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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第9章 文化祭に向けて
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4、真夜中のお誘い

 その日の夜。

 窓から覗く月に手を合わせて、コハクに今日の出来事を報告していたら、不意に背中から抱き締められた。突然現れてこんな事をしてくるのは、一人しか居ない。


 この時間だけはコハクに譲ってくれるようで、シロはそれ以上私の邪魔をしてくる事は無い。でも、今日は違った。

 中断せずそのまま想いを伝えていると、シロは離れて私の髪をいじり始めた。


 報告を終えて振り返ると、おもむろに手鏡を差し出される。確認したら、後ろで綺麗にアップされてまとめられていた。


「すごい……シロ、器用なんだね」


 シロにもこんな女子力が隠されていたなんて……流石はすごく綺麗な長髪の持ち主だ。髪の扱いには慣れているらしい。面倒な時はこうやって纏めているのだろうか?


「まぁな。桜、今から俺の部屋に来ないか?」

「え、シロの部屋?! と、突然何を……」


 夜中に部屋に来ないかってそれはつまり……


「ククク、お前何でそんな顔赤くなってんの?」

「だ、だってシロが変な事言うから!」


 よくよく考えてみれば、毎晩彼が私の部屋に来るこの状況も、普通に考えたらあまりよろしくないのでは?

 というか、白狐の姿してるから普通に今まで同じベッドで寝てたけど、それもかなり危険な行為だったのでは?

 でも霊力の補充してくるぐらいで、最近は特に変な事はされない。それは、私に魅力がないからなのか?

 それもそれで逆に虚しい気持ちになる……って何を考えているんだ私は!


「案ずるな、お前の嫌がる事はしない。見せたいものがあるんだ」


 穏やかな表情をしているシロに害はなく、見せたいものという言葉の方に興味を引かれた。


「分かった、着替えるからちょっと待って」


 その時、シロがどこからともなく紙袋を差し出してきた。


「お前のセンスのなさはよく分かった。大人しくこれを着ろ」


 紙袋の中には今日シロがショッピングモールでコーディネイトした服と、最後に皆で作り上げたコハクが好きそうな服が入っていた。


「これ……」

「お前にやるから、好きな方を着ろ」


 シロはそう言ってクルリと身体を翻した。


 これは……試されているのか?


 好きな方と言われても、どちらかと言えば露出の少ないコハクが好きそうな服の方がいい。

 しかし、シロがわざわざ選んでくれたものを差し置いてこちらを着るのも如何なものか。

 もし、コハクとシロのどっちが好きか気持ちを試されているのだとしたら……選べないよ。


「着替えたか?」

「まだ! もうちょっと待って」


 慌ててパジャマを脱ぎ捨て私が選んだのは……


「何で両方着てるんだ?」

「ど、どっちも好きで選べなくて……」

「お前の気持ちは分かったから、今は俺が選んだ方だけ着てくれないか?」


 私がコクリと頷くと、シロは再び背中を向けた。

 急いで着替え直して声をかけると、私の姿を見てシロは満足そうに微笑んでくれた。


「ありがとう、シロ。大事にするね」


 そんなに嬉しそうに笑ってくれるなら、変に勘繰らなくて最初から素直にシロが好きな方を着ればよかったと少しだけ後悔した。


「コハクが目覚めたら、もう片方の服着てデートでもしてやるといい。泣いて喜ぶぞ、きっと」

「うん……ありがとう」

「じゃあ行くぞ」


 シロは私の肩を抱き寄せると、眩い光を放って一瞬で自分の部屋へと移動した。

 どういう原理でそんな事が出来るのか不思議で仕方ない。

 その時隣から苦しそうな息遣いが聞こえて、シロの方を見るとひどく顔色が悪かった。


「シロ、大丈夫?」

「桜……ッ」


 頬にすっと手が伸びてきて、そのまま口付けられた。


「いけると思ったのに……全く、情けねぇ」


 顔を背けてボソッと呟かれたその言葉に、霊力が少なくなったのが原因だと分かった。

 きっと私を連れてテレポートしたせいで多くの霊力を消費してしまったのだろう。


「ごめんね、私が一緒だったからだよね」

「俺が誘ったんだから桜は悪くない。せめてもう少し力があれば……」

「私は今のままで全然いいよ。だって、シロの役に立てるの嬉しいから。もっと頼ってくれていいんだよ?」

「それは、もっとキスして欲しいって意味か?」

「え、いや、そういうわけじゃ……ッ!」

「コハクと俺、どっちがキス上手い?」


 しゅんと獣耳を下げているシロを元気付けたくてかけた言葉に対し、何故か変な質問が返ってきた。


「き、急に何を言い出すの!?」

「なぁ、どっち?」


 答えを言うまで引く気はないらしい。


「……シロ」

「そらそうだ、そこまで負けたら流石に俺もしばらくへこむ」

「どうして?」

「俺達妖怪にとって、霊力は無くてはならないものだ。それをより多く回収するために、元々備わってんだよ。例えるなら、人を快楽に溺れさせる媚薬みたいに悩殺する力がな」


 シロはそう言って細い指で私の顎の下をそっと撫でた。反射的に私の身体はビクンと大きく跳ねて、その様子を満足そうにシロは眺めている。


「なんなら、試してみるか?」

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