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第35話 落ち込む勇者達と男の子とJ

 


「俺達は何か間違っていたのかなぁ・・・?」


 広場を後にして住民の姿が見えなくなった所で、マサキはポツリと呟いた。


「・・・明確な答えのない事に、何が正しくて何が間違いなのかなんて誰にもわからないさ。なぜなら、それは人によって違うんだからな。その行為は、ある者にとっては善であり、ある者にとっては悪となる。全ての者に受け入れられる行為などありはしない。だから、そんな事を考えるだけ無駄だ」

「あ、あはは・・・ジョーク君は厳しいね」


 マサキは乾いた笑いを浮かべ、落ち込むように顔を沈ませていた。


「お前達は余計な事を考えずに、やりたいことを好きなようにやればいい。今回の様に街を守るも良し、守らないも良し。それはお前達の自由だ。その結果、お前達の敵に回る様な者がいるなら、その時はまた俺がお前達を助けてやる」

「う、うん、ありがとう・・・」


 俺の言葉を聞いたマサキは、少しだけ嬉しそうな顔になり礼を言ってきた。


「でも、ジョーク君はどうしてそこまで私達の事を・・・」


 俺達の会話を聞いていたマイが、俺に尋ねてくる。


 ・・・どうして?


 確かに、俺の任務は勇者達の監視であり彼らを守る事ではない。

 任務だけを考えるのであれば、特別彼らを助ける必要などは全くない。


 でも、自然と彼らを助けるという言葉が出てきたのだ。


 マイに言われて、初めてその事に気がついた。


 俺は自分で思っていた以上に、彼らに対して居心地の良さを感じていたらしい。


 そんな自分に驚きながらも、俺はマイの問いに考えて導き出した結論・・・


 それは、俺が生涯口にする事はないだろうと考えていた言葉・・・


「それは・・・俺はお前達の・・・ゆ、友人だから・・・だ」

「「「「――!!」」」」


 友人・・・


 その言葉を口にするのに、俺は柄にもなく緊張してしまった。

 そのためどもってしまい、その事とその言葉を口にする恥ずかしさから顔をそっぽ向けた。


 そんな俺の様子を見てマイが笑う。


「・・・くすくすっ、そっか。ジョーク君は、私達を友達だと思ってくれていたんだね♪」

「そうだねぇ。ジョークの私達に対する普段の様子から友達だと思っているのは私達だけかと思ったけど、ジョークの口からハッキリ言われると、なんか嬉しいよねぇ♪・・・てか、なに恥ずかしがってんのよぉ」


