第31話 ウァプラとJ
今回も第三者視点で進みます。
「さて、かかって来るがいい」
ウァプラはそう言うと、ジョークに向かって手で招くような仕草をした。
それを合図と見て、ジョークは何も言わずにウァプラへ向かって飛翔し、それと同時にウァプラもジョークへ飛翔する。
ジョークの飛翔するスピードはかなりあるのだが、それでもウァプラからしてみれば大した事はないと高をくくる。
そして、激突の瞬間。
ジョークは剣でウァプラに斬りかかると、ウァプラはそれを片手で受け止める。
「クククッ、スピードも力もまあまあのようだな。しかし、そんなくず鉄では私を倒せないぞ?そもそも、空中戦を選んだのが間違いだ。人間風情が私に空中戦で勝てるとでも思っているのか?」
「・・・・・」
ウァプラは剣を受け止めながらも、ジョークを馬鹿にするように語りかける。
そしてジョークの剣を、ジョークごと力任せに振り払う。
ジョークは抵抗することなく吹っ飛ばされ、ある程度の距離が離れた所でピタッと止まり再び向き合った。
「どうした?来ないのか?まさか、今ので怖じ気づいたわけではないだろうな?」
「・・・・・」
ウァプラが挑発するが、ジョークは特に何も言わずに剣を構えている。
「だとしたら拍子抜けだな。大して楽しめそうもないし、早々に終らせてやる」
ウァプラはそう言うと、先程よりも早い速度でジョークに向かって飛翔する。
それに対してジョークは、今度はその場から動かずに待ち構える。
そして、ウァプラが鋭い拳をジョークに向けて打つが、ジョークは紙一重で避けた。
「ほう?今のを躱すか。だったらこれを躱しきることは出来るか?」
ウァプラはジョークが自分の攻撃を躱したことに一瞬驚いたが、すぐに切り替えて連打を浴びせ始めた。
しかし、その悉くをジョークは何食わぬ顔で躱していく。
「クッ、避けるのだけは上手い様だな!だが・・・・・はっ?」
予想外に連打を躱され続け、若干焦ったウァプラが渾身の一撃を叩き込もうとしたのだが・・・
自分の右腕に違和感を覚えたため目を向けると、肘から先が宙に舞っていた。
「き、貴様!!一体何をした!?」
ウァプラは自分の身に何が起こったのかわからず一瞬呆けたが、すぐにハッとして左手で宙に舞った右手を掴み取り一端距離を取ると、ジョークをキッと睨みつけながら怒鳴った。
「何って、普通に剣で切っただけだぞ?・・・まさか、見えなかったとは言わないだろうな?」
ジョークはニヤリとした笑みを浮かべると、さっきの意趣返しとでも言わんばかりの言葉を口にした。
ジョークが言った通り、何の事はない。
渾身の一撃を叩き込もうと大きく振りかぶった隙に、ジョークが一閃しただけである。
「ふ、ふん、この私に見えなかった訳がないだろ!貴様を試したのだ!」
何をしたと聞いておきながら、貴様を試したと訳の分からないことを口走るほど、ウァプラは自分で思っている以上に動揺していた。
それは多くの悪魔に共通して言えることだが、自負心が高く相手を常に見下し相手に弱みを見せたくない、という自尊心から来るものであった。
「そうだろう?それに、大したダメージにもなっていないだろう?」
「ふ、ふん!そんなのは当たり前だ!!」
ジョークの問い掛けに当然と告げると、左手に持っていた右腕を斬れた部分へ押しつける。
すると、みるみるうちに腕がくっつき傷跡も無くなっていく。
もちろんジョークにとっては、ダメージが無いのも腕が治るのも想定内である。
「別に私にとっては大した事ではないが、貴様に近づくのは少々面倒なようだな。だったら貴様に近づかず、離れた場所からなぶり殺しにしてやる!」
ウァプラはそう言うと、自分の周りに一瞬で数十もの魔法による球を作りだす。
「ククッ、今度は避けきれるかな!?」
