第14話 教師とJ
今回はかなり短めです。
野外学習や決闘が行われた翌週の事。
始業の鐘が鳴り響き、いつも通り教室のドアが開き担任が入ってくる・・・
と思いきや、長い茶髪を後ろで一つに束ねた初顔の女性が教室へと入ってきた。
しかも、なぜか項垂れており、何がをブツブツ言っている。
「(・・・学校を卒業してせっかく騎士になれて、更には憧れの副団長の下で働ける事になったのに、なんでまた学校に来ないといけないのぉ?しかも、たった2年で・・・これって、左遷・・・左遷ですかぁ!?)」
なるほど。
陰からの監視の目が無くなったと思ったら、直接監視役を寄こしたからか。
彼女は誰にも聞こえていないと思っているのだろうが、俺の認識範囲内では音を拾うことなど造作も無い。
どんなに小さかろうと、口に出したが最後。
それは全て、俺には筒抜けなのである。
本来は、騎士が教師をやるなんて事はありえない。
なぜなら、騎士は国の税から賄われており、その比率が教師なんかよりも遙かに高いからだ。
国や民を守る為に存在し、税金から高い給金を受け取っている騎士が、訓練や警備を差し置いて教鞭を執っているなどと一般人に知られたら、おそらく大変な事になるだろう。
だから、おそらく彼女も身分を隠し、一教師に成りすまして俺の監視をするはずだ。
そう考えている内に彼女は教壇に立ち、前を向いて溜息を吐きながら話始めた。
「はあ・・・えっとぉ、急遽お休み頂くことになった先生に代わり、騎士から派遣・・・じゃなくて、このクラスの担任として今日から、監視・・・でもなく、皆さんを教えることになったセリシアです。教師なんてやりたくない・・・なんて事はなく、皆さんを指導できることを、命令として仕方なく・・・なんちゃって!・・・心より楽しみにしています」
・・・・・
え~っと・・・
この人、大丈夫なのか?
俺が彼女の心配してしまうほど、自分の役目や思っている事をぶっちゃけすぎている。
しかも、なんちゃってとか言ってるし・・・
全く誤魔化しきれてないだろう・・・
まあ、俺が彼女の心配をする必要も無いことだし、どうでもいいかと思っていると彼女と目が合った。
そして、そのままじっと俺を見つめている。
まあ、そうだよな。
やはり俺の監視で間違いないだろう。
・・・・・
って、だから俺の方を見過ぎだっての!!
隠す気あるのか!?
なぜ俺が、彼女の心配をしなければならないのか意味がわからず、内心で溜息を吐いていた。
ようやく俺から視線をはずしたかと思うと、彼女は口を開く。
「え~っと・・・指導するにしても、私はまだ皆さんの実力を知りません。なので、今から演習場へ行き、私と1対1で戦ってもらいます。全員とやるつもりですので、時間がかかると思います。なので私と戦っている方以外は、戦いを見て学ぶのもよし、自己研鑽に当てるのもよし、好きなようにして頂いて構いません」
へえ~、面白いな。
こちらは、いくら入学したばかりの生徒とはいえ、およそ30人はいる。
しかも勇者がこのクラスにいる事を、知らないはずが無い。
それでも1人で相手するというのか。
教室に入ってきた時に本人も言っていたが、2年目の新米騎士だというのにかなりの自信だな。
まあ確かに、俺が見る限りではそこそこ強い。
他の新米騎士の実力がわからないから何とも言えないが、それでもおそらく頭一つ分くらいは抜けているだろう。
さすがに、この前のケルベロス相手に1人では歯が立たないかもしれないが、今の勇者よりは上かもしれない。
それでも普通に考えれば、結構きついとは思うけどな。
まあ、本人がやるというんだし、お手並み拝見といこうか。
セリシアが演習場へ向かうように言うと、クラスの連中は本当にいいのか?という視線をセリシアに送りながらも、演習場へと向かっていった。
勇者達とマリアも席を立ち向かおうする中、俺は彼らに「すぐに行くから先に行っててくれ」と伝える。
そして教室に俺とジュリー、そしてセリシア以外誰もいなくなると、セシリアが俺に声をかけてくる。
「確か・・・ジョーク君とジュリーさんですよね?貴方達も早く演習場へ向かって下さい」
その声で俺達は、席から腰を上げる。
そして、セリシアの近くを通り過ぎる時。
「セリシア先生は、騎士で間違いないですね?」
と、俺はできる限り丁寧な話し方をしながら、直球で尋ねる。
すると・・・
「ギックゥ!!・・・な、何を、い、言ってるんですかぁ!?ち、違いますよぉ!わ、私は歴とした教師ですぅ」
いや、さっき自分で言ってただろうに・・・
あれで本当に誤魔化せたと思っているのだろうか?
