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第24話 駆けつけたJ

 

 俺は勇者達と別れた後、誰にも見られていない事を確認すると更に加速する。


 一気に駆け抜け、目的の場所付近まで来ると、そこは酷い有様になっていた。


 下位悪魔(レッサーデーモン)にでも襲われたのだろう。

 人が横たわっていたり、建物のあちこちが壊されていたりして所々に煙が立ち上っていた。


 それを横目に、更に進んでいく。


 そして俺が目的地に到着すると、今まさに下位悪魔(レッサーデーモン)2体に襲われている状況であった。


 建物の外から建物を破壊し、中にいる人物を殺そうとしているのだろう。

 下位悪魔は宙に浮かんで、ひたすら魔法を打ち込んでいる。


 俺は亜空間収納から、切れ味を度外視して単純に耐久力だけを特化させたシルバーソードを取り出す。

 とりあえず、折れなければ十分だ。


「ギャハハハ!ヨワイモノヲイタブルノハ、タノシイナ!」

「アア!コンナニモ、ニンゲンガヨワイトハナ」


 下位悪魔は本能に従っているだけで、知恵もないし戦う事以外の能力もほとんど持たない。

 そのため、話している言葉は片言にしか聞こえない。


 正直、耳障りでしかない。

 聞くに堪えないな・・・


 そういうわけで、さっさと退場してもらおう。


「そうか・・・そんなに弱者をいたぶるのが楽しいのか?」


 俺は宙に浮かぶ下位悪魔の背後を取り、奴らに向かってそう呟く。


「「ア!?」」


 俺の声に反応した下位悪魔が振り返った次の瞬間には、俺の剣によって2体とも縦から真っ二つに分かれていた。

 そして、黒い霧となって消滅していく。


 着地した俺は、下位悪魔が完全に消滅した事を確認するとボソッと呟く。


「ったく、どこがだよ・・・お前らみたいな弱い奴を相手にしても、全くつまらねえよ」


 俺の呟きは誰に聞かれる事もなく、周囲の喧噪の中に紛れて消えていった。




 俺は下位悪魔を倒した後、建物の中に入っていく。

 そして、奥で隠れ潜んでいる者に向かって声をかける。


「エミル!大丈夫か!?」


 そう。

 ここは俺がこの街に来た時に泊っていた宿屋であり、併設する食堂内にいる宿屋の娘であるエミルを助けに来ていたのだ。


 ただ、助けに来たと言っても無事である事は間違いない。


 なぜなら俺がこの宿屋を後にする時、エミルに渡した腕輪。

 あれが上手く効果を発揮しているからだ。


 エミルには詳しく話していないが、あれは装着者の身に危険が迫った時、傷つけようとするもの全てを阻む結界を発生させる。

 範囲は装着者の半径2m程度だが、俺の結界術式を組み込んでいるのだから、あの程度の敵に破られる事はない。


 そして腕輪が反応すると、俺に信号(シグナル)が送られるようにしておいた。


 そのため、エミルが襲われている事にすぐ気づく事が出来たのである。


「・・・えっ・・・あっ・・・そ、その声は・・・」


 エミルは俺の声を聞いて、食堂のカウンターの奥から様子を窺うように恐る恐ると顔を出した。


「・・・あっ!・・・や、やっぱりぃ・・・ジョーク君だぁ」


 エミルは俺の顔を見るなり駆け出して来て、俺の胸に飛び込んでしがみついてきた。


「うぇ~ん・・・怖かったよぉ・・・」


 余程怖かったのだろう。

 俺に抱きつくや否やワンワンと泣き出し、俺にしがみついている身体全体からも震えているのが伝わってくる。


「もう大丈夫だ。外の敵は倒したし、今この近くに敵はいない」


 俺はエミルを安心させるためにそう言いながら、彼女の頭を優しく撫でてやった。


「ぐすっ、ぐすっ・・・えっ?・・・ジョーク君が・・・倒してくれたんですかぁ・・・?」

「ああ、だから安心してくれ」


 エミルはまだ外に敵が居るとでも思っていたのだろう。

 俺が倒した事を知って、今度は安堵により更に泣き出してしまった。


「うわああああぁん・・・良かったぁ・・・良かったよぉ・・・」



 その後も泣き続けていたエミルは、散々泣いて落ち着きを取り戻したのか、照れくさそうにしながら俺から身体を離した。


「え、えへへっ・・・ごめんなさい・・・恥ずかしい所を見せちゃいましたね」

「別に恥ずかしい事ではないだろう?怖い目に遭ったんだから仕方ないさ」


「ふふっ、ジョーク君は優しいですね・・・でも、あんなにお姉さんぶってた私が、ジョーク君にすがって泣き喚く姿を見せちゃったから、なおさら・・・」

「気にしなくていい。俺も忘れる事にするから」


 俺がそう言うと、エミルは「ふふっ」と笑っていた。


「・・・でも、ジョーク君は学院に入ったばかりなのに凄いんですね。学院に入った子は、皆そんなすぐに強くなれるものなんですか?」


 エミルは率直な疑問をぶつけてきた。

 それに俺が答えようとしたのだが・・・


「いえ、違いますね・・・ジョーク君は私と出会った時から、それだけの力があったんですよね?」

「俺は・・・」


「あ、ただ口にしたかっただけなので、答えなくていいですよ。最初に会った時から、ジョーク君は普通の人とは違うものを感じていましたし、何よりもこの腕輪。これって市販で売っている物ではないんですよね?・・・ジョーク君が私を守る為に作ってくれて、これのおかげで私は助かった。・・・それだけで十分なんです。もちろん、ジョーク君の事に関して絶対に他言はしませんから」

