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第4話 昼休憩に女性と出会うJ

 


 昼休憩中、ジュリーと一緒に昼飯を食った後、午後の筆記試験まで時間があるため、俺は1人で学院内を散歩していた。


 ジュリーも付いてくると言い張っていたが、1人でゆっくり見たいからと彼女をなんとか言いくるめた。


 そして、噴水や花壇などが綺麗に配置されている中庭へとやってきた。


 するとそこにあったベンチに、1人落ち込んだ様子を浮かべて座っている者を見かけた。

 金髪ロングヘアーで、可愛らしい整った顔立ちをした少女である。


 学院の制服を着ているわけでもないし、受験者の中には姿を見なかった事を考えると、遅刻して試験を受ける事が出来なくて落ち込んでいるのか?と考えた。


 だからと言って、俺が声をかける必要も無いし、ましてや見知らぬ他人に声をかけるような性格でもない。


 そう思って、通り過ぎようとしたのだが、その落ち込んでいる表情を見て足を止めてしまった。


 俺は頭を掻きながら溜息を吐いて、彼女からは見えないように亜空間収納から紙に包まれたサンドイッチを取り出した。


「ほい、これでも食ってくれ。飯を食えば元気が出るさ」


 急に話しかけた俺に戸惑っているのか、俺が差し出したサンドイッチと俺を交互に見ながら、キョトンとした顔をしていた。


「あ、ありがとうございます・・・でも、お腹がすいていたわけではないんですが・・・」


 俺に礼を言いつつも、サンドイッチを受け取ろうとはしない。


「昼飯は食ったのかい?」

「い、いえ・・・」


「じゃあ、遠慮せずに食えばいい」

「あ、はい・・・ありがとうございます」


「気にしなくていいさ。それよりも、それを食って元気をだせよ。試験を受けれなかった事など忘れるといいさ。他に選ぶべき道はいくらでもある」

「――えっ??」


 試験を受けられなかった事が落ち込んでいる理由だと思っている俺がそう言うと、彼女は驚きの声と再びキョトンとした顔をした。


「ぷっ!くすくすっ!」

「ん?なんかおかしかったかな?」


 急に笑い出した彼女に、俺は何か変な事でも言ったかな?と疑問に思った。


「あ、笑ったりしてごめんなさい。私が試験を受けられずに落とされと思って、元気づけてくれようとしたんですね?」


 そうはっきりと口にされると恥ずかしいものがあるが・・・


「まあ・・・そうだなぁ」

「クスクスッ!ありがとうございます。でも私は、受験はしていませんよ」


「・・・そうなのか?」

「ええ、落ち込んだ姿を人に見せるつもりはなかったのですが・・・見られてしまっては仕方がありませんね・・・落ち込んでいたのは別の理由です」


 落ち込んでいた理由は、どうやら俺の勘違いだったらしい。


「じゃあ、なんで落ち込んで・・・って、余計なお世話だな」


 俺は理由を尋ねようと思ったのだが、本人が周りに隠そうと思っていた事を話したい訳がないし、もしそれを聞いた所で何かしてやる必要も理由もないので、途中で言うのを止めた。


 とりあえず差し出したサンドイッチを受け取ってくれと言うと、彼女は遠慮がちにしながらも素直に「ありがとうございます」と言って受け取った。


 そして彼女は再び口を開く。


「・・・何となく、ですが・・・貴方は不思議な感じがしますね」


 その言葉で、一瞬俺が“トランプ”である事がばれたのか?と勘ぐったのだが、早合点だった。


「なぜか、貴方になら話してもいいという気がしてなりません。いえ、むしろ話す事で解決に近づくような気がします」


 彼女は笑顔になり、まっすぐと俺の顔を見る。

 俺は何も言わずに、そのまま彼女の次の言葉を待つ。


「実は・・・私が大切にしていた物が、何者かに盗まれてしまったのです・・・」

「・・・そうか。そして先程の様子とその話しぶりからすると、盗んだ相手も盗まれた物がどこにあるのかも、検討が付かないと言う事か」


「はい、お察しの通りです。あらゆる手を使って探しているのですが、一向に見つかる気配がありません・・・」

「なるほど・・・あの落ち込み様からすると、相当大事な物のようだね」


「ええ・・・亡くなったお母様からいただいた、私の一番大切でお気に入りのネックレスです」

「親の形見か・・・」


 親のいない俺には、親からもらった物などない。

 しかし、過去に任務で命を落とした“トランプ”のメンバーから貰った物ならある。


 それは俺にとっては大切な物であり、それを盗まれたとなると盗んだ奴を許しはしない。


 それを考えると、親の形見を盗まれてしまったのでは、落ち込むのも無理はないというものだ。


「そのネックレスの特徴は?」

「えっ?」


 少しだけ同情した俺は、探し出してやるとまで言うつもりはないが、気にかける事くらいはしてもいいだろうと思って尋ねた。

 まあ、組織に頼めば探し出すのは容易いが、さすがにそこまでしてやるつもりはない。


 俺がネックレスの特徴を尋ねた事で、彼女は驚きの声を上げていた。

 恐らく、俺が探し出してやるとでも言うのかと思ったのだろう。


「ああ、勘違いしないでくれよ。さすがに探し出してやると無責任な事を言うつもりはない。ただ、これからそのネックレスをどこか見つけた場合には、届けてやろうと思っただけさ」

