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第1話 古代龍討伐の裏と、Jの新たな任務

 


「一体、これはどういう事なんだ!?」


 とある国のとある場所で、各国の軍事責任者10数名程による緊急会議を開いていた。

 そして1人の男が立ち上がりながら叫んだ。


「まさか古代龍(エンシェントドラゴン)が群れを率いて現れるとは思っていなかったが、むしろそれこそが“トランプ”を壊滅させる事が出来る好機だと思ったのだがな」

「ええ、いくら“トランプ“でも古代龍を相手にすれば、ある程度は打撃を与えられると思ったのですけどね」

「そこを我々、連合軍を総括して古代龍もろともトランプを一網打尽にする目論見が、完全にはずれてしまったな・・・」


 最初にいきり立った男の言葉を無視するように、各々が今回の作戦が失敗してしまったのだと嘆く。


「そんな事はどうでもいい!私はお前達が、確実に“トランプ”を壊滅させる事が出来ると言うから、今回の作戦に乗ったんだ!」


 そう叫ぶ男を、他の者達は冷めた目つきで眺めていた。


「我が国の軍団だけでも古代龍ごとき始末出来るわ!そんな我らをもってすれば、“トランプ”など壊滅させる事などたやすい!それなのに、途中で作戦を中止するとは何事だ!?」


 状況を全く理解出来ていないこの男に、他の者達は溜息を吐いていた。


「・・・では、其方の軍団で勝手に“トランプ”に挑むがいい。だが、よく考えてみろ。たった4人、しかも全員が無傷で、古代龍とドラゴンの群れ100体以上を殲滅したのだぞ?」

「・・・恐れながら訂正させて頂きます。情報局の話によると、正確には5人いたようです」


 勝手に挑めと言った男の後ろに控えていた部下の男が、最初の情報は誤りだったと伝える。

 もし相対する事になった時に、敵の情報に少しでも誤りがあれば、それが命取りになるからである。


「そうか、わかった。どちらにしろ、たったの5人だ。それだけでも驚異だというのに、“トランプ”には更に戦力が控えているのだぞ?その事を念頭に、それでも奴らと戦いたいと言うのなら止めはしないぞ。だが、其方が先走るというのであれば、我々は協力するつもりはない」

「あ、い、いや・・・」


 確かに、威勢の良かった男の軍団は、この場に集まった国の中では戦力が高い方である。

 とはいえ古代龍とドラゴンの群れに、たったの5人で打ち勝つような者達を相手にするには、分が悪すぎる。


 そう現実を突きつけられてしまっては、さすがに何も言えなくなってしまった。


「それに、話を聞いた所によると・・・奴らは全員、こちら・連合軍の存在に気づいていたようだ」

「それは本当ですか!?見つからないように、かなり距離を取っていたはずですが!」


 中には、その事を部下から聞いていた者もいたようで、その者は沈んだ表情で下を向いていた。

 知らなかった者は驚きの表情を浮かべ、話の続きを待っている。


「ああ、諜報員による遠視で奴らを観察していると、戦闘が始まった事で介入するチャンスだと思った瞬間が何度かあったようだが、その都度必ず目が合ったそうだ」

「まさか・・・遠視による視認は、視線を感じる事はないはずだ・・・」


「しかし、それが現実だ。その奴らの目には、我らが戦いに介入する事をウキウキとしている者、介入するなら容赦はしないと訴える者などがいたそうだ・・・その情報をよこした諜報員は、その時に感じたあまりの恐怖で使い物にならなくなってしまったがな」

「「「・・・・・・・」」」


「それだけでなく、自分の判断で動こうとした指揮官もいたらしいが、やはりその度に背筋に寒気を覚えたと言っていた」

「なんて事だ・・・」


 話を聞いている内に、その事実を知っている者も含めて、皆が顔を青ざめさせる。

 なぜなら、こちらが一方的に相手を探っていると思っていたのに対し、それが相手には全て筒抜けであったという事に他ならないからである。


「・・・・・作戦中止にした理由は、奴らが古代龍とドラゴンの群れを倒した事が原因では無く、むしろそちらが本当の理由というわけですか」

「ああ、そうだ。どのような手段かは知らないが、奴らには我々の動きや心情を察する事が出来るようだ。あのまま攻撃を仕掛けたら、全滅したのはこちらだろう。我々の事など歯牙にかける必要などないと、見逃されたのだろうな」


