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第19話 勇者達にフロアボスで訓練させるJ

 



 地下4階層。


 このフロアも、勇者達にとっては問題無い程度の魔物しか出ない。

 他のクラスメイトなら別だが、俺が直接鍛えているマリアでも何とか大丈夫なレベルだ。


 俺はこのダンジョンに来てから、彼らの戦いを直接は見ていなかったが、こうして実際に戦っている所見ていると、森で戦っていた時とはまるで違い、全く危なげ無く戦えるようになっていた。


 きちんと連携も取れるようになっている。


 先行するのは、主にマサキとリョウタ。

 その後ろでマイとユウコとマリアが、魔法でサポートしたり隙をみて魔物に斬りかかったりしていた。


 そして、たまに役割を変更しながらと、勇者達も自分達で色々と考えながら戦えるようになったようで、少しだけ安心た。


 戦いに関しては、本当にダメな所以外は俺が口を出す事はしない。

 だが、この程度の魔物といくら戦った所で時間の無駄だし、ダンジョンの進行に時間を取られるのも無駄である。


 だから俺は、魔力感知が出来る様になってきた彼らに、魔力感知によるダンジョンの地形・魔物の出現場所を把握が出来る様にアドバイスを送る。

 そして、なるべく最短で進めるようにしろと告げる。


 これにはやはり、魔力感知に優れているマイが最初に出来る様になった。


 マイの指示で進む事により、他の勇者達も徐々に感覚を掴んでいるようだ。

 マリアだけは、まだ何となくでしか出来ないみたいだが。


 そうして進んでいる内に、彼らが上層階のワンフロアを攻略した半分の時間で、地下5階層に降りる事が出来た。


 さて、ここからはマリアが戦闘に参加するのはきついだろう。


 そう考えた俺は、マリアを隣に引き寄せる。


「この階層は、俺の側から離れるなよ?マサキ達なら大丈夫だが、マリアはまだ荷が重い」

「は、はい・・・わかりました」


 俺が引き寄せた事で一瞬顔を赤くしたマリアだが、俺の言葉で何も出来ない自分の不甲斐なさを感じ、そして足手まといになってしまうのではと考えたようで、少し顔を暗くしていた。


「大丈夫だ、気にするな。何も問題はない。ただ見ているだけでも経験になる」

「・・・はい、ありがとうございます」


 俺とマリアが一緒に歩いて話をしていると、前を歩くマサキがこちらを振り返り、少しだけ苦々しいというか悔しそうな顔をしていた。


 よくわからんが、自分がマリアを守りたいとでも思っているのだろうか。


 まあ、守りたいなら守ってやればいいが、今の段階ではマサキに出来る事ではない。

 自分の戦いで精一杯だからだ。


 何かを守りながら戦うというのは、難易度が跳ね上がる。


 マサキがマリアを守ってやりたいと思うのならば、さっさと強くなって戦闘中でも別の事を考えられるくらいになってもらわないと。


 俺がそう考えている間にも、マイの指示で先へと進んでいく。


 途中で何度か魔物と戦闘を行いながらも、フロアボスがいる広間の手前まで来た。


 この魔力からすると、このフロアボスはハイオーガだ。

 硬い皮膚と強大な腕力を持つ、普通の者なら中々やっかいな相手だ。


 熟練した者以外なら、普通であればパーティを組んで挑む魔物だろう。


 だが、今の勇者達なら1人でも相手する事は出来る。

 とはいえ、最初は少し苦戦するかもしれないが。


 まあ、いい訓練になりそうだから、1人ずつ戦わせてハイオーガを倒さない程度で、交代させればいいだろう。

 その際、俺がハイオーガを回復させるつもりである。


 ハイオーガにとってみれば、最悪そのものだろう。


 ひどい?鬼畜?


