第3話 入学試験を受けるJ
セントフォールに着いてから3日目。
今日はアキレウス学院の入学試験。
試験の申し込みなどは、総帥の指示で組織が手続きを済ませてあり、すでに受験票も受け取っている。
その受験票を持って、アキレウス学院の試験会場へと向かった。
最初は魔法の試験が行われ、終った者から順に次の試験会場へと移って良いらしい。
その後、実技・模擬戦の試験を行う事になるようだ。
魔法試験会場に入ると、開始時間まではまだあるにも関わらず、かなりの人数があつまっていた。
職業柄、一通りの人物をチェックするのが当たり前となっている。。
その結果、特に注意する必要があるような者はいなかった。
まあ、陰からの視線や気配を感じるが、それも特に気にする必要はないだろう。
中にはそれなりに大きな力を持っている者もいるようだが。
入学した後に注意を払うのは勇者だけで大丈夫だなと思いながら、再び周りに視線を向けていると。
「おいおい、何かこっちを見ている奴がいると思ったら、お前のようなヒョロヒョロな奴が試験を受けんのか?」
へえ、俺の視線に気づくとは、意外な奴もいたもんだ。
でも、それだけだな・・・
目の前の奴が言うように、俺は170cmちょっとで細めの体格、奴は180以上あって体格も良い。
一般的に見れば、奴と同じように思う者が多いのだろう。
だからこそ、その程度の奴に俺が気にかける必要も無いというものだ。
「ん?何か気に障ったのかい?だったら謝るよ」
「ぶっ、あはははっ!おい、聞いたか今の!俺が何もしてないのに謝るだとよ!」
目の前の男は、他に2人と一緒にいたようだ。
盛大に笑いながら、後ろにいた2人に話しかける。
すると、俺の横から異常な魔力の高まりを感じた。
・・・まずいな。
穏便に済ませようと下手に出たら、奴らを増長させる結果になってしまった。
俺1人なら別にどうという事も無いんだが・・・
問題はジュリーである。
ジュリーは、俺を馬鹿にする者に容赦はしない。
このままでは、奴らの命は消え失せてしまうだろう。
別に奴らを庇うわけではないが、このままでは任務が失敗に終る。
そう思った俺は、ジュリーの肩を軽く抱く。
「落ち着け、何を言われても気にするな」
そう言うと、ジュリーは悔しそうにしながらも、なんとか魔力を沈めていた。
「おお、羨ましいねぇ!女連れで試験ですかぁ!肩なんか組んじゃって、俺もあやかりたいもんだな!」
「なあ。何度も言うが、気に障ったなら謝るから、あまり俺達に関わらないでくれないか?」
「なんだとぉ?」
「別にお前達と揉める為に試験を受けに来た訳じゃ無い。それはそっちも同じ事だろう?いいのか?試験官の心証を悪くして」
身を乗り出してきた男に俺がそう言うと、連れの男達も慌てたように止める。
「まずいですよ、マグレスさん。そいつの言う通り、こんな所で揉め事起こしたら一発で落とされますよ」
男の名前はどうやらマグレスというらしい。
そのマグレスは「ちっ!」と舌打ちをして、こちらを睨みながらこの場を後にした。
「一般の人間と関わった事はほとんどないけど、あんな面白いやつばかりなのか?」
「ふん、全く面白くなんかない!あんな奴、消し炭にしてしまえばよかったのに」
俺は全く気にかける必要のない実力の者が、いくら何を言った所で腹立つことはない。
キャンキャンと子犬が吠えているのと変わらないのである。
だが俺が止めなければ、ジュリーは間違い無く言葉通りの事を実行していただろう。
まあ、結果として何事も無かったのでよしとしよう。
ある意味時間つぶしにもなったし丁度いい。
現に、試験官と思わしき人物が会場に入ってきた。
「では、これから入学試験を始める!名前を呼ばれた者から順に前に出て、魔法をあの的に当ててみろ」
時間になったため、全員がそろっているかどうかを確認するまでも無く試験の開始を告げた。
試験に遅刻するような者は、その時点で落とされると言う事だろう。
よく見ると、試験官の足下にはラインがあり、そしてそこからおよそ10m先に、試験官が示した的・1m程の大きさの人形があった。
それに当てればいいらしいが、どの程度の魔法をぶつければいいんだろう。
まあ、他にも受験者がいるし、じっくりと見させてもらおう。
と思っていたのだが・・・
「では、まず・・・ジョーク!」
げっ!
