第30話 シャロンの窮地に現れた者・・・そして、Jの動向
ようやくジョークが登場しますが、都合により今話は第3者視点で話は進みます。
「シャロンさあああああああん!!」
シャロンに向かって魔法が放たれると、マイは自分が相手をしている中位悪魔を牽制しつつ、叫ぶのと同時にシャロンの元へと駆け出していた。
どう考えても、今からでは間に合わない事はわかっている。
それでも、シャロンと親子も助けたいという一心だった。
シャロンも同じ気持ちである。
助けは間に合わないという事。
でもだからこそ、自分が犠牲になってでも後ろにいる親子だけでも助けたいという強い思い。
そこでシャロンは自分の魔力を最大限高める。
そうすることで、悪魔の放った魔法から親子を守る為の防御壁になればいいと考えて。
しかし魔法から感じる魔力からすると、それも望みは薄いと感じている。
それでも一縷の望みをかけて、魔力を高め続ける。
悪魔の魔法がシャロンへ到達する直前、誰もがもうダメだと考えた瞬間・・・
「くそっ!!」
という声が聞こえると、シャロンの前に立ち塞がる人影があった。
そして、その者が無造作に手を前に出すと魔法を放つ。
すると悪魔の放った魔法と衝突し、爆発と共に相殺した。
シャロンは爆発から親子を守るように身体で覆っていたが、爆発が収まると自分達が無事である事を確認する。
そして顔を上げると、1人の男の背中が見えた。
「あ、あなたは・・・?」
シャロンの呟きに答える事もなく、その男は背中を見せたままだった。
その間に急いで駆けつけたマイが、シャロンと親子が無事だった事を確認して安堵する。
そして、シャロンに向けて口を開く。
「シャロンさん、その2人を連れて早く逃げて!」
「え、ええ・・・ごめんなさい・・・それと、ありがとう」
シャロンは自分達を助けてくれた人物が気になるものの、今はそんな場合では無いと気持ちを切り替える。
すぐに親子を立たせて促すと、親子も含め3人はマイ達に向かって一度頭を下げると、その場から走り去っていった。
マイはその走り去る様子を見て、ほっと胸をなで下ろす。
そして振り返り、3人を助けてくれた人物を見て驚いた。
「佐々木くん!?」
そう。
入学前日に飛び出して行った、もう1人の勇者・佐々木洋平だった。
中位悪魔の動向を気にしながら、マイはヨウヘイに話しかける。
「・・・よかった、佐々木くんが居てくれて・・・シャロンさん達を助けてくれてありがとう!・・・でも、どうしてここに?まだこの街にいてくれたんだ!?」
マイの疑問は最もである。
勝手に飛び出した手前、すでにこの街から居なくなっているだろうと考えられていたからだ。
「・・・他の街に移動するにしても戦闘技術を身につけないとダメだと考えて、冒険者ギルドに登録して経験を積んでたんだよ」
「そうなんだ・・・」
「本当は、表だって動くつもりなんて無かったんだ。それなのに、いきなり街中に悪魔が現れやがった・・・世話になった者もいるし、何よりもここで戦わないような奴は主人公になんてなれやしないだろ」
「主人公?・・・何の事かよく分からないけど、でも・・・ありがとう!佐々木くんが居てくれて本当に助かったよ!」
マイは礼と共に満面の笑みをヨウヘイに向ける。
するとヨウヘイは、少し照れたように鼻を鳴らしながらそっぽを向く。
「それよりも・・・何だよ、こいつらは!倒せないわけじゃ無いけど攻撃は効きにくいし、厄介にも程がある!」
「・・・佐々木くんは魔力を纏ってないよね?」
「魔力を纏う?」
「うん。佐々木くんも多分、魔力操作はできるよね?だったら剣と自分に魔力の膜を張るようなイメージで、魔力を纏わせてみて」
ヨウヘイはマイにそう言われて、腑に落ちないというような顔をしながらも、素直にその言葉に従う。
「おお、これは・・・」
「そう、それで悪魔に攻撃が通用しやすくなり、防御力も増すらしいよ」
「俺とした事が・・・こんな単純な事を失念していたとは」
「??」
異世界物の漫画やラノベを読み主人公に憧れていたヨウヘイからすれば、少し考えればこの程度の事は人に聞かずとも出来るはずだった。
しかし憧れていたとはいえ本当に異世界に来てしまった事で、やはりどこか平常心を失っていたのだ。
ただ、ヨウヘイには疑問が残る。
自分は冒険者ギルドで、討伐依頼ばかりをこなしてきた。
であれば、学校に通っていて戦闘訓練を学んでいるだけの他の勇者よりも、断然強くなっていると考えていた。
それなのに、自分がまだ習得していなかった事を彼女達が習得している。
