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第25話 マサキとユウコ

第三者視点です。


 


 ジョークと別れた後、マサキ達は街で暴れ回っている悪魔族(デーモン)の気配のする場所へと向かっていた。


 シャロンもジョークに言われた通り、下位悪魔(レッサーデーモン)を討伐しに単独で別の場所に向かっている。


 そして気がつけば、いつの間にかジュリーも姿を消していた。


 マサキ達は、ジョークに言われた事を実行すべく走りながらも話し合い、マサキとユウコ、リョウタとマイの組み合わせで戦う事に決めた。


 勇者達の中で、リョウタが一番魔力感知に慣れていないのと一番暴走しそうという理由から、魔力感知に優れたマイが一緒の方が何かと安心出来ると考えた為だ。


 それにリョウタは意外と、マイに言われた事には文句を言いながらもそれほど逆らわないからだ。


 ペアが決まると、勇者達も2手に別れて行動を始める。


 そしてマサキとユウコは、一番近くにいる下位悪魔のいる場所へと向かっていた。


 その途中で、ユウコが口を開く。


 「ねえ、皇君?」

 「ん?なに?橘さん」


 「皇君はさぁ、舞の事をどう思ってるの?」

 「え!?」


 マサキはこの状況に似つかわしくない、あまりにも予想外の質問に驚きの声を上げた。


 「な、何を言ってるんだよ・・・今はそんな時では・・・」

 「い・い・か・ら、答えて!」


 「・・・仲の良い友達だよ」

 「それだけぇ?」


 「うん、それ以上でもそれ以下でもないよ」

 「ふ~ん?そっかぁ・・・・じゃあ、マリアは?」


 「――っ!!」

 「なるほどねぇ・・・その反応だけで、わかっちゃったよ」


 ユウコは、自分の気になる事はスッキリさせておきたい性格である。

 特に人の色恋には興味があり、それはハッキリさせないとモヤモヤして気持ちが悪い。


 そして意外と、ユウコとマサキが2人きりになるという状況がほとんどなかったため、チャンスとばかりに質問をしていた。


 もちろん、今がそんな状況ではないことくらい、ユウコだって分かっている。

 でもだからこそ、ユウコとしてはモヤモヤをきちんと解消して、戦いに集中したかったのだ。


 次はいつ聞ける機会があるかわからないし、何よりも自分達が明日も生きている保証はない。

 こんなくだらない話をまた出来るとも限らないのだから。


 ユウコは周りから、いつも明るく毎日が楽しそうにしており、何も考えずに言いたい事は言う性格だと思われている。


 しかし、それは・・・

 今までもずっと・・・


 その日その日を大事にして、今を一生懸命生きている証なのだった。


 彼女は自分が幸せになれることを願う。


 しかし、自分が幸せになるためには、周りの人も幸せにならないと意味がない。


 周りが笑っていなければ、自分も笑えない。

 周りが楽しそうにしていなければ、自分も楽しくなれない。


 そう考えるユウコだからこそ、聞きたい事は聞くし言いたいことは言うのである。


 もちろん、本気でダメだと分かることは、決して口にしない。

 彼女は、その見極めをしっかりと出来ている。


 だからユウコの発言を、本気で嫌だと感じた事のある者はほとんどいない。


 短絡的だと思われているユウコは、他の人が考えている以上に色々と考えていたのだ・・・


 「っ、い、今は、そ、そんな場合じゃないだろう!?それよりも、早く向かうよ!」

 「うん、分かってるよっと」


 マサキが照れ隠しでスピードを上げたため、ユウコもそれに合わせてスピードを上げる。

 そして、マサキの横に並んだユウコは再び口を開く。


 「・・・絶対に生き残ろうね」

 「あ、ああ、うん!絶対に!」


 それ以降は、2人とも何も語らずに先を急ぐ。


 そして下位悪魔の気配が近づくにつれて、徐々に街の様相が変わってきた。


 街の一部は破壊され所々に煙が立ち上り、それに伴う煙の匂いが充満し、更には時々感じる鉄のような匂い。


 2人は酷い有様だと思いながらも、すぐ近くにいる下位悪魔の元へと急ぐ。


 そして、ようやく下位悪魔の姿を見つけた時・・・


 そこには3体の下位悪魔がいたのだが、宙に浮く下位悪魔の足下には、大量の血を流して横たわる複数の人間の姿があった。


 「えっ!?あ、あれって・・・死んで・・・」


 その人間がどんな状態なのかという事に気付いたユウコは、口を押さえて呆然とした。

 そして・・・


 「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大声で叫び、泣きながら頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


