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第23話 突然の襲来と、その時のJ

 


「どうかしましたか?」


 校舎に入ろうとしていた俺が急に険しい表情で振り向いた事で、シャロンがそう問い掛けてきた。


「これは・・・」

「??」


 俺が街の方角をジッと見つめて呟いたため、シャロンも同じ方角に意識を集中し始めた。


「えっ!!こ、この気配は!!街に魔物が出現している!?」


 シャロンも魔力感知を使えるようで、意識を集中する事で魔力を感じ取ったようだ。

 しかし・・・


「いや、これは魔物じゃない・・・」

「えっ?魔物じゃないって・・・じゃあこれは・・・?」


 そうなのだ。

 こいつは魔物ではない。


 こいつの正体は・・・


「・・・悪魔族(デーモン)だ。それも中位悪魔(ミドルデーモン)、その中でも上位の奴が居やがる。他にも複数体」

「はっ!?悪魔族(デーモン)ですか!?そんな、有り得ません!しかも中位悪魔(ミドルデーモン)だなんて・・・」


 シャロンが驚くのも無理はないだろう。

 なにせ、悪魔族(デーモン)が自ら顕現する事はない。

 というよりも出来ないのだ。


 悪魔族の住む場所―一般的には悪魔界と呼ばれている――は、この星上に存在するのだが、俺達がいる空間とは完全に隔別された空間にある。


 その空間を無理矢理渡ろうとすると、中位悪魔(ミドルデーモン)程度では消滅する可能性が高く、上位悪魔(グレーターデーモン)でもかなりのダメージを負ってしまう。


 そこまでして、こちらの世界へ来る意味などない。


 更に上の存在であれば空間を破る事も可能ではあるが、それほど上位の存在の悪魔族がわざわざ自らの労力を裂いてまで来るはずがない。


 従って、通常であれば悪魔族が現れる事は有り得ないのだ。


 しかし例外がある・・・


「本当に悪魔族なのですか?だとしたら、どうやって・・・」


 シャロンの疑問の答えが、それである。


「まあ、間違い無く・・・何者かによる召喚だろうな」


 そう、こちらからの召喚という手段により、悪魔族は顕現する事が出来る。

 その代わり、召喚者には何かしらの代償もしくは対価が必要になるが・・・


 人間が召喚する事が出来るのだから、魔法に長けた悪魔族が召喚や転移を出来ないはずがないだろう。

 だから自らの魔法を使って、こちらに来る事が出来るのではと思うかもしれないが、それは無理である。


 召喚は自らを送り込む事は出来ないし、転移しようとすれば空間の壁に阻まれるからだ。


「そ、そんな・・・なんてバカな事を・・・」


 俺の言葉にシャロンは愕然としていた。


「召喚者は何を代償にしたのか知らないが、中位悪魔(ミドルデーモン)の上位を呼んだのはやっかいだな・・・」

「そ、そんなの、悪魔族を召喚した時点で十分やっかいですよ!」


 シャロンの言うように、悪魔族は下位悪魔(レッサーデーモン)が現れたとしても脅威ではある。


 中位悪魔となると、新米騎士では相手にならないレベルだ。

 まあ、セリシアであれば何とか倒せそうだが。


 しかし、俺が言いたいのはそういう事ではない。


「いや、俺が言っているのは強さそのものではない」

「えっ?」


「さっき俺は複数体いると言っただろう?」

「ええ・・・」


「その複数体とは、中位悪魔が他に5体だ。更に下位悪魔(レッサーデーモン)が次々と数を増やしている」

「そ、そんな・・・」


「おそらく召喚したのは中位悪魔の上位個体だけだろう。そいつが部下である中位悪魔を召喚し、更に各々の眷属である下位悪魔を召喚したのだろうさ。その数はおよそ60体」

「・・・・・」


 そう、ただの中位悪魔だけであれば、呼べるのは眷属だけだ。

 しかし、中位悪魔の中でも上位の存在となると、自分の下に付けた中位悪魔すら召喚する事が出来るのがやっかいな点だ。


「これはすでに・・・街の者に犠牲が出ているな」

「・・・犠牲者も出ているって・・・どうして・・・どうしてそんなに冷静なんですか!?どうして、早く助けに行こうとしないんですか!?」


「どうして?・・・おそらく俺達が行かなくても、軍が動くだろう・・・そもそも俺は他の者と考え方が違う。自分が守るべき者を守れればそれでいい。見ず知らずの人間を助けるために、危険に首を突っ込む気はない」