 マイとユウコは、嬉しそうにきゃっきゃとはしゃいでいる。


「ば、バカ言うな!恥ずかしがってなんていない!」


 自分で恥ずかしいと感じた事を人から指摘されると更に恥ずかしくなり、無駄に強がって見せてしまう。


「ははっ、姫木さんや裕子がいうように、ジョーク君が俺達を友達だと思っていてくれたことは嬉しいよ」

「お、俺はジョークの事を、と、友達だと思ってなんかいないなんて、お、思ってはいない」


 そして、マサキもマイやユウコと同じように嬉しそうに呟き、リョウタは何だかよく分からないことを口にしていた。


「・・・そ、そんな事はどうでもいい。・・・それで、お前達はこれからどうするんだ?」


 俺は無理矢理、最初の話題へと話を戻す。

 それについて、マサキが口を開く。


「うん・・・それなんだけど、俺もどうしたらいいのかわからなく・・・」

「あー!勇者のお兄ちゃん達だぁ!やっと見つけたぁ!」


 マサキは今回の件で悩んでしまっている様子だったのだが、話している途中で前方から大声を上げて笑顔で走ってきた男の子に言葉を遮られた。


 あれは、シャロンとヨウヘイが助けた子供だな。

 後ろには母親の姿も見える。


 どうやらマサキ達を探していたらしい。


「こ、こら。お兄ちゃんだなんて失礼でしょ!?ちゃんと勇者様とお呼びしないとダメでしょ!?」


 マサキ達の前でニコニコと笑顔で立つ男の子に、後を追いかけていた母親が追いつくと訂正するように叱る。


「あ、ご、ごめんなさい。勇者様・・・」

「申し訳ございません勇者様・・・」


 男の子は素直ないい子らしく、母親に叱られるときちんと謝りきちんと言い直した。

 母親もそれに続いて謝罪する。


「あ、い、いや、そんなに謝らないでください・・・俺達の事はお兄ちゃん、お姉ちゃんでいいですよ」


 マサキは頭を下げて謝る2人に慌て、両手を振りながら謝なくていいと言った。

 そして、勇者様と呼ぶ必要もないと暗に告げる。


「そんな・・・勇者様方に、特に助けていただいた方に失礼な事は言えません」

「い、いえ、本当に大丈夫ですから。全然普通にお兄ちゃんと呼んでくれて構いませんから。お母さんもそんなに畏まらないでください」


 実際の所、国主は言うに及ばず領主やその側近達に対して不敬を働けば、それがいくら子供であろうとも罰を受ける可能性の方が高い。

 母親はそれを危惧しての対応だろう。


 しかしマサキは、勇者と呼ばれるのが恥ずかしいから止めてほしいというのが本音だろうな。


 そんなマサキ達の内心など知る由もない母親は、マサキの言葉に安堵の様子を見せていた。


「ありがとうございます。ただ私はとても・・・ではせめて、この子だけ勇者様のお言葉に甘えさせてもらいます」

「ええ、それで構いません。・・・本当はお母さんも普通に接してくれていいんですけどね」


 マサキはそう言いながら、乾いた笑いを浮かべる。


「よかったわね。気さくで心優しい勇者様方で」

「うん!!」


 母親は男の子に笑顔を向けると、その子も笑顔でいい返事を返していた。


「お礼が遅くなりましたが・・・この子と私、それと街を救っていただき本当にありがとうございます。ほら貴方も、ちゃんとお礼を言いなさい」

「うん、勇者のお兄ちゃんとお姉ちゃん、僕達を助けてくれてありがとう」


 母親が深々と頭を下げ、男の子も母親に言われてお礼を言いながら頭を下げる。


「い、いえ、いいんですよ。貴方達を直接助けたのは俺達じゃないですし・・・でも、無事で良かったです」


 マサキが言うように、親子を直接助けたのはヨウヘイである。

 それも、畏まられる事に引け目を感じている要因の一つでもあるのだろう。


「そうだ!僕とお母さんを助けてくれたお兄ちゃんは?一緒にはいないの?」


 男の子は真っ直ぐな目で見つめながらマサキに尋ねる。


「う、うん。彼は今、俺達とは別に行動してるんだよ」


 マサキは余計な事を言わず、現状のみを伝える。

 すると、男の子は残念そうな顔をしていた。


「そうなんだぁ・・・じゃあ、僕達がお礼を言っていたことを伝えてくれる?助けてくれて嬉しかったって事も。・・・本当は僕が直接会ってお礼を言えたらいいんだけど・・・」


