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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第12章 断罪者と救済者
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13、似た者師弟コンビ


「まぁ……納得出来ないから、無理してお前は表に出てきたんだろうが。手放したくないなら、戦え。コサメだって雪乃と契りを交わすまでそれはもう波乱の連続だった。それでも決して諦めなかったからこそ、お前さんが生まれて今ここに居る」


 先生の言葉に後押しされたようにシロはカナちゃんに鋭い視線を向けると、親指と人差し指で僅かな隙間を作って威嚇し始めた。


「……西園寺、俺はお前に桜を譲るつもりはこれっぽっちもないからな! これっぽっちもだ!」


 強調するように二度も繰り返した、その子供のようなその行動がツボにハマったのかは謎だけど、カナちゃんはシロを見ておかしそうに吹き出した。


「ほんまにお前も桜のこと、大好きやねんな。その表情、俺が転校してきたばかりの頃のコハッ君とそっくりやで」


 険しい顔をしたシロの顔は確かに始業式の放課後、板挟みにされた時のコハクのように敵意むき出しだ。

 コハクに化けてるから当たり前なのだが、以前はどこかとって貼り付けたような違和感のある表情だと感じていた。

 でも感情の入った今のシロの表情は、本当にコハクにそっくりだ。


「大事なのは桜の意思やろ? ほんの少し俺のこと男やと認識してたかて、桜が好きなのはコハッ君とお前なんは変わらんよ。そう熱くなんなや」


 ハハッと明るく笑ってはいるけど、シロをなだめるカナちゃんの表情には少し暗い影が落ちていた。

 その様子を見守っていた先生が、横から彼等の話に割って入る。


「西園寺。一条を守りたいと思うなら、いつまでも友達としてただ傍観してる必要はないぞ。お前さんが本気で奪い取れば、クレハは多分この件から手を引くだろう?」


 眼鏡をクイッと持ち上げて真剣な眼差しを向ける先生に、カナちゃんは真顔で先生をじっと見つめ返す。何かを悟ったのか、ふと表情を緩ませた後、私に視線を向けてそっと口を開く。


「俺は別に桜のこと、諦めたわけやありません」


 不意に見つめられただけで、私の心臓は激しく動揺したようにバクバクと煩く鳴っていた。


「ただ役者が揃てへん状態で戦って、後から目ぇ覚ました王子様に横からかっさわれるのが嫌なだけです。それに今は、揉めてる場合とちゃいますし」


 同意を求めるかのように、カナちゃんは私からシロへと順に視線を移す。そして再び先生に視線を戻すと、大きな瞳をスッと細め口角を僅かに持ち上げて、声を低くしてさらに言葉を続けた。


「せやから先生。無闇に俺達を煽るの、止めてもらえます?」


 橘先生は軽く喉で笑うと、口元に笑みを浮かべて実に嬉しそうな顔をカナちゃんに向けた。


「バレてたか、やはりお前さんは鋭いな」

「ここで仲間割れしたら先生、協力してくれへんでしょうし」


 似た者師弟コンビの飛び交う黒い笑顔が怖い。


 こうやって見てると、素直に怒りを露わにするシロがどれだけ素直な性格をしているかよく分かる。

 天の邪鬼な所はあるけど、感情を顔と行動に出してくれるだけ分かりやすい。


「だそうだぞ、シロ。そうカッカしなさんな。もし万一の時に大切な女を預けるなら、お互いこれほど頼りになる相手は居ないと思うぞ」

「……悪かった、頭に血が上った。西園寺、今は一時休戦だ」


 先生は私達の覚悟を試していたんだ。

 感情を揺すりに来るのはクレハの十八番(おはこ)だ。特にまだ直接的にクレハと向き合っていないシロへの予行練習みたいなものだったのかもしれない。

 その気持ちが分かったから、シロも素直に怒りを収めたのだろう。


 とりあえず二人はそれで収まったみたいだけど、私の中に芽生えている気持ちは収まらない。

 未だにカナちゃんとまともに目を合わせる事が出来ずにいた。逆に何故かシロの隣に居ると落ち着く。


 慣れ? いやいや、シロは油断してると爆弾投下してくるし危険だと、何故か必死に自分に言い聞かせていた。


「だが、西園寺。この件が片付いたら勝負しろ!」

「ええで、コハッ君もお前もまとめて相手したるわ。その代わり、反則はなしやで?」

「愚問だ、俺の辞書に反則などという言葉はない。なぜなら……」

「俺がルールやからとか言い出したらあかんで? 何かお前、クレハに甘やかされて育ってそうな気がする。アイツは我慢強いとこあったけど、シロは……なぁ? 桜、そう思わへんか?」

「えっ……あーうん、そう、だね」


 突然カナちゃんに話を振られ、声が上擦りロボットみたいな受け答えになった。

 まともに話も出来なくなってしまったのかと軽く落ち込みつつ、自分の意識を話題の内容まで必死に持っていくと妙に納得してしまった。


 シロはかなり負けず嫌いな所がある。


『俺は一度もアイツに勝てた事はない』というシロの言葉を思いだし、兄に勝ちたくて仕方がない弟と、そんな弟を可愛く思いながらも勝負では一切容赦しない兄の構図が頭に浮かんでくる。

 何度も勝負を挑んでは負け、勝手にルールを追加しても負け、落ち込むシロをからかいながらもクレハは慰めてそうだ。

 そんな態度がまた闘志に火をつけるもので、シロは次こそはと意気込んでまた挑んでいく。

 シロが次々と自分に有利なルールを追加していくのを、クレハは『またか~』みたいな感じで兄貴分の余裕を見せながら相手をしているうちに我慢強くなったんじゃないかって。


「勝手な想像でものを言うのは止めろ。クレハはどれだけ力差があろうが真剣勝負に決して手を抜かない。そんな怪物を相手に、こちらが策を練るのは当然の事! それを反則などという言葉に置き換えられては不愉快だ!」

「図星か、そういう時は冷静に否定せんとバレバレやで」

「フン、そういうわけないだろう」

「バレてる状態で、今更否定しても一緒やて」

「くっ……」


 シロがカナちゃんの手のひらの上で完全に転がされている。

 調理実習してた時、一瞬カナちゃんがシロのお兄ちゃんみたいに見えたのは、簡単に相手を掌握して自分のペースに乗せてしまう、そういう所がクレハと微妙に似ているせいかもしれないと、内心思っていた。


「シロが暴走した時はどうなる事かと思っていたが、お前ら意外と仲良さそうだな」


 そんな二人の様子を楽しそうに先生は眺めていた。

 いつも気だるそうに頭をボリボリかいてるイメージだけど、その横顔は穏やかで傍から見れば生徒を優しく見守る教師そのもの。

 久しぶりに橘先生の教師らしい一面を垣間見れたなどと考えていると……


「一条、今失礼な事考えてただろ?」

「き、気のせいですよ……あはは……」


 あまりにもタイミングよく指摘され、先生には人の心を覗き見る第三の目が存在するんじゃないかと本気で疑いそうになった。まだ他にも便利な陰陽師グッズ、隠し持ってそうだ。


 その後、『学生の本分は勉強だ』と授業が普通に受けられるように先生とカナちゃんは、学内の結界を増やす作業を放課後行ってくれるようで打ち合わせをしていた。

 新たに追加するのは教室、体育館、よく使う特別教室を重点的に網羅するらしい。


『登下校時は絶対にシロから離れないように』と念を押して、先生は照魔鏡を私に持たせると、「いつまでも保健室開けとくわけにもいかん」と仕事に戻っていった。

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