第34話 住民とJ
ウァプラを倒し、ウァプラと中位悪魔が完全に消滅した事を確認すると結界を解く。
そしてそのまま上空から街を見下ろし、俺が動く必要性がない事を確認してから人目に付かないように地上へと降りた。
多少、下位悪魔の気配もあるが、奴らは自分達を呼び出した中位悪魔の気配が消え去った事に気付き、動揺したようにワタワタと慌て始めている。
そんな状態の下位悪魔であれば、騎士達や冒険者達だけで十分だろう。
俺はそう考えながら、マサキ達がいる広場へと足を向ける。
・・・思ったよりも結構派手にやられたな。
広場へと向かう途中に見た街の状態は、建物は所々壊され怪我人や動かなくなった者などを幾度となく見かける光景だった。
とはいえ、“トランプ”の任務でこれ以上の惨劇をいくらでも見てきた俺には、何の感慨も沸かない。
怪我人などは、後から来る騎士達に任せればいい。
そう考えながら先を進む。
そして、マサキ達のいる広場まで近づくと・・・
「ふざけるなあああ!!何が勇者だ!!」
と、怒鳴る声が聞こえてきた。
その声により、今まで歓喜や勇者達を讃える声などで騒がしかった広場が、一瞬の沈黙に包まれる。
俺はそれでも特に気にする事無く、皆一様に固まり立ち尽くしている状態の中を縫うように人を避けて進んでいく。
そして、マサキ達と先程叫んでいた者が見える場所まで来ると、立ち止まって成り行きを見守ることにした。
マサキ達は驚いた様子で叫んだ男の方を向いている。
「お前達がもっと早く来ていれば、カリナが殺されることはなかったんだ!!」
・・・やれやれ、ひどい言いがかりだな。
「そ、そうだ!ど、どうして・・・もっと早く来てくれなかったんだ!!」
「くそっ!女房が逃げ遅れて・・・俺の女房を返せよ!!」
「お前達のせいで・・・お、俺の娘が・・・娘が!・・・ううっ」
最初に叫んだ男に同調するように、他の者達も声を上げ始めた。
大切な者を失い、誰かに当たりたい気持ちはわからなくもないが、そもそもぶつける相手を間違っている。
マサキ達は最善を尽くした。
なぜなら、彼らが悪魔族を引き付けることによって、救われた命の方が多いからだ。
突如発生し暴れ回る悪魔族を相手に、被害を0に抑える事など出来はしない。
それは、俺達“トランプ”ですら不可能だ。
もちろん、“トランプ”のメンバーに被害が出る事はないし街自体を守るという事は可能だが、数十万人いる住民の誰1人の被害もなく全てを守るという前提があった場合の話に限るが・・・
間違ってはいけないのは、彼らは勇者であって神ではない。
一般人と比べて戦える力を持つというだけで、その力は万能というわけでもない。
出来る事と出来ない事がある。
叫んでいた者達は、それを理解していないのだろう。
いや・・・
理解していたとしても、感情が抑えきれないのだろうな。
「えっ?・・・あ・・・い、いや・・・」
「私達も必死に・・・」
詰められたマサキやマイも、どう反応していいのか分からずに狼狽えている。
そしてユウコは下を向いて何も言えず、リョウタは苛立つような表情を見せていた。
「お前達は勇者なんだろ!?俺達を守るのが、お前達の役目じゃないのか!?」
マサキ達の非難が飛び交う中で、その言葉に少しイラッとした俺は傍観するのを止める事にした。
俺は足を上げると思い切り踏み込む。
ドンッ!!という音と共に、踏み込んだ足を中心に俺の魔力が波紋のように広がっていく。
その魔力を浴びた街の人達からは、「ひっ!!」という叫び声がいくつも上がっていた。
というのも、その魔力には俺の強烈な殺意を乗せたからである。
騒然としていた場が、誰も口を開けずに静まり返った。
「全員、少し黙っていろ」
俺は静まり返った状態で、怒気を含ませ低く静かに呟く。
その言葉は大声を上げていないにも関わらず、この場にいた全員に届いていた。
そして全員が固まっている中、俺はマサキ達の前に移動する。
「ジョーク君・・・」
マサキやマイ達は、今にも泣きそうで不安そうな表情を俺に向けてくる。
・・・そんな表情をするな。
お前達に非は全くないんだ。
本当なら守らなくてもいい者達を、誰に言われるでもなく自分達の意思で守ったのだからな。
そんなお前達を・・・
俺は誰にも非難などさせるつもりはない。