 男の子は小さいなりにも繋がりのない自分達には、勇者達と再び出会える機会は中々ないと理解しているのだろう。


 だから自分の代わりに、マサキにお礼を言っていた事を伝えてくれるように頼んでいる。


「・・・うん、わかったよ。必ず伝えておくから!」


 俺の感知した所、ヨウヘイは中位悪魔(ミドルデーモン)を倒した後、すぐにマサキ達と別れている。

 おそらくヨウヘイは、1人で街を出るつもりなのだろう。


 マサキはヨウヘイから直接聞いたのかどうかはわからないが、その事を知っている様子だ。


 一度街を離れてしまえば、会えるのはいつになるかわからない。

 それ所か、会えない可能性もある。


 そうマサキは考えたのだろう。

 少しだけ顔を曇らせたが、すぐに笑顔に変えて男の子に力強く頷いた。


「ありがとう!約束だよ!」

「うん、約束するよ!」


 男の子はマサキの言葉を聞いてニコッと笑顔を見せていた。

 そして、すぐにハッとした顔を見せると、手に持っていた袋をマサキに差し出した。


「あっ、あと・・・これ、あげる!」

「ん?これは・・・?」


「これは僕とお母さんからのお礼。僕の大好きなクルミルクの実だよ」

「クルミルクの実?」


「うん!・・・あれ?クルミルクの実を知らないの?」

「ごめんね、俺達は色々と知らない事が多いんだ」


 マサキは子供に別の世界から来たと話しても、理解出来ないと考えたのだろう。

 だから余計な説明をせずに、ただ知らないとだけ伝えている。


「ふ~ん、そうなんだぁ。じゃあ、ぜひ食べてみてよ!コリコリとした食感にふんわりとした甘さが広がって、たまらなく美味しいんだよ!」

「そうなんだ。でも・・・それなら君が食べた方が・・・」


「いいんだ!・・・それと、これは僕たちを救ってくれた勇者のお兄ちゃんにと思ってたんだけど・・・お願い出来るかな?もし渡せなかったら、そのままお兄ちゃんが持っててくれていいから」

「これは・・・?」


 男の子はズボンのポケットに手を入れると何かを取り出した。


「これは・・・離れて暮らしているお父さんから貰った、僕の大切なお守りだよ」

「え!?そんな大事な物を・・・受け取れないよ!」


 男の子が取り出した物が、マサキにはあまりにも予想外過ぎるほど大事な物で、受け取ることは出来ないと拒否している。


「僕ね・・・僕とお母さんを助けてくれたことが、本当に嬉しかったんだ!・・・でも、僕がお兄ちゃん達に出来るお礼なんて、何も考えつかなくて・・・だから僕の大好きな物、大切な物をお兄ちゃん達にあげようと思ったんだ!」

「・・・でも、そんな・・・俺達にお礼なんてする必要はないんだよ」


「ううん、そんな事ない。お父さんから恩人には礼の気持ちを忘れるなって言われてるし、僕の大切な物をあげたことを褒めてくれるはず・・・だから、貰ってくれる?」

「でも・・・」


 男の子は離れて暮らしている父親の事が大好きな事が伝わる。

 父親の言葉をちゃんと覚え、それを守ろうとしているのが何よりの証拠だ。


 そんな父親から貰った大事な物を、勇者(本当ならヨウヘイ)に渡そうとしているのだ。


 マサキもそれを感じている為か、男の子からお守りをもらう事を躊躇っている。

 もちろん、クルミルクの実も受け取ってはいない。


 さすがに俺は見るに見かねて助け船を出してやる。


「マサキ、いいから貰ってやれ。この子はお前達に礼をしたくて、大好きな物・大切な物を渡す決心をしたんだ。それを無下にする方が失礼だぞ」

「そ、そっか・・・そうだよね・・・」


 俺の言葉を聞いたマサキは、確かにそうだと納得する。


「ん?あれ?お兄ちゃんは誰?あの時はいなかったよね?お兄ちゃんも勇者様なの?」


 男の子は助け船を出した俺の顔を見ると、そう尋ねてきた。


 あの状況の中、あの場にいた全員の顔を把握出来ているとは、子供ながら中々凄いな。

 まあ、逆に子供だからこそ色々な所に目が行くのかもしれないが。


「いや、俺は彼らの友人というだけで勇者じゃないさ。それよりも・・・俺の事は気にせず彼らにお礼を渡すといい」

「あ!うん、そうだった!・・・はい、これ!貰ってくれる?」


 男の子は俺に言われて当初の目的を思い出し、再びマサキにクルミルクの実が入った袋とお守りを前に出した。


「うん、頂くよ。ありがとね」


 マサキは自分の前に差し出された物を、今度は素直に受け取った。

 すると男の子は、嬉しそうに満面の笑みで喜んでいた。


 そして・・・


「勇者のお兄ちゃん、お姉ちゃん。本当にありがとうございました。街を・・・僕とお母さんを守ってくれて本当に嬉しかったです。・・・お兄ちゃん達も危険なのに必死で戦ってくれた。そんなお兄ちゃん達に、また助けて欲しいとは言えない・・・だからお兄ちゃん達のように、いずれは僕がお母さんや街の皆を守れるように強くなるよ!」


