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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第13章 激化する呪い
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5、精霊さんからの頼みごと

「今見せた体感3D映像は、約二年前とある地方で実際にあった出来事さ。どうかな? 疑似幽霊体験した感想は」


 思考を巡らせていると、途端に辺りの景色が最初にいた真っ白な空間へと戻った。目の前には純白の翼をパタパタと懸命に羽ばたかせる小さな男の子が浮いている。

 片手にはステッキを持ち、ふわふわの猫っ毛に花の冠をのせ、古代ローマ人が着てそうな白い衣を身に付けたその姿は、一見すると絵本に出てきそうな妖精のようだ。


 普通なら驚く所なのだろうが、シロやクレハの妖術のおかげで、ありえない超常現象には多少なりとも慣れた。それより今は、『疑似幽霊体験』という単語の方が気になっていた。

 どういう事か聞き出そうと試みるも、彼がペラペラとマシンガンのように言葉を続けるため、口を挟む余裕がない。


「ほんとあの子が頑なに転生を拒むもんだから、余計な仕事が増えて困ってるんだよ。ノルマ達成しないと神様からのお仕置きがきついからね」


 やれやれといった様子で盛大なため息をつくと、彼はぱっと顔を上げてエヘヘと照れ笑いしながらさらに言葉を続ける。


「ごめん、自己紹介まだだったね。僕は転生を司る神様に仕える精霊のメーテル。成仏した魂を速やかに新たな命へと転生させるために、冥界まで案内するのが僕の役目さ。だけど、僕の担当してる子が中々頑固で従ってくれなくて、埒が明かないからその子の望み叶える事にしたんだ。あ、この事は神様には秘密にしてね、人間に勝手に干渉してって僕また怒られちゃうから。ほんと神様ってひどいんだよ、この前なんて……」


 妖精じゃなくて精霊だったんだ……違いがよく分からない。

 短い手足をせわしなく動かしながら表情をコロコロと変えて、よくもまぁそれだけ口が回るもんだと言いたくなるほど神様の愚痴をいい続ける見た目可憐な子供、中身おばちゃんのメーテルを前に、私は圧倒されていた。

 神様にどうしたら告げ口出来るのか知らないから教えようもないんだけど……などと冷静にツッコミを入れれるくらい頭はまだ働いている。

 とりあえず私が知りたいのは、自分が今どういう状況にいるかだ。

 そしてそれを知るためには、この神様に対してかなり鬱憤のたまったメーテルの延々と続く愚痴トークに終止符を打たない事には始まらない。

 頃合いを見計らって……今だ! 適当に相槌を打ちつつ私は話を切り出した。


「うん、大変なんだね。神様には絶対言わないよ。それで、私はどうしてここに居るのか理由を教えてくれないかな?」

「分かってくれるんだ! ありがとう! えっとね、話すと長くなるから要約するけど、とりあえずこれをさっきの映像に出てたクレハって妖狐にぶつけて欲しいんだ」


 そう言ってメーテルは何か呪文のようなものを唱えると、ステッキを振ってピンポン玉くらいの淡く光る球体を出現させた。

 困ったな、要約され過ぎて全く意味が分からない。


「えっと、これは何かな?」

「この中にさっき君に見せた映像に出てたエレナって子から預かった言霊が入ってるの。ぶつけたら自動で再生されるから、よろしくね!」


 そう言って去ろうとするメーテルを私は慌てて引き止めた。

 まだ全然理解出来てないよ、勝手に完結して消えられたら困るよ!


「ち、ちょっと待って! どうして私にこれを?」

「だから、僕の担当してる美希って子が転生してくれないからだってば。天界に連れてきた時、そのエレナって子に必死に頼まれて話聞いている内に、何か縁があったみたいで力になってあげたいって言い出して、それを叶えるまで転生しないの一点張り!」


