プロローグ 世界最強集団“トランプ”の任務
試しに載せてみました。
「うっひゃ~、爽快な眺めだなぁ!」
今、目の前に広がる光景に、腰まで伸ばしているストレートロングで赤髪の女性が呟いた。
「そう思うのはアンタだけだっての・・・」
「かったるい・・・」
その赤毛の女性に向って呆れた声を投げかけるのが、黒髪をポニーテールにした女性で、面倒くさそうにしているのが紫色の髪をツインテールにした小柄な女性である。
「焼いたら美味しそうですね」
「「「・・・・・」」」
そして桃色のフワフワした髪の女性が、あまりに突拍子も無い事を口にしたため、この場にいた全員が唖然とする。
「いや、その発想はなかったわ・・・」
「アンタも、大して人の事は言えないけどね」
「皆そろっておかしい・・・まあ、今更だけど・・・」
赤髪の女性が、桃色の髪の女性の発想を否定すると、黒髪の女性がまた赤髪の女性を同類だと告げる。
そしてその様子をみて、紫髪の女性が冷静に突っ込む。
タイプは違えど4人とも美人なのに、中身は残念だったりもする。
そんな彼女達が何者なのかというと・・・
世界最強と言われる集団組織“トランプ”のメンバーである。
莫大な金と、組織として請け負う価値があると判断されれば、戦闘・潜入・調査・暗殺など善悪を問わず依頼を受ける、いわゆる“何でも屋”組織である。
そして戦闘であろうと調査であろうと、どんな依頼でも達成率は100%である。
依頼の中には、人々の為になる事も多々あるのだが、人々の記憶に残るのは負の感情によるものが強い。
そのため“トランプ”は、世界最強・最悪の集団組織と恐れられているのである。
なぜ“トランプ”と名付けられているかというと、近接戦闘特化のスペード13名、魔法戦闘特化のハート13名、遠距離戦闘特化のダイヤ13名、隠密特化のクラブ13名と、専門分野をマークで分けた計52名で形成されているからである。
更にマーク内では序列が存在し、序列1位にはA、序列2位にはKとQ、というランク名を与えられる。
KはAを除き男性の中でのトップ、Qは同じくAを除き女性の中でのトップの者に与えられ、そこは同等の扱いとなる。
そして序列4位にJがおり、アルファベットが付く者は文字付きと呼ばれ、文字付きは組織内でも別格の強さを誇る。
そこからNo.10、No.9・・・・・・No.2の順番に序列が決まっている。
数字が付く者は数字付きと呼ばれる。
彼らは基本的には、組織内でもトランプを知る者達からもランク名で呼ばれる事が多い。
しかし、マーク毎に同じランク名が存在するため、組織内ではスペードのAなどと呼んだりする事もあるが。それよりも分かりやすく・かつ敬意を表し文字付きにはコードネーム (CN)も与えられている。
そして彼らとは別に、彼らを纏め上げ組織のトップに君臨するのが総帥である。
総帥は直接戦闘に参加する訳では無い為、マークやトランプの人数に含む事はない。
再び彼女達の話へと戻るが、彼女達4人は全員が文字付きである。
赤髪の女性がスペードのAでCN:アンリ、黒髪の女性がダイヤのQでCN:クリス、紫髪の女性がクラブのJでCN:ジュリー、そして桃色髪の女性がハートのAでCN:アリスである。
ただ本来であれば、違うマークであるとは言え文字付きが4人も任務に参加するのは、滅多にある事ではない。
一回の任務に就き1人がいれば十分である。
下手すれば、それでも過剰戦力になりかねない。
それほど文字付きの力というのは、計り知れないのである。
にも関わらず4人も投入したのは、数字付きでは対処出来ないと判断された為である。
その理由が、目の前に広がる光景であり、彼女達のセリフへと繋がるのである。
「それにしても、まさか古代龍が群れを率いて現れるなんて、私ってツイてるねぇ!」
「アンタの場合は、憑いてるの間違いだって・・・」
アンリが言うように、古代龍がドラゴンの群れを率いて目の前の空へと現れたのである。
その数は、ゆうに100は超えている。
通常であれば、ドラゴン1体現れただけでも、国は軍を率いて討伐に向かう。