「そ、そんな・・・で、でも、貴方には街の人達を助ける力がありますよね?」


「・・・俺が守るべき対象と考えるのは、自分が関わりを持ち死なせたくはない・死なせるには惜しいと感じた者だ」

「・・・で、では・・・わ、私は?・・・会って間もないですが、私の事はどう思いますか!?死んでもかまいませんか?」


「・・・・・いや・・・死なせるには惜しい・・・かな」

「・・・あ、ありがとうございます!・・・わかりました・・・では、私は街の人達を助けに行きます!そうすれば、貴方も来てくれるという事ですよね!?」


 中々シャロンも考えたものだ。


 正直、俺が街の人間を助けに行く必要はどこにもない。

 しかし、シャロンを死なせるには惜しいと感じている事も、また事実。


 その彼女が悪魔族と戦いに行くというのであれば、俺も行かざるを得なくなる。


「・・・はあ、わかった・・・行くよ」

「あ、ありがとうございます!!」


 俺が行くと告げると、シャロンは深々と頭を下げていた。


 仕方がなく街へ向かおうとした、丁度その時。


「あ、ジョーク君!・・街の方から魔物の気配がするんだけど、これってどういう状況なの!?」


 魔物・・・悪魔族の魔力を感じ取ったマイ達・勇者とマリア、ライハロク生徒会長、セリシア、そしてジュリーが校舎から急いで出てきた。


「時間がないから手短に言うが、悪魔族(デーモン)が出現した。軍もまもなく動くだろうが、いかんせん数が多いし、すでに犠牲者も出ている。だから俺とシャロンは先に街へ行く」


 俺が簡単に説明をすると、魔物が悪魔族だったと知った一同は驚きを隠せずにいた。

 悪魔族の存在を知らない勇者達ですら、危険な存在だという事を理解しているようだ。


「じゃ、じゃあ、俺達も行って街の人達を助けるよ!!」


 マサキは他の勇者達と顔を見合わせて頷くと、そう口にした。


「別に無理して行かなくてもいいんだぞ?」


 現場では、常に死が付きまとう。

 それは勇者達に対してだけでなく、街の人達の死をも目の当たりにする可能性が高いという意味で。


 魔物に対しての死は大分慣れてきた様だが、人の死を見た時に正気でいられるかどうか。

 それを心配したのだ。


 俺はそれを目で訴えたのだが、マサキはその視線をまっすぐに受け止める。


「ジョーク君の言いたい事はわかるよ・・・でも、俺達は目を背けない事にしたんだ」


 マサキの目は覚悟を決めていた。


 しかし、ここで考えるのと実際に目の当たりにするのでは全く違う。

 それに耐えられるかどうかはわからない。


 それでも、彼らがやるというのなら否やはない。


「わかった。じゃあ、付いてこい。悪魔族との戦い方は、向かいながら教えてやる」


 俺がそう言って駆け出そうとすると、更に声が掛かる。


「待って下さい!私も行かせて下さい!」

「僕も行くよ!」

「もちろん、私も行きますよ!」


 マリアとライハロク、セリシアも口を揃えて、行くと言い出した。


「ダメだ。特にマリア・・・お前は絶対にダメだ」

「ど、どうして・・・」


「マリアでは、下位悪魔1体だけを相手にしても勝てるかどうかの力しかないからだ」

「・・・・・」


 俺がマリアに現実を突きつけると、悔しそうにしながら下を向いた。


「そして、ライハロクとセリシア。悪魔族がこの学院に来ないとも限らないんだ。悪魔族を倒せる者がいなくなるのはまずい。だから、2人は残って学院を守れ」

「でも、街を救うには少しでも多くの戦力があった方が・・・」


「言っておくが、ほとんどの生徒が下位悪魔に勝てないんだぞ。街を救うために他の生徒達を見殺しにするか、街に犠牲は出ても生徒達を守る為にここに残るのか・・・あとは勝手に好きな方を選べ。これ以上は、ここで論議を重ねるだけ時間の無駄だ」

「「・・・・・・」」


 俺が矢継ぎ早にそういうと、ライハロクとセリシアも悔しそうに拳を握りしめ・・


「わかったよ、僕はここに残るよ・・・」

「私も残ります・・・」


 と、言った。


「よし。じゃあマリアは、なるべくセリシアの側から離れるなよ」

「は、はい・・・」


「じゃあ、俺達は行くからな」

「お気を付けてくださいね・・・」


 俺が残る3人に声をかけると、マリアが心配そうに声を出していた。


 そして俺はすぐに駆け出すと、勇者達とシャロン、ジュリーが後を付いてきたので、走りながら声をかける。


「いいか、よく聞けよ。悪魔族は、魔法が得意だから魔法に気を付けろ。そして、相手を殺すためには手段を問わない。不意打ち・命乞い・だまし討ち・人質など当たり前の行為だ。だから常に周囲に気を張り巡らせ、そして奴らの言葉には耳を貸さずに殺せる時に殺せ。逃がしたりなんかしてしまえば、自分だけでなく関係無い者が殺されると思え」


