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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第13章 激化する呪い
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17、吐露する本音

 ここで止めなければ、友達として越えてはいけないラインを越えてしまうのに、拒絶したらカナちゃんがどこか遠くへ行ってしまいそうな気がして身体が硬直していた。

 でも、このまま受け入れてしまえばコハクとシロを本当に裏切ってしまう事になる。

 それだけは絶対にしたくなくて、私は震える手を爪が食い込むほど強く握りしめ、痛みで身体の硬直を解いた。そして顎に置かれていたカナちゃんの手を両手で包み込む。

 するとカナちゃんの動きがピタリと止まり、その隙に自分の正直な気持ちを叫ぶように吐露した。


「好きなの! カナちゃんの事が! 友達としてみれないくらい意識してる。悲しそうな顔見てると胸が苦しくて張り裂けそうになる。目が合うだけで今もずっと、心臓がドキドキして止まらない」


 驚いたように目を大きく見開いたカナちゃんに、私はさらに言葉を続ける。


「だけど、それと同じくらいコハクとシロの事も大切なの。裏切りたくないの。だから……カナちゃんの手をとる勇気もないのに無責任なこと言えなくて、誤魔化した。でも気持ちを抑えきれなくて、カナちゃんを失うのが怖くて拒絶することも出来なくて流されそうになった。最低なの、私」


 カナちゃんは端正な顔を苦しそうに歪ませた後、なにも言わずに隠れ家の外へ出ていってしまった。

 次の瞬間、ガンッと大きな音が聞こえ、慌てて確認しにいくと彼は壁に額を強く何度も打ち付けている。


「止めて、カナちゃん!」


 急いで止めに入ると、カナちゃんはその場で頭を抱えてうずくまってしまった。


「ほんま何してんねやろ、俺。あかん、完璧頭に血のぼって盛った猿みたいやん、格好悪っ。シロに偉そうな事言うといて自分が理性保てへんとか、このままここで煩悩ごと凍結したがええんとちゃうか、まじで」


 ぶつぶつと呟かれる独り言に耳を傾けると、自棄になっていると思われる言葉が聞こえてくる。


「何言ってるの、凍結しちゃだめだよ!」

「嫌や、頭冷やさんとお前に合わせる顔ない。恥ずかしい。このまま冷凍食品に埋もれて死んだ方がええんやきっと」

「そんなはずないでしょ! ほら、あっち行こうよ」


 なだめようと隣にしゃがむと、カナちゃんは私から顔を隠すように背けて膝に埋めた。

 子供のように「嫌や嫌や」と連呼して頭を左右に振ってイジイジモードに突入してしまったカナちゃん。腕を引っ張っても頑なにその場を動こうとしないその姿はまるで石像。

 昔は私の方が身体大きかったから引きずって連れて帰る事が出来たが、成長した今は無理だ。

 一度こうなると、カナちゃんはとことん落ち込んで女々しくなる。最大限まで落ち込むと何故か急に元気にもなるのだが、今回は立ち直るのにどれくらいの時間を要するのか。

 立ち直るのにさらにへこませたが早いのか、そんなことないよと励ました方が早いのか──長らく開いたブランクのせいで、今のへこみ具合がどの辺りまできているのか分からず判断がし辛い。

 このままここに置いていくわけにもいかないし、とりあえず私は優しく諭すように話しかけてみた。


「ここに居ると冷えるから、あっちに戻ろう?」


 するとカナちゃんは少しだけ頭を上げて、窺うようにこちらを見てきた。

 その姿はさっき感じた男の人ってオーラがまったく感じられず、図体が大きいのを除けば完璧に子供みたいだ。

 昔の面影と重なって何だか懐かしい。


「……また手出してもうたらどないすんねや。あんなかわええ事言われて、狭い空間に居って耐えれる自信ない。やっとほんまに男として認めてくれたんやなって……嬉しすぎて身体冷やしてないと、アイスみたいにとけてまいそう」