 そんなものは知らん。

 勇者達を強化する糧となってもらうのだ。


 と言う事で、情報は何も与えずに先に進ませ、1人ずつ戦うように告げる。


 彼らはゆっくりと歩を進め広間へと入っていくと、広々とした空間の奥にハイオーガが佇んでいる姿を見て、一瞬ひるむ様子が窺えた。


 まあ、魔物を見慣れていない上に、初見ならそうだろうな。

 何せ、筋骨隆々の3m近くはある巨体が、巨大な棍棒を片手にまさしく鬼の形相で待ち構えているのだから。


 とはいえ、ただ睨めっこをしに来たわけじゃ無い。


 だから俺は、勇者達を促すように尋ねる。


「で、誰が最初に戦うんだ?」


 それに答えたのは、やはりマサキである。


「・・・・・お、俺からやるよ」


 マサキはそう言うと、剣を構えながら少しずつ距離を詰めていく。


 俺達は邪魔にならないように、入り口近くでマサキとハイオーガから離れたまま観戦する。


「マサキさん1人で大丈夫なのですか?」


 俺の隣にいたマリアが、心配そうに問いかけてくる。


「ああ、多少苦戦するかもしれないが、あの棍棒の直撃さえ食らわなければ問題ない」


 まあ、食らったら食らったで、即死でさえなければ俺が治療してやれるから、それ込みで問題はないんだけどな。


 ただそこまで言うつもりはないため、マリアは俺の言葉で少しだけ安堵しながらも、まだどこか不安を滲ませた顔をマサキに向けていた。


 マサキの先に見えるハイオーガは、獲物が近づいてきたと考えたのかニヤリとした笑みを浮かべ、ズシンズシンと重そうな足音を立てながらマサキへと近づいていた。


 マサキは一旦止まり、近づいて来るオーガをジッと見据える。


 ある程度の距離まで近づくと、マサキは足に力を込めて一気にハイオーガへと向かって行った。


 そして、マサキはハイオーガへ向けて剣を振るう。


 しかし、ハイオーガはヒョイと後ろへ飛んで躱す。

 ハイオーガは、あの巨体の割に意外と動きが素早いし、見た目以上に知能が高い。


 マサキは一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに次の攻撃を仕掛ける。


 ハイオーガが後ろへ飛んで着地するのと同時くらいに、マサキの剣がハイオーガを襲う。


 今度は避ける事が出来ないハイオーガは、襲いかかる剣から身を守るように自分の腕を前に出す。


 そして剣がハイオーガの腕に当たった瞬間。


 ガキン!!


