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獣耳男子と恋人契約  作者: 花宵
第10章 悲しき邂逅
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2、中毒

 昼休み、いつものように屋上でご飯を食べていると、目の前でシロが倒れて白狐の姿へと戻ってしまった。

 呼び掛けても返事はなく、ピクピクと痙攣を起こしていて、様子がおかしいのが一目で分かる。


「桜、とりあえず保健室まで運ぶで」


 カナちゃんは着ていたブレザーを脱ぐとシロをくるんで持ち上げた。

 幸いシロがいつも周りを威嚇するおかげか、屋上に人は居らず白狐化した姿は見られていない。

 急いで保健室へ駆け込むと、橘先生がカップラーメンを食べていた。


「ん、どうした?」

「シロが急に倒れて、痙攣起こしてるんです」


 奥のベッドに寝かせて、橘先生はシロの様子を確認し始めた。


「これは……何か変なもの食べたりした?」

「調理実習で作った野菜のカップケーキを食べました」

「ねぎ系使ったりした?」

「そういえば、玉ねぎ使うたな……」

「はい、病名は玉ねぎ中毒に決定。狐ってイヌ科だからな」


 シロはほとんど一人でたまねぎのカップケーキを食べてしまった。

 犬が玉ねぎを苦手なのは知ってたけど、まさかシロにまで影響が出るなんて。


「妖怪の癖に、妙な所で現実味あってんやな……」

「先生、シロは大丈夫なんですか?」

「まぁこれくらいで死にはしないが、最低三日は安静が必要。というかむしろ、人間にうまく変化出来ないだろうから家に居るしかないだろうな。とりあえず、今日はもう早退させるから」


