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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第9章 文化祭に向けて
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1、暗黒王子、青春を謳歌する?

 その日を境に、シロの態度が一変した。

 前に橘先生が言っていた『かなり優秀なパシリと呼べなくもない』という言葉の意味がよく分かる程度に。


 例えば部屋で私が本を読んでいて、一旦中断しようとしおりを探すが近くになかった場合──シロはゴソゴソと着物の裾をあさって一枚の葉っぱを取り出したかと思うと、それをあっという間にしおりに変化させて手渡してくる。

 長時間同じ姿勢で座って腰が痛くてさすっていると、葉っぱを取りだしふかふかのクッションに変えて使えと言わんばかりに差し出してくる。


 言葉を発していないのに、私の行動を見てすかさず欲しいものを的確に差し出してくるその姿は……さながら先生の言葉通りだ。


 チラリとシロの方を見ると、嬉しそうに尻尾をパタパタさせて、ご褒美を待っているようだ。

 どちらかと言えば以前のシロは気まぐれで猫っぽい感じがしたけど、今は完璧に犬だ。正確に言うと、ご褒美にキスをねだってくる狐だが。


 そして時間が経つと、それらは元に戻るようで彼が帰った後──私の机の上には葉っぱの山が出来あがる。この葉っぱ、とっておいたら外で焼き芋するのに使えそうかも。



 シロは学校も朝からきちんと登校するようになり、授業中も寝なくなった。

 しかし授業が終わる度に「桜、今の授業寝なかったから褒美をよこせ」といって所構わずキスを迫ってくる。

 その度にカナちゃんが何やらブツブツと唱えてシロの動きを止める。


「何しやがる偽善ヒーロー」

「それはこっちの台詞や変態狐」


 その合言葉を皮切りに彼等は熱いバトルを繰り広げ、私はその間、美香に借りたマナー本を読んで勉強に勤しむ。


 昼休み、屋上でお弁当を食べた後、私は再び本に目を通していた。

 目前ではさっきの件から、シロとカナちゃんが何やら卓球のピンポン玉とバドミントンのラケットを持ち出し、通称『バドピンポン』をして楽しく遊んでいる。

 ちなみに審判は拉致られてきた如月君。


「ほらほらどないしたんや、こんなんも取れへんのんか?」

「クッ……際どいコースばかり狙ってきやがって」

「泣きごと言うてる暇あったら、はよ玉さん追いかけてーや」

「チッ、調子に乗りやがって」


 試合の行方を見ると、どうやらカナちゃんの圧勝らしい。

 コハクと違ってシロはそこまで運動神経が良くないようだ。

 それに比べてカナちゃんは素人の動きではない気がする。どこに跳ねるか予測しにくいピンポン玉を何なく打ち返していく所を見ると、相当やりこんでいるのが分かる。


 浪花の貴公子様は転校する前──華月高校の屋上で、毎日これをやっていたんじゃないかと思える程度に。


「これでも食らえ」

「反則使うてくるやなんて、相変わらず男の風上にもおけへん奴やな」

「何とでも言うがいい、ようは勝てばいいんだよ」

「生憎、そんなことで俺は負けへんから……なッ!」


 シロは妖術を使っているのか、球をギリギリまで目に見えなくしている。

 如月君がいるのに目の前でそんな事をして……


「ね、ねぇ一条さん! 結城君のボール、消えてない?」

「あーうん、あれねぇ……ピンポン玉の回転を高速化させて消えてるように見えるだけだよ!」

「結城君ってすごいんだね!」


 如月君が単純じゃなければ今頃大騒ぎになってるよ、これ。

 最後は中々接戦になったけど、汚い手に屈する事なくカナちゃんは、シロの動きとラケットの角度などから玉の軌道を予測し見事打ち勝った。


 ゼェ、ハァと肩で息をする二人を見る限り、相当の運動量だったようだ。

 シロがふらふらとした足取りでこちらに近付いてくる。


「桜、限界……」


 私の横にドカッと倒れ込むように座ったかと思うと、上半身を捻ってこちらに手を伸ばしてきた。

 後頭部と背中に手を回して身体を固定され、動けなくなる。そのまま顔を寄せてきたシロに、唇を奪われた。

 相当キツかったのだろう。霊力の補充をした瞬間、シロは元気になった。それはいい。でも、人前でするのは止めてって言ったのに!


 その場面を間近で見ていた如月君は、顔を赤くして目を逸らし、カナちゃんは慌てて私からシロを引き剥がしにきた。


「人前で白昼堂々と盛ってんなや変態狐!」

「男の嫉妬は見苦しいぞ、偽善ヒーロー」

「お前はセクハラが過ぎるんや!」

「落ち着いて、奏。結城君は転校してきてから一条さんとずっと付き合ってるんだから……き、キスくらい」


 今にも殴りかからんばかりのカナちゃんを、如月君が少し恥ずかしそうな顔をしてなだめている。


「今のこいつはその頃のコハッ君とちゃうんやて、桔梗君。見張っとかんと桜が危険なんや」

「結城君……かなり前と印象が変わったと思ってたけど、別人なの?」


 驚いたように目を丸くして尋ねてくる如月君に、私は苦笑いしながら答えた。


「別人というか、もう一つの人格が出てきちゃってるっていうか」


 納得したように頷いた後、如月君はシロをチラッと一瞥する。その視線に気付いたシロは、眉をつり上げて如月君に威嚇した。


「おいビク男。お前、桜に気安く話しかけてんじゃねぇ」

「あはは……ごめん。人格変わっても、結城君は結城君だね……」


 そう言って如月君は、乾いた笑いをもらしていた。

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