この世界の学校は、そこまで優秀なのだろうか。
だったら、自分も飛び出さずに学校に残った方が良かったのだろうかと考えていた。
「学校では、そんな事まで教えてくれるのか?」
「・・・ううん、違うよ。学校ではまだ基礎中の基礎しか教えてもらってないよ」
「じゃあ、どうして・・・」
「私達のクラスメイト・・・友達になった人がすごく強くて、その人が私達に色々と教えてくれているの」
「そう・・・なのか・・・そいつはどのくらい強いんだ?」
「う~ん、よくわかんないけど・・・少なくとも、本気でやった私達4人を相手にしても、余裕があるように見えたよ」
「・・・俺もかなり強くなったと思っていたのに、それよりも先に行かれていたなんて・・・俺も学校に通うべきだったのか・・・?」
「どうだろう・・・私達も彼に会わなければ、ここまで強くなる事は出来なかったと思う。だから、学校に通った事が要因ではあるけども、直接学校は関係ないから何とも言えないよね」
実際の所、確かに戦闘の経験値では圧倒的にヨウヘイが上だ。
だが戦闘技術の質は、ジョークと出会い教えを請うているマイ達の方が上なのだ。
ジョークがマイ達と出会った事は必然なのだが、それはマイ達の知る由もない事である。
「今は詳しい話は後にして、佐々木くんも悪魔を倒すのに力を貸してくれるよね?」
「ああ、もちろんだ!」
「じゃあ、あの魔法を放った悪魔も含めて皇君が2体を相手にしているから、その内の1体をお願いするね!」
「任せてくれ!」
マイの指示により、ヨウヘイも魔法を放った悪魔をターゲットに見定める。
それによって、完全に1対1の状況が出来上がる。
マサキも2体を相手にすると言いながら、シャロンを危険な目に遭わせた事で自己嫌悪を抱いていた。
しかしすぐに頭を振り払い、ヨウヘイが来てくれた事で自分は目の前の1体に集中すればいいと考えた。
これまでは、マサキは早く1体でも倒したいという気負いと、他の3人は自分が相手をする悪魔を倒してマサキの応援に駆けつけたいという焦りで、目の前の相手に集中しきれずに手こずっていた。
傷は負わせても致命傷を負わせる事が出来ない。
悪魔の攻撃もするどく、集中仕切れない彼らには必死に避けるしかない。
さらには魔核を狙いたいけど、今の状況では躱されてしまう可能性が高い。
そうすると、自分達の狙いがばれて魔核を狙いにくくなる。
しかし、ヨウヘイが戦闘に加わった事で状況は一変する。
全員の気持ちに余裕が生まれ、余計な事を考えずに目の前の悪魔に集中する事が出来るようになった。
そこからは、今まで攻防を繰り返していたものが、マサキ達の攻勢へと変わったのだった。
◇
ジョークがエミルを助けた後、飛行の魔法を使ってセントフォール中心部の遙か上空にいた。
「さてと・・・状況はどうなってるかな」
ジョークは1人そう呟く。
全ての戦闘状況を把握するべく、セントフォールの街全部を見渡すためであった。
見渡すと言っても魔力感知で視るため、本来であれば地上でも問題はない。
ただ、探る方向を定める事でより視やすくなるという事と、必要があれば遠視で直接確認出来るため。
そして、もう一つの理由により上空へと昇ってきたのだ。
そしてまずは勇者達の動向を探る。
「・・・悪魔族との戦いそのものよりも、やはり戦場という状況が彼らには辛いか・・・」
勇者達全員から人が殺されている現場を目の当たりにした事で、様々な感情が魔力感知から読み取れた。
「むっ、あれは少しまずいか・・・」
ユウコが人の死により脱力し、悪魔を目の前にして戦えなくなっている。
そしてユウコへ向かう悪魔と、彼女を助けようとマサキが動いている状況を確認した。
ジョークは一瞬動こうとしたが、すぐに止まる。
「・・・大丈夫そうだな」
マサキ達から離れた場所にて動きを感じたのだ。
それによって、ジョークの不安が払拭される。
「くくっ・・・助けたとはいえ、クラブの9は相変わらず鬼だな」
そう。
マサキを助けたのは、ジョークが陰から見守るように頼んでいたナインである。
ただ、その助け方にジョークが笑った。
ナインの指導や人の助け方というのが、“トランプ”内でも鬼だと有名である。
というのも、死ななければ問題ないという考え方をしているからだ。
とはいえ下の者を指導する時に、何でもかんでも助けてしまえば相手の為にならないのは間違いない。
いつでも誰かが助けてくれるわけではないからだ。
ある程度のダメージを受け危機感を覚えさせなければ、いざという時に困るのはそいつだろうと考えるナインなりの優しさなのである。