 という音と共にマサキの剣は、ハイオーガの丸太の様に太く鋼の様に硬い筋肉によって止められていた。


 切り落とせると思っていたマサキは、多少食い込ませる事が出来たものの止められた事に動揺して、一瞬動きが止まってしまう。


 その瞬間をハイオーガは見逃さなかった。

 マサキへ向けて、持っていた棍棒を思い切り振り抜く。


 避ける事は無理だと悟ったマサキは、防御に回った。

 そして、棍棒が当たる瞬間に少し足を浮かせる。


 そのおかげで、数m吹っ飛ばされながらも棍棒の力を上手く逃がし、まともに食らうのだけは回避する事が出来た。


 とはいえ、ガードした腕がしびれているみたいで、着地するとしきりに自分の腕の動きを確かめている。


「今の攻撃を受けたマサキさん、大丈夫でしょうか・・・」


 一瞬ひやりとしたマリアが、マサキの方を向きながら俺に問いかけてくる。


「ああ、腕がしびれたくらいで、大したダメージにはなっていない」

「そう・・・ですか」


 マリアは、俺の言葉を聞いても不安は拭えないようだ。


 それはいいとして、このままだと勝つにしても思ったよりも時間が掛かりそうだな。


 そう思った俺は、再びハイオーガに向かい合ったマサキにアドバイスを送る。


「マサキ!今のでわかっただろう?奴の筋肉の分厚い部分を攻撃しても、ダメージをほとんど与えられない。だったら、間接や急所を的確に狙え!」


 マサキは俺の方を見る事もなく、頭だけコクンと頷かせていた。


「あの魔物は、まともに剣で斬れないほどに強靱な肉体を持っているのですか?」

「まあ、強靱には違いないが、別にあの腕も剣で斬れない事はない」


「えっ?でも・・・」

「あれは単純に、マサキの技量(レベル)が足りてないというのと、それ以上に足りていないのが気迫だな」


 今までの戦いを見ていても、勇者達は相手が魔物とはいえ殺す事に一瞬だが躊躇する感じが見られる。


 やる気はあるが、殺す事には抵抗があるという事なのだろう。

 しかし、死の危険が隣にあるこの世界で、その考えを持っていては殺されるのは自分である。


 何もないのに無闇に相手を殺す必要はないが、戦うと決めた以上は敵となる者を殺す覚悟は常に持たなければならない。


 先程のマサキの攻撃も、本気の一撃であればハイオーガの腕を切り落とせる可能性は高いが、一瞬躊躇した事で剣の威力が僅かに落ちたのだ。


 おそらく本人も無意識レベルの事だろう。

 しかし、そのほんの僅かの差が、あの結果に繋がっている。


 目の前にいる魔物の腕は切り落とせないと、一瞬でもマサキの頭に印象付いてしまった以上、今のレベルではハイオーガの筋肉を貫く事は出来ない。


 だったら今の状態でも、ハイオーガにダメージを負わせる事が出来るようになればいい。


 気迫などに関しては、経験する内に自然に身についてくる。

 というよりも、こればかりは数多く経験させないとダメなのだ。


 それが故のマサキへのアドバイスであり、マリアに対する質問の答えである。


 それからのマサキは、ハイオーガの棍棒や蹴りに注意しながら、フェイントなどを織り交ぜてハイオーガの隙を狙っていた。


 そして、マサキが本気の様に見せながら手を抜いた一撃を繰り出す。


 すると先程の事もあり、ハイオーガは自分の腕が切り落とされる事はないと自信に溢れ、真っ先に自分の腕を防御に回す。


 もちろん、マサキの剣はハイオーガの腕によって止められる。

 しかし先程とはちがい、マサキは最初から止められる事を前提にしている。


 それに気がつかないハイオーガはニヤリと笑みを浮かべると、棍棒を持った手を大きく振り上げた。


 その瞬間、最初からそれを狙っていたマサキの行動は素早かった。


 振り上げて無防備となったその腕の関節へ向けて、今度は本気で斬りかかる。


 そして、マサキが勢いそのままにハイオーガの横を通り抜けた後には、ハイオーガの肘から先が地面へと落とされていた。


 いくら硬い皮膚を持っていようと筋肉で守られていない関節を狙えば、マサキの剣の腕なら当然の結果である。


 当のハイオーガは、何が起こったのか理解出来ずに一瞬キョトンとした顔をした後、違和感を覚えた自分の腕を見て肘から先が無くなっている事に気がつき、叫び声を上げていた。


 その様子を見ていた俺は、そろそろ頃合いだろうと考える。


「マサキ、戻ってこい!」


 俺はマサキに向かって叫んだ。

 そして、マリア達にも声をかける。


「マリアはそこにジッとしていろ。マイ達もちょっと待っていてくれ」


 俺はそう言うと、警戒しながら戻ってくるマサキと入れ替わるように、ハイオーガに近づいていく。


 腕を失った事で、叫びながら怒りの眼差しを向けてくるが、俺は気にせずに落ちているハイオーガの腕をヒョイと拾い上げる。


 そして更にハイオーガへと近づくと、残っている手で俺に襲いかかってくるが、その手を俺はがっしりと押さえつけた。


 その有り得ない状態に、ハイオーガは困惑とさらなる怒りを顔に滲ませている。


 それすらも意に介さず、俺は持っていたハイオーガの腕を元の位置に当てると、押さえていた手を離し接合部分に回復魔法を施した。


 すると、ハイオーガの腕は完全に元通りになっていく。


 ハイオーガは、まさか自分の腕を戻されるとは思っていなかったのだろう。

 何が起きているのかわからないといった表情を浮かべている。


 そして俺は役目は終わりとばかりに振り返ると、勇者達は唖然としていた。


「呆けている場合じゃ無いぞ。ほら、次」


 俺は彼らに近づきながら、早く次の者が戦えと促す。


「そうそう、この場で俺がやる事に関しては他言無用だぞ」


 ペラペラと人の事を話すような連中では無いとは思いつつも、一応念を押しておく。


 色々と動揺が隠せないようだが、いつまでもボーッとしていても仕方が無いと考えたリョウタが、ゆっくりと前に進み出ていた。


 その間に、マリアが俺に話しかけてくる。


「ジョークさんは回復魔法を使える上に、あんなにも一瞬で治す事が出来るのですか・・・?」


 回復魔法を使うには資質が必要で有り、使える者は限られてくる。


 例えスペードのA(アンリ)でも、回復魔法は苦手であり他者を治療する事は出来ない。

 彼女が持つ異常なまでの自己治癒能力により、自身の傷はすぐに回復するのだが・・・


 それに普通なら回復魔法を施したとしても、徐々に回復するのであって一瞬で全快させる事が出来る者はほとんどいないのだろう。


 それが故の、マリアの質問である。


「まあ、色々あってな。話せる時が来れば話してやるけど、今はその時ではない。それよりも、悪いけど今回の事は秘密厳守で頼むな」


 話せる時となると、俺が“トランプ”の一員である事を明かす時。

 そんな時が来るはずもないと思いつつ、マリアを納得させるためにその言葉を選んだ。


 当のマリアは、俺が秘密と言った事で「秘密・・・秘密ですね!わかりました」と、なぜか嬉しそうにしていた。


 その後、リョウタがハイオーガと戦い、次にマイ、そしてユウコと立ち向かって行ったが、最初にマサキの戦いを見ていたおかげで、マサキほどは苦戦する事もなくハイオーガにダメージを与えていた。


