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第2話 セントフォール初日のJ

 



「とりえず、ここでいいか」


 セントフォールに着いた俺とジュリーは、適当に宿屋を決めて部屋で寛ぐ事にした。

 受付を終え部屋に入った俺は、すぐにベッドに腰をかけ、道中を思い返していた。


 総帥から依頼を受けた次の日、最後までアンリ達に引き留められながらも、アジトにいた他の連中にも見送られながら何とか出発した。


 アジトからこのセントフォールまで、本来なら馬車で1ヶ月以上かかるのだが、俺達に掛かれば1週間で走破する事などたやすい。


 途中で魔物に遭遇する事もあったが、すれ違い様に俺は愛用の剣で切り払い、ジュリーはナイフで倒していく。

 その間もずっと、足を止める事はなかった。


 盗賊と出会った時は、襲ってきた盗賊を倒したついでにアジトを突き止め、さらっと壊滅させておいた。

 なぜなら、盗賊を倒すのは依頼が無くても金になるからだ。


 というのも、盗賊を倒す事自体ではなく、アジトにたんまりと溜め込んでいたりするからだ。

 とはいえ、俺は金に困っているわけではない


 組織にいる事で、タダ働きをするのが性に合わなくなってしまったからだ。


 まあ、そんな寄り道をしつつも、予定通り到着したというわけだ。


 街に入る時に身分証の提示を促されたが、偽造の身分証を作るなど“トランプ”にとっては朝飯前。


 それと、俺の愛用の剣は業物なので、色々と疑われかねない。

 そのため街が見えてきた時には、出発前に総帥から渡されていた安物の剣に変えてから帯剣しておいた。


 その辺りは総帥から注意を受けていた。

 持ち物で不必要に目立つな、周りの強さに合わせて戦い、本来の力を使うななど。

 亜空間収納など以ての外だ、とも言われていた。


 俺は組織以外で生活をした記憶がほとんどないので、世間の常識には疎い。

 だから総帥の言う事を、素直にありがたく受け取り実行していた。


 まあ、あとは一般人に紛れている内に、彼らの常識もわかってくるだろう。


 と、色々と考えていて、ふと現実に戻る。


「・・・って、なんでジュリーが俺の借りた部屋にいて、しかも隣に座ってるんだ?」

「え?そんなの決まってる。貴方のいる所に私あり」


「いや、そういう事じゃなくてさ、俺は二部屋借りたはずだよな?」

「貴方が先に部屋に向かった時に、店主に部屋は一つでいいと鍵を突き返した」


「マジか・・・」

「ベッドは一つしかないと言われたから、望む所!と言ってやった」


「それは望まなくていい・・・はあ、まあ既にやってしまった事は仕方が無い」

「貴方と一緒に依頼を受けた者の役得!ふふっ、アンリ達の悔しがる姿が目に浮かぶ」


「それはマジで勘弁してくれ。この事はアンリ達に言わないでくれ」

「私と貴方だけの秘密?」


「ああ、そういう事でいいから」

「ふふっ、嬉しい」


 さすがにこの事が“トランプ”のメンバーに知られたら・・・


 特にアンリ、クリス、アリスの3人にだけは知られない様にしないと・・・

 俺の身と精神が持たなくなってしまう・・・


 とはいえ、ベッドが一つで一緒に寝る事になったとしても、ジュリーのみならず他のメンバーでも、そういう関係になる事はない。

 ただ添い寝をするだけである。


 というのも“トランプ”のメンバーは、俺にとっての家族(・・)なのだから。


「まあ、それに宿にいるのも一週間だけだしな」

「え?なんで!?任務中ずっと、宿屋に泊まるんじゃないの?」


「3日後の試験を受けて合格すれば、アキレウス学院の学生寮を充てられる事になるからな」

「ガーン!!そんなの知らない!聞いていない!ジョークと一生、同じ部屋で過ごす!」


 おっと、1年から一生に格上げされましたよ?

 と言うか総帥が説明してたんだけど、全く耳を貸さなかったな?


「知らなかろうが、それは決定事項」

「そんなぁ・・・」


「あのなぁ、俺達からすれば1年も宿屋に泊まる事は大した事ではないけど、普通の人からしてみれば金額的に相当きついだろう?だから学生寮が充てられるのは、当たり前の事だ」

「うう、そんな非情な・・・」


「と言う事でこの話はおしまい。一週間は一緒にいるんだから、それでよしとしなさい」

「ぐすぐすっ、ジョークのいけずぅ・・・」


 泣き真似を始めたジュリーは置いといて、そろそろ夕飯時だと考えた俺は、飯を食いに階下へ向かう。

 それに気づいたジュリーが、俺の後を追ってくる。


 宿屋に併設された食堂に入り、席へと座る。

 すると、俺よりも少し年上、ジュリーと同じくらいの年齢のポニーテールがよく似合う女性が近寄ってくる。


「お食事ですね?何にしますか?」

「ああ、今日来たばかりで何がいいかわからないから、お姉さんのおすすめを貰えるかい?」


 一週間だけとはいえお世話になるのだからと、愛想良く笑顔を向けて頼んだ。


「・・・・・」

「ん?どうかした?」


 俺が頼むと、なぜかお姉さんは固まってしまった。


「え?あ、い、いえ・・・なんか君みたいな子に、お姉さんとか言われると、何かグッとくるといいますか・・・」


 と言いながら、なんだかモジモジしている。


 すると、隣に座っていたジュリーから、脇腹をつねられた。

 痛いから止めてほしいと思い、ジュリーを見ると。


「・・・天然の、女タラシ・・・いや、この場合は女ゴロシ?」


 と、訳のわからない事をブツブツ言っている。


「ああ、ごめん。お姉さんの名前を知らないからそう呼んだけど、気安かったね」

「あ、いいえ。初対面なんだから名前を知っている訳ないし、ましてや教える訳ないんですけどね・・・だけど君には特別に教えてあげます。私はエミル、この宿屋の娘です・・・でも、出来れば名前より、お姉さんと呼んでくれた方が・・・」


