13、最悪の場所に閉じ込められました
「すまん、俺がもうちょい慎重にドアノブ回せば」
「カナちゃんのせいじゃないよ。元々さっきの人達が先に向こう側を壊したせいだ。それにこの災いも呪いのせいだろうし、逆に巻き込んでごめん」
「とりあえず、携帯で外に連絡を……」
スマホの画面に視線を移したカナちゃんの顔が、ひきつるのが見えた。そしてスマホを色んな所にかざす姿を見て悟る。この場所が圏外なのだと。
念のためポケットから私もスマホを取り出すと、案の定『圏外』の文字が目にはいる。
「ま、まだ諦めるのは早いよ! ウィルさんから預かってる発信器! これを押せば!」
「なぁ、桜。GPSって地下におると測定されにくいんやないか? ここ、携帯の電波も届かんくらいやし」
「そ、そうなんだ……でも一応、押すだけ押しておこう」
望みは薄くてもゼロじゃない。
ここに誰かがくる可能性が低い今、助けを呼ばない限り気付いてもらえないだろう。すがる思いで発信器のボタンを押した。
その時、ゴォォと風が吹き出すような音が聞こえてきて冷たい空気が頬を掠める。
まさかここは──携帯のライトで辺りを照らすと、積み重ねられたダンボールが目に付く。その箱には『冷凍ぎょうざ』と書かれていた。
「思い出したわ、この店。冷凍食品専門店や。ありとあらゆる冷凍食品を食べられるって当時はえらい話題やったけど、食品偽装が相次いでメーカーの自主回収が頻繁な時期に廃れて潰れたんや」
「じゃあここはもしかしなくても……」
「それ保存するための冷凍室、やろな」
「やばいよ、カナちゃん! このままここに居たら凍死しちゃう!」
これならまださっきの人達に見つかった方がマシだったのかもしれない。捕まったフリして油断させたら、逃げれる可能性もあった。
でもここは誰にも気付かれない上に、気付かれたとしてもドアノブが壊れていて簡単に開けられない。
救助の人を待っている間にここの温度は下がり続けて──最悪のシナリオが頭に浮かぶ。
シロが身体をはって逃がしてくれたのに、待ってないといけないのに。こんな所に居たら、もう二度と会えない?
そんなの嫌だ、シロ、コハク……ッ!
「落ち着け、桜!」
動揺した私の肩をカナちゃんがガシッと掴んだ。力が強くて少し痛みを感じる。
でもそのおかげで、絶望に飲み込まれそうになっていた意識を強制的に現実へ引き戻され、身体の震えが止まった。
「お前は必ず俺が守るから。シロの元へちゃんと帰してやるから。せやから落ち着くんや」
馬鹿だ私は。ここに居るのは自分だけじゃない。こんなにも頼りになる存在が傍にいるじゃないか。
それなのに、弱気になるなんて。シロの事が心配で少し動揺してしまった。
大丈夫、必ずシロは約束を守る。あんな奴等に負けたりしない。どこに居てもきっと私を見つけてくれる。
だから私は待っていなければならない。こんな所で冷凍付けになるわけにはいかないんだ。
「ありがとう、カナちゃん。おかげで頭冷えた。大丈夫、きっとシロが見つけてくれる。だから今は、少しでも寒さをしのぐ方法を考えよう」
「せやな、とりあえず風避けになりそうなもん探すで。この冷風のせいで体感温度めっちゃ下がるわ」
それから私たちは、手分けして冷凍室内を探索して使えそうなものを探す事にした。
携帯のライトを頼りに周囲を調べるがなんとも心許ない。
とりあえず隅の方から見ていこうと足を進めたら、くにゃりとしたものを踏んづけ滑りそうになる。慌てて床を照らすと、冷凍うどん五袋入りの麺が転がっていた。常温で放置されればくにゃりともなるわけだ。
その時、急に室内が明るくなった。振り返ると、どうやらカナちゃんが電気のスイッチを見つけて押したらしい。
「これで携帯の充電無駄に使わんで済むな。もしかすると、電波立つとこあるかもしれへんし。てか、なんや散らかってんなぁ」
明るくなった室内は思ったよりも物でごったがえしていた。
広さでいうと畳六畳分ぐらいの室内に、隅の方には二段の棚があり空の発泡スチロールが引っ掻き回した後のように無造作におかれている。
その手前にはダンボールが積んであり、中を見ると常温で放置された冷凍食品がぎっしりと詰まっていた。
「何で電気通ってるんだろう。閉店して結構経つよね?」
「この建物確か、エコ発電うたったハウスメーカーの宣伝で屋根にソーラーパネルつけてあんねや。きっと何らかの拍子で作動してもうたんやろな」
昨日も何故か用具倉庫に園芸用の生石灰がおかれてたくらいだし、やっぱり災いを呼び寄せたのはこの左手の呪印のせいだろう。
「物であふれかえってんのは逆にラッキーやったな。これなら、風しのぐのは何とかなりそうや」
そう言ってカナちゃんは鞄からカッターと布テープを取り出した。普通の通学鞄には入ってないよな、それ。
バイトで使うものらしく、鞄の中に入れっぱなしにしていたらしい。他にもワイヤーやロープとか今からどこ行くんだよ! とツッコミたくなる物が多々出てくる。
とりあえず私たちは、踏み台と冷気を塞ぐ蓋を手分けして作ることにした。