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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第6章 波乱の幕開け
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9、宣伝係になりました

「桜、ちょっと来て」


 プリントを提出して席に戻ろうとしたら、コハクに呼び止められた。

 手を掴まれ教室から外へ。スタスタと歩いていくコハクに手を引かれ、非常階段まで連れてこられた。


 いつもより強く握られた手が少し痛く感じコハクを見上げると、私の顔を見るなり、「あ、ごめん。痛かったよね」と言ってコハクは握っていた手を慌てて離してくれた。


 温もりを失った手が何だか寂しい……


 私はそっと自分からコハクの手を握ってみた。

 驚いたように綺麗な瞳を大きく見開いてこちらを見る彼に、「コハクと手、繋いでたい……ダメ?」とおねだりするも、途中から恥ずかしくなって俯いてしまった。


「もう一回言って?」


 耳元で艶のある声で囁かれ、一気に耳が熱を帯びる。

 恥ずかしいけど、コハクのお願いなら叶えてあげたい。


「コハクと手、繋いでたい……ダメ?」


 そう言って窺うように顔を上げると、コハクは満面の笑みを浮かべていた。


「桜からおねだりしてくれるなんて嬉しいな。僕の宝物がまた増えたよ」


 何の事か分からず私が首をかしげると、コハクはスマホを少し操作してあるものを流した。

 さっきの私の声が流れてきて思わず彼を見たら、「だって、桜がそんな可愛い事言ってくれるからつい……」と悪びれた様子もなく嬉しそうに笑っている。


「恥ずかしいから消して」


 コハクのスマホを奪おうと必死に手を伸ばすも、身長の高い彼に届くはずがなかった。


「嫌だ、寝る前と朝起きてから毎日聴くんだ」

「なお恥ずかしいわ!」


 とんでもない事を言い出す彼に、つま先立ちして必死に手を伸ばして奪おうとするも届かない。


 後少し……背が高ければ……わわっ!


 その時、バランスを崩して倒れそうになった私の身体をコハクが支えてくれた。


「ごめんね、ありがとう」


 顔を上げてお礼を言うと、端正な顔がすぐ間近にある。目が合った瞬間、「僕の方こそ、ごめん」そう言ってコハクはさっと視線を逸らしてすぐに私から離れた。


 その行動にズキンと胸が痛むのを感じた。

 気のせいかもしれないけど、何となくコハクに距離を置かれている気がする。


 何となく気まずい空気のまま、休み時間が終わるためそのまま教室へ戻ることに。

 差し出されるコハクの手はいつもと変わらないけれど、私の心になにかモヤッとした感情が小さく渦巻いていた。



***



「桜、早く手あげへんと希望の役なられへんで」


 後ろからカナちゃんに話しかけられて、今が六限目で、文化祭の話し合いの最中だったことを思い出す。

 私がボーッとしている間にうちのクラスは喫茶店をやる事に決まったらしい。

 学園内で一位、二位の人気を誇るコハクとカナちゃんを全面的に押し出して集客するため、彼等は始終ホールに出てウェイター役のようだ。


 コハクの方を見ると不服そうな顔をしており、あまりそういうのが好きではないのが伝わってくる。

 逆にカナちゃんはさして気にした様子もなく、むしろ天職と言っていいほど得意そうな気がする。


 残っているのは……キッチン班で調理か盛り付け、ホール班で配膳か片付け、物流班で食材の買い出し、宣伝班で客の呼び込みか。


 私はあまり手先が器用な方ではない。

 料理など家で滅多にしたことない上に、美的センスは皆無に近い。

 必然的にキッチンで調理と盛り付けは避けた方がいいだろう。

 どちらかと言えば身体を動かす方が向いている……消去法で物流班が無難だな。


「では物流班希望の人は手を上げて下さい」


 委員長の声にすかさず手を上げるも、規定数よりかなり多くの人が手を上げている。


 じゃんけんに負けた私はそこからあふれてしまった。

 それならコハクと一緒にホール班がよかったけれど、じゃんけんで負け続けた私は結局宣伝班に。

 宣伝班のメンバーは、私、笹山さん、如月君、鴻上君の四人だ。


「それでは班ごとに集まって、リーダーを決めて下さい」


 委員長の声で、机を寄せ合わせて班ごとに座り直す。

 じゃんけんの結果、リーダーは如月君に決まった。

 宣伝班の仕事は、当日の宣伝とそれに使うパンフレットやプラカード作り。


「え、えーと、それじゃあまず、パンフレットの事だけど……この中でデザインとか考えるの得意な人は居る?」


 ひどく緊張した面持ちのリーダー如月君の問いかけに、「私、そういうの考えるの好きだよ」と笹山さんが好反応を示した。


「じ、じゃあ! パンフレットの原案は、笹山さんにお願いしてもいい?」


 如月君の問いかけに、笹山さんは「任せて!」と快諾。


「でもそれには、一条さんの協力が絶対不可欠だよ!」

「え、私?」

「パンフレットに結城君と奏君の写真を使いたいから、二人の写真お願い出来ないかな? 特に結城君は、一条さんが頼んでくれないと絶対無理だから。お願い!」


 そう言って笹山さんは、両手を前に合わせてお願いのポーズをとった。


「うん、分かった。頼んでみるよ」


 自分の美術の成績では、他に役立てそうにない私は快く了承した。


「ありがとう! 後でどんな写真が必要か、リスト書いて渡すからよろしくね!」


 笹山さんは物凄く目をキラキラさせて、私の手を握ってブンブンと上下に振る。


「じゃあプラカードは俺が作る。如月、お前も手伝え」


 その時、鴻上君が初めて口を開いた。


「う、うん。勿論だよ……」


 蛇に睨まれたカエルのように、何故か如月君は涙目で怯えていた。


 こうして、女子でパンフレット、男子がプラカードをそれぞれ担当して作る事になった。

 その後、笹山さんに貰った希望写真リストの指示の細やかさと多さに衝撃を受ける。


 制服と私服の両方が要るのか……中には二人で肩組んでる写真という項目もある。

 今朝の登校時の様子を思い出し、思わず苦笑いするしかなかった。

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