 いくら勇者と言われようと、いくら戦う事を決意しようと、普段は気丈に明るく振る舞っていようと、本来ユウコは普通の女子高生である。


 そんな彼女が、人の死んでいる姿を見てしまえば、当然の反応と言える。

 更には、その姿が自分の姿に置き換えて見えてしまったというのもある。


 ジョークは、勇者達が悪魔族(デーモン)と戦う事そのものよりも、これを懸念していたのである。


 そして叫び声を聞いた下位悪魔はマサキとユウコに気付き、2人を見るとニヤリと卑しい笑みを浮かべて襲いかかってきた。


 「ま、まずい!た、橘さん!悪魔がこっちに向かって来てる!!」


 マサキはユウコを揺さぶりながら声をかけるが、自分の中に塞ぎ込んでしまっているユウコの耳には届かない。


 そうしている間にも下位悪魔が迫ってくる。


 このままでは危険だと考えたマサキは、ユウコの前に立ち剣を抜いて構える。


 そして、少しでもユウコから距離を取ろうと、自ら下位悪魔へと向かっていく。


 マサキは跳躍し剣を振り上げると、下位悪魔に斬りつけた。


 下位悪魔は抵抗することなく、その身に受ける。


 やったか!?と思ったマサキだが、斬りつけられた下位悪魔は再びニヤリと卑しい笑みを浮かべた。


 マサキは人が死んでいることに動揺し、ユウコを守ろうと焦っていた事で、魔力を纏わせることを忘れていたのだ。


 とはいえ、物理攻撃に耐性を持っていようと所詮は下位悪魔。

 マサキの本来の力を持ってすれば、魔力を纏わせなくても倒すことは可能だろう。


 しかし、やはり動揺と焦りにより、力が空回りしてしまっていたのだ。


 どちらにしろ、一撃で倒すことが出来なかった事で、下位悪魔に気持ちの余裕と数の優位を与えてしまった。


 下位悪魔の攻撃を掻い潜って、自らも攻撃を仕掛けようとしても、他の下位悪魔が攻撃を仕掛けてくる。


 それを躱しても、再び別の下位悪魔が攻撃を仕掛けてくる。


 そこからマサキは、防戦一方となってしまっていた。


 しばらく下位悪魔の攻撃を凌いでいた所で、ふと気付く。


 3体から攻撃されていたはずが、2体に減っていると言う事に。


 ハッとなり振り返ると、残りの1体はユウコへと向かっていくのが見えた。


 やばい!!