「あ、ありがとうございます・・・それでも、その気持ちが嬉しいです」


 彼女は俺に話す事で解決に近づくかもしれないとは言っていても、それはだたの直感であり、すぐに見つけ出すのは困難であると感じているようだ。

 だから、少しでも気にかけるという俺の言葉に、素直に感謝していた。


「それで、そのネックレスの特徴ですが・・・天使の両翼を模していまして、真ん中に宝石が埋め込まれている物なのです」


 なるほど、珍しい形のネックレスだな・・・・


 って・・・・・あれ?

 それって、なんか見た事があるぞ?


 ・・・・・・!!

 思い出した!


 セントフォールに来る途中で襲われた盗賊のアジトを壊滅させた時に、戦利品として盗賊が貯め込んでいた物を全て奪い去ってきていた。

 その中に、その特徴と同じネックレスがあったな。


「・・・そのネックレスって、素材は金で宝石とは薄紫色の魔石だったりするかい?」

「えっ?どうしてその事を・・・・どこかで見たのですか!?」


 彼女は自分が言ってもいない特徴を言い当てた俺に驚き、そして興奮してググッっと顔を近づけてきた。


「あ、ああ・・・その話をする前に・・・近すぎるから少し離れてくれると助かる」


 顔がくっつくのではと思う程、近づいてきた彼女に離れるように促す。


「えっ!?あ、ご、ごめんなさい!」


 俺の言葉で自分の状態に気がついた彼女は、すぐに大きく後退り深々と頭を下げて謝る。


「いや、それはいいんだけど・・・ちょっと待ってくれ」


 頭を下げる彼女に謝る必要はないと告げて、俺は肩から提げていたバッグに手を入れる。

 バッグには何も入っていないのだが、亜空間収納から物を取り出す時のカムフラージュに都合がいいため、普段から持ち歩いている。


「これかい?」

「あっ!そうです!それです!!」


 彼女は俺がバッグ (亜空間収納)から取り出したネックレスを見て、指を指しながら興奮した様子を見せる。


 そして途端に、キッとした目で俺を見る。


「なぜ、なぜ貴方がそれを持っているのですか?貴方が犯人だったのですか!?」


 ああ、まあ、そうなるよな・・・

 今まで見つからなかった物が、いきなり目の前の人間が持っていたとなれば、疑うに決まっている。


 しかも、亜空間収納から出したとはいえ、彼女からしてみればバッグに入れて持ち歩いていたように見えるのだから、なぜ持ち歩いていたのかと怪しくも感じるよな。


「いや、違う。別に信じて貰う必要はないけど、俺は別の街からここにやってきた。その途中で盗賊に襲われてしまったんだ。だけど何とか撃退して、奴らの持ち物を回収した中に入っていたんだよ。そして珍しい物だったから、どうするべきか悩んでいた所だった」


 バカ正直に、本当の事を全て話す必要はない。

 とはいえ、実際の内容とは少し違っていても、大きく嘘をついている訳でもない。


 それと確か、一般的にも盗賊から物を奪う事は罪にならないはずだ。

 バッグに入れていた理由も、そこまで変ではないだろう。


「・・・・・それは、本当の事ですか?」

「だから言っただろう?別に信じる必要はないと。俺が本当の事を話そうが嘘を吐いていようが、君の大切な物はここにあり、君の手に返却される。それだけで十分じゃないかな?」