「相手がこちらを察知していたのは事実としても、攻撃を仕掛けてこなかったのは、ドラゴン達を相手にして我々を相手に出来るほど力が残って無かったから、とは考えられないですか?」

「・・・・・そう思うのなら、其方も攻撃を仕掛けてみればよい。私の軍は一切手を貸さぬが・・・私は引き際を間違えるほど愚かではないし、自殺願望など持ち合わせてはいないのでな。ましてや、相手との実力差を見抜けぬほど無能でもない」


 その言葉に、大半の者が顔を下に向けた。

 中には、あからさまに苛立ちを隠そうともせずに、睨んでいる者もいたが。


「今回の事で重々承知した!はっきり言おう!我らが束になった所で“トランプ”を壊滅させる事は不可能だ、と。従って、速やかにもう一つの計画に移ろうではないか」


 本来であれば、その計画は棄却されていた。

 というのも、それは国同士が協力するものではなく、国ごとで独自に行われる事だからだ。


 それが故に、計画が成功した国は絶大な力を手に入れる事になり、失敗した国にとっては驚異となり得る懸念があったからだ。


 今回は共通の敵の排除という、同じ目的の為に動いた。

 しかしそれがなければ、普段から小競り合いをしている各国が、互いに手を取り合う事など有り得ないのである。


 だからこそ、そのもう一つの計画は失敗の可能性の方が高いとは言え、表面上では許可する事が出来なかったのだ。


 もちろん、水面下で行おうとしていた国もあったが・・・


 しかし、こうなってしまっては、各国も許可せざるを得ない。


「・・・そうですね、仕方がありません」

「そうだな。私も特に異論はない」

「まあ、うちとしては、最初から賛成だったけどな」


 と、各々が思い思いの言葉を口にする。


 その結果、その計画が進められる事が決まったのである。

 そして決まるや否や、各々が即座に自国へと戻っていくのであった。




 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・




 古代龍(エンシェントドラゴン)討伐より数日後。


「どうだ?ゆっくり休めたか?」


 俺は総帥室で、デスクに座る総帥を前にして立っていた。

 その総帥が、俺に問いかけていた。


「・・・本当に休めたと思うのか?だとしたら、その目は節穴だわ」


 俺は総帥相手に悪態をつく。


「ははっ、そりゃそうだな。わるかった」


 “トランプ”は他の者からは恐れられているが、実は意外とアットホームな組織だ。

 だから、誰も敬語など使わないし、使う必要もない。


 それは総帥が相手でも同じ事。

 それ故に、俺が総帥に悪態をつこうが、総帥が怒る事はないのである。



 総帥が俺に休めたかと聞いたのは、古代龍討伐により莫大な金が入った事と、文字付き(レターズ)が出張るほどの依頼が無かった為、休暇をくれていたからだ。


 しかし、仕事が無いとはいえ・・・いや、仕事が無いからこそ、俺は大変な目に遭うのだ。


 と言うのも、“トランプ”の中で一番年下である俺は、組織の中ではマスコット的な存在にされてしまっている。

 なので、仕事がなくてアジトにいる場合、常に誰かが俺を構いにくる。


 別にそれが嫌なわけではないが、少しくらい自分の時間があってもいいと思う。


 中でも、精神的にかなり疲れてしまったのは、古代龍討伐前に彼女達が言っていた言葉が実行されてしまった時である。


 依頼を終え、そそくさと彼女達に気づかれないように別れ、彼女達が風呂に入らないだろう時間を選んで入ったにも関わらず、彼女達が乱入してきたのだ。


 もちろん男風呂である。


「やっほー!約束通り、一緒に風呂に入るぞぉ!」


 アンリが一糸纏わぬ姿のまま、こちらにブンブン手を振ってくる。

 クリス、ジュリー、アリスの3人も、身体を隠す事無く笑顔で近づいてくる。


「ここは男風呂だ!それに約束なんてしてない!」


 と言った所で、無駄な事は百も承知。


「昔から一緒に入ってるし、ジョークには全て見られてるんだから、今更じゃないか」


 とは、アンリの言葉。

 他の3人も同様に、うんうんと頷いている。


 それは何年か前の話だろう!と言った所で無駄な抵抗であった。


 その後は、勝手に身体を洗われるわ、彼女達の身体を洗わされるわ、湯船につかるなり全員がくっついてくるわで大変だった。


