の監視に差し支えなければどうでもいい。
そう思いながら目を閉じて、入ってくる情報を逃す事なく聞きながら、時間が来るのを待っていた。
しばらくすると開始の鐘が鳴り、すぐに担任の教師が教室に入ってきた。
俺が周りを見渡すと、俺の横2列に席が5つだけ空いている。
ああ、おそらく勇者の席だろう。
特別である彼らは、後から紹介されて入ってくるのだろう。
何はともあれ、どうやら同じクラスになれたようだな、と考えていた。
そして今は教師が何か挨拶しているが、それはどうでもいいと聞き流して勇者が入ってくるのを待っている。
「・・・だ。まあ、私の挨拶はこの辺りにして・・・どうぞお入り下さい!」
教師が教室の外で待っている者に入ってくるよう促すと、教室のドアが開き勇者と思わしき人物達が入ってくる。
やはり事前の情報通り、勇者は5人で間違いな・・・・・
って、マジかよ・・・
最後に入ってきた者を見た瞬間、俺は頭を抱えた。
もう一度、その人に目を向けると・・・
完全に目が合った。
そして、俺に向けてニコッと笑みを浮かべた。
・・・勇者は5人じゃなかったのか?
そう思っている間にも、彼らは紹介されていく。
「皆はもちろんご存じだろうが、こちらにおわすのは我が国の王女殿下・マリア様であられる」
そう頭を抱えた人物こそ、先日出会ったマリア王女だったのだ。
最初ではなく最後に入ってきたのは、俺を驚かそうとしていたに違いない。
入って来た時の、悪戯っ娘の様なわくわくした顔を見ると、アンリが悪戯する時の顔と同じだったからだ。
そして俺を見て笑った時も、どうですか?驚きましたか?と顔に書いてあったし・・・
「他の者については、王女殿下からご紹介頂くので皆しっかりと聞くように!では王女殿下、宜しくお願い致します」
溜息を吐きながらも、とりあえずはマリア王女の説明を聞く事にした。
「ただいまご紹介に預かりましたが、私はマリアと申します。皆様とはご学友になりますので、どうか王女としてでは無く、皆様と同じ立場としてお気兼ねなく接して下さい」
そうは言うものの、周りからは困ったような反応が窺える。
「そしてこちらの方々は、私共に力を貸して下さる事になった、勇者様達です」
基本的に勇者は、この世界に住む者とは異質の力を持った異世界人の事を呼ぶ。
だから、異世界から来た者が4人だろうと5人だろうと、勇者と呼ぶ事には変わりない。
しかし、複数人の勇者を召喚したとなると、どれだけの者を犠牲にしたのやら・・・
それはともかく、今は勇者の事である。
彼らは、王女からどうぞと促され各々が自己紹介を始める。
「いやまあ、正直勇者と言われても何だか恥ずかしいんだけど・・・とにかく俺はマサキ・スメラギです。宜しく」
「俺はリョウタ・タナカだ。勇者として皆を守ってやるよ!」
「・・・私はマイ・ヒメキです。宜しくお願いします」
「私はユウコ・タチバナよ。みんな、宜しくね!」
いきなり違う世界へと召喚された割には、意外と馴染んでいるようだ。
最初の勇者から、いかにも爽やかな好青年、やんちゃ坊主、奥ゆかしい少女、元気いっぱい少女って感じか。
彼らが紹介を終えると、教師が一言二言話した後、俺の横の空いている席に着いた。
なぜか、隣にはマリア王女が座る始末。
しかも、やはり俺を見てニコッとする始末。
「始末する?」
始末つながりかよ!
というか、俺の心を読んでるのか!?
と心の中で突っ込みを入れながら、俺に耳打ちしてきたジュリーに、止めろとデコピンをしておいたのだった。
ちょっと短めですが、一端区切ります。
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