そんなナインだからこそマサキを完全に助けるのでは無く、死なないギリギリのラインを見極め、魔法で悪魔の攻撃の軌道を逸らすという助け方をしたのだ。
そのため結論としては、あのままでもマサキが死ぬ事は無かったのである。
そんな事を知らないユウコは、マサキが死ぬのでは考えてしまったのも無理はない。
ただ、そのおかげで意図せずにユウコは一皮剥ける事が出来たのは僥倖である。
攻撃を受けたマサキも、その経験により精神的に強くなったのは間違いない。
ジョークは自分には出来ない事をナインがやってくれた事に感謝していた。
ナインが鬼だと言っているジョークも、マサキ達からしてみれば指導が鬼畜だと思われているのだが、それはジョークの知る由もない事である。
そして、今度はマイ達へと意識を向ける。
こちらは、相変わらずリョウタが先走ってバカな真似をしでかしているとは思ったが、マイは思いのほか冷静だったため特に問題は無さそうだとジョークは考える。
それにリョウタもマイの言う事には素直に聞いているようで、それには意外に思った程だ。
そしてシャロンに関しても、これまた意外な人物・ブラックの登場によって危険は回避されたと視る。
それにジュリーが、ジョークに頼まれたように下位悪魔共を間引きしてくれているようで、特に問題はないと判断する。
学院の方も、ジョークが考えた通り下位悪魔が何体か向かったようだが、セリシアとライハロク生徒会長がしっかりと学院を守っているようだ。
そして再び勇者達に意識を向けると、4人とも中位悪魔の居る場所まで辿り着いていた。
無謀にもマサキが2体を相手にするようだ。
いや、余計な事を考えさえしなければ、無謀でも何でもない。
しかし、目の前の2体のみに集中仕切れていない事がジョークにはわかった。
とはいえ、それも経験だろうと考えるジョークが手出しをする事はない。
そうしている内に、逃げ遅れた親子が中位悪魔の攻撃に巻き込まれ、すぐ近くまで来ていたシャロンが親子を庇おうと前に立ちはだかった。
「あれは・・・さすがにまずいな・・・」
そう思ったジョークが動き出そうとしたが、再びその動きを止める。
ヨウヘイがシャロンを助けようと動いたからだ。
「まさか、もう1人の勇者が助けに来るとはな」
ジョークはナインの報告で、ヨウヘイが未だこの街に滞在している事は把握していた。
しかし、あまり目立たないようにしていたようなので、表だって悪魔から人を助けるとは思っていなかった。
ともあれ、これで中位悪魔と勇者達は1対1の状況が作り上げられた。
こうなってしまえば、負ける方が難しいだろうとジョークは考え安心する。
そして、一番の問題である中位悪魔の上位存在ウァプラ。
そのウァプラに対しては今、騎士達が相手をしている。
しかし、彼らでは倒しきる事は難しいだろう。
だからといって、ジョークが直接出向くわけにもいかない。
どうしようかと考えているとウァプラが魔法を構築し、それに対して騎士達が全力で総攻撃を仕掛け始めた。
「お!あれを利用させてもらうか!」
ジョークがそう考え状況を見守る中、騎士達の攻撃による爆発などにより、良い具合にウァプラの姿が見えなくなった。
そのタイミングを見計らって、ジョークはウァプラを見据えながら指をパチンと一つ鳴らした。
すると・・・
「はっ!?ど、どこだここは!?な、何が起こったというのだ!?」
ジョークの目の前には、騎士達の攻撃を受けながら魔法を放とうとしていたはずのウァプラが現れた。
しかし、何が起こったのかわからず気が動転しているようで、ジョークの存在には気がついていない。
「よう!悪魔がこの程度で取り乱すなんて、みっともないぞ?少し落ち着けよ」
ジョークがウァプラに声をかけると、はっとして我に返る。
そして、初めてジョークを目にする。
「き、貴様が!?貴様がやったのか!?一体私に何をした!?」
ウァプラは未だに何をされたのかわからず、ジョークを問いただそうとする。
「はあ・・・お前、悪魔のくせに魔法を知らないのか?」
ジョークは、やれやれと溜息を吐きながら可哀想な者でも見るかのような目を向ける。
「な、何だと!?ふざけるな!私が魔法を知らないわけがないだろが!!」
「だったら、何をされたかくらいわかるだろう・・・」
「な、なに!?」
「なんも難しい事じゃない。俺がやったのは強制転移だ。任意の者を任意の場所へと送る、たかがその程度の魔法だぞ」
