第18話 ダンジョンでの野外授業とJの役割
「よし、やったぞ!」
「気を抜くなよ!まだいるんだ!」
魔物と戦っているクラスメイト達の声が聞こえてくる。
今日は、セントフォールの近くにある洞窟ダンジョンへと野外授業に来ていた。
以前、森ではケルベロスの変異種にあったとはいえ、生徒達を鍛えるのに野外授業で実戦を経験させないわけにはいかない。
それに、この洞窟ダンジョンは深くまで潜らなければ、強い敵と遭遇する事はありえない。
不思議な事に、階層ごとに出現する敵の強さが決まっている。
従って、自分達の技量に合わせた階層で戦っていれば、それ程問題は無い。
ただし、洞窟の入り口を抜けてしばらくするとある、この広々とした空間は別として、そこからは細い道が複数枝分かれしたりしている為、別行動する場合は他の相手の状況がわからない。
何かあっても気づく事が困難な上、助けに行くにしても時間が掛かる可能性がある。
その点が、森や草原なんかよりも難易度が上がるのだ。
それでも1階層では、余程油断しない限りは大丈夫だとは思う。
まあ、クラスメイトの実力からすると、精々地下3階層までがいい所だろう。
勇者達は、地下5階層までは余裕がありそうだ。
その地下5階層だが・・・
ダンジョンは面白い事に、5階層毎にフロアボスというのがいる。
同じ階層の他の魔物よりも一際強い魔物が1体、次の階層へ降りる階段の前で立ち塞がるのだ。
勇者達なら、その5階層のフロアボスでも倒す事は可能だろう。
と、そんな事を考えている間に、この空間にいる魔物は全部倒したようだ。
ちなみに、ダンジョン全部が全部ではないが、なぜか一定時間を経過すると再び魔物が現れる。
おそらくはダンジョンの魔素と瘴気により、自然に発生すると考えられている。
従って、ダンジョンに潜って再びこの場所に戻ってきた時には、また魔物が現れているだろう。
ちなみに、俺とジュリーは特に何もしていない。
この程度の敵に、俺達が参入したら訓練にもならないからだ。
セリシアも、俺とジュリーが勇者よりも強い事を理解しているため、それは了承している。
むしろサポート役に徹して、なるべく手を出さない様に釘を刺されているくらいだ。
ちなみに、このダンジョンは全体的にそこそこの広さを持っているとはいえ、学年全員が来ると人で一杯になってしまうため、日を分けて1クラス毎に来る事になっている。
そのため、今日は俺のクラスのみ。
そして、前回と同じように複数のパーティを作り、この先の枝分かれした道を各々で攻略していく事になる。
俺とジュリーはどこのパーティにも属さず、セリシアと同様にクラスメイト達に危険が及ばないように監視するだけ。
従って、勇者達とも別行動である。
まあ、常に俺がいるとも限らないので、自分達の判断で動けるようにならないといけないため、それに関しては都合が良い。
目安は、先程述べたように地下3階層まで。
地下4階へ降りる階段手前で、一度全員が集合する予定である。
「というわけで、頑張れよ」
俺は勇者達とマリアに声をかける。
以前は別パーティにいたリョウタも、今回は同じパーティにいる。
そろそろ勇者達は勇者達で連携を深めなければならないし、他のパーティに勇者を入れてしまえば、そのパーティが勇者に依存してしまう可能性があるからだ。
まあ、それはいいとして、俺が声をかけると勇者達とマリアは少しだけ沈んだ表情を浮かべていた。
「何が、というわけなのかわからないけど・・・でも、ジョーク君がいないとなると、少し不安になるね」
そう口にしたのはマイである。
「だからこそだ。俺がいるから安心だと考えてしまうようでは、いざとなった時に戦えなくなってしまう。これからは余程の事が無い限り、実戦で俺が口や手を出す事はしないつもりだ。敵の種類・特性・行動などを自分達で見極め、自分達で考えて行動するんだ」
不安そうにしているマイに、俺は突き放す様な言葉を投げかける。
常に俺が一緒にいるわけではないのだから、俺がいなくても戦えるようになってもらわなければ困る。
それと勇者達以上にマリアが不安そうにしているが、マリアだっていつどこで誰から狙われるかもわからない。