俺が最初なのか・・・
それでは、周りの技量がどのくらいなのかが、全くわからない。
本当は他の人達の魔法を見て、それに合わせようと思っていたんだけどな・・・
まあ、仕方が無い。
出来るだけ抑えつつ、合格出来ると思う程度で撃てばいいか。
そう考えた俺はラインの手前に立ち、手の平を前に向ける。
そして出来るだけ力を抑えて魔力を集める。
俺にとっては火力を上げるより、抑える方が意外と難しかったりする。
そして、このくらいで良いだろうという所で魔法を放つ。
その俺の魔法を見て、周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
というのも、俺の手の平から放たれたのは、ロウソクの火ほどの大きさで、ゆらゆらとゆっくり人形へと向かっていったからだ。
ああ、やはり・・・
いくら何でも弱すぎたかな?
と思っている間に、俺の魔法が人形へとあたる。
その瞬間。
ゴォー!!
という音と共に、5m程の火柱が立ち上り、そしてすぐに消えた。
火が消えた跡には、人形だったと思われる残骸があった。
それを見た周りの連中からの反応も思わしくない。
なぜか何も喋らないし。
やはり弱すぎたらしい。
失敗したんだなと思いつつ、ジュリーの側に行き話しかける。
「はあ、なんか失敗したみたいだな。どうも威力を弱くしすぎたようだ」
俺が溜息を吐きながらそう言うと、ジュリーから返ってくる反応は、俺の予想と違っていた。
「貴方の魔法は威力がどうこうではなく、質が高すぎる」
「はっ?いや、全然だろう。たかだかあの程度の炎、現に人形は燃え尽きずに残ってるじゃないか。アリスなら、どんなに弱い魔法を撃ったとしても、人形は残らないだろう?」
「あの、おっぱい女と比べる事自体が間違い。ロウソクの炎程度の大きさに、あれだけの魔力を込める事が出来るなんて、一般人では出来ないはず」
「・・・そうなのか?」
アリスをおっぱい女呼ばわりするジュリー。
確かにでかい、でかいんだが・・・
でも、その呼び方はどうなんだろう・・・
それはともかく、あの的を消し去る必要があると思っていた俺は威力を抑えすぎたと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
「うん、おそらく・・・次、私の名前が呼ばれた。彼らに合わせた弱い魔法を見せてあげるから、ちゃんと見てて」
「あ、ああ、わかったよ」
俺の魔法に物言いされて、腑に落ちないとは思いつつ、ジュリーの魔法を見る事にする。
彼女は、それほど攻撃魔法が得意では無いとはいえ、歴とした文字付きである。
魔法特化のハートの連中と比べれば劣るにしても、ドラゴンの下位存在である翼飛龍程度なら、一撃で屠れる程の魔力を持っている。
そんな彼女が撃つ、周りに合わせた魔法とはどんなのか楽しみにしていた。
そしてジュリーがラインの手前に立ち、俺と同じ様に手の平を前に向け魔法を放つ。
直径30cm程の火の球体が、それなりのスピードで飛んでいき、人形に当たる。
そして、そのまま人形は燃える事もなく、ただただ貫通し、さらには壁まで貫通・・・
って、ちょっと待て!!
俺は慌ててジュリーの腕を掴んで引っ張り、試験会場を後にした。
「ぶい!私の魔法どうだった?」
ジュリーは俺にVサインをしながら、魔法の感想を求めてくる。
「いや、どうもこうも、明らかにおかしいだろう!?」
「え?どうして?」
「どう考えても、俺の魔法より威力も質も高すぎる・・・」
「でも、貴方の魔法と比べて、私の魔法は何も燃えてない」
「いや、火が当たったのに燃えない方がおかしいって・・・どれだけ、魔力を凝縮させてんだよ・・・」
「え?え?燃えなければ、周りと同じくらいってごまかせるんじゃ・・・?」
どうやら、俺も人の事は言えないが、ジュリーも色々と勘違いしているようだ。
いくらなんでも、ジュリーの魔法が一般的におかしい事くらいは俺でもわかる。
それに比べれば、俺の魔法の方がよっぽどいいだろう。
「まあ、互いにやってしまった事は仕方がない。次は模擬戦による実技試験だ。魔法試験が終った順に行っていいという話だから、さっさと会場に向かおう」
そう言って、俺はジュリーの手を引きながら、次の試験会場へと足を運んだ。
実技試験会場に着くと、生徒同士の模擬戦を行うと言う事で待機するように命じられる。
そして、ある程度人数がそろった所で、実技試験が開始されるようだ。
先程とは別の試験官が説明を始めた。
「よし、それでは試験を開始する。こちらが名前を呼んだ2人で模擬戦を行う。そして相手がギブアップするか、致命的な一撃が入った時点で終了とする。そして1人2回戦ってもらう事になる。もちろん、同じ者ではなく別の者とだ。それと・・・」
まあ、とりあえず2人を相手に戦えばいいらしい。
話によると勝ち負けでは無く、試合内容で合否が決まるらしいが。
「よし、まずは・・・ジョークとマグレス!」
また俺が最初かよ・・・
しかも相手は、俺に突っかかってきたアイツか。
周りの実力を見て合わせようと思っていたのに、その悉くを挫かれる。
まあいい。
適当にやれば何とかなるだろう。
そう考えながら俺は、試験官が待つ正方形のラインの中に入る。
このラインを越えても、試験は終了となるらしい。
試験官が刃を潰した模擬武器を渡すと言う事だったので、帯剣していた物はジュリーに渡してある。
開始線につくと、マグレスが口を開く。
「くくっ、お前は俺と縁があるらしいな。あの時のような、生意気な口をきけないようにしてやる」
マグレスが何か言っているが、別に反応してやる必要も無いので、溜息を吐きながら剣を構える。
その様子を見て、更にいらついた表情を見せる。
「その態度、二度と出来ると思うなよ!?」
「そっか、お手柔らかにな」
今度は適当に返事を返して、試験官の開始の合図を待っていた。
「それでは始め!!」
試験官の合図を聞いた瞬間、マグレスが突っ込んできた。
そのマグレスの行動を見た俺の感想は。
・・・・・なんだこれ?