 そしてユウコも戦い終わり、例の如くハイオーガに治療を施すと勇者達に話しかける。


「さて、じゃあダメージの通りにくい魔物に対して、手っ取り早くダメージを与える方法を教えてやる」


 俺がそう言うと皆一様に、えっ?という顔をしていた。


 なんで先に教えてくれなかったのかとでも思っているのだろう。


「物事には順序がある。いくら有用な手段といえども、それを扱える技術(レベル)が無ければ意味が無いし、それに頼り切ってしまえば、使えなくなった時に困るのはお前達だからな。だから自力を上げる必要があったんだよ」


 俺の言葉に少しは納得の表情を滲ませていたので、俺は話を続ける。


「じゃあ剣を構えたら、剣の周りに纏わり付かせるようにイメージしながら、魔力を流し込んでみろ」


 勇者達は素直に俺の言葉に従い、意識を集中し始めた。

 ついでにマリアも試しているようだ。


 その間、俺はハイオーガを威圧して近づかないようにしている。


 そして少し経つと・・・


「あっ、出来た!・・・のかな?これでいいんだよね?」


 と声を上げたのは、魔力の扱いがこの中では一番得意なマイである。


「ああ、それでいい。その状態でハイオーガに斬りかかってみろ」


 マイは「うん」と言いながら、ハイオーガへと向かって駆けていく。

 ちなみに全員が戦闘を終えた後に、魔物がハイオーガである事と、その特徴は伝えてある。


 そしてマイがハイオーガに近づくと、勢いそのままに一閃する。


 ハイオーガは身を守ろうと、先程と同じように腕を出したのだが、その腕は切り落とされた。

 しかし先程と違うのは、切り落とされた部分は関節からではなく、筋肉の分厚い部分である。


 斬られたハイオーガ以上に、マイの方が驚いているようだ。


「ええ!?何の抵抗もなかったんだけど!!こんなにスッパリ斬れるものなの!?」


 驚きを口にしているマイに戻ってくるように合図を送ると、信じられないといった表情を浮かべながら戻ってきた。


「そんなに驚いたか?」

「そりゃあ、驚くよ!あの硬い腕が、豆腐でも斬るかのように抵抗感がなかったんだから!」


「豆腐?何の事かわからんが、あれが出来るか出来ないかでは大きく違う。魔力を武器に纏わせる事によって、攻撃威力は比較にならなくないほど上がるし、それだけでなく武器を保護する役目もある」

「そうだったんだ・・・」


 俺がマイに説明しているのを、他の連中もちゃんと聞いており、次は自分もと意識を集中させ始めた。


 そしてリョウタ、ユウコも出来る様になりハイオーガと戦い、最後にマサキも感覚を掴んで出来る様になっていた。


 最後であるマサキには、ハイオーガに止めを刺してこいと伝える。


 マサキは頷きながら、ハイオーガへと向かって行った。


 俺は特に気にも止める事もなく、マリア達へ「マサキがハイオーガを倒したら帰るぞ」と言おうとしたその瞬間、俺の魔力感知がある事を察知した。


 それはマサキが向かっている、ハイオーガからである。


「マサキ!!ちょっと待・・・」


 俺が最後まで言う間もなく、マサキはハイオーガに止めを刺してしまった。


 すると、ハイオーガの内側からまばゆい光が放たれたのだった。



お読み頂きありがとうございます。



戦闘シーンについて。

重要な場面以外は、なるべく短く簡潔にしているつもりですが

この場面が長すぎるとかあればご意見お願いします。

逆に、短すぎるとかあっさりしすぎていると言うのであれば、

それはそれでご意見頂けると幸いです。


戦闘シーン以外でも、

このキャラの出番や絡みを増やして欲しいなどあれば

ご遠慮なく仰って下さい。


他にもご意見ご感想などございましたら、宜しくお願い致します。


更新頻度はそれほど早くはありませんが、

これからも楽しく読んで頂けるように頑張りますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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