ウァプラが上に向けた人差し指をジョークへ向けると、その球の内の一つがジョークへ向かってかなりの速度で飛んでいく。
「くっ!」
一瞬でジョークの眼前まで飛んできた球を、何とかギリギリ避ける。
が・・・
「ぐあっ!!」
避けたはずのジョークの身体に、電撃が走り抜ける。
「フハハハッ!貴様は紙一重で避けるのが好きなようだからな!そんな貴様には、この雷光電撃球が打って付けだ!」
本来の雷光電撃は、雷のような軌道で相手に向かっていくものだが、これはウァプラがそれを魔力で包み込んで球にしたものである。
包み込むと言っても完全に中に押さえ込んでいるわけでは無く、球そのものが帯電している。
そのため直撃しなくても、近くを通り過ぎただけで通電してしまう。
ジョークはそれを受けてしまったのである。
「それで終わりではないぞ!」
ウァプラはそう言うと、指をクイと手前に曲げる。
すると、ジョークを通り過ぎていったはずの雷光電撃球が、再びジョークの背後を目掛けて戻ってきた。
何かに衝突しない限りは消えることがないのが、この魔法の厄介な所である。
ジョークはそれを察知し、今度は大きく避ける。
しかし避けただけでは消えない上、まだ他に数十もの雷光電撃球が残っている。
「フハハハッ!上手く躱すじゃないか!だったら、今度はいっぺんに行くぞ!」
ウァプラは笑いながら、ジョークに向けて次々と放っていく。
上下左右360度、全方位から襲いかかる攻撃。
ジョークは苦々しい顔をしながら、それでも何とか全て避けている。
ジョークは必死に避けながらも、ウァプラに気付かれない程度で徐々に近づいていた。
そして、ある程度近づいた所で一気に加速し、ウァプラへと押し迫る。
「クッ!」
ウァプラは驚きの表情を見せたが時既に遅し。
そのまま一閃。
すると、再びウァプラの右腕が飛んだ。
その瞬間、ウァプラはチリっとした痛みを感じた様な気がした。
(何だ?私の腕を2度も飛ばしてくれた事は腹立たしいが、さっきと同じで大したダメージにはなっていない。なのに、この違和感は何だ?)
ウァプラはジョークを睨みながらも、そんな事を考えていた。
そして先程と同じように、飛ばされた腕をすぐに掴み取り距離を取りながら元に戻す。
そんな考えとは裏腹に、怒りの声をジョークにぶつける。
「貴様!よくも私の腕を2度も飛ばしてくれたな!これでも食らうがいい!」
ウァプラは両手を上に上げると、それをジョークに向けて振り下ろす。
すると数十もの雷光電撃球全てが、全方位から同時にジョークに目掛けて飛んでいく。
逃げる隙間が無くなったジョークは、為す術もなく直撃し爆発が起こる。
そして爆発が収まりを見せると、徐々にジョークの姿が見えてくる。
そのジョークの姿は、腕を顔の前でクロスしてガードしている状態で、服は所々焼けて煙が上り、皮膚もあちこちが焼けただれている様子だった。
「クッ、クククククッ!フハハハハハッ!随分と見窄らしい格好に変わったな!すでに満身創痍ではないか!」
ジョークの姿を見たウァプラは、さっきの考えが吹っ飛んだように盛大に笑った。
「もう、さっきの力は残ってはいまい!だったら、私自らの手で始末してやろう!」
ジョークにはもう大した力は無いだろうと考えたウァプラは、接近戦で片を付けようとジョーク目掛けて飛翔する。
そして拳を握りしめると、ジョークの顔面に叩き込む。
ジョークには避ける様子も見られず、素直にウァプラの拳を受けてしまった。
「クククッ!どうやら、避ける力も残ってないようだな」
先程は避けられた攻撃が当たる事で気を良くし、ウァプラはジョークに大した力は残っていないと考える。
そのまま、更に攻撃を続ける。
ジョークの顔に、腹に、脚に・・・
次々と連打を食らわせ続ける。
それでも無抵抗なジョークだったが、ひとしきり連打を浴びせ油断したウァプラが僅かな隙を見せた、その刹那。
