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第27話 シャロンと・・・

 


 「ふう・・・これでようやく、4体目ですか」


 シャロンは目の前から消えていく下位悪魔(レッサーデーモン)を見ながら、1人で呟く。


 複数いる下位悪魔の所には勇者達が向かっている。

 そのためシャロンは、ジョークから言われた通りに単体でいる下位悪魔を倒していた。


 今はシャロンや勇者達だけではなく、軍も出動して下位悪魔を討伐している。


 ジョークはおよそ60体だと言っていたから、大分減っていてもおかしくはない。


 それなのに、一向に悪魔族(デーモン)の気配が減らない。

 おそらくこれは、中位悪魔(ミドルデーモン)が眷属を召喚し続けているせいだろうとシャロンは思う。


 だったら先に中位悪魔を倒すべきでは?という考えが頭をよぎるが、今の自分では1人で中位悪魔を倒す事は出来ないだろう。

 自分の考えだけでなく、ジョークにも言われた事でもあるため間違いはないと考える。


 それに今暴れ回っているのは下位悪魔であるため、それを倒さなければ人々に被害が大きくなってしまう。


 シャロンはその結論に到り、下位悪魔を倒すべく気配がする方へと進んでいく。


 と、その時・・・


 「うわ~!!助けて~!!」


 少年の叫ぶ声がシャロンの耳に入ってくる。


 急いでその場所へ向かうと、逃げる少年をいたぶるかのように楽しそうに追い回す下位悪魔を見つけた。


 そして下位悪魔は遊ぶのを止めたかのように、少年へ向かった致死性の高い魔法を放つ。


 まだ間に合う!と考えたシャロンは加速し、迷う事無く少年と悪魔の間に割って入り、魔力を纏った剣で下位悪魔の放った魔法を弾いた。


 シャロンがチラリと後ろを見ると、少年はこちらを見ながら尻餅をつきガタガタ震えていた。


 「ここは、私に任せて早く逃げなさい!!」

 「ひっ!・・・で、でも・・・腰が・・・抜けちゃったんだ・・・」


 シャロンの怒鳴るような声で少年は一瞬ビクッとしたが、すぐに助けに来てくれたのだと理解した。

 しかし、あまりの恐怖に立てないと言う。


 「私は貴方を守りながら勝てるほど強くはありません!このままでは2人とも死ぬんです。ですから、勇気を出して立ちなさい!そして、早くこの場から逃げなさい!」

 「は、はい!!」


 少年はシャロンに叱られた事で、自分を奮い立たせ四つん這いになり、そして震える足で何とか立ち上がった。


 「お、お姉ちゃん・・・ごめん・・・あと、ありがとう」

 「お礼なんていいから、早く行きなさい」


 少年はシャロンを見据えると謝罪と礼を述べたのだが、そんな事はいいからこの場から立ち去るように促した。


 その言葉を聞いた少年は、一度頭を下げると何とか走り出していった。


 シャロンはそれを確認すると、目の前の下位悪魔に集中する。


 1対1であれば、正面から相手をしても下位悪魔に遅れを取る事はない。


 下位悪魔がシャロンへ突っ込んできて攻撃を仕掛けたが、シャロンは冷静に躱す。


 躱された下位悪魔が、すかさず振り返り魔法を放とうとした次の瞬間には、シャロンが目の前に詰めていて、下位悪魔を一刀両断にしたのだった。


 「ふぅ・・・」


 安堵の溜息を吐いたシャロンは、目の前の下位悪魔に集中しすぎていた。


 彼女の死角から近づいて来る気配に気付いていない。


 次の場所へ向かおうとしたシャロンへ向かって、魔の手が伸びる。


 シャロンがその気配に気がついた時には、既に遅かった。


 下位悪魔の気配に振り返ると、既に下位悪魔の腕が自分を貫こうとする瞬間だった。


 ―――“死”!!