「きょ、強制転移だと!?嘘を吐くな!!召喚や自分が転移するだけならまだしも、他人を転移させる魔法など上位悪魔ですら一握りしか出来ないのだぞ!!」
「へえ、そうなのか?悪魔は魔法に精通しているはずだから、この程度は中位悪魔クラスなら出来ると思っていたんだけどな」
「たかが人間風情が、私を愚弄するつもりか!?」
「いや、別にそんなつもりはない」
「――!!クククッ、そうか、そういう事か!」
「あ?何がどういう事だ?」
「他人を強制転移するには自分を転移させるのと違って、膨大な魔力が必要になる。だからこそ上位悪魔以上にしか使えない」
「ふ~ん、だからなんだ?」
「お前の身体からは魔力がほとんど感じないぞ!強制転移を使ったことで、ほとんどの魔力を使い果たしたな!?」
「・・・・・」
ウァプラは、ジョークが魔力を使い果たして強制転移を使ったのだと見極めた。
そのため、見下すような目つきに変わってジョークを見やる。
「この私、ウァプラにその程度の事が見破れないとでも思ったか!?」
「――!!お前、名前付きか!?」
「クククッ!それを知って、今更怖じ気付いたか?」
「・・・お前は名前を持つ者か?それとも名付けられし者か?」
「はっ!?お前は何を言って・・・」
「だから、名前を持つ者か名付けられし者か聞いてんだ」
ジョークが問うた、名前を持つ者と名付けられし者。
名前を持っている魔物や悪魔を総称して名前付きと呼び、それには2種類存在する。
元々名前を持っていた者、もしくは自然と名前が付いた者が名前を持つ者。
そして名前を持つ者から名付けられた者、それが名付けられし者と呼ばれている。
ただそれは、一部の者にしか伝わっていないため、ウァプラと対峙した騎士の指揮官が知らないのも無理は無い話である。
「偉大なるお方・ガルファス様が、私にウァプラという名前を授けて下さったのだ!」
「・・・・・」
ウァプラが、ガルファスという悪魔から名付けられたと告げると、ジョークは眉をピクッとさせて押し黙る。
「ふっ、驚きで声もでないか?」
「ああ・・・確かに驚いたよ」
ジョークは驚いたといいながらも表情は何一つ変わらない。
そしてボソッと呟く。
「・・・名付けられし者、ね」
その呟きが聞こえなかったウァプラは、ジョークの真意は別として先の言葉で気を良くしたのか、ウァプラは更に饒舌になる。
「クククッ。今更怖じ気づいたところで、もう遅い!」
「まあ、そうだな。なんであろうと、俺がお前の相手をする事には違いないな」
ジョークはウァプラの言葉を否定することもなく、自分が相手をする事を告げて剣を抜く。
「クククッ。随分と勇ましいな。それよりも、そんな魔力も通っていない鉄くずで私と戦う気か?」
ウァプラが言うように、ジョークは剣に魔力を纏わせていない。
「それとも何か?その剣は特別な力でもあるというのか?」
「いや、お前の言う通り・・・耐久力だけを特化させただけの切れ味も大した事はない、ただの鉄くずだ」
ウァプラの問いに、ジョークは特別な力などないときっぱり否定する。
ジョークの抜いた剣は、エミルを助けに行った時に使っていたシルバーソードである。
「フッ、ハハハハハッ!これは愉快だ!そんなもので、この私の相手をしようとは片腹痛いわ!」
「そう言われてもな、今は手持ちの武器がこれしかないんだ」
ジョークはあっけらかんとして嘯く。
「フン、まあいい。それで私とどこまで戦えるか、見せてもらおうか?少しくらいは楽しませてくれよ?」
「お手柔らかにな・・・まあ、そんなに楽しくはならないだろうけどな」
「クハハハハッ、私との力の差は分かっているようだな」
「まあな」
「ククッ、いいぞ。自分の非力さをわかっていながらも、向かってくるその度胸」
「・・・・・」
「すぐに終ってもつまらんから、その度胸に免じて少しだけ遊んでやろう」
「そうか、それは有難いな」
悪魔の挑発にも、特に気に止める様子のないジョーク。
ただ、有難いというのはジョークの本心ではある。
ウァプラはその真意を理解する事はなく、ジョークを弱者と見て見下していた。
そして、ジョークの戦いが始まるのである。
お読みいただきありがとうございます。
前書きにも書きましたが、ジョークが登場しても今話は第3者視点で描いています。
次回も同様に、都合により第3者視点で話を進めていきます。
理由については、後ほどお伝えします。
面白いとか続きが気になると思ってもらえたら
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