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第33話 中位悪魔討伐後の広場にて

 


「ねえ、このまま行っちゃうの?・・・戻って来ないの?」


 勇者達5人が中位悪魔(ミドルデーモン)を倒した後、マイが佐々木洋平にそう問い掛けた。


「ああ・・・本当なら今はまだ・・・強くなるまでは、皆の前に姿を現わすつもりは無かったんだ。それに勝手にいなくなった俺は、この国から許されないだろうし」


 異世界アニメやラノベが好きだったヨウヘイは、王と交渉して離れるならまだしも、勝手にいなくなるのなら追っ手を差し向けられるか、もしくは無理矢理引き戻されるだろうと考えていた。


 だから早く国を離れないといけない。

 しかし、それを実行するための強さも路銀も乏しい。


 その状況で国を離れても、ただの自殺行為である。

 従って、早急にどちらも獲得しないといけない。


 そう考えて、なるべく目立たないようにしながら冒険者になり、経験とお金を稼いでいたのだ。


 冒険者ギルドに顔を出す内に、多少仲良くなった人や顔なじみも出来た。

 何よりもラノベ定番の、美人受付嬢と親しくなれた・・・というのはヨウヘイの思い込みであり、受付嬢は他の冒険者と同じように普通に接しているだけである。


 そうとは知らないヨウヘイは有頂天になりながら、ギルドの依頼をこなし着々と実力を上げ資金を稼いでいた。


 そんな状況の中でいきなり悪魔族(デーモン)が現れる。


 冒険者ギルドから緊急依頼があったわけではないが、悪魔族(デーモン)から自分達のいるこの街を守りたいと考える冒険者が多く、自主的に悪魔族(デーモン)を倒そうと動いた。


 もちろんヨウヘイもその1人である。


 仲良くなった者や顔なじみの者、何よりも受付嬢の笑顔を守りたかった。


 日々の依頼の中で身につけた魔力感知を駆使し、悪魔族を見つけて倒しながら進んでいくと、シャロンが親子を守ろうとする場面に出くわしたのだ。


 マサキやマイ達の姿も確認出来た為、今はまだ彼らの前に姿を現わすつもりの無かったヨウヘイは、一瞬シャロン達を見殺しにしようかと思った。


 しかし、ヨウヘイは考る。


 俺は主人公なんだ!〈・・・残念ながら主人公にはなる事はありません〉


 ここで彼女達を助ける事でフラグが立つはず!〈・・・残念ながらフラグが立つことはありません〉


 と、色々と残念な事を思い描きながら、シャロンを助けに行ったのがこれまでの経緯である。


「だから俺の事がまだばれてない今の内に、この街を離れようと思う」


 これまでヨウヘイの所に、連れ戻すための使者・もしくは暗殺するための刺客が現れてはいない。

 だから、まだ自分の居場所が見つかっていないだろうとヨウヘイは考えていた。


 しかし今回、これだけ派手に戦闘をしてしまったのだから、さすがに居場所がばれてしまうだろうと考えての発言だった。


 のだが・・・


「え?でも・・・マリアにハッキリと聞いたわけじゃないけど、多分・・・佐々木君の事は把握してるっぽいよ?」

「はっ?嘘だろ!?」


「だって前に私が、『佐々木君元気にやってるかなぁ』ってマリアの前でボソッと呟いたら、マリアは笑顔で『ええ、元気にやっていますよ』って言ってたんだよ。その時は私に気休めを言ってくれたのだと思っていたけど、今考えるとあれって・・・佐々木君の事を把握した上での発言だったんだね」

