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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第5章 運命の再会
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7、不意打ちの告白

 聖奏公園まで戻ってきた所で、「もう少しだけ付き合うてくれへんか?」というカナちゃんに連れられ、公園内を歩いていた。

 高台までやって来て、手すりにもたれてかかって沈んでいく夕日を一緒に眺める。

 辺りには人気がなく、遠くの方で犬の散歩をしている人が見えるくらいだ。


「なぁ、桜。俺が引っ越した後……なんで何も連絡くれへんかったん?」


 夕日を眺めながら静かにカナちゃんが尋ねてきた。


「え? だってカナちゃん連絡先教えてくれなかったじゃん」

「俺、お前だけには教えたんやけど……」


 カナちゃんはギリギリまで転校する事を黙っていた。

 送別会の後、私は皆と一緒にどこに引っ越すのか彼に聞いたけれど、『お前らの知らん遠いとこや』と言っただけで、詳細を教えてはくれなかった。


「知らないよ?」


 思い返しても連絡先を教えてもらった記憶はない。


「引っ越す前、テディベアあげたの覚えとる?」

「うん、今も部屋に飾ってるよ」


 引っ越す間際に『これ、お前にやる』ってカナちゃんが差し出してきた少し大きめな可愛いテディベアは、確かに今も私の部屋に大事に飾ってある。


「その人形、何か首から下げとったやろ?」


 そう言われてみれば、テディベアの人形は可愛らしいポシェットを首から下げていた。


「うん、そうだね」


 私の態度に些か不機嫌そうに、カナちゃんは呟いた。


「その中に、手紙と連絡先入れとってんやけど」

「……えっ?」


 あのポシェットは飾りじゃなかったの?

 デザインの一部だと思っていたため、まさか開くなど思いもしなかった。


「あーもう、やっぱり気付いてへんかったんか……マジでへこむわ」


 私の様子を見て、カナちゃんはガクッとうなだれて手すりに顔を伏せた。


「アハハ……全然気付かなかったよ、ごめん」


 まさかの衝撃の真実に、私は苦笑いを浮かべるしか出来なかった。


「まぁ、その鈍い所も含めてお前のええ所なんやけども……」


 俯いたままカナちゃんは何やらブツブツと呟いている。


「安心して、家に帰って読むから」

「あかん! 今頃止めて。なんやめっちゃ恥ずかしいやん」


 私の言葉にカナちゃんはぱっと顔を上げてこちらを見ると、酷く慌てた様子で両手を前に出してブンブンと首を振っている。


「そんな言われたら中身すごい気になるよ」

「あーだったらもうええ、ここで言うたる!」


 突如、真っ赤な顔をしてカナちゃんが叫んだ。

 じっと熱のこもった眼差しを向けられ、今まで見たことのないその表情に私は戸惑いを隠せなかった。


「か、カナちゃん……?」


 恐る恐る声をかけても、カナちゃんは私からその視線を逸らそうとしない。

 ゆっくりとカナちゃんは私に近付いてきて、その距離は手を伸ばせば簡単に触れる事が出来るまで近くなった。


 身体を矢で射ぬかれたように私はその場から動けなくなり、心なしか変な動悸がして胸がドキドキしている。

 次の瞬間、そっとカナちゃんの手が伸びてきて私の頬に優しく触れた。


「俺、桜の事ずっと好きやってん。だからお前と再会出来てめっちゃ嬉しかったんやで。何度も諦めよう思うたけど、今日一日お前と過ごして……やっぱ無理や。諦めきれへん」

「え、いや、あの……もう、真顔で冗談やめてよ」


 真っ直ぐこちらに向けられた視線から逃げるように、思わず視線を泳がせながらそう不自然に笑って答えるのが精一杯だった。


「冗談やあらへん。俺、本気やで」


 そう言ってカナちゃんは私の身体を引き寄せると、きつく抱き締めた。


「だ、だってほら、私は何処にでもいる平凡なスッポンだよ。カナちゃんだって言ってたじゃん!」


 お願いだから冗談だと言って欲しい一心で言葉を紡ぐけど──


「何言うてんねや、お前は月。それ以外の女はどんだけ見た目ようても俺にとってはスッポンにしか見えへんよ」


 艶っぽい声で耳元でそう甘く囁かれ、私の儚い希望は打ち砕かれる。

 耳元からじわっと熱を帯びて、それはすぐに顔全体まで広がった。


「きゅ、急にそんな事言われても……」


 慌てて彼の胸を押して、私は身体を離して距離をとった。


 私にとってカナちゃんは大事な幼馴染みだ。

 好きだという気持ちはあるけど、それは恋愛面の方ではなく、友情面からくる方のもの。


 彼が想う気持ちに、私は応えられない。

 だって私には、大切にしたい人が居るから。


 その気持ちを伝えようとした時、「彼氏とかおるん?」ときわどい質問をされ私は返答に困った。

 コハクが記憶を失っていなければ堂々と言えるのだが、今の私たちの関係は偽りの関係だ。

 カナちゃんには今までの経緯を簡単にしか説明していないから、コハクの存在に直接的には触れなかった。


「……彼氏(仮)なら」


 もっとましな言い方が出来なかったのだろうか。


「何やそれ、お前いいように遊ばれとんちゃうか?」


 私の言い方が悪かったせいで、コハクの事を悪く言われたのが我慢出来ず「コハクはそんな人じゃないよ!」と思わず名前を出して否定してしまった。


「コハク言うんか、覚えとくわその名前」

「私、コハクが好きだから……カナちゃんの気持ちには応えられないよ」


 真っ直ぐとカナちゃんを正面に捉えて、自分の正直な気持ちを伝えた。

 するとカナちゃんは、ニィっと口角を上げてひどく妖艶な眼差しを向けてくる。


「今はそれでもかまへんよ。そのコハク言う奴より、俺の事惚れさせたらええだけやろ?」


 知らない、こんな表情するカナちゃんを私は知らない。


 何と声をかけたらいいのか分からず「カナちゃん……」と思わず名前を呼んだはいいものの、言葉が続かず口ごもる。


 カナちゃんは再び沈み行く夕日に身体ごと視線を向けると、憂いを帯びた表情を浮かべて静かに口を開いた。


「最初から簡単に手に入るとは思ってへんよ。何年お前の事想っとったか分かるか? いつかは手紙に気付いてくれるかもしれへんって、淡い期待抱いては裏切られて……それでもお前以外、好きになれへんねや」


 カナちゃんの柔らかそうな線の細い髪がゆらゆらと風になびき、哀愁に満ちたその端正な横顔と幻想的な夕日が相まって、まるで映画のワンシーンのように綺麗で、思わず見惚れてしまった。

 ゆっくりとこちらに視線を向けた彼は、私の前まで歩み寄ると哀しそうに微笑んだ。


「せっかくまた逢えたのに、待ち続けるだけなんは……もう嫌なんや」


 その時、私の胸がズキンと僅かに疼いたのを感じた。


「そういう事で、二学期からまたよろしゅうな」


 次の瞬間、彼はニッコリと天使のような笑顔を浮かべて、私の頭を優しく撫でた。


 二学期からよろしく?

 それは一体どういうこと?


「俺、お前の学園に転校するから。楽しみやなぁ……そのコハク君いうのに会える日が」


 カナちゃんが、聖蘭学園に転校してくる?!

 え……ぇええええ!!


 こうして、波乱の二学期が幕を開けようとしていた。

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