 ちなみに、他の誰も入ってくる事が無かったのだが、それは風呂のドアに『入ったら命は無い!!♤A』と書かれた札を下げていたからだった。


 そんな感じで、部屋でも外でも風呂でも、どこでも気の休まる暇などなかったのである。



「くくっ、いやなに、楽しそうにしてるじゃないか」


 俺がそれを思い出して溜息を吐いていると、総帥が笑いを堪えきれずに噴き出しながら、そう宣った。


「なあ、総帥?どうやらあんた、死にたいようだね?」


 俺は殺意のこもった目を向け、手に魔力を集める。


「だあ!わかったわかった、悪かったって」


 俺の様子を見て、総帥は慌てて謝った。


 総帥の冗談に、俺も冗談で返しただけなんだけどな。


「で、そんな事はどうでもいいけど、俺を呼んだのはそんなくだらない事を言うためじゃ無いんだろう?」


 俺は雑談ばかりしてくる総帥に、ここに呼ばれた理由を問う。


「ああ、そうだな・・・古代龍討伐後にも聞いたが、もう一度確認しておきたい。あの時、遠くで周りを囲んでいた連中には、お前の顔は見られていないんだな?」

「俺がそんなヘマをすると思うか?奴らにはばれた所でどうという事はないが、俺の存在自体あやふやにしておいたし、目を合わせてやった時も、奴らには俺の目しか見えないようにしてやったさ」


「ふむ」

「それと、それこそ必要無いとは思うけど念のため、ついでにアンリ達の姿も別人に写してやった」


 正直な所、別に彼女達の姿が世間に知られた所で、何一つ問題はない。

 実際、“トランプ”のメンバーの中には、顔割れしている者もいる。


 なぜなら、街で“トランプ”のメンバーだとばれても、捕まえる事は容易でない。

 それこそ軍規模で、かつ相当の被害を覚悟して初めて、捕らえる事が可能かどうかという所だろう。


 文字付き(レターズ)に限っては、それでも無理だと思う。


 とはいえ、アンリ、クリス、ジュリー、アリスはまだ顔ばれしていないので、彼女達が動きやすいように一応隠しておいたのである。


「まあ、あの娘達なら別に問題はないが、とりあえずよくやったと言っておこう」


 総帥も、その辺りは全く心配していないようだが、顔ばれしていないのであれば、それはそれでいいと褒める。


「で、今回の話というのは、何よりもお前の顔がばれてないと言う事が一番需要な事なのだ」

「というと?」


「遠巻きに見ていた連中は、古代龍の出現によって“トランプ”に打撃を与えられると踏んでいたのだろうな。その目論見が大きく外れてしまったため、奴らは計画を変更せざるをえなかった」

「・・・なるほど」


「そして奴らが移行した計画が、勇者召喚の儀を行うという情報を入手したのだ」

「勇者召喚の儀?」


「そうだ。本当に勇者が現れるかは別として、その儀にて異世界と呼ばれるこの世界とは別の世界から人を召喚する。それが成功した場合、異世界人が世界を渡る時に絶大な力を授けられる。その力は我々にも脅威をもたらすだろうな。ただリスクが大きく、熟練の魔道士が数十人で行い、失敗すれば全員が死ぬ。成功しても大きく衰弱してしまうのだ」

「・・・勇者召喚の儀というのは理解した。そして、それを話したと言う事は、それが成功した国があると言う事だな?」


「ああ、ここから少し離れているが、セントフォールという国だ」

「それで、俺の任務はその脅威を摘む・・・勇者を暗殺するという事か?」


「いや、違う」

「??」


「その国には戦闘のスペシャリストを育てる為の学校がある。その名をアキレウス学院というのだが、そこに彼らを入学させて戦闘技術を学ばせるらしい」

「いまいち要領が掴めないな・・・それよりも、彼ら?一人じゃないのか?」


「ああ、召喚されたのは全部で5人いたらしい。それでお前の任務の事だが・・・その学校に入学し、彼らを観察して欲しいのだ」

「俺がその学校に入学して、彼らを観察?始末しなくていいのか?」


「ああ、その必要はない。脅威になるかもしれないというだけで、別に脅威とは捉えていない。だから、動向を探るだけでいい」

「・・・色々と腑に落ちないけど・・・期間は?」


「そうだな・・・とりあえず出発は明日。学校に入学してからは短くて1年、状況によってはそれ以上も考えている」

「意外と長いんだな」


 1年を超える任務なんて、中々珍しい。

 そう考えて、俺が呟いたのと同時くらいに・・・


 バンッ!!


