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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第12章 断罪者と救済者
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10、その言葉を待っていた

 翌日、左手の数字がⅧを刻んだ月曜日の昼休み。ご飯を食べた後、学内で新たに結界が張られた第二校舎三階の特別教室まで来ていた。


 先生に確認をとったカナちゃんの話だと、クレハが改心して望むなら式神化させる事は可能だが、かなり渋い顔をされて『どこから見つけた?』と問い詰められたらしい。


 クレハと極力関わらない路線で呪いを切り抜ける事を考えていた先生は、下手に話すと無茶しかねないと思って敢えて言わなかったという。

 バレてしまった以上仕方がないと渋々教えてくれたようだが、今でもあまり乗り気ではないようだ。


 とりあえずそういう道もあるのだとシロに知ってもらい、クレハ説得に協力してもらおうと事の経緯を昨日の出来事から説明した。

 色んな事を配慮して、人気のない多少騒いでも他の生徒に気付かれない安全な教室へやってきていたのだが、私の心は早くも折れそうになっている。


「で、お前等は昨日あの後、俺に内緒でクレハと一緒に遊んでたって?」


 椅子にふんぞり返るように腰を掛けて足を組み、不機嫌そうに机を肘置きにして、指で机をトントンしながら苛立ちを露わにするシロの顔は般若のようだった。

 これはかなりマジな奴だ、もう導火線ギリギリの爆弾みたいな奴だと内心冷や汗がタラタラと流れていく。


「そうそう、缶けりやろうぜ的なノリで優菜さんも一緒に四人で日が暮れるまで……」


 みるみるうちに般若の顔がさらに険しくなっていくのに反比例して、私の言葉の語尾がどんどん小さくなる。

 そしてついに怒りが頂点に達したシロは、最大限の目力を発揮して鋭く私を睨み付けて声を荒げた。


「何で俺を呼ばないんだ! 折角あいつが姿現したってのに! 呑気に缶けりしてただと? もっと危険意識持てよ、馬鹿桜!」

「ご、ごめんなさい……」


 反論の余地もなく、しゅんと項垂れて謝るしかなかった。


「お前、死人みたいに顔色悪かったやん。そんな奴呼べるわけあらへんやろ」


 私を庇うようにカナちゃんが割って入ると、シロの怒りの矛先が今度は彼へと向けられる。

 ギロリと横目で睨んだシロは、今にも殴りかからんばかりの勢いでカナちゃんの胸ぐらを掴み上げた。


「シロ、止めて!」


 止めに入ろうとシロの制服を引っ張るも、「お前は黙ってろ!」と一喝され相手にしてもらえない。


「西園寺、お前どういうつもりだ? 桜を危険にさらすような真似をして!」


 カナちゃんはシロの怒りを全て受け止めるように真っ直ぐに視線を返すと、口元にニッコリと人懐っこい笑みをたたえながら、何とも陽気な口調で答えた。


「クレハがどういう奴か知りたくてな、一緒に遊べばある程度分かるから試させてもろたんや」


 その笑顔が逆に神経を逆撫でしてしまったようで、シロは胸ぐらを掴む手にさらに力を込める。


「あいつは敵だ! そんな事したって意味ねぇだろ!」


 カナちゃんは大きな瞳をスッと細めると、先程とは打って変わって真剣な面持ちで話しかけた。


「クレハが討伐されなくすむ方法あるいうたら、お前どうする?」


 シロは驚いたように一瞬大きく瞳を揺らすも、すぐにその感情を払拭するようにカナちゃんに鋭い視線を向けた。


「……どうもしねぇ。桜の呪い解くまでは何を言われようがアイツが敵な事には変わりない」

「クレハ、わざわざウィルさんから銃を取り上げておきながら、去り際に律儀にそれ、置いてったんやで。アイツ、多分死ぬつもりや……全て終わったら。それ聞いても、何も感じへんのんか?」


 カナちゃんが悲しげな口調で語りかけると、シロは胸ぐらを掴んでいた手を乱暴に離して背中を向けた。


「俺に、どうしろってんだよ……っ!」


 悲痛な叫びを上げるシロの肩にポンと手を置くと、諭すように優しい口調でカナちゃんは話しかける。


「アイツにきちんと罪を償わせるんや、悪いことした分きっちり働いてな。クレハが自分から罪を悔い改めて望むなら、式神として誓約を交わす事で討伐される側から、陰陽師のサポート役として討伐する側へとシフトチェンジ出来る方法があんねん。大事な兄貴分が道踏み外した言うなら、それを正しく導き直してやるんが弟分の役目やないんか? 意地張ってたら、大事なもん失うで」


 微かに震える大きな背中にそっと手をあて、後押しするように私も言葉を紡いだ。


「シロ、クレハは大切な人ほど突き放して嫌われるように仕向けているんだよ。自分が居なくなった後、貴方が悲しまなくてすむように。今ならまだ向き合って話すことが出来る。私は貴方に、後悔して欲しくないよ」


 お願いシロ、クレハを救えるのは貴方しか居ないんだよ。

 どうか私達の気持ちがシロに伝わりますようにと、祈るようにして返事を待つ。

 しばらくして、シンと静まり返る教室に走る緊張を破ったのは、切なげに絞り出されたシロの声だった。


「俺達妖怪が生まれて最初に習うのは、妖術でも体術でもなく、ハッタリのかませ方だ。いかに他人に自分を優位に見せるか、嘲笑の練習をみっちりやらされんだよ。相手になめられないように、不安を決して悟られないように、嘘っぱちの仮面を常に被り続けなければ妖界では生きていけない。こっちではそんなもん、必要ないってお前達は俺に教えてくれた。だが、あいつは今もそれを知らずにずっと仮面を被っている。俺はその仮面を剥がしてやりたい。あいつにもっと、こっちの世界の楽しいことを教えてやりたい」


 良かった。やっぱりシロも、クレハの事が大切なんだ。


「妖怪の癖に、コハクの影響か知らねぇが変に人間臭いとこあんだよあいつ。昔は本当にこっちの世界に憧れてて、でも本家の跡継ぎだから妖界から出る事は許されなくて、俺達が帰省する度に人間界の話を楽しそうにコハクから聞いていた。罪を犯しても人間界で真っ当に生きる方法が残されてるっていうなら、俺もクレハに生きていて欲しい。桜、西園寺……クレハを救うために、力を貸してくれないか?」

「勿論だよ、シロ!」

「やっと素直になったな、その言葉待っとったで!」


 何とか第一関門は突破できたと喜んでいると、不意に勢いよく教室のドアが開けられた。


「勝手に話を進めるなって言っただろ、西園寺」

「先生……」


 少し怒っているのか、橘先生は険しい顔をして中へ入ってきた。

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