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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第1章 獣耳男子と恋人契約
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2、お姫様抱っこは勘弁して下さい

 入学してすぐに広まった悪評が、私を孤立へと追いやった。

 そんないわく付きの私と、進んで仲良くなろうとしてくれる人なんて居なかった。

 たまに桃井がわざとらしく声をかけてくる事もあるけど、それはあくまでもクラスのリーダーとして、一人浮いているクラスメイトを心配した風を装っての事だ。


 私が桃井を拒絶すると、ヒソヒソと非難する声が聞こえてくる。


『折角美香が気を遣って声をかけてやっているのに』

『何様のつもりだ、あいつ……感じ悪いよな』


 何も事情を知らないクラスメイトは皆、桃井の味方だ。

 彼女とよく行動を共にする三人が、これみよがしに桃井を慰めるから、なおこちらが悪者にされる一方だった。


「助けて頂いてありがとうございます。でも大丈夫ですから、おろして下さい」


 こんな私と関われば、結城君に迷惑がかかる。

 転校してきたばかりの彼に、余計な苦労を背負わせるわけにはいかない。

 その一心で話しかけたのに「嫌だ、おろさない」と、結城君の口からあまりにも予想外の言葉が返ってきた。

 その際、顔を背けた結城君の髪からふわりと甘いシャンプーの匂いが香ってくる。


 なんか美味しそうな匂い。


 歩く度にサラサラと揺れるストレートの銀髪も綺麗だし、皆がうっとりと眺めていた理由が少し分かった気がする……って、呑気に見惚れている場合じゃなかった。


「私に優しくすると、貴方まで被害に遭います」

「貴方じゃなくて、僕の名前は結城コハク」


 ここで引くわけにはいかないと頑張ってみるものの、結城君は私の違う言葉に引っ掛かりを覚えたようで、訂正してきた。

 ここで負けたらだめだ。必死に訴える私と、笑顔を崩さない結城君の視線が交錯すること数秒……悔しいくらいに顔のパーツが整いすぎて直視出来ない。


 それに、今更だけどかなり距離が近い! 


 背中と膝の裏にはたくましい腕の感触があって、密着した身体。

 意識すればするほどで全身の毛穴から汗が吹き出してきそうになった。

 私は別に歩けないほど酷い怪我をしているわけじゃない。

 腕に少し切り傷があるくらいで何の支障もなく自分で歩けるのだ。

 ここでこんな羞恥プレイなど、断じて望んでいない。


「結城君、おろして下さい」

「コハクって呼んで」

「コハク君、おろして下さい」

「君はいらない」

「コハク、おろして下さい」

「嫌だ、おろさない」


 私の言葉はことごとく爽やかな笑顔で訂正され続け、結局振り出しに戻ってしまった。


 あれか、彼は私を利用して筋力トレーニングでもしているのか?


 昔は身体を鍛えていたから、普通の女の子より筋肉の割合は多いかもしれない。

 でも一目見ただけでそんな事が分かるのだろうか。

 それなら早く帰宅してジムにでも通った方がよっぽど効率的だよと、指摘したがいいのか本気で悩むも、今はそれどころじゃない。

 保健室のあるフロアまで来てしまった。このままあそこへ連れて行かれて、こんな傷跡を先生に見られたらおしまいだ。

 今まで家族にバレないように必死に隠してきた苦労が水の泡になってしまう。


「自分で歩いていきますので、どうかおろして下さい」


 真剣に訴えると、結城君は足を止めて悲しそうに目を伏せた。


「あんな風に囲まれて、ひどい傷を負わされて、すごく怖かったと思う。それに、今日が初めてじゃないんだよね?」

「それは……」

「心も体も傷ついている時って、無理をしない方がいいと思うんだ。だから独りで抱え込まないで、たまには誰かを頼ってもいいんじゃないのかな? という事で、今は僕に甘えて下さい」


 そう言って結城君は再び歩き出した。

 心配してくれていたのは腕の傷だけじゃなくて、心の傷もだったんだとそこで初めて気付かされた。


「ありがとう、ございます」

「どういたしまして」


 優しく笑いかけてくれる結城君の笑顔を見ていたら、心がポカポカと温かいもので満たされた。

 顔だけじゃなくて、心までイケメンだ。

 なんたる気遣い! こんな絶滅危惧種のようないい人が実在するなんて、思いもしなかった。

 感動にうち震える胸を必死に静めていたら、結局保健室についてしまった。

 ヤバイ、完全に逃げ損なった……

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