「大丈夫だ、お前達は何も言わなくていい。この場は俺が収めてやる・・・当事者が何を言っても、あいつらには寝耳に水だからな」
俺はマサキ達が安心出来る様に声をかけると、俺は周りにいる者達を見渡す。
そして・・・
「お前達を守るのが勇者の役目だ!?勝手にこの世界に喚び出されたこいつらに、そんな義務はねえよ!何もせずにただ逃げることしかしていないお前達が、勝手な事をほざくな!」
俺がそう言うと、何か反論したそうな目を俺に向けてくる者がいるが、それを無視して話を続ける。
「・・・おい、そこのお前」
俺が1人の男に視線を止めて指を指すと、その男は「ひっ!」という声と共に一歩後退る。
「お前は勇者達が早く来れば、カリナと言ったか?は死なずに済んだと言ったよな?」
「あ、ああ!そ、そうだ!だからどうしたって言うんだ!?」
「なぜ・・・お前の大切な者が死んで、お前自体は生きているんだ!?」
「・・・はっ?・・・な、何を言って・・・?」
「質問の意味がわからないか?・・・じゃあ言葉を変えようか」
「・・・・・」
「その者が大切なのであれば、なぜお前が身を挺してでも守らなかったのかと聞いているんだ」
「そ、それは・・・そ、そんな事言われたって、俺には戦う力が・・・」
「なるほど・・・戦う力を持たない者は大切な者を守らなくてもいいと。それは戦う力を持つ者の役目であり、自分は何もしないけど守れなければそいつのせいだと言う事だな?」
「そ、そこまでは言って・・・」
「言っただろうが。言葉は違えど、お前の言っているのはそういう事だ」
「・・・・・」
俺に問い詰められた男は顔を下に向け、それ以上何も言えなくなっていた。
「次はお前だ」
次に俺が指を向けた男が身体をビクッとさせる。
「お前は大事な娘を亡くしたんだな?」
「そ、そうだ!だ、だから俺には怒る権利がある!!」
「怒る権利?なんだそれは?だったら、他人を責める前に自分の愚かさを責めろ!」
「ふ、ふざけるな!俺に落ち度など・・・」
「落ち度がない?だったら・・・娘が大事だというのなら、なぜお前が命を賭してでも娘を守らなかった?お前が命を投げ捨てでも娘を助けようと思い行動すれば、助けられたかもしれないんだぞ?」
「そ、それは・・・」
「なぜそうしなかったのか・・・それは、お前は自分が生きる事に必死で、逃げている時は娘の事など気にかけている暇が無かった。全てが終ってから娘の事を思い出したんだろう?」
「ち、違う!」
「違わねえよ。お前が何を言おうと、お前が生きて娘が死んだという結果が全て物語っている。その時点で、後から何を言っても言い訳に過ぎねえよ」
「うっ・・・」
娘を亡くしたという男も、俺が正論を振りかざすと言葉を詰まらせる。
「そして、お前!」
そんな男を無視して、更に別の相手に視線を向ける。
「お前の奥さんが逃げ遅れたと言ったよな?だったら、なぜお前が奥さんの逃げる時間を作ってやらなかった?」
「はっ?」
「お前が悪魔に立ち向かっていれば、奥さんが逃げる時間くらい作れたんじゃないのか?」
「お、俺だって!俺だって立ち向かおうとしたんだ!・・・でも、俺は戦った事がないから・・・」
俺はこの男の言葉に溜息を吐く。
「はあ、お前もそれか・・・」
「そ、そもそも、お前は何なんだ!?お前には関係ないだろ!?それに、お前には俺達の気持ちがわからないから、そんな事が・・・ひっ!!」
自分の行動を省みず、人の批判ばかりを繰り返そうとする男に向かって、俺はギロリとした目を向ける。
「俺には関係ない?だったらお前らも勇者にとっては関係ないだろが!!それにな、大事な人を亡くした時の悲しいとか悔しい気持ちならわからなくもないが、自分が何もしようともせず人のせいにしようとする奴の気持ちなんか分かるわけないだろが!!」
俺は目の前の男達だけでなく、同じように勇者を非難していた者達全員に向かって怒鳴った。
「いいか!?勇者達は戦う力はあっても、万能じゃなければ神でもないんだ!何十万人も住むこの街の住人全員を救えるはずがない!逆に、たった4人で全員を救える方法があるなら教えてみろよ!?」
俺の叫びに堪えられる者は誰1人おらず、皆一様に下を向くばかりだった。
「目の前と遠くで敵に襲われている人がいれば、まずは確実に助けられる目の前の人を助けるのは当たり前の行為じゃないのか!?その結果、遠くの者を助けられなかったとしてもだ。同時に救う事など出来はしないんだ。だったら誰かの助けを期待する前に、最低限でも自分周りくらい自分で助けられるように戦う努力くらいしてみせろ!」