 言っている事は男の子の言葉なんだけど、膝抱えてチラチラとこちらの様子を恥ずかしそうに見てるその姿は乙女だ。

 そういうところ見てるとやっぱりカナちゃんはカナちゃんだなって、何故か変な安心感を覚えるのは小さい頃の思い出がなせる技か。


「私、コハクとシロも好きなんだよ。酷いことカナちゃんに言ったのに、そんな反応されるとどうしていいか分からなくなっちゃうよ」


 私の事なんてはやく吹っ切って新しい恋をした方が何倍もカナちゃんのためなのだと思う。

 でも素直に好意を寄せてくれるのが嬉しいと感じる自分が確かに居て、大きいのに小さくみえるその背中が愛おしくて、抱き締めたい衝動に駆られる。

 小さい頃なら何も気にせず『元気わけてあげるよ』とか言って、その背中を抱き締めたに違いない。

 けど今はそう簡単にそんな事出来るわけなくて、複雑な思いが胸中を駆け巡る。

 困ったように笑う私を見て、カナちゃんは視線を前に戻すとぽつぽつと少し恥ずかしそうに本音を教えてくれた。


「さっき、自分のこと美化しすぎやて言うてたやろ?」

「うん」

「全然そんな事ない。桜は昔から可愛かったで。空手してる時めっちゃ格好ええのに、その後俺見つけて嬉しそうに無邪気に笑うお前は馬鹿みたい可愛くて、そのギャップがたまらんかった。クラスの奴等には見せない無防備な顔を俺の前では惜し気もなくさらしてくれて、あの頃は物凄い優越感に浸っとった」


 カナちゃんとは家族ぐるみの付き合いだったから、長期休みに入るとよく一緒に遠くへ出掛けたりした。

 彼の両親の帰りが遅い時は、よく家で一緒にご飯やお風呂を共にしてたし、そのまま私の部屋で遊び疲れて寝てしまう事も。

 寝食共に過ごすことが多くて今思うと、友達でもあったけど姉妹みたいな感じに近かったかもしれない。

 お姉ちゃんには言えない事も、カナちゃんには不思議と言えたんだよな。


「でも、再開してそれは全てやなかったんやって気づかされた……ずっと羨ましかってんや、コハッ君のことが。俺の知らん女の顔した桜の眼差しや表情を向けられてて。後から現れたシロにまで軽々と持ってかれて、いい加減潮時なんやろなって思とった」


 カナちゃんが時折、切なそうに眉をひそめて笑う理由がその時分かった。

 コハクやシロを見つめる顔がどんなものか、自分では分からないけど端から見たらきっと、嬉しそうに緩んでいただろう。

 そのしまりのない顔を見られていたっていうのは、ちょっと恥ずかしい。


「でも、お前が俺を友達として必要としてくれてるなら、それでも傍に居られるんならええかって自分にずっと言い聞かせてきた。せやけど、意識せぇへんように努力してもやっぱり無理やった」


 何かを思い出すように語るカナちゃんの瞳は、悲しそうに揺れている。

 苦行に耐えるかのように強く握られた拳は赤くなっていて、楽にしてあげたい衝動にかられるも、それは一時しのぎにしかならないと思い止めた。

 私は相槌を打ちながらカナちゃんの言葉の続きを待った。


「気付いたら目でずっと追うてて、その度にお前の隣にはシロが居って、からかわれて頬赤く染めて文句いいながらも、ほんまに愛おしそうに見つめとる。俺には見せへんその女の顔見る度にものくそ悔しい癖に、その姿に見惚れてる自分がおって、それ自覚する度に虚しさ感じとった」


 知らなかった。カナちゃんがそんな風にこちらを見ていたなんて。

 私達に話しかけてくるカナちゃんはいつも明るくて、そんなこと微塵も感じさせなかったから。

 コハクを目覚めさせるために友達として傍に縛り付けておきながら、カナちゃんに色々協力してもらうばかりで、私は何も返せていない。

 それどころか、苦しめてばかり。せめてもう少し配慮すべきだったんだ。普通に考えて辛くないはずがないのに。


 私はカナちゃんの気持ちをどこか軽く見ている節があった。

 学内でも学外でもいつも魅力的な女の子達に囲まれているから、私の事なんてすぐに吹っ切ってくれると。

 本当に何も見えてなかったんだ。コハクの事も、カナちゃんの事も。

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