表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第7章 すれ違う歯車
66/182

4、日本語って難しい


 このままでは、まともにカナちゃんの顔が見れない。

 それに、コハクのさっきの悲しそうな顔も気になる。

 そして微妙に流れる重苦しい空気が、なお重くのし掛かる。


 とりあえず、高台に来た私達はそこで私服バージョンの『痛めちゃった系ポーズ』を撮ることにした。

 制服バージョンと微妙に手の位置が違ったりして、とても細やかなリストを見て指示しながら撮影を進める。

 スマホの画面越しに交わるカナちゃんの視線でさえ、妙に恥ずかしく感じる。

 次のポーズは……カメラ目線で脇をしめた左手で髪をかきあげて、色気を漂わせながら挑発するような艶っぽい表情をした頭痛めちゃったポーズ。

 無理だ。恥ずかしくて直視できないせいで照準が定まらず、シャッターがうまく切れない。


「貸して、桜。僕が代わりに撮るよ」


 私の異変に気付いたコハクが、そう言って手を差し出してきた。


「ごめん、ありがとう」


 スマホを彼に託し、私は指示を出すだけにした。

 制服の時はすんなり終わったのに、今回は結構時間がかかってしまった。

 気が付くともうお昼を回っている。

 私達は近くのファミレスに入り、それぞれ好きなセットメニューを注文した。

 ここのファミレスはセットメニューを頼むと、ドリンクバーが無料でついてくるので少しお買い得だ。


「私、飲み物取ってくるね。皆何がいい?」


私が立ち上がると、「僕も行くよ」とすかさずコハクも立ち上がった。


「大丈夫、コハク。疲れただろうから座ってて」


 ただでさえ、毎日撮影に付き合ってもらって無理させている。せめてこれくらいはさせて欲しい。

 その思いが伝わったのか、コハクはお礼を言って優しく微笑むと席についた。


「俺、いつものやつ」

「了解、コハクは何がいい?」

「じゃあ、烏龍茶にしようかな」

「分かった、すぐ取ってくるね」


 コハクの烏龍茶と、カナちゃんのコーラ、自分用にメロンソーダをそれぞれ氷と共にグラスに注いで持っていった。


「やっぱ動いた後はこれに限んで」

「昔からよく飲んでたもんね」


 炭酸をよくあそこまで一気に飲めるものだと感心していたら、「桜は相変わらず、お子ちゃまのまんまやな」と言ってカナちゃんが意地悪な笑みを浮かべてこちらを見ている。


「メロンソーダは美味しいんだよ」


 彼からプイッと視線を逸らして一口飲むと、しゅわっとした爽やかな甘みが口内に広がった。

 大丈夫だ、変に意識しなければカナちゃんと普通に話せる。


「アイスがのってへんだけ少しは成長したってことやな」


 人の気も知らず、ニシシと笑って小バカにしてくるカナちゃん。


「そんな事言ってると、スペシャルブレンド飲ませるよ」

「あかん、それだけは堪忍して!」


 焦ったように間髪入れずに否定したカナちゃんは、椅子の隅まで逃げると小動物のようにプルプルと震え出した。

 そんなに私のスペシャルブレンドが怖いのか。お主もまだまだ子供よのう。


「スペシャルブレンドって何?」


 きょとんとした顔で尋ねるコハクに「あ、コハッ君飲む? 特別に俺がブレンドして作ってきてやんで」と、カナちゃんはものすごく澄んだ瞳で害がない事をアピールしながら飲ませようとしている。


「駄目、コハクに変なもの勧めないで」


 すかさず私が牽制すると、「ええんや、男は皆あれ飲んで強くなんやて。どや?」なんて変な持論を持ち出し、コハクを毒牙にはめようとしている。

 毎回それで自爆するのはどこの誰だよ、と思わず心の中で突っ込む。


「止めといたがいいよ……」


 コハクの苦しむ姿を見たくない。

 自爆するのはカナちゃんだけで十分だ。

 しかしそんな私の思いとは裏腹に、コハクは心配して見つめる私の頭をポンポンと撫でて優しく微笑んだ後、「じゃあ、それの早飲み対決しようか西園寺君」と言ってカナちゃんに満面の笑みを向けた。


「え、いや……俺は……ええかな」


 思わぬ方向へ話が進み、引きつった笑みを浮かべるカナちゃんに「『ええ』って『いいよ』って意味だよね? 桜、お願い出来る?」とコハクはさして気にせず話を進めていく。


「コハクがそう言うなら……」

「ちょ、おま! 『ええ』の意味はき違えとんがな! 今のは『結構です』の方や!」

「『結構です』って『いいよ』って事だよね」

「ちょ、またはき違えとんがな! 待って、桜行かんといて」


 私が席を立った後、後方からひどく焦ったカナちゃんの悲痛な叫びと、楽しそうなコハクの声が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍1巻が『角川ビーンズ文庫』より発売中です!
呪われた仮面公爵に嫁いだ薄幸令嬢の掴んだ幸せ
(クリックでAmazon作品ページへ)

『B's-LOG COMIC』より、コミックス1巻が7月1日(火)に発売します!
呪われた仮面公爵に嫁いだ薄幸令嬢の掴んだ幸せ
(クリックでAmazon商品ページへ)

コミカライズの試し読みは下記のリンクをご利用ください!(1話無料でお読みいただけます)
カドコミ

+ + +
「第11回ネット小説大賞」で小説賞受賞
書籍1巻が『ブシロードノベル』より発売中です!
訳あり令嬢は調香生活を満喫したい! ~妹に婚約者を譲ったら悪友王子に求婚されて、香り改革を始めることに!?~
(クリックでAmazon商品ページへ)

『コミックグロウル』で、コミカライズの連載始まりました!
訳あり令嬢は調香生活を満喫したい! ~妹に婚約者を譲ったら悪友王子に求婚されて、香り改革を始めることに!?~
コミカライズの試し読みは下記のリンクをご利用ください!(1話無料でお読みいただけます)
コミックグロウル

+ + +
「第1回BKコミックスf令嬢小説コンテスト」で佳作受賞
コミカライズ単行本1巻が、『BKコミックスf』より、発売中です!
汚名を着せられ婚約破棄された伯爵令嬢は、結婚に理想は抱かない
(クリックでAmazon作品ページへ)

コミカライズの試し読みは、下記の先行配信先をご利用ください!
ピッコマ作品ページ

+ + +
COMICスピア コミカライズ原作大賞で、
準大賞と特別賞を頂きました!
2月22日(土)より、コミカライズ連載開始!
異世界転生して幻覚魔術師となった私のお仕事は、王子の不眠治療係です
(クリックでRenta!販売ページへ)

小説の電子書籍はコチラ↓ 異世界転生して幻覚魔術師となった私のお仕事は、王子の不眠治療係です
(クリックでRenta!販売ページへ)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