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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第14章 最終決戦
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14、放たれた弾丸

 何にも無い、真っ暗な空間の中を彷徨っていた。あれからどうなったんだっけ? 地面が崩れてそれで……


『合格だよ。こちらの世界へ戻っておいで』


 その時、クレハの声が脳裏に響いてくる。目の前に一筋の光が見えて、そちらへ手を伸ばすと暗闇がはれた。


「桜!」


 ぼんやりとしていた視界が鮮明になって、心配そうにこちらを覗き込む皆の顔が目に入る。ゆっくりと身体を起こすと、美香がすかさず身体を支えてくれた。


「ありがとう、美香」

「よかった……もう、本当に心配したのよ!」

「ごめんね心配かけて。ちゃんと戻ってきたよ。約束通り」

「守らなかったから、どうしてくれようかと思ってたのよ! 本当に、よかった」


 目からこぼれ落ちる涙を、美香は必死に拭っていた。心配かけたのは申し訳ないけど、そこまで思ってくれていた事が不謹慎にも嬉しくて仕方なかった。


「美香、足りない分はこれ使って」


 ハンカチを差し出すと、「もう! 変な所で気が利くのね! でも助かるわ、ありがとう」と受け取ってくれた。


「やったな、桜。お前ならやってくれると思とったで。おかえり」


 頭をポンポンと撫でられて振り向くと、カナちゃんがいつもの笑顔で出迎えてくれた。


「ただいま、カナちゃん。信じてくれて、ありがとう」

「お前の強かさはよう知ってるからな。ほら、見てみぃ。王子様がお待ちかねやで」


 カナちゃんに促された視線の先には──サラサラとした長髪の銀糸をなびかせて佇むシロの姿があった。


「全く、無茶しやがって。でも助かった。お前がコハクを連れてきてくれたから、乗り越えることが出来たみたいだ。力があふれてくる」

「よかった、何とか間に合ったんだね。シロ、コハクは無事?」

「直に目を覚ますから安心しろ。俺の記憶を融合させたから、今は疲れて眠っているだけだ」

「じゃあこれでもう、妖界に帰らなくて済むんだね」

「ああ、そうだな」


 ほっと胸を撫で下ろしていると、シロが急に血相を変えて駆け出した。


「クレハ!」


 振り返ると、床に蹲り肩で呼吸をするクレハの姿があった。傍らで優菜さんが心配そうにそんな彼を支えていた。


「流石に、ちょっと……疲れたよ」

「喋るな、俺がいま治してやるから」


 シロがクレハに治療を施すと、クレハの顔色はかなり良くなった。


「……まさかこうして、君に助けられる日が来るなんて思いもしなかったな。僕の負けだよ。シロ、強くなったね」

「いつも、お前の背中を追いかけていた。強くならないはず、ないだろ?」

「シロ……」

「たとえどんな姿をしてようが、お前は俺にとって大事な兄貴分だ。それはずっと変わらない」


 シロの真っ直ぐな眼差しに耐えきれなくなったのか、クレハはそっと視線を外した。


「約束だから、桜ちゃんの呪いを解いてあげるよ。ほら、おいで」

「ありがとう、クレハ。貴方が居てくれたから、コハクを目覚めさせることが出来た。本当にありがとう」

「コハクを目覚めさせることが出来たのは、君の思いがなせたことだよ。僕はほんの少し手を貸しただけさ」

「ほんと素直じゃないね、そういう時は素直に『どういたしまして』って言えばいいんだよ」

「うるさい。ほら、手を貸して」


 呪印の施された左手を差し出すと、クレハはそこへ手をかざした。


「誇り高き姫君に、幸福なる数字の祝福を」


 クレハが呪いを解くと、辺りの景色も元に戻った。辺りは暗くなっているけど、どうやらここは学園の屋上のようだ。


「皆さん、大丈夫ですか?!」

「やっと戻ってきたか」


 振り返ると、ウィルさんと橘先生が心配そうにこちらを見ていた。クレハを視線に捉えるや否や、二人の視線は険しくなる。


「大罪人、妖狐クレハ。ヨーロッパ地方における大量虐殺及びに一条桜の殺人未遂罪により、お前さんに罰を下す」


 橘先生があらかじめ仕掛けておいたらしい結界が発動し、クレハをその場に縛り付けた。


「もう逃げないから、煮るなり焼くなり好きにしていいよ」

「犯した罪を悔い改める気があるなら、無期懲役の刑に処す。そうでないなら死刑だ」


 橘先生の言葉を聞いて、クレハは大きくため息をもらす。


「今更、そんなことしたって意味ないでしょ。死んだ人は元には戻らないんだから。死刑でいいよ。その拳銃で僕を殺しなよ、ウィル。そのために君は、こんな所まで僕を追いかけてきたんでしょ」


 挑発するように、クレハはウィルさんに言葉を投げかける。


「クレハさん……貴方が妹の命を奪ったことは許せません。ですが同時に、貴方は私達兄妹に生きる希望をくれました。私は貴方の意思を尊重したいと思います」

「じゃあ殺してよ。その拳銃で今すぐに」


 虚勢を張って不敵な笑みを作るクレハの様子に、胸が痛む。


「クレハ、俺はお前に死んで欲しくない。道を誤ったのなら、その罪を償えばいい。愚痴ぐらいならいくらでも聞いてやる。だから、死ぬな」

「せやで、クレハ。また一緒に缶蹴りしよや。この世界にはまだ他にも面白い遊びあるんやで。死に急ぐ必要あらへんて」


 シロとカナちゃんが必死に訴えかけるけど、その思いはクレハに届かない。


「罪を犯した僕が、君達と一緒に居られるはずがない。余計惨めになるだけだから、止めてくれ!」


 クレハの悲痛な叫びを静かに受け止めたウィルさんが、一文字に閉じていた口を開いた。


「分かりました、それがクレハさんの気持ちですね」


 ジャケットの下に隠していた拳銃をホルダーから引き抜いたウィルさんは、それをクレハに向ける。


「待ってくれ!」

「せや、まだ話は終わってへん!」


 シロとカナちゃんが止めに入るが間に合わない。


「どうか、安らかにお眠り下さい」


 ウィルさんの構えた拳銃から、弾丸が放たれた。

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