 そう思ったマサキは、持てる力を全て使って駆け出す。


 しかし、今まさにユウコに襲いかからんとしている。


 攻撃を仕掛けても、一撃で倒すことが出来なければ意味がない。


 そう思ったマサキは、更に加速しながらユウコに気付かせようと大声で呼びかける。


 「橘さん!!・・・橘さん!!・・・裕子おおおおお!!」

 「えっ!?」


 急に下の名前で呼ばれた事で少しだけ我に返り、顔を上げたユウコは驚きの声を上げた。


 ユウコの目の前にはマサキの後ろ姿がある。


 それはいいとして、問題は・・・


 「・・・な、なんで皇君の背中から、悪魔の手が・・・」


 そう、マサキの背中に下位悪魔の手が生えていた。

 それはユウコが感じた事であり、正確にはマサキの腹を下位悪魔が貫いたのだ。


 「ぐっ・・・裕子・・・大丈夫かい?」


 マサキは腹を貫かれながらも何とか首を後ろに回し、裕子に笑顔で問い掛けた。


 「あっ・・・あっ・・・・」


 その姿を見たユウコは、あまりのショックにより言葉が出ない。


 そして、下位悪魔が自分の手をマサキから引き抜くと、マサキは1,2歩下がって倒れる。


 ユウコは全身の力が抜けながらも、何とかマサキの側へと寄っていく。


 「・・・ご、ごめん・・・・ごめんねぇ・・・」

 「ぐふっ!・・・い、いや・・・いいんだよ・・・裕子が無事なら」


 目に涙を溜めながら謝るユウコを、マサキは口から血を吹きながらも励ます。


 ただ、マサキはこのまま寝ている訳にはいかない。

 なぜなら、まだ下位悪魔が3体とも残っている為、ユウコが危険な状態に変わりはないからだ。


 だから無理矢理にでも、身体を起こそうとする。


 ・・・が、身体に力が入らないマサキは再び崩れる。


 それを見たユウコは、マサキに手を伸ばして支える。


 「あ、あれ・・・力が入らない」

 「ダメだよ!無茶しないで!」


 「で、でも・・・俺が・・・やらないと・・・」

 「だめだって、絶対にだめ・・」


 「でも・・・俺が・・・」

 「・・・えっ?」


 マサキは言葉の途中で静かに目を閉じ、身体からは力が抜けていく。

 その様子をユウコは、自分の目で見て身体で感じて・・・絶望する。


 「・・・そ、そんな・・・いや・・・いやあああああああああああああ!!!」


 ユウコは大声で、悲鳴にも似た叫び声を上げた。


 その瞬間・・・


 ユウコの身体からは、まばゆい光があふれ出した。


 それはユウコの魔力であり、そのまま周囲に解き放たれる。


 ユウコがマサキを助けたい、そして悪魔を消し去りたいという強い気持ちがこもったもの。


 それは徐々に広がり、下位悪魔をも巻き込んでいく。

 およそ20mの魔力領域。


 その領域の中に捕われた下位悪魔は、3体とも「ギギャアアア」という叫び声と共に黒い霧となって消えていった。


 そして更に、領域内にいるマサキにも変化が起こり始める。


 お腹に空いた穴が徐々に塞がっていくのである。


 そして・・・


 「う、う~ん・・・」


 という声と共に、マサキが目を覚ました(・・・・・・)


 「ま、正樹!!よかったぁ・・・本当によかったよぉ・・・」


 ユウコは再び目に涙を溜めながら、マサキが無事だった事を素直に喜んでいた。


 「・・・お、俺はどうなって・・・あっ!悪魔を倒さないと!!」

 「もう・・・もう、ここにいた悪魔は消えたよ」


 「えっ?消えたって!?何がどうなって・・・?」

 「う~ん・・・私にもよくわかんない・・・」


 後にジョークから説明を受けて分かった事だが、ユウコが今使ったのは聖者の領域(セイントフィールド)

 完全なる闇を葬り、それ以外の者を癒やす効果がある。


 基本的には浄化・治癒に特化しているため、悪魔族(デーモン)には・・・特に下位悪魔(レッサーデーモン)にとっては絶大だが、魔物に対してはダメージが薄い。


 更には敵・味方関係なくエリア内の闇に属さない者は全て治癒してしまう上に、使う魔力量もかなり必要になる。

 その為、使い所は考えないといけないものではある。


 そして間違ってはいけないのが、死人(・・)を生き返らせる事は出来ないと言う事。


 従って先程のマサキは、死んでしまったのではなく一時的に気を失っただけなのだ。

 2人がそれを知るのは後の事である。


 ともあれ、ジョークがユウコに対して感じていたように、彼女は自身の発想により自分で魔法を習得する事が出来たのだった。



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 2人は自分達が少し落ち着くのを待ってから行動を始める。


 さすがに、亡くなった人に触ることは躊躇(タメラ)ってしまうために動かす事は出来なかったが、その代わりに2人は合掌し軽く頭を下げる。


 黙祷を終え、顔を上げたユウコがボソッと呟く。


 「本当だったら、私達はこの人達も助けないといけなかったんだよね・・・」

 「うん・・・そうだね・・・」


 ユウコの問いに、マサキも心痛な面持ちで答えた。


 動かそうとする足が重いが、いつまでもこうしている訳にもいかない。

 2人は互いに顔を見合わせると頷き合い、次の下位悪魔へ向かうため駆け出した。



 最初は2人とも黙っていたのだが、マサキの横に並んで走るユウコが再び呟く。


 「・・・重い・・・重いよ、勇者って・・・」

 「・・・・・」


 ユウコの呟きに、マサキは何も言えなかった。

 この世界に来た最初、国王に頼まれた事を承諾したのが自分だったからだ。


 「私達、軽く考え過ぎていたんだね・・・」

 「・・・確かに・・・そうだね・・・でも今回の件で、俺分かったよ」


 「えっ?・・・何が?」

 「ジョーク君が常日頃、口を酸っぱくして言っていた事だよ」


 「ジョークが言っていた事?」

 「うん・・・自分が死ねば、守ろうとする者も死ぬっていう事。そしてそれは、自分の命も守れない奴が他人の命を守る事なんて出来ないんだって、言われていたんだってね」


 「・・・それ・・・ね」

 「俺がやられて、その後にまだ君に危険が迫っていると考えた時に、自分がこのまま死んだら君だけじゃなくて何一つ守れない。それを考えると自分が死ぬこともそうだけど、それ以上に大切な人を守れなくなる事に、少しだけ怖さを感じたよ」


