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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第2章 獣耳男子と偽恋生活
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3、ハイスペック王子の動揺

 二限目、数学の授業中――黒板に書かれた謎の暗号文を前に、指名という名の犠牲者が選ばれようとしていた。


「じゃあ、この問題を前に出て解いてくれ。大学入試レベルの応用問題だが、今日教えた事がきちんと理解出来ていれば解けるはずだ。分かるところまででも構わない。誰かやってくれる者は居るか?」


 この先生は目が合った人をよく指名する。

 証明せよとか、そんな難しい問題が解けるはずのない私は絶対に先生と視線を合わせない。


「それでは結城、やってもらえるか?」


 そんな中、ローカルルールを知らないであろうコハクはどうやら先生と視線を合わせてしまったらしい。


 「はい、分かりました」


 大丈夫かな……そんな私の心配をよそに、コハクはその問題を難なく解いてしまった。

 指名した先生も全て解けるとは思ってなかったようで、驚いたようにコハクを見ている。

 しかも黒板に書かれた字は先生の問題文よりも綺麗で見やすい。

 どこからともなく拍手がわき起こり、コハクは少し照れながら席に戻っていった。



***



 三限目、体育の授業中――


「キャー! 素敵!」


 体育館中に黄色い歓声がこだまして耳が痛い。

 休憩中の女子はもちろん、試合中の女子までもが隣のコートに目を奪われて、プレイが中断してばかりだ。得点係としては楽でいいけれど。


「うぉ……すげぇ……」


 隣のコートに視線をやると、コハクはバスケ部男子も顔面蒼白になるほどの華麗なプレイで相手を翻弄していた。対峙しているチームの男子はものすごく肩身が狭そうで少し同情する。


 それにしても、コハクは細身なのに中々いい筋肉をしているな。

 ダンクを決める瞬間はダイナミックな力強さがあるし、しなるような動きでドリブルも速い。フォームも美しく、スリーポイントシュートなんて弧を描きながらノーバウンドで綺麗に入る。

 私をダンベル代わりに運んでいくくらいだし、普段から相当身体を鍛えているに違いない。そう思いながらじっと観察していると、不意にコハクと目が合った。

 微笑んでパチリとウィンクをされ……確かに格好いい、「キャー」って言いたくなるのも頷ける。


 だけど──眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群。


 どんだけハイスペックなんだよと突っ込まずにはいられない。

 学園の王子の異名は伊達じゃないと思い知らされた瞬間だった。



***



 昼休み――屋上で一緒に昼食をとった後、ゴシゴシと眠たそうにコハクは手の甲で目をこすっていた。


「眠たいの?」

「昨日、結構遅くまで部屋の整理してたからかな。少しだけ眠い」

「そっか、引っ越してきてまだそんなに日数経ってないもんね。時間になったら起こすから、少しだけ休んでなよ」

「いや、でも……そうしたら桜、退屈でしょ?」

「私の事はいいから、無理しないで」

「ありがとう……ねぇ桜、二つ目のお願いしていい?」

「うん。何して欲しいの?」

「君の膝、少しだけ貸して欲しいな。あ、嫌ならちゃんと断っていいからね! 無理強いするつもりはないから……」

「いいよ、ゆっくり休んで」

「ありがとう」


 横になるとすぐに、規則正しい寝息か聞こえてきた。どうやら思ってた以上に、コハクは疲れていたらしい。

 それなのに、早起きしてわざわざ朝迎えに来てくれたんだ。

 彼の寝顔を見つめながら、『ありがとう』とそっと感謝の気持ちを伝えると、少しだけコハクの口元が緩んだ。


 それにしても、本当に整いすぎてる顔だな……睫毛長いし、鼻高いし、髪はサラサラで輝いてるし、男の子にしておくのが勿体ない綺麗さだ。


 どうして、コハクは私に優しくしてくれるのだろう。

 いくらたまたまイジメの現場を目撃したからって、ほんと優しすぎるよ。

 そんな事を考えていると、突如パチッとコハクの瞼が開いた。


「あれ……僕、もしかして寝てた……?!」


 慌てて飛び起きたコハクは、ひどく動揺している様子でそう尋ねてきた。


「うん、すごく気持ち良さそうに」

「僕、寝ている間に変な事しなかった?! 君の事、襲ったりなんてしてないよね?! ごめん、本当に寝る気はなかったんだ……ッ! 君の膝があまりにも気持ちよかったから……ってあーもぅ、僕、何言ってるんだろ、本当にごめんね!」


 何を謝っているのだろう?

 よく分からないけど、あまりにも悲しそうに顔を歪めたコハクを見ていられなくて、私はなだめるように優しく声をかけた。


「落ち着いて、コハク。貴方は本当に眠っていただけだから、何か悪い夢でも見たの?」

「いや、何もしてないならいいんだ。ごめんね、驚かせて」


 コハクは安心したように、安堵の吐息をもらした。


「もしかして……夢遊病でも患ってるの?」

「え、いや、全然そんなんじゃないんだ! 僕、身体は人より丈夫だし! あ、でも……他の人から見たらある意味そんな感じかも……」


 慌てて否定した後に、不安そうにコハクはブツブツと小さな声で何かを呟き出した。


「大丈夫だよ、世の中には目覚めが悪くて起きた瞬間性格変わる人とかいるし、それも一種の個性だよ。病気じゃないなら、気にしなくていいんじゃないかな?」


 コハクに声をかけながら、私はまだ幼かった頃、よく一緒に遊んでいた幼馴染みの事を思い出した。

 カナちゃんの寝起き……ほんとにやばかったもんな。


「桜、ありがとう……よかった、君の心があの頃のままで……」


 優しく目を細めて嬉しそうに微笑むコハクを前に、私の中にある疑問が再び浮上していた。


 あの頃のまま?

 やはり、昔どこかで会った事があるのだろうか?

 記憶をたどってみても、全く思い出せない。

 もし仮に会った事があるとしたら、覚えてないのにその話題を掘り返すのも何だか失礼な気がする。


「そろそろ授業が始まるね。戻ろう」


 結局確かめる事が出来ないまま、コハクに手を引かれて屋上を後にした。

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