 俺が信用出来るかどうかを確かめているのだろう。

 俺が話している間、真剣な眼差しを俺の目から離す事はなかった。


 そして話し終えると、何かを考えているようだった。


「とにかく、これは返すから受け取ってくれよ」


 そう言いながらネックレスを差し出したのだが、彼女は少し躊躇する様子を見せる。


 というのも、特に盗賊に奪われた物は、再び奪い返されたり他の者に奪われたりしないようにするため、呪いや状態異常などが仕掛けられている場合がある。


 まあ今回の場合だと、俺が仕掛けたと思われていると考えた方がよさそうだ。


 なぜなら、俺が手に持っている時点で、盗賊が呪いをかけていない事が証明でき、逆に俺が自分に作用しないような呪いの類を仕掛けている可能性を疑えるからだ。


「はあ、わかった。だったら、この魔法袋に入れて渡すから、どこかで鑑定してもらえばいい」


 俺は溜息を吐きながら再びバッグの中に手を入れて、亜空間収納から魔法袋を取り出した。


 魔法袋は、身体能力上昇の様なプラスの効果・呪いの様な状態異常などのマイナス効果に関わらず、中に入れている間は全ての効果を打ち消してくれる。


 ダンジョンなんかでアイテムを発見し、その場で鑑定出来る者がいなかった時に役に立つため、割高でも比較的に持っている人が多い。


 俺は取り出したその魔法袋に、ネックレスを入れて彼女の前に差し出した。


「え、あ、ありがとう・・・ございます」


 最初の頃とは打って変わり俺の事は信用出来なさそうだが、魔法袋の効果は信用出来るようだ。

 俺が差し出した魔法袋を、礼を言いながら素直に受け取った。


「安全が確認できてから、大事に持って帰るといいさ」

「・・・・・ごめんなさい」


 彼女が顔を沈ませながら謝った所を見ると、今まで見つからなかった物がこんなに簡単に見つかった事で動揺し、俺を疑った事への罪悪感があるのだろう。


 まあ疑心暗鬼になるのも仕方が無い。

 俺だって、こんな状況になれば、目の前の相手を疑うに決まっているからな。


「それでどうする?俺を警備にでも突き出すかい?」


 謝りながらも、俺に対してどうしたらいいのか考えあぐねている彼女に、俺はそう尋ねた。


「あ、い、いえ・・・そこまでは・・・」


 彼女は慌てたように手を振りながら、そこまでするつもりはないと告げる。


「・・・うん、そうですよね・・・・・私の大切な物を届けてくれた恩人に対して、大変失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした。それと、本当にありがとうございます!」


 彼女は一度頭を振ると俺に向き直り謝罪をした上で、満面の笑みで礼を言った。


「ああ、別に本当にたまたまだから、あまり気にしないでくれると助かる」

「ふふっ、貴方がそう言うのなら。でも、私が心の中でいつまでも感謝し続けることは構いませんよね?」


「いや、そりゃあ、人の心の事まではどうにも出来ないし・・・」

「では、そうさせて頂きます」


 さすがにそこまで言われてしまえば、俺にはどうする事も出来ない。


「でも、盗賊に襲われて撃退出来るなんて、さすがマグレスさんを簡単に倒しただけの事はありますね」

「・・・見ていたのか?」


 受験者では無いと言っていた。

 と言う事は、会場で感じていた陰の視線の内の1人だったという事か。


「ええ、動きに無駄がなく、綺麗な動きでした」

「我武者羅にやっただけだけどね」


 俺がそう言うと、彼女は「ふふっ」と笑っていた。


「あ、もうこんな時間ですね。午後の試験が始まりますよ?」

「ああ、もうこんな時間か」


「・・・申し遅れました。私はマリア・ルーベルトと申します。ネックレスと、それとサンドイッチありがとうございました。これから宜しくお願い致しますね、ジョーク様」

「はっ?ちょ、ちょっと・・・」


 彼女は自分の名前を告げると、俺が止める間もなく、言いたい事だけ言って足早に去って行った。


「マジか・・・余計な事をしてしまったかもしれないな・・・」

「・・・消す?」


 俺の呟きに、突如現れたジュリーが物騒な事を言い出す。


 俺が1人で行動すると言った所でジュリーが俺の言う事を聞くわけもないし、色んな意味で絶妙な距離から俺を見守っていた事には気がついていた。

 だから急に現れても、驚くような事はない。


 それよりも・・・


「いや、それこそ止めてくれ・・・もっと面倒くさい事になる」

「そう?」


 彼女の名前を聞いて、初めて彼女が何者なのかに気づいてしまった。


 ルーベルトというと、この国の王家の名前だ。

 と言う事は、マリアはこの国の王女様だというわけだ。


 確かに、数年前に王妃が亡くなったという話も聞いている。


 さすがに、王女の顔までは知らなかったからなぁ・・・


「名乗ってもいない俺の名前を知っている所をみると、最初から目を付けられていたようだが・・・」


 恐らく、マリアは王女であるのだから、試験で気になった者の名前を知る事など造作も無い事なのだろう。

 さっきマリアが言っていたように、マグレスと戦った時には目を付けられていたようだな。


 さらには、王家の力をもってしてでも見つけられなかった物を、理由はなんにせよ俺が持っていたという事実。

 大袈裟な事にならなければいいが・・・


 とはいえ、最悪な事になったとしても、なんとかなるだろう。

 なんにせよ、ジュリーの案だけは受け入れるわけにはいかない。


「ま、俺達がヘマをしない限りは正体がばれる事はない。最悪ばれても俺達をどうにか出来る程の力も無いだろうが、任務は失敗に終ってしまう。だから無用な殺生は以ての外、とりあえずは放置だ」

「放置プレイ?」


「いや、なんのプレイだよ、それ・・・」

「ジョークが構ってあげないという、焦らしプレイ」


「誰もプレイの説明を求めてないから!それに、そんなの誰が喜ぶんだよ・・・」

「私が喜ぶ」


「そんなカミングアウトはいらん!!」

「私がジョークを求めてるのに、ジョークは意地悪をして・・・」


 変な妄想にトリップし始めたジュリーを置いて、試験会場へ向けてスタスタと歩き始める。


「ああ、もうプレイは始まってる・・・?」


 俺はそれすらも無視する。


 それはともかく、マリアの事は今考えても仕方がない。

 とりあえずは、目の前の試験を乗り切る事だけを考えるのであった。






会話文の中では、話し言葉で書いていますので、

い抜き言葉・ら抜き言葉はわざと使っています。

間違いではないのでご了承下さい。


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