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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第10章 悲しき邂逅
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3、災いを招く黒狐

 放課後、優菜さんと昇降口で待ち合わせて帰った。

 私の右にカナちゃん、左に優菜さんが居る。優菜さんを守る場合、このフォーメーションはおかしい。


「ということで優菜さん、真ん中に来てください」

「え、急にどうしたの……?」

「何かあった時、真ん中に居た方が優菜さんを守りやすいからです」

「優菜、桜は一度言い出したら聞かへんから言う通りにしたってや」

「うん、分かった。ありがとう二人とも……そういえば、今日は結城君は一緒じゃないの?」

「コハクは体調を崩して早退したので、この後お見舞いに行く予定です」

「そうだったんだね。そんな時にごめんね、桜ちゃん」

「大丈夫です、優菜さんの家は帰り道の途中なので全然気にしないで下さい」


 そうこう話している内に、立派な広い庭付きの一戸建て、もとい優菜さんの家に着いた。

 門の所にワンワンと吠えている元気な二匹のモフモフが見える。

 昨日は遅くて会えなかった天使達の登場に、私の心は踊り思わず手がうずく。


 レオンと呼ばれた日本スピッツがベースの白い中型犬と、マロンと呼ばれたマルチーズがベースの栗色の小型犬。手入れの行き届いた二匹の毛並みは、見るからに気持ち良さそうだ。

 優菜さんの帰りを待っていたようで、はち切れんばかりに尻尾を振って、嬉しそうに頭を撫でてもらっている様子に思わず頬が緩む。


「桜ちゃん、よかったら触っていく? この子達も桜ちゃんの事気になってるみたい」


 犬は匂いに敏感で、クッキーの匂いがついた私が気になるのだろう。

 優菜さんのお誘いを二つ返事で快諾して、頭を優しく撫でるとレオンは気持ち良さそうに目を細める。

 そのまま手を移動させそっと背中を撫でると、白い毛はふわふわとしており極上の触り心地だった。これは素晴らしい!

 恍惚に浸っていると、緩みきった顔をカナちゃんに指摘される。


「桜、顔にやけすぎ。そんなに気持ちええのん?」

「うん、今右手が物凄く幸せ」

「奏もよかったら撫でてあげて」

「ほな、少しだけ……うわ、わたあめみたいにふわふわやん。めっちゃ気持ちええなこれ、癖になりそうかも」


 レオンばかり撫でていると、隣にいたマロンがワフワフと吠えてきた。


「マロンが焼きもち妬いてるみたい。二人共、この子も撫でてあげて」


 それからマロンも可愛がっていると、奥の方に黒いモフモフが見えた。


 私の視線に気付いた優菜さんが「コロンおいで」と呼ぶと、その犬は警戒しながらこちらに近付いてくる。

 近くで見るとその容姿に驚き思わず尋ねた。


「優菜さん、コロンってもしかして狐ですか?」

「人一倍警戒心が強くて犬にしては珍しいなって思ってたけど、やっぱりこの子、狐なのね」


 コロンがこちらを見た瞬間、背筋にゾクリと悪寒が走った。じっと観察するかのように、深紅の眼差しがこちらを見ている。


「(桜、あいつなんかやばいわ。そろそろおいとますんで)」


 カナちゃんも違和感を感じたようで、小さく耳打ちしてきた。


「優菜さん、ありがとうございました。そろそろ行こうと思います。また何かあったら気軽に連絡して下さい」

「桜が用事ある時は俺が送るから、遠慮なく言うてや。ほなまた」

「うん、二人ともありがとう。気を付けて帰ってね」


 黒狐の視線から逃れるように私達は優菜さんの家を後にした。


「コロンて呼ばれとったあの黒い狐。シロと同じ、いやそれより凶悪そうな雰囲気纏っとったな」

「カナちゃんも感じたんだ……私も背中に悪寒を感じて不気味だなって思った」


「散々な言われ様だね」


 突如、後方から低い声が聞こえた。途端に視界に映る景色の色彩が消え、モノクロへと変化した。


「勝手な憶測で話をされるのは実に不快だ。これだから人間は……」


 急いで振り返ると、黒と赤を基調とした羽織袴を見に纏い、左目を眼帯で覆った不審な男が立っていた。

 漆黒の長髪に真紅の大きな瞳、雪のように白い肌と端正な顔立ち。そして、モフモフの黒い獣耳と尻尾。一目で人間でないのが分かる。


「それは悪かったな。で、お前は何者や? 目的は何?」


 庇うように一歩前に出たカナちゃんが、警戒しつつ男に尋ねる。


「僕の名前はクレハ。真意を確かめに来たんだけど……君、コハクのソウルメイトじゃないの? 何で他の男と一緒に居るのかな?」

「そうですが……コハクを知っているんですか?」


 コハクの知り合いなのは間違いなさそうだが、彼の纏っている雰囲気があまりにも歪に感じる。


『妖界では力が全てだ』と言っていたシロの言葉を思いだし、どういう関係か分からない以上、迂闊に答えてはいけない気がした。


「質問に質問で返すってマナー違反。折角話を聞こうと思ったのに、意思の疎通もはかれやしない……全く、どうしてくれようかな」


 しかし、私の返答は失敗だったようで、クレハはやれやれといった様子でため息をついた。


 やばい、相手はマナーを気にするタイプだったようだ。呆れたような目でこちらを見ている。

 カナちゃんの質問に律儀に答えてるし、話を試みようとした相手に失礼な態度だったと少し後悔。


「俺は桜の幼馴染みで、コハッ君の友達や。体調崩しとるコハッ君のお見舞いに行く所やから一緒に居る。お前はコハッ君とどういう関係なんや?」

「そう、友達ね……僕はコハクの従兄だよ。久しぶりに可愛い弟分と話がしたいんだ。よかったら、一緒に連れていってくれないかな?」

「分かった。その代わり、少しでもおかしな真似をしたら敵とみなすからな」

「安心して、今は何もしないから」


 次の瞬間、景色が色彩を取り戻し元の空間に戻った。


 クレハは人間に化けると、私達の後ろを静かに付いてくる。

 背後からの歪な威圧感が半端なく、足早にコハクの家へと向かう。


 途中コンビニに寄ってゼリーやプリンなど喉ごしの良いものを買った。

 シロは食べなくても関係ないとは言っていたけど、味覚はある。

 完全に自分好みのチョイスで申し訳ないが、良くなったら気分転換にでも食べてもらおう。


 マンションのエントランスの中に入ると、クレハの禍々しい気配が消えた。


「……ねぇ、少し待ってもらえないかな」


 振り返ると、それ以上前へ進めないのか、クレハが扉の前で立ち尽くしていた。

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