ウァプラを見据えたジョークの目に力が籠もる。
そして迷う事無く一閃する。
すると、今度はウァプラの左腕が飛んだ。
その瞬間、ウァプラに先程よりも強いズキっとした痛みが走る。
しかしそれだけであり、ダメージ自体はほとんど受けていない。
そのため痛みが走ったことよりも、ウァプラの攻撃を受け服もボロボロになり身体も痣だらけになったジョークが、まだ戦えるという事に驚きと苛立ちを感じている。
「貴様!まだそんな力が!!」
やはり接近戦は危険だと感じたウァプラは距離を取る。
「もう遊びは終わりだ!これで貴様を葬ってやる!」
ウァプラはそう言いながら両手を上げる。
すると、そこには10mほどの闇の球が現れた。
「これで貴様は生き残れまい!食らえ!ダークスフィア!」
ダークスフィアと呼ばれた暗黒球をジョークへ向けて放つ。
肉体へのダメージだけでなく精神へのダメージを与える凶悪な魔法。
これを食らえば、肉体的に耐えきったとしても精神が崩壊する可能性がある。
だからこそ、ウァプラはジョークを仕留められると絶対の自信を持っていた。
かなりの速度でジョークへと迫る中、ジョークはある事を感知した。
「・・・終ったな」
ジョークは一言そう呟くと、ダークスフィアに取り込まれていった。
「クッ、クククククッ!フハハハハハッ!」
それを見たウァプラは高らかに笑い出す。
「この魔法の恐ろしさを理解して諦めたか!その通りだ!貴様はもう助かることはない!」
そして、ジョークのポツリと残した言葉を聞き取っていたウァプラは、ジョークが諦めたと考え勝利を確信していた。
「貴様はよくやった!思いのほか楽しめたぞ!しかし、私に敵うわけが・・・」
勝利に酔いしれ饒舌になったウァプラだが、その言葉を途中で止めてしまう。
なぜなら・・・
ジョークを包み込んでいたダークスフィアから、縦半分を割るように光が現れたからだ。
そして次の瞬間。
「なっ!!」
その光景を見たウァプラは、驚きにより声にもならない声を上げた。
ウァプラが見たもの・・・
それは・・・
ダークスフィアが縦半分に割れ、飛散していく光景。
ダークスフィアが消え去った後には・・・
先程まで満身創痍の姿であったはずのジョークが、破けや汚れなど無い綺麗な状態の服装に身を包み、怪我や痣などが一切ない姿で佇んでいたのだ。
まるで、今まで戦闘など一切行っていないとでも言うかの如く。
そして、そんなジョークがウァプラと目を合わせると、ニッと笑みを浮かべる。
「こちらも遊びは終わりだ」
ジョークがそう言った瞬間、ウァプラの目からジョークの姿が消える。
「ど、どこに消えた!」
とウァプラが叫んだ瞬間に、右腕が吹っ飛んでいた。
「グアッ!!」
ウァプラが今まで感じた事の無い痛みを受けて叫び声を上げた。
しかし痛みにもがく暇も無く、今度は左腕が飛ばされる。
ウァプラは痛みに耐えながらもジョークを補足しようとするが、全くジョークの姿を捉える事が出来ない。
その間に、身体中の表面が次々に切り刻まれていく。
全身が傷だらけの状態になったところで、再びジョークは動きを止めてウァプラの前に姿を現す。
「クッ!こ、この程度で、わ、私を倒せると思うなよ!!」
ウァプラは自己再生を最大にして、全身の傷と両腕を元通りにする。
そんなウァプラの言葉を受け、さらに元の状態に戻った姿を見てジョークは呟く。
「おめでたい奴だな。お前はもう終わりだよ」
「な、なにっ!」
ウァプラにはジョークの言っている意味が分からず、戸惑いの声を上げた次の瞬間・・・
ジョークの姿が目の前にあり、ウァプラの胸・魔核に剣が突き刺さっていたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今回も第三者視点で進ませましたが、
次話からジョーク視点に戻ります。




