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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第7章 すれ違う歯車
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11、リアルな夢の感覚の正体は?

 その日、私は幸せな夢を見た。今日の延長線上と思われる出来事で、私がコハクから逃げずに彼に優しく髪を乾かしてもらっている場面から始まった。

 彼が丁寧に乾かしてくれた後、今度は私がコハクの髪を乾かしてあげて、極上の触り心地を楽しんでいた。

 乾かし終わった所で、コハクが突然振り返ってきてドライヤーを持つ私の手を優しく掴んでくる。


「ありがとう、桜。ねぇ、もう少しだけ僕に付き合ってくれない?」


 彼の言葉に笑顔で了承した私は、コハクに手を引かれて彼の部屋に入った。

 そこには、私があげた手作りのストラップが大事そうにケースに入れられており、横には入院中に撮った二人の写真が飾られていて少し照れ臭い。

 私の視線に気付いたコハクは嬉しそうに微笑んで「僕の大切な宝物だからね。でも一番大切なのは桜だよ」と言って優しく抱き締めてくれた。

 私も彼の背中に手を回して幸せを噛み締めていると、そっとコハクが身体を離した。


「……これ以上抱き締めてると、色々我慢できそうにない。あの時みたいに桜を傷付けそうで怖いんだ。送っていくよ、ごめんねやっぱり帰ろう」

「嫌だ、もっとコハクの傍に居たい。もっと近くで貴方を感じたいよ……ダメ?」

「桜、それは反則だよ。そんな可愛いこと言われたらもう我慢できないよ……本当にいいの?」


 コクリと頷くと、コハクは私の身体をお姫様抱っこして額に優しくキスをおとす。

 そしてベットに運び優しく寝かせると、私の上に覆い被さって互いの呼吸が感じられるほど近くまで顔を寄せてきた。


「桜、愛してるよ」


 彼はそう言って熱い視線を真っ直ぐに注ぐと、唇に甘いキスをしてくれた。

 軽く触れるものから徐々に深くなるそれに、私は無意識にコハクの首元に腕を回していた。

 じんわりと伝わってくる彼の熱があまりにもリアルで……リアルで?


 そっと目を開けると、目の前にはシロの顔があって、唇に感じるリアルな感触はどうやら彼の仕業だったようだ。

 私が慌てて離れたら、「どうだ? いい夢が見れただろう?」と言って彼はニヤリと口角を上げて不敵に笑っている。

 夢から一気に現実に引き戻され、私の頭は軽くパニックを起こしていた。


「な、なんで私のベッドに?!」

「忘れたか? 昨日一緒に寝ただろう」

「た、だって、シロは可愛い白狐姿で寝てたよ!」

「その方が、お前のガードが緩いだろ」

「だからって……ッ!」


 コハクの身体には間違いないだろうけど、彼以外の人と唇を重ねてしまったようなこの複雑な感情をどう整理つけたらいいのか。

 彼の一部だと分かっていても、やはり抵抗があるのは否めない。

 寝ている間にこんなたちの悪いイタズラは止めて欲しい。

 私の慌て具合などさして気にした様子もなく、シロはすました顔で口を開いた。


「霊力の補充をしただけだが、何か?」

「え……」

「お前に幸せな夢を見せてやった代わりに、その唇から直接オーラを回収しただけだ。まぁ、お前がどんな夢を見て何を勘違いしていたかは知らないがな」


 全てを見透かした上で作られたような、恐ろしいほど無邪気な笑みを浮かべたシロに、恥ずかしすぎて私は何も答えることが出来なかった。


「自分から熱い抱擁を交わしてきて……そんなに欲求不満なら、俺が解消してやろうか?」


 そう言ってシロは妖艶な眼差しを向け、私の顎の下を撫でるように細い指を這わせてきた。


「そ、そんなんじゃないから!」


 慌てて逃げる私を造作もなく掴まえたシロは、私の身体を引き寄せて後頭部に手を回して固定すると、「なに、あいつと身体は一緒だ。何も問題はないだろ?」と言って形のよい唇で綺麗な弧を描いてニヤニヤと微笑んでいる。


「ありすぎるよ!」


 動く両手で必死に彼の胸板を押すと興が削がれたのか、シロはあっさり私を離す。


「フン、まぁいい。用は済んだ、俺は帰る」


 全身から眩い光を放つと、彼はその場から消えた。

 朝からどっと疲れを感じて私はその場にへたりこんだ。

  唇にはまだ先程の感覚が残っていて、あんな夢を見てしまうほどコハクに飢えているのかと思うと、胸がきゅっと締め付けられるように苦しくなった。

 夢の中みたいに、素直に甘えて気持ちを言えたら良かったのに。


『コハク……私は今、ものすごく貴方に逢いたいよ。恥ずかしがらずに今度はきちんと想いを伝えるから、もう一度私に笑顔を見せて欲しい』


 どうか、この想いがコハクに届きますようにと、眠り続ける彼に想いを馳せ、胸の前に手を合わせて静かに私は祈った。

 すると、「呼んだか?」と不敵な笑みを浮かべたシロが突然現れたけど、即刻お帰り頂いた。


 こうして、後に『暗黒王子』と呼ばれるシロとの受難の日々が始まろうとしていた。

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