実際の所、その事も俺が怒っている理由の一つだった。
少しでも自分で何かをしようとしているのであれば別だが、勇者を非難していた者達は自分では何もしなかった者達ばかりなのだ。
「街を守る為に戦ってくれた者はもちろんの事、勇者達だって無敵というわけじゃない。だから死を恐れていないわけじゃない。むしろ誰しもが死ぬのは恐ろしいとさえ思っている。それでも、奮起して頑張っているんだ!それを何もしなかった者が、何かをした者に対して非難する権利なんてどこにもねえよ!」
誰しも戦う事が怖くないわけじゃない。
だけど誰かがやらなければならないし、自分の守りたい者を守りたい。
そういう気持ちで戦っている者が大半なのだ。
それをわかっていない。
そんな奴らを俺は・・・俺達“トランプ”はいくらでも手にかけてきた。
相手に非が有る無し関係なく、戦闘となれば誰しもが死にたくない思い胸に抱き、必死で相手を倒すしかない。
相手に情けをかければ、殺されるのは自分もしくは仲間となる。
そうならないために、俺は敵となった者には容赦はしない。
だから俺は相手を手にかけることにためらいはないし、それだけの事をしてきている俺に対する非難は当たり前だと受け入れているため、腹を立たせることはない。
が・・・それが仲間に対するものや、損得勘定無しで守ろうとした者に対する事であれば到底許せることではない。
それに、マサキ達に関しては・・・
「そもそもだ。勇者達は元々戦う力を持っていたわけじゃないし、さっきも言ったがこの世界に来たのは召喚されたからだ。別にお前達を守る必要などはどこにもない。それでも彼らは自分達の意思で、お前達を守ろうと動いてくれたんだ!なのに対するお前達の態度がそれだ!お前達は守るに値しない、お前達のした事はそう勇者達に思わせても仕方がない行為だと知れ!」
「「「・・・・・・」」」
「少なくとも俺は・・・今回の敵程度の強さなら俺もお前達を守る力はあるが、俺は勇者達を非難した者を決して許しはしないし、守りたいとも思わない。むしろ、お前達のような奴を守る為に戦った事すら後悔しているほどだ」
「そ、そこまで言わなくても・・・」
「俺にそう思わせたのはお前達だろう!?俺は元々この街の住人じゃない。この街を守る義務もなければ理由もない。もちろん勇者達も俺と同じだ!俺は別として、勇者達に感謝こそすれ非難される謂れはねえよ!人を非難する前に、自分達の行いを顧みろ!」
先にも述べたように、俺自身に対しては非難されようと問題ないし、更に言えば感謝の言葉もいらない。
ただ、マサキ達に対しての住民の言動が無性に腹立たしかった。
俺は感情的になる事があまりないため、そんな自分に少しだけ驚きもしていた。
「これ以上は話をしても時間の無駄だし、こいつらをさらし者にするつもりもないから俺達は行く。あとは自分達の取った行動をじっくりと考えることだな・・・それと金輪際、勇者達の助けを期待するなよ?」
俺は住民達にそう言いながら、マサキ達に行くぞと合図しながら彼らの背中を押した。
マサキ達は渋い顔をしながらも俺に無理矢理背中を押された為、足を前に歩ませた。
「い、いいのかな・・・?」
マサキは俺にボソッと呟く。
「ああ、いいんだ。お前達が気に病むような事じゃない。あとはあいつらが考える事だ。少しでも変わればいいが、全員がというのは無理な話だろうな」
人は自分かわいさで、自分が悪くとも人のせいにしたくなるものだ。
俺にあれだけ言われようと、自分が正しく俺が間違っていると考える人もいるはずだ。
もし全員が、俺の言ったことで悔い改めるような聞き分けのいい者しかいないのならば、この世に争いなど起こりえない。
相手と反する考えを持ち、互いに相容れないからこそ争いは生まれるのだ。
それは規模の問題ではなく、日常のささいな喧嘩にしても国の戦争にしてもだ。
「そっ・・・か・・・」
俺の言葉を聞いたマサキは、力のない声で一言だけ口から漏らしていた。
お読みいただきありがとうございます。
相変わらずPCの調子が悪くて、中々執筆が進んでいません。
それでも何とか頑張って続けていきますので、これからも宜しくお願いします。