 橘先生がスマホで連絡を入れて数分後、眩い光と共にコサメさんが現れた。


 いつもの和服スタイルではない。ビシッとスーツを身に纏い、髪も短く整えてあり人間の姿をしたコサメさんは、出来る男オーラが半端ない。


「すまないね、ケン。我が愚息がまた迷惑をかけたみたいで。でも実家に強制送還は許して欲しい。どうか頼む」


 両手を合わせてパンパンと二回叩いて橘先生を拝んだコサメさんは、クルリと身体をこちらに翻した。


「桜ちゃん。夕方にでも様子見に来てやってもらえないかな? 遠慮なく合鍵使ってくれて構わないからね」

「はい、分かりました」

「ありがとう。助かるよ」


 私の横に立つカナちゃんに気付いたコサメさんは、ニッコリと人懐っこい笑みを浮かべて話し掛ける。


「君が幼馴染み君? ライバルっていいよね、燃えるよね。大いに競いあって楽しませてね。期待してるよ!」

「え? あ……はい」

「それじゃ、私は急いでるので失礼するよ」


 コサメさんはマシンガンのように話した後、颯爽とシロを抱えて消えてしまった。その滞在時間わずか一分。


「……普通に瞬間移動て、これ何かのマジックですか?」

「まぁ、気にするな。移動時間三秒の高速タクシーみたいなもんだ。時間やばい時はかなり便利だぞ」

「橘先生……」


 コサメさんはタクシーではないかと……確かに一瞬で家まで送ってもらえて便利だったけど。


 それから私達は保健室を後にした。伸びたカップラーメンを見て、悲愴な面持ちの橘先生から逃れるように。


「……てか、桜。合鍵って何?」


 人気の無い廊下を歩いていた時、カナちゃんが尋ねてきた。


「コハクが目覚めるまで家の鍵を預かってるんだ。シロ、生活力が皆無らしくて独り暮しが心配だから。い、言っとくけど、まだ使った事はないからね!」

「放課後、シロんとこ寄るんか?」

「うん、心配だから様子見に行こうと思う」

「俺も行ってええか?」

「時間大丈夫なら全然オッケーだよ」


──ブルブル


 その時スマホが震え、カナちゃんに断ってそれを確認すると、優菜さんからラインが届いていた。


『今日の放課後、よかったら一緒に帰ってもらえないかな?』


 OKの返事をしてスマホをしまいつつ、カナちゃんに話しかける。


「ごめん、カナちゃん……シロの家に行く前に、優菜さんを家まで送って行ってもいいかな?」

「優菜?!」


 驚くカナちゃんに先日の出来事を説明すると、妙に納得したように苦笑いしていた。


「……そういう事なら、しばらく独りで帰すのは危険やな」

「私も心配で。カナちゃん……もし、私が用事ある日は優菜さんの事お願いしてもいいかな?」

「ああ、それはかまへんで」

「よかった、ありがとう」


 カナちゃんが協力してくれる事にほっと胸を撫で下ろす。これを機会に二人の距離を縮められたらいいのだけれど。


「桜、お前のそういうとこ……ほんますごいて思う。でも、突っ走り過ぎて独りで無理したらあかんで。お前も女の子なんやから、そろそろ守る側から守られる側にシフトしてもええんとちゃうか?」

「カナちゃん……やだな、私は大丈夫だよ! 最近は朝、少しだけど空手の稽古してるし、多少囲まれても切り抜ける自信あるよ」

「確かに最初から構えてたらお前は強い。せやけど……」


──ドンッ


 突如目の前を手で塞がれ、壁に押し付けられた。


「不意打ちには、弱いやろ? 俺が変質者やったら、その一瞬の油断が危険に繋がるんやで」


 確かに、この前美香とショッピングモールで別れた後、油断して歩いている時に突然襲われて怖い目に遭っている。

 多分あれはスタンガンか何かで、相手がその様なすぐに気絶させる術を持っていた場合、私は無力だ。


 これからは、周りの気配に常に気を配らなければ。特に曲がり角とか、路地裏とかは注意しよう。


「なぁ、桜。お前、この状況でも何も感じへんのん?」

「ん? ああ、ごめん。これからは気を付けるよ。確かに油断してたら危ないね」


 死角からいきなりこられると、確かに判断が遅れる。

 隣に居たのがカナちゃんだからと油断したけど、次はこうはならないように気を付けよう。


「いや、それはそうなんやけど……この距離感とか……」


 目の前には視線を泳がせているカナちゃんの胸板がある。この距離感の近さならば──


「そうだね、例えばこの距離感で押さえつけられた場合。相手の顎を手でくぐっと押して、掌底打ちしてひるませる。もし手が塞がっていた場合は、膝で急所を狙えば大抵の男の人は踞るかと」

「じゃあさ、こうされたらどないするん?」


 ポスッと音がして、顔がカナちゃんの胸板に埋まってしまった。

 ムスクの甘い香りが鼻孔をくすぐる。なんか懐かしい癒される匂いだな……って何を考えてるんだ私は。


 現状として、両手が使えないように上からがっちりホールドされて動けない。

 この場合、頭突きをしても相手の顎にうまく届かず、手をほどこうにも力では敵わない。やはり足を使うしかないか。


「足を勢いよく踏みつけて、相手が怯んだ隙に膝蹴りして逃げるかな。間合いがとれたら、相手が追いかけてきたのをカウンターで返り討ちにしてもいいかも」

「そ、そうか……」


 私の言葉に一瞬ブルッと身震いした後、カナちゃんはそっと離れた。


「ねぇカナちゃん、優菜さんに護身術教えたらどうかな? 今みたいに変質者役やってよ。相手がカナちゃんなら、優菜さんも安心出来るだろうし。心得があるだけでも少しは変わってくるんじゃないかな?」


 私が変質者役をやったとしても、身長差もそこまでなくあまり実践的ではない。

 しかしいくら練習とはいえ、見知らぬ男の人に近寄られるのは優菜さんも嫌だろう。


 その点、カナちゃんならサイズ的にも優菜さんの心情的にも軽くクリアだ。

 我ながらいい考えだと期待を込めてカナちゃんに視線を送る。


「ええかもしれへんけど、中々桜みたいに上手く出来へんと思うで。失敗した場合、相手を怒らせて逆に危険な気もするし」

「それも一理ある。やっぱり一人の状況を極力作らないのが優先か」

「せやな……」


 そう言ってカナちゃんは軽くため息をついた。


「カナちゃん、何か疲れた顔してるけど大丈夫?」

「いや、予想以上にお前がたくましすぎて色々考えさせられただけや……気にせんといて……(あの状況で冷静に変質者の対処法を述べてくるとは……俺、全然男として意識されてへんのやな……)」


 ハハハと渇いた笑いを漏らしながら、カナちゃんはブツブツと呟きながら歩いていってしまった。

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