 美希は困っている人を見ると放っておけないからな。天界に行ってまでそんな事してるなんて、健気なその姿を想像して思わず目頭が熱くなる。

 その間にもメーテルの口は止まることなく言葉を紡ぎだし、私はそれを黙って聞いていた。


「最近天界も未練タラタラの人間が増えたせいか飽和状態でね、滞在出来る期間は二年までって決められてるんだ。エレナって子はもうそれを過ぎてしまったから、まもなく強制的に転生させられる。だから必死だったんだろうけど、ノルマの期限が迫ってる僕としては美希が早く転生してくれないと非常にまずいの。生活かかってるの。やむを得なかったの。妖怪は僕の管轄外で探せないから無理だって言ったら、美希のご指名で君に白羽の矢が当たったってわけ。あんな可哀想な最後を迎えたエレナって子、不憫だと思わない? だからお願い、僕を助けると思って協力してもらえないかな?」


 神様とか精霊とか清らかで聖なる存在だと思ってたけど、ノルマとか生活かかってるとか妙に現実的な事を言われ、会社勤めのセールスマンみたいだと思わず苦笑いがもれた。

 世の中知らない方がよかった現実もあるのだと教えられた気がする。


 つまり話を要約すると、美希がエレナさんに頼まれた事を、仕事のノルマに追われ切羽詰まったメーテルを通して今度は私に頼んできたって事だよね。

 そして私に幽霊体験させたのは、ノーと言わせないために感情論に訴えてきたってとこか。


「分かった。美希のお願いなら喜んで協力するけど、この言霊がどんな内容かとかメーテルは知らない?」

「うーん、何て言ってたかな? ごめんね、よく覚えてないや。でも普通に考えるなら恨み言だよね。だって急に現れていきなり殺されちゃったんだから。恨まないはずがない! 天界で転生を拒む人の大半が、そうやって突然殺された人達なんだ。いつまでも過去を嘆いてないで、転生して新しい人生楽しんだが何倍も楽しいと思うんだけどね。そうすれば、僕の財布も潤うし!」

「恨み言……」


 そんなものをクレハにぶつけたら、かなりのマイナス効果なんじゃ……『やっぱり僕、燃えるしかないや』とか言い出したらどうしよう。もう火災は勘弁して欲しい。

 エレナさんは最後、クレハに気付かれないようにそっと涙を流していた。それが託したメッセージだと私は信じたい。

 たとえどんなキツイ内容だとしても、第二の試練の時、私は知らなかった美希の過去を知りたいって、美希がどんな気持ちだったか分かりたいって思った。

 だからと言ってクレハもそうだとは限らない。もしかすると、古傷に塩を塗り込んでしまうかもしれない。

 それでも、彼を更正させるために説得を試みるなら過去と向き合うのは不可欠だ……そう思いつつも、私は一種の保険のためにメーテルにある質問を投げ掛ける。


「あの、メーテル。天界から、私達の世界のことって知ることが出来るの?」


 もしエレナさんが今のクレハを知っているとしたら、きっと悲しんでいるだろう。その場合、恨み言でない可能性が高い。

 メーテルの返事を待つと、彼は首を大きく縦に振って肯定した。


「うん、生前絆が深かった相手の事ならばっちり見ることが出来るよ。部屋でダラダラくつろいでる所は勿論、お風呂でも何でも!」

「お風呂でも何でもって、そこまでしなくても……」

「知らない嫌な一面見たら幻滅して現世に未練なくなるかもって、神様の方針だから仕方ないよ。大丈夫、鑑賞時間は一日八時間までって決められてるから!」


 えーっとそれは天界株式会社ってとこが運営してる、プライバシーの侵害って法を犯したサービスか何かですか? と思わず聞きたくなった。

 メーテルはノルマ達成する事に必死でその他の事には無頓着そうだし、死んだ後の世界って何だかビジネスっぽいな。

 今月のランキングとかいって、転生させた数を数値化して業績に合わせてボーナスが出てたりして……これ以上、想像するのは止めよう。

 そして、忘れよう。私が知っていい事じゃなかったんだ、きっと。

 でもこれで、恨み言かもしれないって余計な心配が少しだけ軽くなった。今度クレハが現れたら遠慮なくぶつけてあげよう。


「いけない、君の意識がそろそろ元の世界に戻される。じゃあこれは君に預けておくから、なるべく早くお願いね。心の中で『イデヨタマリン』って唱えたら君の手に現れるよう設定しておくから。間違って出しちゃった時は『キエヨタマリン』だから、よろしくね!」


 もう少しマシな呪文なかったの?


 ブンブンと小さな手を振るメーテルを見たのを最後に、私は意識を手放した。

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