「マジかよ・・・」


 マイの発言を聞いたヨウヘイは、がっくりと肩を落とした。


 ばれていないと思っていた事がばれていたという事。

 それなのに、何もアクションを起こしてこないという事実に気落ちしたのだ。


「はあ、まあいいや・・・とにかく、大分力は付いてきたし俺はそろそろこの街を去るよ」

「そっか・・・寂しいけど仕方がないよね」


 たった5人しか居ない同じ世界から来た仲間だからという意味でのマイの発言なのだが、ヨウヘイは(よし、フラグが立った!)と再び残念な事を考えていた。


 そして、マイ達の会話を聞いていたマサキもヨウヘイに声をかける。


「もう行くのかい?」

「ああ、いつまでもこの場にいるわけにはいかないからな」


「せっかく戻ってきてくれたと思ったから残念だけど・・・じゃあ気を付けて。絶対に死なないで、また生きて出会おうよ」

「ああ、もちろんだ。俺は主人公だから心配はないが、そっちこそ気を付けろよ」


 マイ達4人全員がヨウヘイの発言に「??」と頭に浮かんだが、それ以上特に気にする事はなかった。

 そして、ヨウヘイは4人に向かって手を上げると、この場から去って行ったのだった。




 ヨウヘイが立ち去ったあと、騎士達数名がマイ達の元へと向かってきた。


「君達、こっちで大きな戦闘の気配を感じたのだが、終ったのか?」

「あっ、はい。なんとか終りましたので、この辺りは多分大丈夫です」

中位悪魔(ミドルデーモン)?という悪魔は倒したので、後は残っている下位悪魔(レッサーデーモン)を倒してしまえば終わりだと思います」


 騎士の問い掛けに、マイとマサキが答える。


 ジョークはマイ達には中位悪魔(ミドルデーモン)に集中させるために、上位存在・ウァプラの事は話していないためのマサキの発言である。


 それにマイ達が中位悪魔に集中している時にジョークがウァプラを結界内に捉えた為、ウァプラを感知する暇も余裕もなかったのである。


 騎士達は騎士達で、ウァプラと対峙して自分達の攻撃によって消えはしたが、完全に倒したとは思っていない。

 そのため、ウァプラの気配を一切感じないとはいえ、警戒を怠るようなことはない。


 ただ何の動きもないことから、この場からは去った可能性が高いとも考えている。



「君達が中位悪魔を倒した、と!?――!!そうか、君達が・・・いや、貴方達が勇者様方なのですね?」


 いくら騎士とはいえ、下級騎士では中位悪魔を倒すことは難しい。

 中級騎士であったとしても、たったの4人で中位悪魔数体を倒せるかというと、それもまた難しい。


 本当は5人で戦っていたのだが、すでにヨウヘイは立ち去っているため騎士はその事を知らない。

 ただ、知っていたとしても騎士達からすれば1人増えた所で、それほど結果が激変するわけではないので、そこが問題ではない。


 どちらにしろ、その人数で中位悪魔を倒せると言う事。

 そこから考えて、騎士達は勇者達の姿を直接見たことはなくとも、目の前にいる4人が噂の勇者達であると判断したのだ。


「え、ええ、まあそうですけど・・・」


 マサキがどもりながら答える。

 面と向かって勇者と言われると、未だに恥ずかしいと思う気持ちがあるのは致し方ない。


 憧れながらも、実際に言われると恥ずかしいと思うのは日本人の特質だろう。


「やはりそうでしたか!ご助力感謝します。では、この辺りはもう安全ですね!」

「ええ、悪魔族(デーモン)の気配もしませんし大丈夫だと思いますけど」


「そうですね。あと感じるのは残党だけのようですから、我々だけで十分です。ここは安全だと住民達に伝えますので、万が一の為にこの場に残って彼らを守ってあげてもらえませんか?」

「あ、はい。わかりました」


 まだ下位悪魔が残っているため、あまり長々と話している訳にはいかない。

 そう考えた騎士は、自分達の役割を簡単に伝えマサキ達に後の事をお願いして去って行った。


 了承したマサキは、本当なら自分達も残りの下位悪魔を倒しに行った方がいいのではと思ったが、中位悪魔との戦いで魔力や体力、そして何よりも精神力が大分削られてしまったため、素直に引き受けることにしたのだった。


