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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第9章 文化祭に向けて
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2、コーディネート対決

 コンテスト第二ステージ対策に放課後、美香と一緒に大型ショッピングモールへとやってきた。


「何でお前まで付いてきてんだよ」

「変態が暴走せぇへんよう見張っとくんが、俺の仕事」


 二人のおまけを引き連れて。


 ここは最後にコハクとデートをして気まずくなった苦い想い出のある場所だ。

 大型というだけあって様々なテイストのファッション専門店が入っており、お題に沿った服を選びやすいだろうとここへ来たが、少しだけ気か重い。


 今はシロが一緒に来ているから、コハクの事は考えないようにしようと思うけど……ゲームセンターや映画館、フードコートを通るとどうしても思い出してしまう。


「ねぇ、あそこの二人見て! 超イケメンじゃない?」

「ていうか、奏様じゃん! でも連れの人も超格好いい、王子様みたい」

「あーでも女の子連れてる……ダブルデートかな」

「えーショック、でもあの地味な子は違うでしょ。もう一人の子は納得だけど」


 その時、他校の派手そうな二人組が遠巻きにこちらを見て話している声が聞こえてきた。

 地味な子は私で、納得なのは勿論美香の事だろう。


「言ってくれるわね、これから大変身する事も知らずに」

「ほんま可哀想に、分かってへん子等やな」


 目の前には、口角を上げて不敵に笑う美香とカナちゃんが居て、彼等の変な闘志に火をともしてしまったようだ。


「ダブルデートなら、組み合わせは勿論こうだろ」


 シロはクククと喉の奥を鳴らして笑った後、不意に私の身体を横向きにして抱き上げた。


「わわっ、ちょっとシロ! 下ろして」

「コハクはよくて、俺は駄目なのか?」

「そ、そんなわけじゃ……」


 前例を持ち出されては強く否定するわけにもいかず、思わず口ごもる。


「だったら行くぞ」


 そう言って、シロはそのまま周囲の視線も気にせずスタスタと歩き出した。

 コハクに病院内でされた時もかなり恥ずかしかったけど、今はその何倍も人が居てその比をはるかに越える。


「恥ずかしいよ、皆見てる……」


 控え目に訴えてみるが「約束したろ、今は俺だけ見てろよ」と、そんな甘い台詞を妖艶な眼差しを向けて言われては、コクリと頷く事しか出来なかった。


 私の様子を楽しそうに眺め、シロは目を細めて優しく微笑んだ後、「いい子だ」と言って私の額にそっとキスを落とした。


 全身が火照りだして、ゆでダコになった気分だ。シロはすました顔して普通に歩いてるし、何で平気でそんな事出来るんだ。


 じっと眺めていたら、「物足りなかったのか?」と検討違いな事を言って今度は唇を塞がれた。

 一緒に思い出をたくさん作りたいと思っていたけど、スキンシップが過剰過ぎて私の心臓がついていける気がしない。

 シロが満足そうに笑っている傍らで、私は羞恥心から逃れるように、彼の肩に顔を埋めてひたすら目をつむって視界を遮断していた。


「あ、シロ! 一人だけええとこもってくなや」


 後ろからカナちゃんが急いで追いかけてくるのが分かったけど、シロは結局目的の場所に着くまで私を下ろさなかった。

 女性向きのファッション専門店が集まったフロアまできてやっと下ろしてくれた。


「貴方達の後、モーゼの海割りみたいに道が出来てて歩きやすかったわ」


 フフフと笑っている美香に、私は恥ずかしくて口をパクパクしたまま固まった。


「桜、始める前に少しだけ髪をいじっても良いかしら? 時間はそうとらないから」


 美香に促されて、近くにあった化粧室へやってきた。鞄からポーチを取り出した美香は、そこから櫛やゴムなど必要なものを取り出すと一つ結びにしていた私の髪を解いた。


「トリートメントの効果が出てきたわね。髪の状態も良い感じだわ」

「美香のおかげだよ。ありがとう」

「桜が毎日頑張っているからよ。この調子でコンテスト、絶対優勝もぎ取るわよ!」


 話しながらも、美香の手は器用に動き続けていた。ヘアセット用のスプレーを馴染ませた後、丁寧に櫛でといてゆく。

 前髪を残してサイドの髪を適量とると、それを三つ編みにして一旦ゴムで結ぶ。反対側も同じように編んで後ろで一つにまとめる。存在感のある大きなリボンのバレッタで結び目をとめると、清楚なお嬢様スタイルが完成していた。


 かかった時間、わずか五分。


「すごいね、美香!」

「簡単だから桜も家でやってみるといいわ。コツは編み込む時に高く持ち上げながら結ぶ事よ」

「そうなんだ。やってみるね」

「第二ステージは髪も自分でセットしないといけないから、少しずつ覚えていくのよ。メイクとヘアセットは楓さんにも協力要請しているから、家でもしっかり学ぶといいわ」

「分かった。頑張るね」


 化粧室を後にすると、前方に女子のサークルが出来上がっていた。その中央にいるのはもしかしなくても、カナちゃんとシロだった。こちらに気付いたらしいシロが


「散れ! 寄るな! 群がるな!」


 周囲の女子を威嚇しながら、サークルを抜けてこちらに近付いてきた。


「ど、どうかな?」

「誰にも見せたくねぇ。このまま連れて帰る」

「え、ちょっと、シロ?! 待って!」


 私の手を掴んで歩き出そうとするシロに、慌てて待ったをかける。


「いいのかしら? これからが本番なのよ? その姿をみらずに帰っても」 

「……本番?」

「そう、本番」


 美香の言葉に、シロは帰ろうとしていた身体を翻す。


「さぁ、あの偽善ヒーローは抜きで始めるぞ!」


 その時、サークルから抜けたカナちゃんが戻ってきた。


「残念やったな、シロ。勝手な真似は許さへんで」

「チッ」


 二人が喧嘩を始めて面倒な事にならないうちに、私たちは目的を実行することにした。


「お題は『桜の魅力を最大限に引き出すもの』で、時間は二十分として六時になったらここに一旦集合。私もコーディネイトするけど、二人はどうする? 出来れば男性意見も参考にしたいから参加してくれると助かるけど」


 簡単に趣旨を説明した美香は、そう言ってカナちゃんとシロに視線を送る。


「俺もお前に一番似合う服を選んでやるよ」

「そういうの俺得意やから任せとき、ばっちりきめたんで」


 どうやら二人も乗り気のようだ。


「皆、ありがとう」

「じゃあ決まりね、時間になったら順に見て回りましょう」


 それからみんなバラバラに洋服を見始めた。


 私の魅力を最大限に引き出すものか……道着しか思い付かない。

 こんなお洒落な場所にそんなものがあるはずもなく、私はとりあえず近くの店を覗いてみた。


 刻一刻と時間は過ぎ、とうとう集合時間になってしまった。

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