「・・・そっか」


 エミルは質問を織り交ぜておきながらも、俺に答えさせないように話を続けていた。


 彼女にとっては、俺の力を知る事よりも助けられたという事実の方が重要だったようだ。


 確かに言いにくい事もあるし、彼女の気遣いが素直にありがたい。

 彼女は本当に良い()であり、助けて良かったと心から思っていた。


 思えば、人の生き死にが当たり前の中で生きてきて、別に赤の他人の死に対して特に何も感じなくなってしまった俺が、任務以外で戦闘に関わらない人を助けるというのは初めての事かもしれない。


 腕輪を渡した時も、まさかこんな事態になるとは思っていなかったし。

 精々、強盗やなんかから守る程度だと考えていた。


 そして俺自身、助けて良かったと思える心が俺にも残っている事に、少しだけ可笑しくなった。


 俺がそんな事を考えている中、エミルは話し終えると何かを思い出した表情を浮かべて口を開いた。


「あ、そうだ!・・・お父さんとお母さん!」


 エミルの両親は未だに隠れているのだろう。

「もう大丈夫だからと、伝えてあげないと・・・」と呟いていた。


 そして、エミルは俺に向かって説明する。


「私はこの腕輪に守られていたから・・・怖かったけど私が囮となって、お父さんとお母さんには地下倉庫に逃げ込んでもらったんです」

「そうか・・・だったら、エミルの大事な人は側に居てもらうといい。その結界は、装着者の半径2mまでは広がるから一緒に居た方がよほど安全だ」


「あ、そうだったんですね・・・」と言いながら少し肩を落としていた。

 腕輪の効果を知らない、いや教えていなかったのだから思いつかないのも当たり前の事だろうに。


 そして、「で、でも、大事な人というのなら・・・」と言いながら、俺を上目遣いで見てきた。

 この流れで、俺を見る意味がわからない。


 まあ、今はそれを気にしている場合ではないだろう。


「街の中にはまだ敵が残っているから、とりあえず俺は行く。この辺りはもう安全だが気を付けろよ。全てが終るまでは油断せずに、身を潜めておくんだ」

「は、はい!・・・本当に何もかも、ありがとうございました」


 エミルのお礼の言葉に、気にするなと手を振る。

 そのまま身を翻そうとした時。


「あ、あの!」


 エミルが大声で俺を呼び止めた。


「今日は無理かもしれないけど・・・でも、落ち着いた頃に、また絶対に来て下さいね!お礼をかねて、うちでご馳走しますから」


 そこまでしてもらう必要はないと断ろうかとも考えたのだが、エミルの真剣な目を見て言い淀む。

 そして・・・


「わかったよ。そのうち、また寄らせてもらうよ」


 と、そう口にしていた。

 その言葉を聞いたエミルは、「はい!楽しみに待ってますから!」と満面の笑みを浮かべていた。


 そんな彼女に、俺も笑顔で返し「じゃあ、またな」と告げた。

 俺が笑顔を向けた瞬間、彼女は息を飲むような様子を見せていたようだが、俺は気にせずに家を飛び出した。



 外に出ると一気に駆け出す。


 目に付く下位悪魔(レッサーデーモン)を駆逐しながら目指すのは、この騒動の中心である中位悪魔(ミドルデーモン)の上位個体の場所だ。


 軍も出動しているようだが、そいつを相手にするには下級騎士では何人いても倒す事は出来ないだろう。


 勇者達なら4人がかりでやれば倒す事は可能だろうが、それは単純な力だけの話であり、総合で考えた時にはかなり危険なのである。


 というのも、中位悪魔になると下位悪魔と違って戦闘能力が高いだけでなく、言語や知恵なども発達している。

 そして、中位悪魔の中でも上位存在となると、更なる知恵と狡猾さを持ち合わせるのだ。


 そんな奴が、強者を相手にまともに戦おうとするわけがない。

 搦め手を使い、自分が優位に立つ状況を作り出し、その上で安全策をとりながら攻撃を仕掛けてくる。


 それを考えると軍にしろ勇者にしろ、そいつと戦って勝つ事が出来たとしても被害は甚大なものになるだろう。


 とはいえ、勇者達にはクラブの9(ナイン)に見守ってもらっているので死の危険はない。

 中位悪魔程度であれば、勇者達を危険な攻撃から守るのに、ナインは陰から支援するだけでも十分だろう。


 しかし、上位個体による死を孕んだ攻撃から勇者達を守ろうとした場合は、ナインが彼らの前に姿を現さざるを得ないだろう。


 陰として活動するナインには、それだけは避けてもらいたい。

 だからこそ俺が行く必要がある。


 とはいえ、別に街の被害を抑えたいわけじゃない。

 俺が守るべき者・勇者達やシャロン、エミルを守る為にだ。


 そのために、上位個体の注意を俺に向ける必要がある。


 そう考えながら、俺はそいつのいる場所へ向かっていったのだった。





お読み頂きありがとうございます。


短いですが刻みます。


少しでも面白い、続きが気になると言う方は

ブックマークや評価、感想を宜しくお願いします。

喜びで、より一層気合いが入りますので。


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