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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第11章 与えられる試練
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2、第一の試練~試される幼馴染みとの絆~

 スッと禍々しい黒いオーラが消え、視界に映ったのは見慣れた自分の教室。だけど、感じる違和感。周りをゆっくり見渡すと、元の世界と左右が逆になっている。


 その時、スピーカーからクレハの声が流れてきた。


「さぁ、第一の試練を始めようか。ようこそ、偽りの学園へ。ここは君達の学園を模して作った幻術空間だよ。時間内に本物と合流して、屋上のドアを仲良く二人でくぐり抜けられたら合格。ただし、学園内には偽物をそれぞれ一人ずつ配置している。もし、間違った者とドアをくぐり抜けた場合、残された一人は永遠にこの空間から抜け出せない。君達、幼馴染みなんでしょ? だったら本物くらい、簡単に見分けられるよね? 制限時間は校内の時計で三時まで。それでは、面白い劇を期待しているよ」


 プチッと言う音を最後に、シンと静まりかえる教室。スマホを取り出して、カナちゃんに電話をかけようと試みるが圏外。


 連絡をとる手段もなければ、どこに居るかも分からない。もし見つけても、本物かどうか分からない。本物を見分けられても、今度は信じてもらうのが難しい。


 これは思っているよりかなり厄介だ。


 時計の針はまもなく一時を指そうとしている。後二時間以内に本物のカナちゃんと合流して屋上へ向かわないといけない。一体どこへ飛ばされたのだろうか。


 私が今居るのは、各学年の教室がある三階建の第一校舎の二階。

 一階にある渡り廊下を挟んだ先には、特別教室や職員室、保健室などが存在する第二校舎がある。


 上から順番に探して第二校舎へ行った方がいいのだろうが、校舎内には階段が東側と西側にそれぞれ一つずつあり、下手するとすれ違う可能性もある。


 相手が動かないならしらみつぶしに教室を片っ端から順に見ていくのがいいかもしれないけど、どうしたものか。


 とりあえず廊下に出て、私は窓から第二校舎の方を眺めてみた。

 目を凝らして観察すると、第二校舎の三階──音楽室にカナちゃんが居るのが見える。


 窓を開けて叫んで手を振ってみるが、気付いてもらえない。

 音楽室って防音だから仕方ないか……って、カナちゃん部屋から出ていっちゃったよ!


 校舎を移動するには渡り廊下を通る必要がある。そこなら反対側も開放的な中庭のおかげでよく見えるし、変に行き違いになることもない。

 とりあえず私は、渡り廊下を目指して走り出した。


 西側の渡り廊下に差し掛かった時、前方に人影を発見。その人物はこちらに気付くと、手を振りながら走ってきた。


「桜! ハァ、ハァ……よかったわ。どこかに飛ばされた時は、ほんま焦ったで……って思わず、安心してもうたけど、お前が本物とは、限らへんのんか」


 カナちゃんは膝に手をついて肩で呼吸をしている。

 私は二階から、カナちゃんは三階から走ってきたわけで、今居るのはちょうどその中間地点。

 彼の足の速さなら一階分のハンデがあっても造作もない事だろうけど……


「カナちゃん、音楽室から走ってきたんだよね?」

「せやけど……よう分かったな」

「私、自分の教室に飛ばされて。廊下側の窓からそっちが見えたんだ」

「俺は音楽室に飛ばされて。とりあえず、渡り廊下に居ったら入れ違いにならんやろ思うて走ってきたわけやけど……」


 カナちゃんは話の途中で、私の顔をじっと真剣な眼差しで見つめてきた。


「どうかした? 私の顔、何かついてる?」

「いや、お前が偽物やったらびっくりやなって思うて。どこからどう見ても桜にしか見えへんし」


 彼はうーんと考えるような仕草をして、悩んでいる。


 確かに、私も目の前のカナちゃんが偽物だって言われてたら驚くくらい、容姿もしゃべり方も彼そのものだ。

 しかしクレハの偽物のクオリティが、先程のシロみたいだと考えると、相当レベルが高いと思われる。


 今のところ本人だと言われて疑う余地がないくらい完璧だ。

 いやでもだからといって容易に信用するのは……でも、もし本人だったら……


 駄目だ、疑心暗鬼になったらクレハの思う壺だ。

 今私がすべき事は、目の前のカナちゃんが本物かどうか見極める事。そのためには、まず私を本物だと信じてもらわないとまずい。


 私が偽物だと判定された時点で、彼にとってはもう一人の私が本物と認定され相手にされなくなる。


「私は本物だよ……って自分で言っても信憑性薄いよね」


 相手を信じるにはそれだけの確証と、ある程度の信頼が必要だ。それを確かめるのに二時間という時間はあまりにも短すぎる。


 そして、残り時間が少なくなればなるほど、焦りから人の判断能力は低下する。

 クレハが見たいシナリオは、焦ったどちらかが保身のために偽物とゴール。

 もしくは、疑心暗鬼になりすぎてお互いが信じられず、結局そのまま時間切れのバッドエンドだろう。


 どうすれば、本物だと信じてもらえるのか……


「そんな泣きそうな顔すなや」


 頭に温かな重みを感じ顔を上げると、カナちゃんが困ったように笑っている。

 私と一緒で、彼もきっと迷っているのだろう。


「ごめん、信じたいのに信じられないって思ったよりキツイね……」


 思わず漏れた本音に、彼は私の頭からそっと手を退けると「せやな」と短く呟いた。


 誰も言葉を発しなくなった空間に流れる沈黙。それを破ったのは──


「桜」


 意を決したように私の名前を呼んだカナちゃんの緊張した声だった。


「俺はお前を信じたい。せやから、偽物が分からんような事をお互いにクイズ出し合わへんか? 全て正解出来たら、俺はお前を信じる」

「……分かった」


 真剣な面持ちで紡がれた彼の思いを汲み取るように、私は力強く頷いた。


「じゃあ、俺の誕生日いつ?」

「確か……十一月二十八日」

「小さい頃のあだ名は?」

「浪花のエンジェル」

「俺が中学の頃入ってた部活は?」

「陸上部、とかかな」

「それじゃあ……」


 十問全て答え終わると、カナちゃんは嬉しそうに顔を綻ばせた。


「全問正解。俺はお前を信じるよ。偽物なら、そんなすらすら言えへんやろうし。何より、俺見つけて必死に走ってきてくれてんやろ? そんな可愛ええ事されたら、信じらんわけにはいけへんわ」

「カナちゃん……ありがとう」


 確かにスラスラ答えはした……でも、いくつか勘にたよったものもあった。

 特に中学の頃の部活なんて知らない。

 足が速いから陸上部だと、何とも短絡的に答えたけど、本当に合っていたのだろうか?


 いや、彼が正解だと言って私を認めたなら問題はそこじゃない。

 仮に彼が偽物だった場合、あたかも正解のような反応をしていれば本当の所なんてどうでもいいんだ。


 偽物の役割は本物を惑わして屋上まで誘導すること。最初に信じると明言する事で、私から不信感を拭って罠にはめてきている可能性もある。


 本番はここからだ。

 流石に私が出すクイズは間違えばすぐに分かる。

 向こうからクイズを提案してきた以上、ある程度は自信がある証拠。

 もしかすると、何らかの手段で私の事を調べててもおかしくない位の認識で望もう。

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