 なんだかよくわからないけど、ここは素直にエミルの言う事を聞いておこう。


「わかったよ、お姉さん。俺はジョーク、こっちは俺と同じ歳で姉のジュリー」


 学校に入学する歳は15歳である。

 従って俺はその年齢なので問題無いのだが、18歳であるジュリーは偽る必要があり、同じ歳の姉という設定を作り上げたのだ。


 もちろん組織が作った偽造身分証も、ジュリーは15歳にしてある。


 ちなみに、アンリとクリスが20歳、アリスが22歳である。

 数字付き(ナンバーズ)も含めれば、彼女達と同じくらいの年齢の者もいるが、文字付き(レターズ)では20代以下は彼女達のみである。


「え?同じ歳の姉?」

「ああ、俺とジュリーは同じ施設で育てられたんだ。そして、彼女は俺よりも早くからいたからね」


 これは俺達の中で、予め決めていた設定である。


「ああ、そうなんですね。余計な事を聞いてしまいましたね・・・」

「全然気にする事はないさ。それはともかく、アキレウス学院の寮に入るまで、1週間ここに泊まる予定だから、その間よろしく」


 少し落ち込んだ様子を見せるエミルに、気にするなと伝える。


「へえ、あの学院に通うんですね?・・・ああ、もう少しで入学試験でしたね。だから1週間というわけですか」


 エミルは納得したようにウンウン言っていたのだが、徐々に「1週間・・・1週間かぁ・・・」とブツブツ言い始めた。


「それよりも、そろそろ食事を持ってきて貰っていいかい?腹が減ってきたよ」

「あ、ああ、ごめんなさい!じゃあ、一番のおすすめを持ってくるから、少し待って下さいね」


 エミルはそう言いながら、注文を伝えに慌てて厨房へと駆け込んでいった。

 そして俺とエミルのやり取りとみていたジュリーは、ジト目で俺を見つめていた。


「ん?どうかしたのか?」

「べつに・・・」


 と言いながらもジュリーは、俺の脇腹を突いてくる。

 痛くはないが、くすぐったいので止めてほしい。


 しばらくして運ばれてきた料理は、エミルが一番のおすすめだというだけあって、中々美味しかった。


 シチューに、白パン、キャロル草のサラダ、チキンポーク(頭が鶏、身体が豚の動物)のソテー。

 どれもきっちりと下ごしらえをされており、じっくりと調理されている。

 料理に愛情を込めて作られている事がわかる品々であった。


 料理を食べ終わった後は、周りには客が少なかったという事もあり、エミルから色々と話を聞いておいた。

 もちろん、情報収集のためだというのに、ジュリーの機嫌はあまり良くなかったのが解せない。


 ここは宿屋のみ利用できる食堂では無く、外部からも利用できる店にもなっており、噂話が飛び交うので情報収集には事かかないというのに・・・


 まあとにかく・・・そこでわかったのは、勇者は総帥から聞いていた5人と言う事で間違い無さそうだという事。

 顔はまだ公表されていないらしいが、男3人女2人だという事。


 彼らは国の預かりという立場のため、入学試験は受けずに学院に通うらしいという事。

 そして本来なら皇族の学校に通うはずだったこの国の姫さんも、彼らのお目付として同じ学院に通う事になったらしい。


 勇者についての話はそのくらいだった。


 あとは武具・日用品・食料などを買う時におすすめの店や、この街について色々と教えてもらった。


 エミルと別れ部屋に戻っても、ジュリーは膨れっ面をしていたので


「どうかしたのか?」


 と頭を撫でてやると


「ううん、なんでもない」


 と笑顔になっていた。


 俺には何が何だかよくわからん。


 そして特にやる事もないので、今日はもう寝る事にしてベッドに潜る。


 すると、ベッドが一つしかないのだから当たり前だが、ジュリーが同じようにベッドに潜り混んできた。

 そして俺の腕を枕にして、幸せそうな顔をして微笑んでいた。


「ジュリーは年上のくせに甘えん坊だな」

「ふふっ、私は貴方の姉でもあり妹でもあるから、ジョークも私に甘えていいし、私も貴方に甘えていいの」


 ジュリーは年上で普段は大人ぶっているが、俺と二人きりになると途端に妹の様に甘えてくる事が多い。

 それを本人も自覚しているが故の発言である。


「そっか、ジュリー1人で姉と妹を味わえるんだな。そりゃお得だ」

「ふふっ。そう、私はお買い得品。だから今すぐ買うべき」


 と何気ない話をしながら、2人は眠りにつくのだった。





まさか、2話投稿でブックマークを付けて頂けるとは思いもしませんでしたが、

嬉しくて励みになります。

ありがとうございます。


なるべく短くサクサク進むような作品に出来るよう頑張ります。


見直しておかしな所を編集するのは後にして、とりあえずは先に進ませて行こうと思います。

なので、あまりに変な所があれば、遠慮せずに教えて頂けると助かります。


もちろん、普通に感想などもお待ちしております。

宜しくお願いします。


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