 と、入り口のドアが大きく開かれた。


「ちょっと!どういう事だい!?」


 アンリが怒りの表情と共に部屋へと入ってきた。

 その後ろには、同じように怒りを滲ませながらクリスとジュリー、アリスが続いて入ってきた。


「ジョークを遠くに、しかも1年も任務に行かせるだって!?」

「ふざけてるとしか思えないね」

「総帥の脳には、ウジが沸いてる・・・」

「総帥は、頭を爆発させて死ねばいいのですよ」


 そして入ってくるなり、全員が総帥に向かって思い思いの言葉をぶつける。


 いや、俺も人の事は言えないけど、ジュリーとアリスは物騒過ぎるだろう。

 冗談にもほどが・・・って、2人は結構本気で考えているようだ。


「ちょ、ちょっと待て!落ち着け!」


 あまりの剣幕に、総帥はアワアワし始める。


「これが落ち着いていられるかい!?何も出来ないジョークを、セントフォールなんて遠い場所へ1年も行かせて、何かあったらどうするんだい!!というか、私が寂しいじゃないかぁ!!」


 いや、何も出来ないなんて事はないんだけど。

 この4人は基本的に、俺を可愛がりすぎて何もさせてくれないだけである。


 ってか、アンリは俺を心配するフリをして、最後に本音が出たな?


「アンタはドラゴンと戯れてればいいんだっての。そんな事より、私のジョークを行かせる訳にはいかないわよ」


 クリスはアンリの顔を押しのけながら、力のこもった目で行かせないと訴える。


「だから、ジョークは貴方のものではない・・・ジョークは、私の所有物」


 おっとぉ。

 俺はジュリーからは、完全に所有物扱いされましたよ?


「ジョーク君を1人で遠くに行かせるくらいなら・・・総帥を殺して、ジョーク君と逃避行します!」


 こらこら、俺を総帥殺しの共犯にするんじゃない!


「ジョークが可愛くて離れたくないのは十分わかったから、少し落ち着け」


 総帥は自分の事を散々貶され、命の危険が迫る発言までされているにも関わらず、やれやれといった顔をしながら落ち着かせようとしていた。


 総帥にとっては、彼女達も娘の様に可愛いのと、物騒な発言もいつもの事だからである。


「じゃ、じゃあ!」

「いや、それはない」


 恐らくアンリは、俺の任務の取りやめを期待したのだろう。

 しかし、総帥はアンリの言葉を予想し、それをきっぱりと否定する。


「これは決定事項だ。ジョークはセントフォールに行かせる」


 アンリが愕然として落ち込んだ後ろでは、クリスとジュリーとアリスがこそこそと話している。


「総帥の頭に、私が間違って魔法銃の引き金を引いてヒットしてしまえば・・・」

「それよりも、私が総帥に甘えようと抱きついた時に、なぜか私の手に毒付きのナイフを持っていて・・・」

「私が魔法の実験をしていると、なぜかそこに総帥の頭があったではだめですか?」


 物騒過ぎる!