 男の子はそう言って、手を振りながら頭を下げる母親に手を引かれて去って行った。


 去って行く親子の姿を何も言わずに見つめていたマサキ達。


 その姿が見えなくなると、ふいにマサキが口を開いた。


「ねえ、ジョーク君・・・」

「何だ?」


「さっきの質問の答えだけど・・・」

「ああ」


 俺が、これからどうするのか聞いた事についてだな。


「・・・ああいう子が1人でもいるのなら、俺はこの街を守るよ」

「・・・うん、そうだね。私もあの子を・・・あの笑顔を守りたい!」

「そうよねぇ。確かにさっきみたいに非難する人もいるだろうけど、そんなのは無視しちゃえばいいよねぇ♪」

「ふん!さっきの街の奴らはむかつくが、あの親子は守ってあげたくない事もない」


 マサキに続いてマイとユウコ、そしてリョウタまでもが街を守ると告げた。


「そっか。お前達がそう決めたのなら、そうすればいい」


 俺は彼らのやる事に口出しをするつもりはない。


 俺の役目は監視であって、彼らを導くことではない。

 そういう気持ちも無きにしも非ずだが、それ以上に彼らに対して情が移ってきたというのもある。


 だから、無理矢理この世界に召喚された彼らには、好きなように生きればいいと思っているからだ。


 そんな風に考えている俺に、マサキが尋ねてくる。


「・・・ジョーク君も手伝ってくれるかい?」


 何だかんだ言っても、まだ不安があるのだろう。

 俺にも街を守る手伝いをしてほしいと言ってくる。


 しかし、その質問に対する答えは・・・


「いや、俺はこの街を守る事はしない」


 である。

 その答えに、マサキだけでなくマイ達も顔を曇らせて下を向いていた。


 そしてマサキは首を振ると俺に顔を向け、問い掛けてくる。


「・・・確かに僕たちが無理強い出来る事ではないけど・・・理由を聞いてもいいかい?」

「・・・さっき街の連中にも言った事だが、俺はこの街の住人ではないから守る理由はない。加えてあんな連中を俺が守る理由などもない。もちろん、あの親子のようにあんな連中ばかりではないとは言ってもな」


「そっ・・・か」

「だが・・・」


「・・・・だが?」

「お前達がやりたい事の手伝いならしてやるよ」


 それは俺が自主的にはしないが、マサキ達が街の住民を助けるというのであれば助けてやるという事を意味する。

 それを理解したマサキやマイ達の表情が明るくなった。


「そ、そっか!ありがとう!」

「礼を言われるような事は言ってないし、まだ何もしちゃいないけどな」


 俺は素直に礼を言うマサキに対し、礼を言う必要はないと暗に告げる。


 マサキの後ろでは、マイとユウコも嬉しそうに顔を合わせていた。


 そんな様子を眺めていると、頭の中に声が届いた。


(・・・ジョーク、ちょっといいか?)


 それはナインからの念話である。


(どうかしたのか?)

(ああ、大した事ではないが―――――)


 ナインから要件を伝えられる。


(・・・そうか、わかった。すぐ向かう)

(ああ、別に急ぐことはないがな)


 ナインはそう言うが、俺がこの場に残って何かする事などない。

 従って、ナインとの念話を切るとすぐに向かおうと考えた。


「悪い、用事が出来たから俺は行くな」

「え?あっ、うん。わかったよ」


 俺はマサキ達と再び別行動を取ることを伝えた。

 そして彼らには学院に戻るように促して、すぐにナインの元へと向かったのだった。








お読み頂きありがとうございます。


PCの調子だけでなく、自分自身も暑さでやられておりました。

これからは暑さも大分落ち着くとは思いますが、

皆さんも夏バテ・熱中症には気を付けて下さい。

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