 俺の説明に、一同は黙って頷いた。


「それと攻撃方法だが、通常の物理攻撃が効かないわけじゃないが、耐性があるために威力が軽減される」

「では、どうすれば・・・?」


 シャロンが疑問を俺にぶつけてきた。

 それに対して俺も質問をする。


「シャロンは魔力を武器や自分に纏わせる事は出来るか?」

「え、ええ。武器に纏わせるくらいなら・・・」


 俺がシャロンに問い掛けた事で、マサキがピンと来たようだ。


「ああ、なるほど。この前の戦い方をすればいいんだね?」

「そうだ。奴らを倒すには武器に魔力を纏わせて攻撃すれば良い。奴らの攻撃を防ぐために、本当なら自分にも魔力を纏わせらればいいんだが、それが出来ないシャロンは奴らの攻撃を食らわないようにしろ」


 攻撃を食らうなと言う俺の無茶振りに、「は、はい」と頷いていた。


「それと、シャロンは下位悪魔だけを相手にしろ。万が一に中位悪魔と出くわしたら、何が何でも逃げろよ」

「え?あ、は、はい・・・でも、どうやって見分ければ?」


「中位悪魔クラスだと、下位悪魔に比べて一際魔力が高いからすぐにわかる」

「わ、わかりました」


 他にも見分け方はあるが、この場で細かく言う必要はない。


「逆に、マサキ達が中位悪魔と出くわしたら全力で戦え。そして中位悪魔には、下位悪魔と違って魔核という部分があるからそれを壊せ。魔核を壊さない限りは、その場(・・・)で再生するからな」

「それは悪魔のどこにあるんだい?」


 俺が勇者達に中位悪魔と戦うように告げてもマサキ達には動揺はなく、それよりも弱点である魔核の場所を尋ねてきた。


「魔力感知で探ればすぐにわかる。悪魔の身体のどこかに、魔力が凝縮している部分がそれだ。下位悪魔にはそれがないから気にする必要はない」

「うん、わかった」


 中位悪魔はセリシアなら何とか倒せる強さだとは言ったが、シャロンでは無理でも勇者達なら1対1でも問題はない。


 今でもまだ、セリシアと試合をした場合は勇者達が負けている。

 しかし、全力での死合となった場合であれば、勇者達の方が上だろう。


 技術は未熟だが、力は断然勇者の方が強いのだ。


 それに悪魔族は魔法攻撃には注意しないといけないが、中位悪魔クラス以下だと戦闘技術があるわけではないので、技術などなくても力でごり押し出来るというのも理由の一つだ。


「――!!」


 俺は走りながらも勇者達にあらかた説明をし終えた所で、俺はある反応を受けた。


「・・・俺はここから別行動をとる」

「え!?どうして!?」


「悪いが、説明をしている時間はないから、これからお前達のとるべき行動だけ伝える」

「う、うん、わかったよ」


 俺が別行動をとる事に疑問を抱いたマイだが、俺の顔つきが急に変わった事で、大人しく引き下がった。


「まずは、勇者達は2人一組で行動しろ。そして中位悪魔を目指しながら、目に付く下級悪魔を駆逐していけ」

「うん」


「そしてシャロンは、深入りせずに単体でいる下級悪魔だけを倒していけ」

「わ、わかりました」


 勇者達とシャロンは、俺の指示に素直に頷く。


「私はどうする?」


 ジュリーが俺の近くに寄ってきて、俺にボソッと聞いてくる。


「ジュリーは、いつでもシャロンを助けられる位置で、目立たないように悪魔共を倒していってくれ」

「ん、わかった・・・この後、ジョークは?」


「俺は――」


 俺はジュリーに簡単に説明したのだが、ジュリーは頭に?マークを浮かべながら首を傾げていた。


 忘れてんのかよ!!と思ったが、突っ込んでいる暇はない。


 それよりも、最後にもう一つ。


(クラブの9(ナイン)、聞こえるか?)

(ああ、聞こえるぞ)


 俺は念話で、この街にいるクラブの9(ナイン)に話しかける。


 ナインは情報収集や情報操作がメインであり表だって動く事はない為、今は大人しく陰から街の様子を窺っている。

 そもそも、ナインが悪魔族を倒す理由がない。


 そんな彼に頼み事をする。


(俺は勇者達から離れる。その間、あいつらを陰から頼む)

(ああ、わかった。任せろ)


 よし、これで大丈夫だ。


「じゃあ、俺は行くけど気を付けろよ。無理だと思ったら、必ず引けよ!」


 俺はその言葉を残すと彼らの言葉を待たずして、目的の場所へと向かったのだった。




お読み頂きありがとうございます。


この話は結構長めになりそうです。

その間はずっと、シリアス展開で進みます。


これからも楽しんで読んで頂けるように頑張ります。


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