しかし、トランプのメンバーであれば成龍となったドラゴン1体程度なら、ナンバーズであっても数人、レターズであれば1人で倒す事が可能である。
ただ、古代龍に関しては長年生きていると言う事もあり、強さは段違いである。
その為、レターズであっても1人で倒す事は容易ではない。
しかも古代龍だけではないのだから。
なのに、スペードのA・アンリは古代龍が現れた事を喜んでいる。
それに対してダイヤのQ・クリスが冷ややかに突っ込みを入れる。
「話してるのはいいけど、油断して依頼失敗なんて事は無いようにしてくれよ?」
そしてこの場には、更にもう1人いた。
話し込んでいる4人・特にアンリに向けて、溜息を吐きながら注意を促した少年。
彼は総帥を除けば唯一、トランプ組織のメンバー52人には含まれていない。
いわゆる53人目の人物である。
従って彼にはランク名はない。
が、呼び名が必要である事から、総帥は彼をJと付けた。
Jではなく、ただのJ。
そしてJではないと区別するために、彼にもCNを与えた。
それがジョークである。
ジョークが言う依頼とは、ドラゴンの群れが空に出現した事が世界中に伝わり、その進行方向にありドラゴンによる壊滅を恐れた国から、莫大な報酬を積まれて依頼されたのである。
総帥は、その金額はもちろんの事、文字付きの憂さ晴らしにもなるだろうと考え、その依頼を受ける事にした。
というのも、文字付きが戦闘に参加する必要があるほどの事などそうそう無い。
数字付きだけで、ほとんどが十分事足りるのだ。
そのため、彼女達も常日頃うずうずしているのである。
従って、彼女達は目の前の光景を目の当たりにした所で、焦りや恐れなど抱く事はない。
むしろ嬉しくて仕方が無いという感じなのである。
アンリに突っ込んでいるクリスでさえ、内心は心弾んでいるのだ。
そしてジョークも同様に、ドラゴンの群れに対しては一切何も感じてはいない。
むしろ、心配しているのは彼女達の行動に対してだ。
戦場と決めたこの場所は、依頼された国から離れているとはいえ、彼女達が張り切りすぎる事で、その国に被害を及ぼすほどの攻撃を仕掛けるのではないかと考えた為だ。
「おお、ジョークも言うようになったねぇ!」
釘を刺された4人はジョークの方を振り向き、そしてアンリがジョークに近づいて頭をなで回しながらそう言った。
「やめろって。もう、子供じゃないんだからさ」
頭をなで回されたジョークは、アンリの手を振り払った。
事実、ジョークは15歳であり、身長はアンリよりも少しだけ高くなっている。
だからこその発言であるのだが、彼女達にとってジョークはいつまで経っても弟の様な存在なのだった。
「私のジョーク君が、こんなに大人な発言が出来るようになって嬉しい反面、姉離れが進んでいるようで寂しいですね・・・」
わざとらしく落ち込んだような仕草を見せるアリス。
「さりげなくジョークをアンタのものにしない!・・・それはそうと、私のジョークが立派に育ったと喜ぶべきよね」
アリスを窘めながら、ジョークは立派だと胸を張るクリス。
「ジョークは、そう言う貴方のものでもないし、誰のものでもない。ジョークは・・・・・私のもの」
クリスに突っ込みを入れ、誰のものでもないと言いながらも、力強く自分のものだと告げるジュリー。
そんなくだらない話をしている内に、古代龍が率いるドラゴンの群れが大分近づいてきていた。
「ああ、もう!俺は子供でもないし、誰のものでもないって!そんな事よりも、ドラゴン達が射程圏内に入るぞ!」
ジョークは彼女達に釘を刺しながらも、とっととドラゴンを倒しに行けと合図する。
「ああ、わかってるよ!ちょっくら、古代龍と戯れてくる!さっさと終らせたら、早く帰ってまた一緒に風呂に入ろうな!約束だぞ、ジョーク!」
「勝手に約束・・・って、ああ!」
アンリが矢継ぎ早に話し、ジョークが「勝手に約束するなよ!」と言い終える事も出来ずに、アンリは既にドラゴンへと向かって駆けていく。
スペードのAであるアンリは剣による近接戦闘スタイルであり、もっともドラゴンに接近して戦うため、一番危険な役割となる。