 という文字が脳裏をかすめ、戦場では有り得ない行為だが不覚にも目を硬くつぶってしまった。


 しかし、いつまで経っても(といっても数秒だが)自分の身体が貫かれるような感覚はない。


 恐る恐る目を開けると、そこには・・・


 シャロンを守るように立つ男の背中が見えた。


 「ライハ・・・」


 ライハロク生徒会長が自分を助けに来てくれたのだと思ったシャロンの言葉は、ライハロクの名前を最後まで言う事無く途中で止めてしまう。


 なぜなら、彼はライハロクではなかったからだ。


 「大丈夫か?油断はするな」


 その男は振り返りながら、シャロンの無事を確かめるように話しかけた。


 「・・・ブラックさん・・・だったのですか・・・なぜ、貴方がここに・・・?」


 そう。

 その男は、学院非公認の武力派組織スペリオルのブラックだった。


 「あ?街が襲われてるんだ、来るのが当前だろう!?」

 「そう・・・ですか・・・」


 そう言われても、シャロンにはブラックがここにいる事が不可解であった。

 なぜなら、彼らは弱い者を気にかけず、自分達の強さだけを求めていると考えていたからだ。



 いや・・・

 それを考えると、悪魔族(デーモン)と戦いたいが為にこの場にいると考えれば、おかしな事ではないかとシャロンが思い始めた時。


 「・・・俺達は力こそ正義と謳ってはいるが、別に弱者を差別しているわけじゃねえよ」

 「えっ!?」


 シャロンの心を読んだかのように呟いたブラックの言葉に、彼女は驚きの声を上げた。


 「戦場で立っていられるのは強者のみ。弱者に待ち受けるのは死だ。だったら強き者が戦い、弱き者は早々に戦いから身を引くべきだと考えているだけだ」

 「・・・・・」


 ブラックが話している内容が、シャロンにとっては意外だった。


 スペリオルは弱い者に見向きもしないため、自分達がただ強くありたいだけだと思っていたからだ。


 自分達が戦場に立ち、弱者を戦場から遠ざける。

 それは、結果的には弱者を守る事へと繋がる。


 シャロンは彼らも何かを守る為に強くなろうとしていたとは考えてもみなかった。


 守る為に皆で力を合わせようと考える生徒会と、守る為に自分達が強くあろうとするスペリオル。


 考え方は違えど根底は同じなのだと、シャロンは思った。


 「確かに強い者が戦場に立ち、弱い者は戦場から引く・・・それは理にかなっているかもしれませんが・・・」


 しかし、弱い者であっても強くなりたいと願う者だっている。

 弱かろうと、命を賭してでも守りたいものがある者だっている。


 それに、今回の様にいつ敵に襲われるか分からない。

 だったら弱いからとそれに甘んじるのではなく、最低限でも戦える力を身に付け、出来るなら一緒に強くなるべきである。


 そう考えるシャロン・・・生徒会だからこそ、スペリオルの考え方を完全に否定するわけではないが、簡単に容認するわけにもいかない。


 「ですが・・・貴方達のやり方では、可能性のある者を潰し最低限の強さを身につける機会すら失わせる事になります」

 「・・・かもしれねえな」


 「だったら・・・」

 「それでも俺達は俺達のやり方を変える気はないし、その分俺達が強くなればいいだけだ」


 「・・・考え方を変える気はないのですか?」

 「ねえな」


 「・・・私達がわかり合えなくても、せめて生徒会とスペリオルが対立しない方向には向かえませんか?」

 「それこそ無理な話だ・・・俺とお前ですら互いに受け入れる事が出来ねえんだ。組織になれば更に無理に決まってんだろ?」


 シャロンはブラックを説得出来ればとは思ったが、彼の言う事は尤もであり和解するのは難しい事もわかっている。


 それでも一縷の望みをかけたのだが、それも徒労に終る。


 「それよりも、今はそんな事を話している場合じゃ無いだろ」

 「・・・そうですね」


 ブラックの言葉で、シャロンも彼を説得している場合ではないと頭を振った。


 説得の機会なんて今日だけではないのだ。