だから自分の身くらい自分で守れるようになって欲しい。
とはいえ、さすがに俺の目の前で死なせるつもりなどはない。
だから、その時だけは守ってやるつもりではいるが。
俺の言葉を聞いて、マイとユウコ、マリアは不安そうにしながらも、何とか頑張ろうと自分を奮い立たせようとしていた。
そして、マサキは最初からやる気があったが、俺の言葉で更にやる気をみなぎらせていた。
リョウタはいつも通り、「ふん、お前がいなくても大丈夫だっての」とか強がりを言っていた。
俺は彼らを見送ると、ジュリーに声をかける。
「悪いけど、ジュリーは後ろから他の生徒達を見守ってやってくれるか?」
「ん、それはいいけど・・・ジョークは?」
「ああ、俺は先回りする」
「ふふっ、ジョークは優しい」
ジュリーは、俺が簡単な言葉しか告げなくても、何をしようとしているのかを理解しているようだ。
ただ、俺自身は優しいつもりはないし、直接そんな事言われると恥ずかしいから止めてほしいのだが・・・
「いや、別に・・・・・まあ、それはいいや。それよりも頼んだぞ」
「ん、わかった。任せて」
俺はジュリーに生徒達の安全を頼むと、セリシアの元へと向かう。
「セリシア先生」
「あら、ジョーク君。どうかしましたか?」
「いや、ただの提案なんだけど、後方はジュリーとセリシア先生に任せて、俺は先に行こうかと思うんだけど、いいかな?」
「・・・なるほど、そうですか。・・・ふふっ、ジョーク君は私が思っている以上に、思いやりがありますね」
もう、やめて!!
と、本気で叫びたくなった。
なぜ皆、俺の事をそんな風に感じているんだ!?
俺は自分の思う通りに動いているだけで、そんなんじゃ・・・・・
って、もういいや・・・
「わかりましたよ、ジョーク君。じゃあ、お願いしますね」
「あ、ああ」
セリシアも俺がやろうとしている事を、完全に理解しているらしい。
俺は肩を落としながら返事をすると、どのパーティも通らなかった道を選び奥へと進む事にした。
疾走する俺の目の前に魔物が出現する。
「グアアアア!!」と叫びながら俺に襲いかかってくるが、そんなものは無視である。
俺は魔物を倒さずに、そのまま横をすり抜ける。
俺が先行してやろうと思っている事は、魔力感知でダンジョン階層内にいる全ての魔物の位置と強さを確認し、この間のような変異種が発生していないのを確認する事。
それと、死に直結する様な凶悪な罠がない事を確認する事だ。
まあ、上層階にそんな罠はないはずだが、それでも念のためである。
そして、万が一そんな罠があれば、潰しておこうと思っていた。
・・・・・確かにそんな事を考えている俺は、自分で思っていたよりも過保護なのかもしれない。
と、そう思ったのは秘密である。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
俺はものの数十分で、地下4階層へ降りる階段の手前まで来ていた。
もちろん、地下2階層と3階層は全てチェック済みである。
本来なら、この場所まで来るだけで数時間はかかるだろう。
しかし俺は、魔力感知等を駆使した脳内マッピングは完璧なので、道に迷う事は有り得ない。
それに、魔物を倒すわけでも戦利品等を回収するわけでもないため、そこに時間を取られる事もない。
何よりも、俺が疾走するスピードは常人のそれとは比較にならないのだ。
と、そんな事はいいとして・・・
その結果、変異種も凶悪な罠もない事を確認した。
そして敵の強さも全て確認した感じでは、勇者達以外のクラスメイトでもここまで来る事は可能だろう。
ただ、多少時間は掛かりそうだが。
俺は彼らを守る為に戻る必要はないと判断して、この場で待つ事に決めた。
彼らの後方にはジュリーやセリシアもいるし、俺もこの場にいながら魔力感知で全ての生徒の位置を把握しているので、何かあっても特に問題はないと考えたのもあるからだ。
確認した限りでは、最初に辿り着くのは間違い無く勇者達だろうと考えながら、その場に腰を下ろし静かに目を閉じて意識を集中させていく。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