だった。
フェイントも何もなく剣を上段に構えたまま、ただまっすぐに突っ込んでくるだけ。
しかも俺にはゆっくりに見えるため、胴体ががら空きである。
ようやく俺に近づき剣を振り下ろそうとしている。
そのがら空きの胴体に・・・
って、危ない危ない。
こんなに簡単に終ってしまっては、さすがにおかしいだろう。
そう思った俺は、振り下ろされた剣を、これまたゆっくりと横に避ける。
するとマグレスは、俺が避けた事に驚いたのか一瞬険しい表情を浮かべたが、すぐに下ろした剣を横薙ぎに振う。
今度はそれを後ろに飛んで避ける。
その間、「おお!」とか「さすがマグレス」とか言う声が聞こえた。
・・・この程度の男でも、それなりの実力がある方なのか?
と思いながらも、何度も迫りくる剣を全部躱していく。
そして、そろそろ頃合いかな?
と考えた瞬間、マグレスが剣を振り上げてがら空きになった胴体に向けて一閃する。
「ぐはぁ!!」
俺の入れた一撃によって、マグレスは腹を押さえながら蹲った。
「そこまで!!」
・・・・・こんなんで良かったのか?
俺はそう思いはするものの、すでに試合は終ってしまっているので、これ以上はどうも出来ない。
まあいいか、と考えながらジュリーの元へと戻っていった。
一応、回復薬があるらしく、マグレスはすぐに立ち上がっていた。
そしてやはり俺を睨みながら、マグレスと一緒にいた奴らの元へと向かっていった。
その後、ジュリーはマグレスと一緒にいた内の1人と戦い、その後はマグレスと戦う事になった。
俺と違って、どちらも一瞬で試合は終了している。
ジュリーとマグレスが戦う事になった時は、さすがに心配した。
もちろん、マグレスの命の心配である。
ジュリーとマグレスの名前が呼ばれた時の、ジュリーのニヤッとした顔を俺は見逃さなかったからだ。
だが結果として、マグレスが死ぬ事はなかった。
マグレスが剣を使っているのに対し、ジュリーは短剣を選んで使用している。
隠密として、一番使い慣れている武器である。
そして試合が開始すると、俺の時と同様にマグレスが剣を振り上げて突進しようとした・・・
次の瞬間には、ジュリーの短剣がマグレスの喉元で止められていた。
そして、マグレスに向かってボソッと何かを言った瞬間に、マグレスが降参したのである。
何を言ったのかはともあれ、誰も死ななくて良かった良かった。
俺に笑顔を向けながらトコトコと近づいてくるジュリーに声をかける。
「それにしても、さすがに一瞬すぎないか?もう少し手を抜いてやれよ」
俺がマグレスと戦ってみてわかったが、相当実力の差があるらしい。
ま、それはそうなんだけど、ある程度苦戦して見せないと、俺達が浮いてしまう可能性が高いと思ったのだ。
「――??私はゆっくり動いただけ。手加減どころか力も入れていない」
「いや、そりゃわかってるけどさ・・・」
ジュリーが遊び程度の動きしか見せていない事はわかっているが、それでも他の人からしたら異常なレベルだろうと思う。
それに、さすがに相手が悲惨過ぎる。
「それにアイツには、私のジョークを馬鹿にした罪を償わせないと気が済まない」
ああ、マグレスが俺に絡んだ時点で、奴の命運は決まっていたんだな。
まあ・・・それでもジュリーの性格を考えると、相手を死に至らしめなかっただけマシという物か。
そうこうしている内に、再び俺も名前を呼ばれてマグレスの連れの1人と戦い、難なく勝って模擬戦を終えたのである。
これで午前中の試験は終了し、午後の筆記試験を迎える事になる。
思っていたよりも早く評価やブックマークを頂き、ありがとうございます。
励みになります。
なので頑張って、早めに3話も書いて載せました。
これからも、どうぞ宜しくお願いします。