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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第11章 与えられる試練
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8、戸惑う感情


 気が付くと、第一校舎の屋上に横たわっていた。グラウンドからは賑やかな声が聞こえ、空は鳥が飛んでいる。


「元の世界に戻ったみたいやな」

「だね。失敗したのに……」


 確認するように辺りを見回すと、見慣れた景色に元の世界に戻ってきたんだと実感する。

 しかし、何とも言えない複雑な感情が胸の中を渦巻いていた。

 それはカナちゃんも同じようで、浮かない顔をしている。


「何か思ってたんと大分イメージが違ってんやけど。あいつ……狂った奴かと思うてたら、えらい幼い部分ある言うか、最後とか丸っきし拗ねた子供みたいやったし」

「私達が思い通りにならなかったから、動揺してたんだろうね」

「確かにあいつの目、俺達を未知の生物みたいな感じで驚いて見てたもんな。えらい人間不信みたいな感じやったし、きっとひどい裏切り方されてんやろな……」


『人間なんて、保身のために平気で裏切る生き物だよ……所詮、自分を守るためならどこまでも残酷になれるんだ』


 クレハはきっと、そういう体験をしているんだ。

 深い結び付きがあった人に裏切られる程、そのショックは大きい。とても大切にしていた人から施された傷が、彼を今も苦しめているのだろう。そう思うと何だか可哀想だな。


「……お前また、可哀想とか思てんやろ?」

「な、何で分かったの?」


 考えを読まれた事に驚いてカナちゃんを見ると、ジト目で彼はこちらを見ていた。


「最後アイツ連れてきたんは、悲しそうな目して何か言われたんとちゃう?」


 またまた図星を突かれ、肩身が狭くなりつつも理由を述べる。


「ご、こめん。『君達の思考が分からないよ』ってひどく動揺した姿が怯えた子供みたいに見えて、そのまま放っておいたらいけない気がしてつい……」


 私の言葉に、カナちゃんは軽くため息をつく。


「やっぱりな、その気持ちも分からんでもないけど、油断してると噛まれるで。アイツは猛毒もった蛇や、一瞬の油断が命取りになることもあるんやで」

「ごめんなさい……以後、気を付けます」

「俺の手が届く範囲にお前がずっと居ってくれるんなら、守ってやれるねんけどなぁ。お前の王子様はほんと、今頃何してんやろな」


 悲しそうに笑うカナちゃんの姿に、胸がズキンと大きく痛むのを感じた。

 その顔を見ていられなくて、無意識のうちに私は彼の頬に手を伸ばしていたらしい。


「さ、桜?!」


 驚いたように目を見開いてこちらを見るカナちゃんの姿を見て、我に返る。


「あ、ごめん。何か寂しそうに見えて……」


 慌てて手を引っ込めると、今度は逆にその手を掴まれる。


「あかんで、桜。そうやって、むやみに男の肌に触れたら」

「そ、そうだよね。ごめん」


 今までそんな事なかったのに……何故……戸惑っていると、不意に手を引っ張られてカナちゃんの方へ引き寄せらた。


「そんなんやと、こんな事されても文句言えへんで? もうちょい危険意識持たんとあかんよ」


 そう言ってすぐに、カナちゃんの腕の中から私の身体は開放されたのだけど……


「って、桜大丈夫か? めっちゃ顔赤いで……無理して熱出てきてもうたんか?」


 異様なほど心臓がバクバクとなり、顔から火が出そうなくらい熱を持っているのが自分でも分かった。


 焦ったカナちゃんは、私の前髪を手で持ち上げると、そのままおでこをコツンとくっつけてきた。

 急に近付けられた端正な顔に追い討ちをかけられ、さらに熱くなる。


「あかん、めっちゃ高熱やん! 保健室、橘先生んとこ行くで!」


 その後、二度目のお姫様抱っこをされた私は、問答無用で保健室へと連行されてしまった。


「熱はないけど大変だったようだな。少し休んでいくといい」

「あれ? おかしいな。すごい高熱やと思ったんやけど……」


 不思議そうに呟くカナちゃんの言葉を最後に、私は眠りについた。


 結局放課後まで保健室のお世話になり、隣のベットにはシロがスヤスヤと眠っている。

 あの後、シロは運よく戻ってきた橘先生に拾われたようで、騒ぎにならずにすんだようだ。


 とりあえず荷物を取りに教室へ戻る途中、優菜さんを見かけた。

 軽くため息をこぼし、どこかおぼつかない足取り。心配になって声をかけると、目の下にはうっすらと隈があり顔色も悪い。


「大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが……」

「桜ちゃん……実はコロンが帰って来なくて。どこを探しても見つからなくて心配で。賢い子だから大丈夫だとは思うんだけど、万一事故に巻き込まれてたりしたらって……もし何処かで見かけたら教えてくれないかな?」

「それは、構いませんが……」


 あまりにも必死にお願いされてつい了承してしまったが、本当の事を言えるわけがない。


「ありがとう。ごめんね、友達待たせてるから行くね」

「はい、お気をつけて」


 フラフラとした足取りで遠ざかる優菜さんの背中に、心苦しさを感じていた。


 きっとコロンを探し回って、心配でよく眠れなくて、疲労がたまっているのだろう。このままそれが続けば、優菜さんの身体が持たない。


 本当の事を言えれば良いのだが、実はコロンは罪を犯した妖怪でした……なんて衝撃的過ぎるよね。


 クレハは優菜さんの事、どう思っているのだろう。一年間普通に犬として生活してたわけで、何かしらそこには感情があったと思うんだけど……


 考えても分からない私は、とりあえず教室へと足を進めた。

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