空を飛ぶドラゴンに対し、彼女も魔法で空を飛ぶ事も可能だが、剣ほど魔法が得意なわけではない上に猪突猛進タイプなので、近づいてから飛んだ方が色々と都合がいいのである。
「まあ、アンリだけずるいです・・・私もジョーク君とお風呂に入るために、早くドラゴンを倒してきますね!」
「いや、誰も一緒にお風呂に・・・って、ああ・・・」
アンリの発言にアリスは、ジョークとお風呂に入るのは自分だとでも言わんばかりの発言をしたため、それを否定しようとしたのだが、やはりジョークが「一緒にお風呂入るとは言ってないだろう」と言い切る前に、アリスは魔法で颯爽と飛んでいく。
ハートのAであるアリスは魔法戦闘スタイルであり、空中でポジションを決め、そこから殲滅魔法を放つつもりである。
「アイツらは本当にバカよねぇ。ジョークが一緒に風呂に入るのは、私だっての」
「だから・・・って、ああ」
ジョークが自分と入りたがるに決まっているとクリスは2人をバカにして、ジョークが言葉を発すると同時に移動を始めていた。
ダイヤのQであるクリスは遠距離攻撃スタイルであり、普段はスナイパーライフルの形をした魔力を撃ち出す魔法銃を使用するのだが、今回はドラゴン相手なので魔力伝導砲という大型のライフル銃 {口径が大きいため、括りとしては大砲}の形をした武器を用いる。
魔力伝導砲は魔力をレーザーのように撃ち出すため、直線上に味方が入らない位置に移動する必要があったのだ。
「ふう・・・やはり、みんなおかしい・・・わかっていなさすぎる。ジョークのお風呂は私のもの」
「・・・・・」
溜息を吐いて肩をすくめながらそう言うジュリーも相当である。
そしてジュリーは、ジョークがたったの1文字すら言葉を発する時間を与えずに、姿を消していた。
クラブのJであるジュリーは、隠密戦闘スタイルである。
従って彼女は、ドラゴンの死角からドラゴンが気づかぬ内に暗殺していくつもりである。
余談になるが、彼女達4人は訳あって、幼き頃から組織に10数年鍛えられ、そして現在トップ集団に名を連ねている。
従って彼女達は、組織の中ではかなり若いのである。
そして、彼女達よりも年下で・・・と言うよりも、組織の中では一番若いのがジョークである。
そんなジョークも、彼女達と同じように幼き頃から組織にいた。
他の組織メンバーから比べ歳が近くて年下であるジョークを、彼女達は日常から戦闘まで面倒を見てきたのである。
だから、そんな弟のような存在であるジョークが可愛くて仕方がない。
先程からの発言も、そこから来ているのである。
従って彼女達4人はこの場にジョークがいるのは、可愛い弟に自分達の戦い方を見せる事で成長させろという意味で、総帥が遣わせたと思っている。
しかし今回、ジョークが戦闘に参加したのはそういう理由では無い。
彼女達の監視と、近隣への被害を最小限に抑える事、ドラゴンの撃ち漏らしの排除。
そして、ある者達に対する威嚇である。
彼女達の監視とは言っても、無茶な事をして余計な被害を増やさないかという事と、総帥に彼女達の働きぶりを報告するという意味である。
それに彼女達はジョークがまだ弱いと勘違いしているが、ジョークにとってドラゴン程度は意にも介さない程度の存在でしかないのである。
総帥だけはその事を理解している。
そのため、彼女達の攻撃を免れるドラゴンも数体はいるであろう事を予想して、彼に始末するように命令を下しているのである。
「はあ・・・」
この場に1人動かずに残ったジョークは、溜息を吐いていた。
それは、古代龍含むドラゴン討伐や、ある者達について心配しているのではない。
彼女達に倒せない者などいないだろうし、最悪でも自分が出ればいいだけだからと考えている。
任務の事を考えてではなく、この任務が終って“トランプ”のアジトに戻った時の事の方が、彼にとっては非常にやっかいな事案が待ち受けているからであった。
とりあえず2話続けて投稿しますが、最初なので説明が増えてしまいました。
3話目からはサクサク進めるようにしていければと思っています。