 マサキの言っている事は、ユウコにも痛いほどよく分かった。

 自分が戦えなくなった事で、マサキが死にかけたのだから。


 マサキはあの時の事を考えながら話していると、一つ気になる事があったのを思い出した。


 「そういえば・・・俺がやられた時に、一つだけ不思議な事があったんだよ」

 「不思議な事?」


 「うん。裕子を悪魔の攻撃から守ろうとした時、悪魔の手は俺の心臓あたりを貫こうとしてたんだけど、直前で変化したんだ」

 「えっ?それは、なんで・・・?」


 「わかんないけど・・・そのおかげで、俺は助かったんだろうね」

 「そう・・・なんだ・・・ね」


 ユウコには、話を聞く限りでは悪魔が何らかの意図があって攻撃を逸らしたのか、別の要因があったのかは分からない。

 だけど、どちらにしろマサキはそのおかげで助かった事実に変わりはない。


 そう考えるユウコは、あの時のマサキが死ぬかもしれなかった恐怖と、助かった事による安堵を顔に滲ませていた。


 その表情を見たマサキは、自分が暗い話をしていることに気がつき、少しでも明るい話題にしようと考えた。


 「そ、そういえば・・・裕子は、ジョーク君の事が好きなのかい?」


 先程、自分が聞かれた事への意趣返しとばかりに問い掛けた。

 聞かれたユウコは、あまりにも急な話題転換と、あまりにも予想外の質問に目を丸くする。


 しかしそれも一瞬の事で、マサキの考えを理解したユウコは「ふふっ」と笑いながら口を開く。


 「うん、好きだよ」


 ユウコは、そうハッキリと答えた。

 自分と違ってそこまでハッキリ言うユウコに、マサキは驚いた表情を見せる。


 ユウコ自身はそこまで隠すことではないと考えているし、何よりもそれについては皆とは違う考えを持っているからだ。


 「でもね、私は別にジョークと恋人になりたいとか、それ以上の関係になりたいとか、そういうわけじゃないんだぁ」

 「そうなのかい?」


 「うん。私はジョークの笑顔が好き。困った顔を見るのが好き。真剣に怒った顔が好き。時折見せる優しい顔が好き。

 ・・・だけどそれは、誰か1人に対して向けられたものじゃない。私達(・・)に向けられたもの。いつも私達の事を考え、いつも心配してくれる。そんな彼の表情や気持ちが好きなの。もし、それが私1人に向けられたら、私の好きな彼が見られなくなっちゃうだろうからねぇ」

 「・・・そういうもんかなぁ?」


 「そういうものなの!」

 「そっか・・・」


 マリアと一緒になりたいと思っているマサキにとっては、分からない感覚だった。


 「ぷっ・・あははっ」

 「急にどうしたの?」


 いきなり笑い出したユウコに、マサキは驚いた。


 「ううん、何でもなぁい・・・ただ、こんなこと舞にも話した事はないのになって思ったら、可笑しくなっちゃっただけ」

 「そっか」


 楽しそうに笑顔を向けるユウコを見たマサキは、いつもの調子を取り戻したようで安心していた。


 「早く終らせて、またこんなくだらない・・・何気ない話をしようね!正樹!」

 「そうだね、裕子!」


 ユウコとマサキは、いつの間にか互いに下の名前で呼ぶようになっていた。

 それは恋ではなく、友情が深まった証。


 そして、またこんな話が出来る日常が来る事を願い、早く終らせる為に戦いへと身を投じる覚悟と、互いに絶対に死なない事を胸に誓った。


 それは、この戦いだけの話ではなく・・・


 全てが終るその時まで・・・




お読みいただきありがとうございます。


今回はマサキではなく

登場の少ないユウコにスポットを当てました。

たまに登場する彼女の行動原理や心情が、少しは分かったかなと思います。


あと、本文には書き忘れていましたが

一般市民が出てこない場面は、皆逃げ隠れして既にその場所には誰も居ない状態です。

この後も同様に、一般市民の表現が無い場面は誰も居ない状態です。


次回以降も、ジョークが登場しない回が続きます。


これからも楽しんでもらえるように頑張ります。


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