それからおよそ2時間が経った頃。
「はあ、ようやく辿り着いたよ」
俺の前に現れたのは勇者達とマリアであり、マサキが溜息を吐きながら呟いていた。
俺は立ち上がり、そんな彼らに近づきながら声をかける。
「無事にたどり着けて何よりだな」
「うん、ありがとう」
「まあ、時間は大体予想通り。そして、お前達が最初の到達者だ」
「そっか、大分時間掛かっちゃった気がしてたけど、俺達が一番早かったんだね」
「ああ、他のクラスメイト達もじきに来るだろうさ」
「そっか、皆も無事なんだね?よかったよ・・・」
俺の言葉で勇者達とマリアは、安堵の表情を浮かべていた。
のだが・・・
ユウコがある事に気づく。
「・・・って、ちょっと待って!?えっ?あれっ!?ジョークはいつの間に来たの!?私達を見送っていたはずだよね?あれっ!?ってことは、私達が一番じゃないじゃん!!」
「えっ?・・・あっ!」
「そういえば・・・そうですね・・・」
勇者達は最初、目標地点に辿り着いたという安心感が先行して、俺がこの場にいることに疑問を抱いてなかったようだ。
しかし、ようやく落ち着いてきた頃にユウコがふと我に返り、おかしいと気がついたらしい。
その言葉でマイとマリアも、俺が先に来ている事実と最初に到着したわけでは無い事に気がついたようだ。
マサキやリョウタも、そういえば・・・と驚いていたようだが、それも一瞬のことで何か納得しているようだった。
「ははっ。まあ、あまり細かい事は気にするな」
「いや、全然細かい事じゃないと思うんですけどぉ・・・」
俺が何も説明をしない事に、ユウコは不満顔で抗議していた。
「俺は魔物を倒さずに、この場所を一直線で目指したからな。その差だろう」
「ふ~ん?・・・あまり納得はいかないけど、そういう事にしておいてあげる」
俺が適当な説明をしている事に、ユウコは気がついているのだろう。
それでも、これ以上聞いても無駄だと自分を無理矢理納得させたようだ。
他の者達も、ユウコと同様にそれ以上聞いてくる事はなく、大人しく他のクラスメイト達を待つ事にした。
勇者達とマリアがこの場に到着してから、およそ1時間後にはクラスメイト全員が無事に到着して休憩をしていた。
ダンジョンに来てから4時間弱。
戻る時も同じだけ時間がかかると考えると、引き返さなければならない。
ただ魔物の強さとして、他のクラスメイト達には丁度いい訓練かもしれないが、勇者達には少し物足りないだろうとは感じていた。
だからといって、勇者達に他の生徒が合わせてしまえば、命の危険すら出てくる。
そんな判断をセリシアが下すとは思えない。
それに先にも言ったが、時間も時間だ。
当初の予定通り、ここで折り返す事になるだろう。
「さて、では皆さん。充分休んだと思いますので戻りましょう。ただし、自分達が通った道とは、違う道を通って帰るように」
いくら訓練とはいえ・・・いや違うな、訓練だからこそ、様々な事に対応出来る様にしないといけない。
だから、同じ道を通ってしまうと意味がない。
それを考えてのセリシアの言葉だろう。
セリシアの言葉に、腰を下ろしていたクラスメイトが立ち上がろうとした時。
「あ、あの・・・セリシア先生」
と、マサキが手を上げながら声を発した。
「はい、何でしょうか?マサキ君」
声をかけられたセリシアは、マサキに振り返りながら聞き返す。
「俺は地下5階層にいるという、フロアボスに挑戦してみたいんですが・・・ダメ・・・ですか?」
マサキは遠慮がちにセリシアに尋ねた。
やはり、マサキもあの程度の魔物相手では物足りなかったのだろう。
というよりも、この間から随分やる気になっているため、早く強くなりたいと言う気持ちが先行しているようだ。
実力だけで言えば、勇者達ならフロアボスは倒せるはず。
時間さえ考えなければ何も問題はない。
しかし、判断するのはセリシアだ。
他の生徒を勇者達に合わせる訳にはいかないし、かといって勇者達だけをいかせるわけにもいかない。
さて、どうするのかな?と傍観を決め込んでいたら、セリシアが俺をチラッと見た。
・・・・・俺に判断を委ねるのかよ!