しかも、目を泳がせながら口を尖らせている時点で、充分うさんくさい。
語尾もおかしくなっているし・・・
「そうですか・・・それで、俺達の監視をするように言われたんですね?」
セリシアの言葉を肯定しながらも、それを無視して更に直球をぶつける。
「ギクギクゥ!!だ、だから、わ、私は教師だと!・・・さ、さっきから、な、何を言ってるんですかぁ!?」
さっきから口でギクッとか言っているけど、そんな人は初めて見たな。
「大方、ミハエルにでも命令されたんでしょう?」
「ちょっ!あ、貴方ねぇ!よりにもよって、ミハエル副団長の事を呼び捨てに!・・・・・って、ああ!!」
ぷぷっ。
なんか面白いな、この生き物。
セリシアに、ポーカーフェイスは向いていないな。
むしろ、こっちから何も言わなくても、全部話してくれそうな気がしてきた。
「ひ、ひどい!誘導尋問だぁ!・・・訴えてやるんだから!・・・ミハエル副団長に慰めてもらうんだからねぇ!」
いや、最後のはひどくどうでもいいし・・・
「くくっ、悪かったよ。別にセリシアが俺達を監視しにきたのかはっきりさせたかっただけで、それ自体はどうでもいいんだよ。むしろ陰でコソコソ動かれるよりは、面と向かってくれる方がすっきりするし」
「ぐすっぐすっ・・・セリシア・・・先生でしょ」
俺が笑いながら口調を戻しセリシアを呼び捨てにすると、本当に泣いてるのかどうかは知らんけど、そこだけはちゃんと注意してきた。
「ああ、わかったよ。セリシア先生」
「いきなり初日で・・・しかも10分もしない内にばれるなんてぇ・・・私の任務失敗だぁ!・・・島流しにされちゃうよぉ」
島流し?
セリシアの事情はよくわからんけど、任務失敗という事はないだろう。
というのも・・・
「いや、多分大丈夫だろう」
「・・・え?どうしてですか?」
「おそらく、ミハエル副団長は最初からこうなることを見越して、セリシアを寄こしたんだと思うからさ」
「それってぇ・・・私が信頼されてなかったと言う事ですかぁ!?」
「いやあ、逆じゃないか?少なくとも俺は、セリシア先生に対してある意味で信用出来ると思ったさ」
「あ、ある意味って・・・」
下手に色々と隠されて監視されれば、それだけ相手の事を疑うのが道理。
その点で言うと、彼女は自分では隠しているつもりでもダダ漏れなので、こちらとしては凄く気楽になるのだ。
ただ、彼女に隠し事は出来なさそうだから、大事なことだけは彼女に伝えるわけにはいかないだろうな。
とは、思うものの・・・
「ははっ、まあそれにセリシア・・・君そのものを俺は気に入ったよ」
「・・・えっ?」
彼女の真っ正直な生き方に、俺は少なからず好感を持った。
その事を伝えたのだが、彼女は一瞬驚いた顔を浮かべた後、少しだけ顔を赤くしていた。
「ちょ、な、何言ってるんですかぁ!!・・・セリシア、君が気に入った。君が欲しいだなんて!!」
ん?
俺、気に入ったとは言ったけど、欲しいなんて言ったか?
「わ、私と、あ、アナタは・・・キャ~!ア・ナ・タって言っちゃった!!・・・そ、そんな事よりも、い、今は教師と、せ、生徒なんですよ!!」
うん、いや教師と生徒なのは知ってるけど・・・
何をはしゃいでるんだ?
「あ・・・で、でも、でもぉ・・・教師と生徒の、き、禁断の恋なんて・・・キャ~!!」
もう何を言っているのか、さっぱりわからん・・・
そもそもセリシアは、教師の前に騎士なのだろう?
「なあ、ジュリー・・・どうなってんの?これ・・・」
俺は目の前の光景について行けず、ジュリーに解説を求める。
が、しかし・・・
「天然の女ゴロシ・・・炸裂」
いや、絶対にそんな事はありませんからあああああ!!
と、心の中で叫びつつも、今までの件から考えて強く否定を口にすることも出来ずにいた。
「ほ、放課後に、だ、誰もいなくなった教室に呼び出されて・・・」
セリシアは残念な人と、要チェックを付けて頭のメモに書き込んでおいた。
「と、とりあえず・・・セリシア先生、俺達は先に行ってますね!」
1人でブツブツ言いながらトリップしているセリシア。
そんな彼女に、あまり深く関わらない方がいいのかもしれないと思い始めていた。
なので、心の距離を置くために再び丁寧な言葉へと戻し、さっさと逃げることに決めた。
「そして、そして・・・」
そんな俺の背後では、セリシアが未だにトリップし続けていたのだった。
お読み頂きありがとうございます。
次話が長くなるかもしれないと思ったので、今回は短めに区切ります。
あと、今まで読んで下さっていた方々へ
勇者の1人が、最初から思いっきり名前間違えていました!
その事に、今まで全く気がついていませんでした!
マサヤではなく、マサキです!
大変失礼致しました・・・
すでに修正はしておりますので。
これからも宜しくお願いします。