 それよりも、目の前の問題を片付ける事が最優先事項だ。


 そう頭を切り替えて、この場はブラックと共に行動する事にした。

 そして、狙うのは下位悪魔(レッサーデーモン)であり、中位悪魔(ミドルデーモン)は自分達では敵わないことを走りながら伝える。


 「・・・それ、あいつが言ったのか?」

 「貴方の言うあいつとは、ジョークのことですね?でしたら、その通りです」


 「実際に対峙していなくても、そんな事まで分かるのか・・・あいつは一体何者なんだ?」

 「さあ・・・それは私にもわかりませんし、詮索するつもりもありません。ただ・・今は間違いなく、頼もしい味方だというだけです」


 「あいつをそれほど信頼しているのか・・・だが、何かあってからでは遅いんだぞ?」

 「ええ。それは、もちろんわかっています。ただ、彼が敵に回ったとすると、私達ではどうすることも出来ないでしょうね。だから、信頼するしかないと言うのが妥当でしょう」


 「お前の実力を持ってしても、そう思わせる程なのか?」

 「ええ、私では彼の足下にも及びませんよ」


 「恥ずかしげもなく、そこまで素直に勝てないと言い切るのか・・・」

 「はい。彼に負けることは恥ではありませんので。むしろ、彼から学べる点が多く、勝手ながら良い目標だと考えています」


 ブラックは、ある程度シャロンの実力を知っている。

 それが自分の力に近いと言う事を。


 そして、この学院に通う生徒に共通しているのが、誰もが負けず嫌いであるという事。


 そんなシャロンが悔しがる様子もなく、むしろ清々とした態度で完全なる敗北を認めている事が、正直気に入らなかった。


 ブラックでも、ジョークの足下には及ばないと間接的に言われたのと同じだというのもある。


 だが、それをとやかく言ったところでシャロンの気持ちは変わらないだろうと考え、それ以上は口にせず彼女の言葉を素直に受け止めることにした。


 相手の強さを決して過小評価してはならない。

 それをブラックはきちんと理解しているからでもあった。


 そして、さっき自分でも言ったように、他 (ジョーク)の事を気にするよりも先にやるべき事がある。


 そこから2人は余計な口を挟まず、下位悪魔を倒すことに集中する事にした。



 悪魔族(デーモン)の気配を頼りに移動を続け、2人は見つけた下位悪魔を危なげなく屠っていく。


 その際ブラックが何か違和感を覚え、シャロンに話しかける。


「なあ、何か変じゃないか?」

「えっ?何がですか?」


「・・・俺達と出会うのは、必ず1体か2体だけだ」

「確かにそうですが、それが何か?」


「いや、これだけ悪魔共の気配を感じるんだ。もっと多い数と出くわしても不思議ではないし、お前を襲った悪魔の様に俺達が戦っている時に、別の悪魔が襲ってきてもおかしくはないはずだ」

「そう言われてみれば・・・そうですね」


「だろう?それなのに俺達が共闘してからは、俺達よりも多い数の悪魔が出現しないのは変だと思ってな」

「・・・誰かが、私達よりも悪魔の数が多くならないようにしていると?」


「それは分からんが・・・でも、そうだとすると、誰が何のためにそんな事をしているのか・・・」

「そうですね・・・」


 シャロンはブラックに問い掛けられたことで、こちらに不利な戦闘にはなっていない事に気がついた。


 そして、ブラックに対して言葉にはしなかったが、シャロンにはその理由が何となく分かる気がした。

 おそらくジョークが何かしてくれているのだろうと・・・


 彼に感謝の気持ちを抱きながら、それ以降は再び口を閉ざして下位悪魔を退治していったのだった。





お読みいただきありがとうございます。


GW前から色々と忙しかったのと、ずっと予定が入ってしまったので

全然執筆する時間がなくて遅くなりました・・・


今の展開はもう少しかかります。


これからも宜しくお願いします。




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