はあ・・・まあいいか。
俺はコクンと頷き、ただし勇者達だけにしろという視線を送る。
そんな俺を見たセリシアは、俺の言いたい事を理解して口を開く。
「わかりました、いいでしょう。ただし、行くのはマサキ君、リョウタ君、マイさん、ユウコさんの4人だけです。そしてサポートとして、ジョーク君について行ってもらいます」
俺が彼らに付き添うのは決定事項らしい。
まあ、当然といえば当然だろうな。
ただ、言い出しのマサキや血の気が多いリョウタは別として、巻き込まれる事となったマイとユウコは驚いた表情をしていた。
しかし、彼女達も早く強くなりたい気持ちは一緒なので、勝手に決められた事を不満に思いながらも、特に反対意見を言うつもりはないようだ。
と、そこに。
「セリシア先生!!それでしたら、私も同行します!」
と、マリアが名乗りを上げた。
すると、セリシアが再び俺をチラッと見た。
いや、だから!!
なんで俺の判断を仰ぐんだよ!!
とは思いつつも、溜息を吐きながらマリア1人くらいなら大丈夫だと頷いておいた。
「わかりました、では特別にマリアさんも許可しましょう。決してジョーク君の側から離れないようにしてくださいね」
「えっ?あっ、は、はい・・・」
セリシアの言葉を聞いたマリアは、なぜだか徐々に顔が赤くそまり、少し俯き加減になりながら、小さく返事をしていた。
そしてその状態まま、トコトコと俺の所に来たかと思うと、少しだけ視線を上げ上目遣いをするように俺を見る。
「ジョークさん、お手数をおかけする事になってしまい申し訳ございません。ですが、宜しくお願いしますね」
マリアは謝りながらも、最後は良い笑顔を俺に向けていた。
と言う事で、他のクラスメイトとセリシア、そしてジュリーは帰還組。
勇者達とマリア、そして俺が地下5階層のフロアボスの討伐組となった。
ジュリーに関しては、他の生徒達をダンジョンの外まで見送った後に、戻ってくると言っていた。
まあ、ジュリーがそこまで心配するような事ではないと思うけど。
なんて考えていると。
「ちっ、ちっ、ジョークは私の物。置いて帰るなんて有り得ない」
と、下手な舌打ちと人差し指を左右に振りながら、戻ってくる理由を説明していた。
いや、俺は誰の物でもないっての!!
ってか、やっぱり俺の心を読んでるのか!?
と嘆きながら、ジュリー達と別れたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
ブックマークなどもありがとうございます。
励みになります。
なかなか執筆の時間が無かった事と、
続きを書いていた途中で急遽展開を変更し、書き直した為に時間が掛かってしまいました。
申し訳ありません。
あと認識の違いがあると、イメージのずれが生じるので念のため。
時間における強弱について。
きちんと調べてみると、例えば1時間弱というと1時間に満たない時間であり
1時間強というと1時間を過ぎた時間が正しいようです。
切り上げるのが弱、切り捨てるのが強という事です。
なので本文の4時間弱は、4時間は経過していない時間です。
知っている人からすると、何を当たり前な事をと思うかもしれませんが
自分も調べるまでは確実では無かったため、一応書いておきます。
時間が掛かっても載せていくつもりですので、
これからもどうぞ宜しくお願いします。