 クリスの魔法銃、ジュリーの暗器、アリスの魔法。

 彼女達なら、やろうと思えば簡単に出来る所が怖い。


「だったら、私がジョークに付いて行く!」

「あ、それなら私が行くっての!」

「嫌ですねぇ、それは私の役目に決まってますよね」


 アンリとクリス、アリスは俺に付いて行くと言い始めた。


「いや、それも駄目だ。お前達には、ここにいて貰わないと困るし、何よりも学校に入るには無理があるだろう?」


 総帥は、彼女達が俺と一緒に行かせられない理由を告げる。


 しかし、総帥は言い方を間違えている。

 下手をすると、さっきの冗談が冗談ではなくなるかもしれない・・・


「は?それは、私が老けてるっていいたいのかい?」

「やはり、銃の暴発で・・・・」

「私の魔法の実験台に・・・」


 やはり、総帥の命は風前の灯火だろう。


「ちょ、ちがっ!そういう意味じゃ無くてだな、お前達は若くて美しいのは間違い無い。ただ、学生と比べると大人の雰囲気があるといいたいだけだ」


 なんとか言い繕った総帥の首の皮が一枚だけ繋がった。


「じゃあ、私が行く。私が必要な任務があれば、うちの(キング)にでも回せばいい。歳はジョークより年上だけど、見た目はほとんど同じ歳」


 実際の所、総帥は俺と一緒に誰かを行かせるとは一言も言っていない。

 にも関わらず、誰かが一緒に行くのも彼女達には決定事項らしい。


 アンリ、クリス、アリスの3人が駄目だと言われたのを見て、ここぞとばかりに手を上げながらジュリーが行くといいだした。


 見た目は同じ歳っていうか、間違い無く年下に見えるけどな。


「はあ・・・ジョークだけで行かせるつもりだったんだがな・・・まあいい、ジュリーなら一緒に学校に行っても問題あるまい」


 総帥の言葉に、断られた3人は絶望の色を顔に浮かべる。


「ぶい!」


 その反面、ジュリーはかなり嬉しそうにして、3人にVサインを向けていた。


 なんか知らないけど、俺の任務なのに俺を抜きにして話が進んでいくのはなぜだろう・・・


 そして総帥の命も、あと僅かかもしれない。

 それほど、3人は恨みがましい目を総帥とジュリーに向けていた。


「というわけで、アンリ、クリス、アリスの3人は待機。ジョークとジュリーにはセントフォールのアキレウス学院に入学して、勇者達の動向を探ってもらう任務に就いてもらう」


 考えてみると、俺が“トランプ”に来てから、1年もこのアジトを離れた事はなかったな。

 それを考えると、アンリじゃ無いが少し寂しい気もするから、ジュリーが来てくれるのは有難いのかもしれない。


「わかったよ。ジュリー、宜しくな」

「うん。ジョークは何もしなくても大丈夫。全部私に任せて」


 いや、それじゃあ俺が行く意味がないだろう。


 案の定、ジュリーは総帥にむしろ手出しをするなと注意を受けている。

 ジュリーはブツブツ文句を言いながらも、俺の護衛という事で落ち着いた。


 本当は護衛も必要ないのだけどな。


「アンリとクリス、それにアリス。3人は俺が戻るまで大人しく待っててくれ。間違っても総帥を亡き者にしないように我慢してくれよ?」


 俺は3人が大人しくしているわけがないと思いつつも、安心させるように声をかける。

 そして俺の一言のおかげで、総帥の命は助かるだろうと思う。


「うっ、くっ、さ、寂しくなったら明日にでも帰ってこいよ!」


 若干涙目になったアンリが、寂しくなれば帰ってこいと言ってくれる。


 というか、明日出発するつもりなのに、明日帰れと?

 要は行くなと言う事だな。


「ジョークは私を置いて行ってしまうんだね?私の身体が恋しくなったら、いつでも呼んでよ!」


 俺達には離れていても連絡を取る手段がある。

 それを使ってでも連絡してくれと言いたいのだろう。


 てか、クリスの身体が恋しくなるって、おかしいだろ!!


「ぐすっ・・・ジューク君??毎日、毎日手紙を私に送るんですよ。送ってくれないと許しませんよ!」


 アリスは泣きながら俺に手紙を送れと言ってくる。


 いや、送るのは構わないけど、さすがに毎日は厳しくないか?


 と、それぞれ言葉を交わしながら、この場は解散となった。



 出発するのは明日だが、別に準備をする必要はない。

 というのも、亜空間収納が出来るので、必要な物は常にそこに入れてある。


 時間の経過も空気も存在しない為、食品・物品において品質劣化する事はないので問題無い。


 だから、出発に備えてゆっくりと休もうと思ったのだが・・・・


 アンリ、クリス、アリスによって、心の平穏を奪われたのは言うまでもない事である・・・・




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