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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第8章 暗黒王子と学園生活
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15、今だけは……

 朝起きると、ベッドの隅にちょこんとシロが座っていた。


「おはよう、シロ」


 挨拶をすると、彼はビクッと大きく身体を震えさせ、つぶらな瞳でこちらを見ている。


 喋れない程霊力が枯渇しているのだろうか?


「おいで」と手を伸ばして、恐る恐るこちらに近付いてきたシロを両手で大事にすくい上げる。しかし視線が合った瞬間、プイッと顔を背けられた。


「どうしたの?」

「昨日の……夢じゃないよな?」


 チラチラと私の様子を窺うようにして、シロが呟いた。


「キスしたらシロが気絶したこと?」

「わ、わざわざ言わなくていい!」


 前足をバタバタさせて照れている……何だこの可愛い生物は!

 そのサイズでもふもふしてて仕草が愛らしいなど反則だ!


「夢じゃないよ。ねぇ、結局キスでどれくらい霊力補充出来たの?」


 撫でくりまわしたい衝動を抑えるべく、私は話題を変えて質問した。


「満タンになってもあふれるくらい」

「前はどれくらいだったの?」

「……雀の涙くらい」

「そ、そうなんだ……でも、それなら信じてくれたよね?」


 私の言葉に、シロはコクリと深く頷いた。

 そこまで違いがあったのには驚きだけど、シロがあの時すごく驚いていたのは納得だった。


「よかった~これで、シロも朝からちゃんと学校行けるし、授業中寝たりしなくて済むよね?」

「お前が毎日、朝昼晩欠かさず捧げてくるならな」

「……何かご飯みたいだね」

「俺は霊力さえ補えれば、人間みたいに食事する必要はない。そういう意味では、お前の唇が俺の飯だな」

「改めて考えると恥ずかしいね……あ、でもシロが今の姿ならいいかも」


 途端にシロは人型へと姿を変え「この姿ならいいんだろ?」と妖艶な笑みを浮かべている。


「あ、ズルい! 急に変身するなんて!」

「さぁ、飯の時間だ」


 ベッドに押し倒され、シロが上に覆い被さってきた。


「し、シロ! この体勢になる必要ない」

「案ずるな、昨日の礼だ。やられたら、十倍返しが今の相場だ」


 ニコリと綺麗に微笑んだ後、シロが顔を寄せてきたので、私はぎゅっと目をつむった。

 すると、「怖いか?」と耳元で優しく囁かれ、目を開けると心配そうな顔をしたシロと視線がぶつかった。


「こ、怖くないよ」

「無理をするな、震えておる」


 そう言われて初めて、自分の身体が震えている事に気付いた。


「シロが怖いんじゃないよ。ただ無意識のうちに昨日の事、身体が勝手に思い出してたみたいで」


 離れようとしたシロの手を掴んで気持ちを伝えると、彼は身体を横たえて壊れ物を扱うように優しく私を抱き寄せた。

 触れた箇所から感じる温もりと、トクントクンと脈打つ彼の鼓動に癒されて、いつのまにか震えは止まっていた。


「不安な時は俺を呼べ。いつでも慰めてやるよ」


 シロは低くて艶のある声で囁いた後、梳かすように私の髪に細い指を絡めて、ゆっくりと撫で始めた。

 彼の指が動く度に、少しだけこそばゆい感じがするけど、逆にそれが気持ちよくて、しばらくその感触を楽しんでいた。


「シロ、ありがとう。もう大丈夫だよ」


 そっと身体を離して見上げると、シロは目を細めて優しく微笑んでくれた。その笑顔に胸がキュンとときめいて、無意識のうちに私はシロの首に手を回していた。


 お互い数秒見つめ合った後、どちらからともなく熱い口付けを交わした。

 心も身体もとろけてしまいそうな程、甘くて温かい食事の時間だった。

 とろんとした目でシロを見つめると、シロは少しだけ寂しそうに笑って「良い事を教えてやる」と呟いた。


 良い事なのに、何故そんな顔をするんだろうか?


「コハクが少し、疑問を持ち始めたようだ」

「え、それって夢の世界だと気付いたって事?」

「微かだが、明らかに以前とは違う戸惑うような感情が流れてきた」


 コハクが夢の世界で戸惑っている。

 これは目を覚まさせるチャンスなのではないだろうか。


『コハクお願い、目を覚まして……夢の世界に惑わされないで。貴方の生きる世界はこっちにあるんだよ』


 彼に届くように強く念じると、シロに強く抱き締められた。

 私の肩に顔を埋めているため表情は分からないけど、微かに震えているような気がした。


 もしコハクが目覚めたら、シロはどうなるのだろう……滅多に表に出る事はないと言っていた。それはつまり、今までみたいにはずっと一緒には居れないということ。


 しかしコハクが目覚めなかった場合、シロは実家に強制送還されてしまう。

 シロを抱き締め返して、私は恐る恐る聞いてみた。


「シロの実家って、どこにあるの?」

「両親は今海外に住んでいるが……俺が帰される場所はおそらく、お前が来ることは出来ない、妖界だろうな。コハクもお前も失ったら、俺はこっちでは生活出来ないから」


 どっちに転んだとしても、シロとこうやって過ごせるのは文化祭まで、残り一ヶ月もないということだ。


「お前を独り占めしたいけど、俺はコハクが居ないとお前の傍にも残れない。今だけは俺の事だけ考えて欲しいと思っても、それは自分の首を絞めることと一緒だなんて、ほんと笑えるな……」


 自嘲気味に放たれたその言葉に、胸をえぐられるような強い悲しみを感じた。


「シロ……まだ時間はあるよ、一緒にいっぱい想い出作ろう! シロと一緒の時は貴方の事だけ考えるから、心の底から今を楽しんで欲しい。でも一日のうち一回だけは、コハクに想いを伝える事を許して欲しい」


 シロのプラスな気持ちがコハクに伝われば、コハクの不安を取り除く事に繋がるとコサメさんは言っていた。

 コンテストに向けて準備をしつつ、シロとの時間を大切にしていこう。


「桜……じゃあ今は、俺だけを見ろよ」


 顔をあげてニヤリと不敵に笑ったシロに、私は微笑んでコクリと頷いた。

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