 そんなマサキの口から言葉がこぼれる。


「ふう、ようやく落ち着けるね・・・」


 その言葉は心から感じている事だった。

 そしてそれは、マイやユウコ、リョウタも同様に感じている事であった。


 戦っている時はそこまで感じていなかったが、終ったと思った途端にどっと身体に重さを感じた。

 身体の疲れよりも、精神的なものによるものである。


「そうだね・・・なんか疲れたね・・・」


 大きく息を吐き出しながら、マイがマサキの言葉に同意する。

 そんな2人を横目に、ユウコがふと気付く。


「そういえば、ジョークが全然姿をみせてくれないねぇ・・・私達は見捨てられちゃったのかなぁ・・・」


 少し物憂げな表情でそう語るユウコを見たマサキがフォローを入れる。


「いや、それはきっと違うよ。中位悪魔と戦う前にユウコが自分で言ってた様に、彼はこの場は俺達だけで大丈夫だと判断したから、彼のやるべき事を優先しているんだと思うよ」

「・・・うん、わかってるよ」


 もちろんユウコもそれくらい分かっている。

 わかってはいても、全然来てくれないジョークに愚痴の一つくらいこぼしたかっただけなのである。


 そして、マサキとユウコのやり取りを見ていたマイも疑問を口にする。


「そういえば・・・さっきは聞けなかったけど、2人はすごい仲よさそうになったよね?何があったのかなぁ?・・・もしかして、もしかして?」


 マイがニヤニヤとしながらユウコの腕を肘で突く。


「・・・違うわ。私と正樹がそういう関係になる事は有り得ないから」


 マイの質問にユウコは動揺する様子もなく、笑顔でそう答えた。

 その言葉にマサキは少しだけ苦い笑みを浮かべたものの、次の瞬間には間違いないとでも言うように笑顔で頷いていた。


「そうなの・・・?」


 マイは釈然としない気持ちを抱きながらも、2人の様子を見るからには本当の事なのだろうと納得せざるを得なかった。


「ふふっ、今はまだ詳しく話せる状況でもないし気持ちの余裕もないから、落ち着いたら話してあげるから」

「う、うん・・・わかったよ」


 ユウコはマイの腑に落ちないような顔を見て、少しだけ笑いながら今度説明すると伝えると、マイは絶対だよという顔を見せながら頷いていた。


 そして、少し休憩とばかりに皆一様に口を閉ざして、疲れた身体を休めるのであった。


 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・


 それからしばらくすると、徐々に街の住民達が広場に集まりはじめた。


 まだ下位悪魔がいる場所もあり、先程の騎士達がこの場所が一番安全だと伝えて回ったのだろう。


 実際、マサキ達が魔力感知で確認したところ、広場の近くには悪魔族がいる気配はないため安全なのは間違いない。


 広場に集まる住民達の数が増えていく中、広場に佇むマサキ達4人の姿を確認した1人が声を上げた。


「あ!もしかして、あなた方が騎士様の言っていた勇者様方ですか!?」

「え、ええ・・・そう、ですけど」


 住民の問い掛けに、やはり自分で勇者と言うのが恥ずかしいと思いながらもマサキが答える。


 勇者か尋ねた者だけでなく、周りに居た人達もマサキの言葉を聞いた瞬間に声を上げ、ワアアアアアという歓声が上がる。


「やっぱり!ありがとうございます勇者様!」

「いやあ、助かったぜ!勇者様!」

「噂では聞いていたけど、本当にこんなに若いんですね!」


 住民達はマサキ達に近寄り、思い思いを言葉にしながら握手をしたり肩に手を置いたりと、マサキ達をもみくちゃにしていった。


 マサキもマイもユウコも、どう対応していいのか分からず若干引きつるような笑顔を浮かべながら相槌を打っていた。

 リョウタだけは、まんざらでもないというように胸を張っていたが。


 そして、しばらくマサキ達がもみくちゃにされていると、一際大きな声を上げる者がいた。


「ふざけるなああああ!!何が勇者様だ!!」


 その叫び声により、今まで上がっていた歓声がピタッと止まり、一瞬静まりかえったのだった。





お読みいただきありがとうございます。

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